鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

凪良ゆう「流浪の月」

凪良ゆうさんの小説「流浪の月」を読みました。

本作を原作にした映画をこの間観に行って、原作も読んでみることにしました。

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本作は、2019年8月に単行本として刊行され、2020年本屋大賞を受賞した作品。2022年2月に文庫本化されています。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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家族ではない、恋人でもない―—だけど文〔ふみ〕だけが、わたしに居場所をくれた。彼と過ごす時間が、この世界で生き続けるためのよりどころになった。それが、わたしたちの運命にどのような変化をもたらすかも知らないままに。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい―—。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。本屋大賞受賞作。
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主な登場人物は、

  • 家内 更紗:9歳の時に文と出会い「女児誘拐事件の被害者」とされる。それから15年が経った現在は、レストランでホール担当のアルバイトをしている。

  • 佐伯 文:大学生の19歳の時、更紗の願いを聞き入れて家に住まわせ、誘拐犯として逮捕される。現在はcalicoというカフェを営んでいる。

  • 中瀬 亮:更紗と一緒に暮らす29歳の恋人。工作機械の営業をしている。

  • 谷さん:文の現在の恋人。

  • 平光さん:キッチン担当の更紗の同僚のパート。更紗は苦手意識を持っている。

  • 安西 佳菜子:20代半ばの更紗の同僚のシングルマザー。

  • 泉ちゃん:亮の地元の山梨に暮らす亮の従妹。更紗を気遣ってアドバイスする。
  • 安西 梨花:安西さんの8歳の娘。

  • 孝弘:更紗の従兄。更紗が伯母の家に引き取られて同居していた時、更紗に性的ないたずらをしていた。

というあたり。

本編は6章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

 

一章 少女のはなし

休日のファミリーレストラン、かき氷を食べる少女の向かいには30代手前くらいの女性と40歳手前の男性のカップルが座っている。隣の高校生の男の子たちのグループは、携帯電話で女の子を誘拐した大学生の男が逮捕される瞬間を写した動画を探して見始める。カップルは素知らぬふりでうきうきと話す。

少女やカップルが誰かは明かされませんが、終章を読むと、この章からつながっていることが分かります。

二章 彼女のはなし Ⅰ

最初にお父さん、次にお母さんが消え、伯母の家に引き取られた9歳の更紗。中学2年生の従兄・孝弘を嫌悪し家に帰りたくない更紗は、公園で声を掛けてきた文の家に行くことを選ぶ。居場所を見つけた更紗は伸び伸びと過ごすが、パンダを見に行った動物園で文は捕らえられ、更紗は児童養護施設に送られることになる。

三章 彼女のはなし Ⅱ

それから15年後。レストランでアルバイトをする更紗は、恋人の亮と同棲していた。結婚を求める亮に躊躇いを覚える更紗は、平光さんに連れられてカフェで、営んでいるのが文であることを知り、胸騒ぎを覚える。カフェに足を運ぶようになる更紗だったが、文には恋人の谷さんがいた。一方、束縛心の強い亮は、カフェを突き止め、文のことをネットに拡散する。それを知った更紗は、亮の部屋を逃げ出し、文の隣の部屋に引っ越す。しかし、興味本位の週刊誌の記事で、更紗はレストランを辞めざるを得なくなる。さらに、娘の梨花を更紗に預けて浮気相手と沖縄に旅行に行った安西さんが帰って来ず、梨花の面倒を文も手伝うようになるが、復縁を願う亮が更紗を傷害犯にに陥れようとしたことで、警察の介入を招く。疑念が晴れた更紗と文はマンションに戻るが、待っていた谷さんは、文に別れを告げて去っていく。文とずっと一緒にいたいと訴える更紗に、文は自分の身体の秘密を明かす。

この章は、本作の半分以上を占め、物語の中核となっています。

四章 彼のはなし Ⅰ

いつしか自分の身体に違和感を感じるようになった文は、高校3年生の時、自分に一番近い第二次性徴がこない病気があることを知る。ひそかに居場所を失っていった文は、本命大学に落ち、地元から離れた街の滑り止めの大学に進む。大人の女性を愛せないのではなく、小さな女の子が好きなのだと思考がねじ曲がっていった文は、公園で更紗に出会い、その自由さに惹きつけられる。逮捕され、想像どおりの病名を告げられた文は、医療少年院で過ごした後、実家に作られた離れで暮らすが、母親の身体が不自由になったことを契機に、地元を離れる。就職が困難な文は、更紗がいるかもしれない街にカフェを開く。そして、更紗が現れる。

五章 彼女のはなし Ⅲ

週刊誌の記事で、自宅のマンションが特定されて引っ越さざるを得なくなり、カフェも閉めることになる。文は更紗を巻き込むことを恐れ、一緒に暮らすことを拒んだが、更紗にとってはどうでもよいことだった。

終章 彼のはなし Ⅱ

文と更紗は、ファミリーレストランで13歳になった梨花と会っていた。あの騒ぎから5年、最初は転職と転居を繰り返すことを余儀なくされていたが、今は長崎でカフェを開いていた。高校生になったら長崎に遊びに行くのでバイトさせてほしいと言う梨花と別れ、文と更紗は帰りの新幹線に乗り込む。今のところがだめになったら、今度はどこに行きたい、と尋ねる更紗に文は、どこでもいいよ、どこに流れていこうと、ひとりじゃないんだから、と思うのだった。

(ここまで)


本屋大賞を受賞しただけあって、作品の世界に引き込まれ、最後まで止められずに一気に読み続けさせられる感じでした。