綿矢りさの小説「ひらいて」を読みました。
1年半ほど前に、本作を原作に実写映画化した「ひらいて」を観ていました。
それからだいぶ経ちましたが、原作本を目にして、読んでみることにしました。
「新潮」2012年5月号に掲載された作品で、2012年7月に単行本として刊行された作品。2015年1月に文庫本が刊行されています。
文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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華やかでモテる女子高生・愛が惹かれた相手は、哀しい眼をした地味男子。自分だけが彼の魅力に気づいているはずだったのに、手紙をやりとりする女の子がいたなんて。思い通りにならない恋にもがく愛は予想外の行動に走る―—。身勝手にあたりをなぎ倒し、傷つけ、そして傷ついて。芥川賞受賞作『蹴りたい背中』以来、著者が久しぶりに高校生の青春と恋愛を瑞々しく描いた傑作小説。
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主な登場人物は、
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木村 愛:主人公の高校3年生。成績も良く明るい女の子。推薦入試で地元の大学に進む予定。
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西村 たとえ:愛が恋焦がれているクラスメイト。東京の最難関大学を目指している。父親と2人暮らし。
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新藤 美雪:同学年のたとえの恋人。Ⅰ型糖尿病で、昼食時に自分でインスリン注射を打っている。目立たない女の子。
- ミカ:愛の友人で同じ予備校に通っている。多田が好き。
- 多田:愛と同じ予備校に通っているクラスメイト。
など。
本作は、章や節に区切られてはおらず、1行ほど間隔を開けて区切られて、文章が綴られています。
大まかなあらすじは、つぎのようなもの。
愛は、高校1年生の体育祭の仮装パレードの際に接点があった西村たとえと3年生で再び同じクラスになり、いつからか、授業中、ひまさえあれば彼を見るようになっていた。
たとえが誰からかの手紙を読んでいるのを目撃した愛は、予備校仲間と愛が通う高校に忍び込むという多田に誘われ、たとえが読んでいた手紙を読みたいと、一緒に学校に忍び込み、たとえの机の引き出しに入っていた手紙の一通を抜き取る。
自室に戻ってその手紙を読んだ愛は、その差出人が「美雪」であることから、1年生の時に同じクラスでⅠ型糖尿病でインスリンの注射を打っている美雪であると確信する。
2人が付き合っているという噂はなく、愛はあんな子のどこがいいの、と手紙を破り捨てたくなるのを何とかこらえる。
たとえとなかなか接点が持てない愛は、美雪に芽生えた純粋な興味のような感情もあって、美雪に接近する。映画館に一緒に行き、その帰りに寄った美雪の家で、愛は美雪が中学2年生のころからたとえと付き合っていると知り、愛は生理的な嫌悪感を感じながらも、美雪にディープキスをする。
文化祭の準備日に、たとえとふたりきりで話す機会を得て、愛は言葉を飾りながらたとえに好きだと告白するが、話していることがうそなんじゃないかと見抜かれ、拒まれる。そんなとき、美雪から家に誘われた愛は、話ながら美雪に抱きつき、美雪の身体に指を這わせる。戸惑いながらも喜んでいると感じた愛は、美雪を愛撫し、もっと支配したい気持ちとむちゃくちゃに壊したい衝動に襲われ、自分自身も愛撫し、2人で絶頂に達する。
愛は自分が招いた複雑な状況についていけなくなり、美雪を抱きたい気持ちでじっとしていられなくなり、再び美雪の家に行く愛。2人で達した後、愛は美雪の携帯からたとえを学校に呼び出し、教室で服を脱いでたとえを待つ。やってきたたとえに、美雪と寝たことを話すが、たとえは帰ると言って教室を出ようとする。愛はたとえの背中に抱きついて私を好きになってほしいと迫るが、たとえは、おれはおまえみたいな人間に勝手に見つけられ苦しめられてきた、自分勝手なお前を見ていると怒りでぞっとする、と強く拒絶し、去っていく。
美雪から再び会いたいとメールが入り、ついに来たかと観念した気持ちで美雪の家に行った愛は、たとえが第一志望の大学に受かったこと、美雪がたとえについて東京に行くつもりであることを知らされる。愛はたとえにふられたこと、美雪を妬んで寝たことなどを打ち明けし、謝罪するが、美雪は、まったく反省してない、私はもうだまされないと言い、出て行って、と厳しい表情で告げる。外に出た愛から涙があふれる。
私立大学の入試が始まり教室に空席が目立つようになった2月のある日、愛が家に帰ると美雪からの手紙が届いていた。それを読んだ愛は家を飛び出し美雪の家に向かうが、美雪はたとえの家がひどい状況になっているみたいだからと急いでたとえの家に向かい、愛も一緒に向かう。たとえの家に着くと、家の中からは激しい物音が聞こえるが、しばらくして顔色が失せたたとえが出てくる。見つめ合うたとえと美雪を見て、愛は激しい恥の意識に貫かれる。そこに父親が出てくる。激しい怒りの感情に襲われた愛は、父親の顔を渾身の力で殴りつけ、3人は家を出て住宅街を走り、公園のベンチに座る。たとえは心の奥に閉じ込めていた家庭内の問題を話す。興奮が冷めない愛にはその言葉が頭に入らず、2人との間に壁を感じて逃げたくなるが、それをこらえて、美雪を支えて最後まで居続ける。
卒業式が近づいたころ、教室で愛はたとえからの視線に気づく。その眼差しに魅かれながらも苛立つ愛は、教室を飛び出し、駅から電車に乗る。愛は、たとえや美雪に対する感情が変化してきていること、友情とも愛情とも呼べない何かで、受け入れてもらったことが心を満たしていることを感じる。
(ここまで)
成績も良く明るかった女子高生が、恋焦がれる地味な男の子に意外にも恋人がいたことを知って、心の闇の蓋を開け放ってしまったかのように、男の子を手に入れようと自分でも想像もしなかった行動をとっていき、相手を、また自分も傷つけ、そしてそこから立ち直っていく物語。ピンと張り詰めた雰囲気の中で、繊細で不安定な、そしてある意味では残酷な思春期の少女の姿が描かれ、鮮烈な印象が残る作品でした。
なお、以前に観た映画は、もう細部の展開までは覚えていませんが、原作となる本作を読んでも、映画との展開の違いを感じなかったので、おそらく、映画は本作にかなり忠実に映画化されていたのだろうと思います。