鷺の停車場

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ブルックナー:交響曲第6番/第9番ほか

アンドリス・ネルソンス指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(録音:2018年12月 ライプツィヒ、ゲヴァントハウス(ライヴ・レコーディング)) 

2018年にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター(楽長。通常のオーケストラでいえば音楽監督に当たる役職だと思います)に就任したアンドリス・ネルソンスが、2016年から録音を開始したブルックナー交響曲全集の第4弾。

まずは、交響曲2曲を聴いてみました。

いずれも、奇を衒うことなく、スコアに比較的忠実な演奏という印象。録音の巧みさもあると思いますが、低弦が厚い重戦車のようなオーケストラの威力、各セクションの見事なバランス、強奏になっても濁らない響きの美しさなど、魅力的な部分が多くありました。ライヴ録音ということもあって、細部のキズが全くないわけではないですし、場所によってテンポを大きく動かしたり、解釈が好みと合わないところも部分的にはありましたが、全体としては、なかなか優れた演奏だと思いました。個人的には、第6番の方により多く魅力を感じました。

 

手元にあるCDを聴き比べてみました。

まずは交響曲第9番。今回は録音の古い順から。

ブルックナー:交響曲第9番

ブルックナー:交響曲第9番

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エデュアルド・ファン・ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(録音:1956年9月 アムステルダム、コンセルトヘボウ)

ベイヌムコンセルトヘボウ管弦楽団と録音したブルックナー交響曲の1枚。このほかに、1953年にデッカに第7番を、1955年当時のフィリップスに第8番をスタジオ録音しており、急逝する約1ヶ月前の1959年3月の第5番のライヴ録音も残されているようです。モノラル録音で音の古さは否めませんし、アンサンブルも(録音技術もあるのでしょうけど)どこかガチャガチャした感じがして時代を感じますが、直截な表現、ダイナミックな演奏は魅力的です。

 

エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルハーモニー管弦楽団
(録音:1980年1月20日 レニングラードフィルハーモニー大ホール(ライヴ))

チャイコフスキーショスタコーヴィチなどロシアものが有名なムラヴィンスキーですが、モーツァルトベートーヴェンブラームスなどドイツ系の録音も少なからず残っており、本盤は、ムラヴィンスキーの晩年、ブルックナー交響曲では最後の録音。金管楽器の強奏などロシアのオケ特有の響き、独自の解釈・表現など、ブルックナーのオーソドックスな演奏とは大きく異なり、私の好みとも違いますが、ピンと張りつめたような厳しい緊張感、冷たい表面の下に強靭な意志を感じさせる演奏。

 

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1988年10月 クリーヴランド、メイソニック・オーディトリム)

ドホナーニは、クリーヴランド管弦楽団音楽監督就任中に、ブルックナー交響曲は第3番以降の7曲を録音していますが、その中で最初の録音となった1枚。要所で殊更に溜めたりすることなく、比較的速めのテンポで音楽が進んでいきますし、ドイツ系のオケのような響きの厚みはないので、万人受けはしないと思いますが、アンサンブルの精度は高く、スコアをすべて見通したような緻密で分析的な印象を受ける演奏です。

 

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(録音:1995年1月 ライプツィヒ、ゲヴァントハウス)

ブロムシュテットが、ネルソンスの2代前となるライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター就任が決定した直後(正式には就任前)にデッカに録音したCDの1枚。呼吸の深さと言ったらいいのか、要所で溜めたりする要素は少なめなので、淡泊に進みすぎという印象を抱く人もいるだろうと思いますが、ブロムシュテットらしい端正な演奏で、録音の良さもあり、迫力ある低弦、美しいハーモニーの響きなど、オーケストラの威力がいかんなく発揮された演奏。今回聞き比べた演奏の中では、トータルでは最も優れた演奏だと思います。

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(録音:2011年11月24-26日 ライプツィヒ、ゲヴァントハウス(ライヴ))

カペルマイスターを退任後、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の名誉指揮者となったブロムシュテットが、ライヴで録音したブルックナー交響曲全集の1枚。先に挙げたデッカとの録音から16年後、当時84歳ですが、その年齢を感じさせない端正な演奏。第3楽章が早めのテンポで運ばれていることも、そうした印象を強めています。ライヴ録音ということもあり、アンサンブルの精度、各セクションのバランスといった面では、デッカ盤の方に軍配が上がりますが、ライヴならではの熱気も感じられますし、オーケストラの地力は、この時期の方が優れているのではないかと思います。

 

これらのCDの楽章ごとの演奏時間を比較してみると、次のようになります。

ネルソンス盤の第3楽章の短さが少し際立ちます。第1楽章・第2楽章はドホナーニ盤とベイヌム盤が短いですが、この2枚は逆に第3楽章は時間が長くなっているのが面白い。

 

続いて第6番。実は、ブラバンをやっていた高校時代に、ブルックナー交響曲で初めて好きになったのがこの第6番でした。ただ、その後他の曲にも触れるようになって、私の中でのこの曲のウエイトはだいぶ下がってしまい、手元にはあまりCDがありません。

クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮クリーヴランド管弦楽団
(録音:1991年10月7日(ブルックナー)・1993年6月1日 (バッハ) クリーヴランド、セヴェランス・ホール)

先の9番と同様、ドホナーニが音楽監督当時にクリーヴランド管弦楽団と録音したブルックナー交響曲集の1枚で、第9番、第4番、第7番、第5番に続く5曲目の録音に当たります。第9番と同様に、比較的速めのテンポで、スコアをすべて見通したような緻密で分析的な印象を受ける演奏。録音もあいまって、みずみずしく透明感のある響きが印象的で、個人的には、第9番よりも、こうした特長がよく活かされた演奏だと思います。

ヘルベルト・ブロムシュテット指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(録音:2008年9月25-26日 ライプツィヒ、ゲヴァントハウス(ライヴ))

前述の第9番と同じく、ライヴ録音によるブルックナー交響曲全集の1枚。こちらの方が4年ほど早く録音されています。第9番と同様、録音当時80歳を超えているとは思えない端正な演奏。曲の雰囲気もあり、若々しさすら感じさせますが、決め所でオーケストラが微妙に合わない場所もあったりして、凝集力がもっとあればもっと素晴らしかったのに、という感じも受けます。

 

こちらもそれぞれの録音の楽章ごとの演奏時間を比べてみると、次のようになります。

  • ネルソンス    Ⅰ16'39"/Ⅱ19'45"/Ⅲ8'27"/Ⅳ14'45"
  • ドホナーニ    Ⅰ15'17"/Ⅱ16'57"/Ⅲ8'28"/Ⅳ14'35"
  • ブロムシュテット Ⅰ17'06"/Ⅱ17'18"/Ⅲ8'51"/Ⅳ15'23"

ドホナーニ盤の第1楽章・第2楽章の短さ、ネルソンス盤の第2楽章の長さが際立っています。