鷺の停車場

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映画「少女は卒業しない」を再び観る

平日の仕事帰り、新宿駅前のシネマカリテに行きました。


約1か月ぶりの新宿ですが、この間に新型コロナによる行動制限が大きく緩和されたこともあって、駅前の人通りは1月前の倍以上、かつての賑わいにほぼ戻ったような印象です。


シネマカリテは、約1月前に「ぬけろ、メビウス!!」を観て以来、計3回目です。


この日の上映スケジュール。


観に来たのは「少女は卒業しない」(2月23日(木)公開)。公開直後にMOVIX柏の葉で観てかなり良かったので、できれば朝井リョウの原作小説を読んでから改めてもう一度観たいと思っていました。先日、原作小説を読んだので(これは別に書きます)、再び観に来てみたのです。


階段を下りたところにロビーがあります。


ロビーには、舞台挨拶に来訪された主要キャストのサインが入ったポスターがありました。


この作品で中心となる4人の女子高生を演じた女優、山城まなみ役の河合優実、後藤由貴役の小野莉奈、神田杏子役の小宮山莉渚、作田詩織役の中井友望と、中川駿監督のサインでした。


ロビーの端にはかなり大きな展示がありました。


河合優実をはじめとする主要キャストのインタビュー記事なども掲示されていました。


上映は96席のスクリーン1。この映画館で観た過去2回はいずれもスクリーン2で、こちらのスクリーンは初めて。スクリーンがやや真ん中からズレているちょっと珍しい形です。一番端の方の席を除いてはほぼ満席。80人以上は入っていたと思います。

 

学校の統合が決まり、校舎の取り壊しが始まる前日に行われる学校最後の卒業式、料理部の部長だった山城まなみ、女子バスケ部の部長だった後藤由貴、軽音部の部長だった神田杏子、クラスになじめず図書室に通っていた作田詩織、卒業を迎える4人の女子高生のそれぞれの想いを描いた群像劇。

 

思い切りネタバレになりますが、自分の備忘を兼ねて、記憶の範囲で、もう少し詳しくあらすじを書いてみます。

 

山梨県立島田高等学校。学校が統合されて、校舎が取り壊されることが決まっていた。

卒業式の前日、久しぶりに顔を合わせた3年生たち。クラスで居場所がない作田詩織(中井友望)は、図書室に向かうが、鍵が閉まっていて入れない。そこに坂口先生(藤原季節)がやってくるが、作田は午後は図書室は開いているかだけを確認して、教室に向かう。

卒業式のリハーサルが行われ、山城まなみ河合優実)は答辞を読む。山梨栄養専門学校への進学を決め、受験が早く終わった山城は、先生に頼まれて答辞を読むのを引き受けたのだった。そんな中、軽音楽部の森崎剛士佐藤緋美は染めた髪を先生に注意され、バスケ部の後藤由貴(小野莉奈)は彼氏の寺田賢介(宇佐卓真)に視線を送っていた。心理学を学ぶため東京の大学に進む後藤は、地元で小学校の先生になるのが夢で地元の大学に進む後藤とは、3か月ほどの間、気まずい関係になっていた。

放課後、山城は、担任から、校長先生からの指摘で、なくなってしまう校舎について触れてほしいと答辞の修正を頼まれ、校舎を見て回ることにする。

一方、作田は図書室に向かい、本を整理する坂口先生を話をする。クラスメイトが楽しそうにしている空間が苦手だと話す作田。同じタイプなので分かりますと言う坂口先生に、作田は、私も先生のように話せるようになりますか?と尋ねる。

後藤は、同じバスケ部だった倉橋(坂口千晴)と体育館でバスケットボールでシュートを放っていた。ゴールを決めたら寺田とちゃんと話す、と決めてシュートを放つと、見事にゴールが決まり、2人は喜ぶ。

軽音楽部では、卒業式の後に行われる卒業ライブの順番でもめていた。トリは在校生の投票で決めることにしていたが、面白がる在校生の投票が森崎がヴォーカルを務めるエアーバンドのヘブンズドアに集まり、実力派バンドのリーダーの桜川は不満を漏らす。部長の神田杏子(小宮山莉渚)は、投票結果のとおりにヘブンズドアをトリにすることを決め、ヘブンズドアのメンバーには実力で見返せと励ますが、ヘブンズドアの下級生たちは面白がる在校生の視線を怖れて出場を辞退し、森崎は自分だけで出ると言い出す。

校舎の屋上からグラウンドを眺める山城は、彼氏の佐藤駿窪塚愛流との思い出を回想する。料理部の部長で調理室の鍵を預かっていた山城は、人には見つからないように調理室で駿と会い、作ってきた弁当を2人で食べていた。

図書室の作田は、本を整理する坂口先生を手伝っていた。坂口先生は、卒業式が終わった後、みんなが写真を撮ったりアルバムにメッセージを書き合ったりしている時間は、地獄のアディショナル・タイム、耐えられずに先に帰ったがそれも地獄でトラウマになっていると話し、作田に、その対策として、誰かに話しかけてみること、でも決して同意しないこと、と助言する。

自転車で倉橋と帰る後藤は、花火を買いに花火店に向かう。卒業がなければ、楽しいことばかりなのに、と話す後藤。

教室に戻った作田は、映画の話をしていた隣の席のクラスメイトに話しかけてみるが、話は今一つ噛み合わず、気まずい空気が流れてしまう。

弁当を食べ終えた山城と駿。駿は弁当箱を洗って山城に返し、ずっとこのままがいいよなあ、とつぶやき、山城もそれに同意する。

花火店に行った後藤と倉橋。同じ島田高校の卒業生だと言う店のおばさんは、期限切れが近い花火をサービスしてくれる。

神田は、校門のところで、自転車で下校する森崎を待っていた。やってきた森崎に話しかけ、森崎の自転車の後ろに乗って一緒に学校を出る。同じ中学だった2人は思い出話をする。森崎は、しばらく竹細工などをしているおじさんの仕事を手伝うことになったと話し、神田は花が咲く桜の木の下で2人の写真を自撮りする。

家に帰った後藤は、寺田に電話し、卒業式の後に一緒に花火をしようと誘い、さらに、翌日の朝待ち合わせて一緒に登校しようと誘い、寺田からの返事にホッとする。

下校後に本屋で本を買った作田は、本屋を出たところで、偶然坂口先生と鉢合わせする。アドバイスに従って話しかけて気まずくなったことに文句を言う作田に、坂口先生は謝り、明日で卒業なのにどうして変わりたいと思ったのか、と尋ねると、作田は、山城が答辞を読むから、山城さんが前に進もうとしているのに、自分がうじうじしているのが恥ずかしくなった、と答える。

夜、家で答辞を書き直した山城は、夏の事件で自分が階段を駆け下りる夢でうなされて起き、お弁当を作る。

後藤は、待ち合わせ場所の理容スズキの前で寺田と合流し、学校に向かいながら思い出話をするが、寺田の反応はそっけない。

その頃、作田は文庫本を手にバスに乗っていた。前の席の小学生から、それは何の本か尋ねられ、魔法の本、持っているだけで力をもらえる、と答える。

学校に着いた山城は、調理室に行ってお弁当をテーブルに置き、駿、お弁当作ってきたよ、と誰もいない空間に話しかけ、そのまま出ていく。

その頃、軽音楽部では、ヘブンズドアのメイク道具や音源などがなくなるトラブルが発生していた。神田は卒業式の後にもう一度探そう、とその場を収める。

チャイムが鳴る頃、学校に近づき、寺田も話してよ、と言う後藤に、寺田は、自分で東京の大学に行くのを決めておいて、明るく別れたいなんて勝手すぎる、と言い捨てて、先に行ってしまう。

そして、卒業生が入場し、卒業式が始まるが、山城の心の動揺は激しくなっていく。在校生代表の岡田亜弓の送辞の後、卒業生代表の答辞となるが、山城は何とか壇上に上がったものの、駿の母親が持つ駿の遺影が目に入り、駿が学校の窓から落ちて亡くなったときのことが脳裏に浮かび、答辞を読むことができないまま、卒業式は終わる。

卒業証書が授与されて卒業式は終わり、クラスで卒業アルバムが渡された後、山城は調理室で友人のはるかに慰められる。バスケ部の面々は一緒に写真を撮る。

卒業ライブを準備する段になっても、ヘブンズドアのメイク道具や音源は見つからない。神田は森崎がアカペラで歌うしかない、森崎なら歌える、と言う。

教室では、作田が前日に話しかけたクラスメイトが、アルバム出して、と作田に声をかけ、もっと早くから話せばよかった、と言って、作田のアルバムにメッセージを書き込む。

後藤は教室の掃除用具入れからバケツを出し、花火の準備を始める。

そして卒業ライブが始まる。森崎の順番が近づく中、神田を慕う後輩(田畑志真)が、部長が隠したんですか?と疑問を投げかける。神田をそれを認め、森崎は中学生の時は普通に歌っていた、部活の後に一人で普通に歌っている歌声が好きだった、一度みんなに聞かせてやりたかった、と自分の思いを話す。

図書館に向かった作田は、坂口先生に会い、卒業アルバムに何人ものクラスメイトがメッセージを書いてくれたことを報告し、ここがあったから3年間通い続けられた、この本はお守りでした、と話す。

屋上で一人花火をしていた後藤のもとに、寺田がやってくる。寺田は朝のことを謝り、二人は一緒に花火を始める。

卒業ライブでは、トリの森崎の順番がやってくる。森崎はアカペラで「Danny Boy」を歌い始め、その美しい歌声に、会場は引き込まれていく。神田は内心で喝采を叫ぶ。

作田は、先生に借りっぱなしになっていた本を返す。前日に同じ本を買っていたのだ。坂口先生はその新しい本の方を受け取り、借りていた本を作田に渡す。作田は、卒業したくありません、と心の内を明かす。

調理室にいた2人も、聞こえてきた森崎の美しい歌声に、体育館に向かう。それは駿が校内で耳にして、口ずさんでいたメロディだった。歌う森崎の姿を見て、山城は、駿に教えてあげたい、と涙する。森崎が歌い終わると、大歓声が沸き起こる。

卒業ライブも終わって誰もいなくなった体育館。一人佇む山城に、駿の姿が目に入る。山城は駿を抱きしめ、そして、自分の制服のブレザーをワイシャツ姿の駿の背中に掛け、卒業式では読めなかった答辞を読んで聞かせる。その頃、一緒に花火を終えて関係を修復した後藤と寺田は、手を振って別れる。答辞を読み終えた山城の目に、もう駿の姿はなく、山城は床に落ちたブレザーを拾い上げて抱きしめ、涙する。

 

・・・という感じ。(多少の記憶違いはあるだろうと思います)

 

原作小説を読んでから再び本作を観ると、朝井リョウの小説は、原作というよりも、原案といった方が近いくらい、映画化に際して、細部は大幅な変更が加えられています。

原作小説では、卒業式の当日、卒業する7人と、2年生1人の8人の視点から、それぞれの想いが高校時代の回想も交えて描いていますが、本作では、山城と駿のシーンを除いては回想シーンはなく、卒業式の前日と当日の2日間の、卒業を迎える4人の女子高生のそれぞれの姿が描かれています。4人とそれぞれが想いを寄せる人との関係は、基本的には原作小説の設定を踏襲していますが、細部のエピソードは、ほぼすべて新たに書き下されており、原作小説との共通点はほとんどありません。

例えば、作田が図書室に通っていたのはクラスになじめないため、山城が卒業式で答辞を読む、ヘブンズドアの衣装やメイク道具を隠したのは神田だった、卒業式の日の朝に後藤と寺田が一緒に学校に行く、といった細部の設定は、いずれも原作にはなく、映画オリジナルの設定になっています。

ロビーに掲示されていたインタビュー記事の中に、中川監督と原作者の朝井リョウの対談記事があって、中川監督が映画化に当たり原作小説から手を加えた理由についても話されていましたが、原作では、4人のエピソードはいずれも卒業式の日ではあるものの、描かれた時間帯にはそれぞれ違いがあり、エピソード相互間の関連もありませんが、映画では同じ時間軸で進んでいくこともあり、4人のエピソードをゆるやかに絡ませているのも、映画全体の求心力を高めているように思いました。

前回観た時の記事にも書きましたが、前半は4人のエピソードが、入れ替わりながら並行して淡々と描かれていくのですが、時間的にちょうど真ん中あたり、卒業式前日の作田の一言を境に、卒業式当日を描く後半になって次第に収斂していく展開は見事で、監督の手腕の巧みさを改めて感じました。