鷺の停車場

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テレビアニメ「平家物語」

テレビアニメ「平家物語」を見ました。

heike-anime.asmik-ace.co.jp

昨年秋にFODで先行配信された後、今年1月~3月にフジテレビなどで放送された作品。

古川日出男訳「平家物語」(河出書房新社刊)を原作にアニメ化した作品で、主要スタッフは、監督:山田尚子、脚本:吉田玲子、キャラクター原案:高野文子、キャラクターデザイン:小島崇史、音楽:牛尾憲輔、アニメーション制作:サイエンスSARU など。

京都アニメーションで、「けいおん!」、「たまこまーけっと」、「聲の形」、「リズと青い鳥」などの監督を務めた山田尚子さんの、あの京都アニメーション放火殺人事件の後の初めての作品ということで、放映前から気になっていました。

京都アニメーション京アニ)を離れて初めての作品ということですが、京アニを退社されてフリーに転身、あるいはサイエンスSARUなど他社に転籍されたのか、一時的に他社と組んだのか、いろいろ憶測は出ていますが、確度の高い情報は今のところ出ていないようです。いずれにしても、あの事件で多くのスタッフが亡くなられて、京アニの制作規模が縮小してしまい、今のところ、ヴァイオレット・エヴァーガーデンFree!、ツルネなど、テレビアニメシリーズの劇場版などがメインとなっている状況では、京アニで山田監督の作品を作る制作余力はなかったのだろうと思います。

放送は欠かさず録画していたのですが、なかなか向き合って見る決心がつかず、放映終了からしばらく経ってから、まとめて見みました。

 

主な登場人物は、

  • びわ悠木碧】:右目で未来(さき)を見ることのできる琵琶法師の少女。父を平家の武士に殺されるが、縁あって重盛邸で暮らすことになる。

  • 平重盛櫻井孝宏】:平清盛の長男。人格者として広く尊敬を集めるが、本人は清盛と諸方面との板挟みで気苦労も多い。亡者を見ることのできる左目を持つ。

  • 平徳子早見沙織】:重盛の妹。その快活さと聡明さで従弟たちからも好かれている。びわの良き話し相手。

  • 平清盛玄田哲章】:武力と財力で太政大臣にまで上りつめた豪傑。出家してからもその野心は留まることを知らない。口癖は「おもしろかろう?」

  • 後白河法皇千葉繁】:平氏との協力体制のもと院政を敷く法皇。重盛を重用しているが、清盛のことは警戒している。

  • 平時子井上喜久子】:清盛の妻。奔放な夫に時に振り回されつつも、しっかりと手綱は握っている。

  • 平維盛入野自由】:重盛の長男。心優しいが臆病な一面もある。舞を得意としている。

  • 平資盛岡本信彦小林由美子(幼少期)】:重盛の次男。生意気で勝ち気なため、びわとは何かと衝突しがちだが、思慮深い一面も持つ。

  • 平清経花江夏樹】:重盛の三男。人懐こく、率直な物言いで兄達にも遠慮がない。横笛が得意。

  • 平敦盛村瀬歩】:清盛の甥。重衡・清経を慕っている。涼やかな容貌だが性格は一本気。

  • 高倉天皇西山宏太朗】:後白河法皇の息子。8歳で天皇に即位した。徳子とは従姉弟の関係にあたる。

  • 平宗盛檜山修之】:重盛の弟。傍若無人な部分もあるがどこか憎めない。重盛・清盛亡きあと、平家の棟梁となる。

  • 平知盛木村昴】:宗盛の弟。勇ましく包容力があり周囲からの信望も厚い。宗盛に代わり一門を引っ張ることも。

  • 平重衡【宮崎遊】:知盛の弟。武勇も教養もあり、源氏側からも一目置かれている。

  • 静御前水瀬いのり】:びわが京の町で出会った白拍子の少女。同じ白拍子の月・あかりと連れ立って旅をしている。

  • 源頼朝杉田智和】:伊豆に流刑になっていた源氏の武将。周囲からの声に推されつつ、挙兵を決意する。

  • 源義経梶裕貴】:頼朝の弟。源氏の総大将として各地でめざましい戦績を上げている。

など。

 

公式サイトに掲載されているストーリーは、次のとおりです。

第一話 平家にあらざれば人にあらず

平安末期の京都。平家一門は、権力・武力・財力、あらゆる面で栄華を極めようとしていた。
天皇をもしのぐ勢いで野心を募らせる父・平清盛を危うく感じる長男の重盛はある夜、邸内で琵琶法師の少女・びわと出会い、平家の滅亡を予言される。
重盛とびわには、ともに見えないものが見える「目」を持つという共通点があった。

第二話 娑婆の栄華は夢のゆめ

資盛が天皇の摂政に無礼を働いて制裁を受け、それに清盛が報復したことで、平家に対する批判が噴出する。
重盛は資盛を伊勢に謹慎させ、自身も職を辞することで少しでも批判を治めようとするが、それがおもしろくない清盛。
そんな中、徳子が後白河法皇の息子・高倉天皇に入内することが決まる。

第三話 鹿ケ谷の陰謀

維盛・資盛・清経らとともに、厳島神社に赴くびわ
入内して6年になるが子を授かる気配のない徳子のために、一行は厳島神社に祈願の舞を捧げる。
一方、重盛は藤原氏延暦寺のいさかい、これをもてあます後白河法皇に頭を悩ませていた。
さらにその裏では、源氏の力を借りて平家を討つ密議が交わされようとしていた。

第四話 無文の沙汰

待望の御子を授かったにもかかわらず、病床に臥せってしまった徳子。
見舞いにきた重盛が片目で周囲を見ると、密議の陰謀で処分された者たちの怨霊が蠢いていた。
恩赦によって流罪になった者たちが解放され、徳子の息子が無事産まれるが、平家の立場はいっそう難しいものとなっていた。

第五話 橋合戦

重盛の死を受け、「未来が見えても変えることはできない」と嘆くびわ
その左目は、いつの間にか重盛の目と同じ色になっていた。
重盛に代わり弟の宗盛が平家の頭領になるが、後白河法皇は平家の勢力を削ごうと動き始める。
これに反発した清盛は、三種の神器とともに幼い安徳天皇の即位を急ぐ。

第六話 都遷り

平家への風当たりが強まるなか、京からの遷都が決まり、慌ただしく引っ越しの準備をする資盛・清経・びわ
たどり着いた福原の海岸で、兄弟たちはいとこ違いの敦盛と出会う。
月を見ながら笛を吹き、束の間の交流を楽しむびわたちだったが、清盛の邸では物の怪による変事が相次いでいた。

第七話 清盛、死す

源頼朝が、遂に後白河法皇院宣を受けて挙兵。維盛率いる平家の兵は富士川の戦いであえなく敗走する。
半年とおかず福原から京に戻ってきた平家一門は南都の僧たちからも朝廷からも警戒され、ますます孤立していく。
年が明け、高倉上皇が危篤状態に陥る。清盛は徳子に今後の身の振り方を提案するが……。

第八話 都落ち

清盛の死を受けて動揺する一門を離れ、母探しの旅に出たびわは、各地で平家と源氏の戦の状況を耳にする。
奮闘する知盛や重衡らを尻目に、頭領の宗盛は京で宴三昧の日々を送っていた。
源氏側につく者が増えるなか、維盛は木曽義仲に大敗を喫し、引き返せないほど精神的に追い詰められていく。

第九話 平家流るる

京を捨てて西に逃れる平家一門。入れ替わりで源氏の白旗がはためく京に戻ってきたびわは、静御前らとともに丹後をめざす。
後白河法皇後鳥羽天皇を擁し、かつて重盛に仕えていた者たちも次々と源氏側に寝返っていく。
福原を落ち、大宰府からも拒否され、疲弊しながら歩き続ける一門は、とうとう海まで追いやられる。

第十話 壇ノ浦

旅のすえに母と再会したびわは、改めて自分も平家の行く末を見守り、祈り続けることを決意し一門に戻る。
しかし、清経の入水に続き敦盛が一ノ谷の戦いで戦死、捕らえられた重衡は鎌倉に送られ、平家はひとりまたひとりと欠けてゆくのだった。
苦しみに耐えかねた維盛は出家を決意し、最後にびわと短い会話をかわす。

第十一話 諸行無常

年が明けて季節は冬から春へ。決戦は屋島の戦いから壇ノ浦へと向かう。追ってきたのは源氏の若き総大将・義経
激しいうず潮に源平の舟が入り乱れるなか、イルカの大群が押し寄せ、遂に風向きが変わる。
平氏の敗北と滅亡が垣間見えるなか、みなを勇気づけ闘う宗盛と知盛。三種の神器とともに帝の手を取る時子。
びわはそのすべてを目に焼き付けようとしていた。

 

(ここまで)

未来が見える右目を持った琵琶法師の少女「びわ」が、死者が見える左目を持った平重盛と出会い、重盛の求めで、一緒に暮らすことになる。重盛、清盛が亡くなり、都落ちし、滅亡に向かう平家から一度は離れ、生き別れた生母に会いに行ったびわは、自らの目で見た平家の滅亡までを語り継ぐことを決意し、再び平家の下に戻り、壇ノ浦での平家の最期を見届ける・・・というのが物語の大きな骨格。その中で、諸行無常の中であがき続ける平家の人々の儚さが描かれていきます。滅亡に向かう平家の物語は救いがありませんが、美しい背景映像、巧みな構成・描写に引き付けられ、終盤に来るほど緊迫度が増し、涙する印象的な作品でした。

平家の未来が見える「びわ」を主人公にしているのは、本作の最大のアレンジ、特徴となっています。山田監督が「観ている方の代弁者、目になってくれる存在」と語っているとおり、物語の結末を知っている現代のわれわれと物語の世界を媒介する役割を担っています。びわの声を担当する悠木碧も凄かった。「劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン外伝―永遠と自動手記人形―」でも思いましたが、とても上手い声優さんです。


原作を刊行している河出書房新社から出ている、高野文子山田尚子著の『わたしたちが描いたアニメーション「平家物語」』も手に取って読んでみました。

平家物語の紹介に始まり、キャラクター原案の高野文子さんの原案画も交えたキャラクターデザインの紹介、山田尚子監督日記、山田監督と高野文子さんの対談、第1話を中心とした山田監督の絵コンテや美術設定の紹介などが盛り込まれています。分量的にはコンパクトですが、読んで初めて知る/気づくこともあり、本作の魅力の一端に触れることができる本でした。