鷺の停車場

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映画「さいはて」トークショー付き上映

映画「さいはて」(5月6日(土)公開)を観に行きました。


新宿に映画を観に来るのは、3月に「少女は卒業しない」(2月23日(木)公開)を観にシネマカリテに来て以来。


来たのはK's cinema(ケイズシネマ)。「さいはて」は、現時点ではこの映画館のみ、今後上映が決まっている映画館も4館のみという非常に小規模での公開です。


この日のラインナップ。


この日の上映スケジュール。

スクリーンのある3階ロビーに着くと、チケット売場に10人ちょっとの行列ができていました。


スクリーンは84席、3年近く前に来たときは自由席でしたが、指定席制になっていました。お客さんは20人ほどでした。公開初週、上映後に監督などによるトークショーがあることを考えると、寂しい入りかもしれません。


(チラシの表裏)

偶然出会った、それぞれ喪失と空虚感を抱く男女の逃避行を描いた作品で、監督・脚本は越川道夫。

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

手をつなぎ果てまで逃げる二人
ある日、居酒屋で知り合う若い女性モモと、40歳の男性トウドウ。夜の街で手をつなぎ、「靴が鳴る」を歌いながら歩く二人。やがて二人は互いを求め合い、身体を交わす。翌朝、昨晩の記憶をたどりながら「道行みたいだね」と語るトウドウ。その言葉の意味を理解したモモは黙って彼に泣きつく。それぞれに辛い過去を持つ二人は海を目指して、この世界から逃げる事にする。

 

・・・という物語。

 

公式サイトで紹介されている登場人物は、次の2人。

  • モモ【北澤 響】:居酒屋でトウドウと出会った若い女性。両親は心中して亡くなり、身寄りがいない。

  • トウドウ【中島 歩】:人生に絶望した男性。塾で国語を教えている。かつて死にたいと言っていた女性を助けたいと、お守りにと毒薬を渡すが、女性はその毒薬を飲んで死に、自分も死にたいと思っている。

そのほかのキャストとして、金子清文、美香、内田周作、君音、杉山ひこひこが名前を連ねていますが、それぞれの役名はアナウンスされていません。ネット検索でヒットしたご本人の画像と記憶を重ね合わせると、おそらく、金子清文が認知症だったモモの父親、美香がモモの母親、内田周作が偶然軽ワゴン車で通りかかってモモとトウドウを駅まで乗せてあげた男性、杉山ひこひこがモモとトウドウの出会いのきっかけとなった居酒屋のマスターだったのかなあと思いますが、君音はどこで出てきたのかよく分かりませんでした。

 

ネタバレですが、記憶の範囲でもう少し詳しめにあらすじを紹介すると、

 

居酒屋で酒を飲むトウドウは、カウンターのすぐ近くの席で、酒に酔って眠りこめる若い女性モモに目を止める。モモは、起きて立ち上がるが酔って足元が安定しない。店を閉じた居酒屋を出た2人は意気投合し、公園で酔いを覚ます。話しているうちに、トウドウは、2人で逃げませんか、と誘い、モモはその誘いに乗り、2人は手を繋いで道を歩き、トウドウは「靴が鳴る」を口ずさむ。物陰で2人は熱くキスをし、体を合わせる。
翌日、電車に乗って、湖畔までやってきた2人。船に乗るが、それは遊覧船で、最初に乗った乗り場に戻ってきてしまう。トウドウはモモを返すために駅まで送るが、モモは別れを告げて反対側に歩き出したトウドウの後を追って駆け寄り、両親は自分が出かけた隙に死んでしまい、戻る場所がないことを打ち明け、トウドウに抱き締める。
トウドウは戻ってこない船に乗ろうと海を目指して歩き、モモは通りかかった軽ワゴン車を呼び止めて、2人を乗せてもらう。その途中、橋を渡る車の中で、脇の歩道に人影を見たトウドウは、突然車を停めさせて走り出すが、誰もいなかった。
駅まで送ってもらった2人は、近くの連れ込みホテルに泊まる。モモは、セックスしたらトウドウがいなくなってしまうのではないかと不安になり、その予感は的中し、朝モモが目覚めるとトウドウの姿はなかった。そのころ、トウドウはポケットに忍ばせていた毒薬を入れたビンを投げ捨てるが、思い直して、そのかけらを拾い、右足の靴の中に入れる。慌てて外に飛び出したモモはトウドウを見つけ、食堂に入るが、自分はトウドウが好きなのに、トウドウが心ここにあらずなのに腹を立て、1人で店を出て走り出し、海辺までやってくる。
モモを探して海にやってきたトウドウは、モモを見つけてそばまでやってくる。モモはトウドウが自分のことを何も話さないことを非難すると、トウドウは、自分は人を殺した、死にたいと言う女性を助けたくて、お守りだと毒薬を渡したら、それを飲んで死んでしまった、と打ち明け、自分も死のうと海に入っていき、モモに自分を殺してくれと頼む。モモはできないと叫び、トウドウを海から何とか助け出す。
ホテルにやってきた2人。モモは傷ついたトウドウの右足に優しく口を寄せ、そして2人は再び体を合わせる。トウドウは、自分が小学校の先生になりたかったことを話し、オルガンを弾いて子どもたちと歌を歌う光景を思い浮かべる。翌日、再び海辺で、手を繋いで歩き始めた2人は、古びたオルガンがあるのを見つける。トウドウはオルガンを弾いて2人は「靴が鳴る」を歌う。

 

・・・という感じ(多少記憶違いがあるかもしれません)。

 

長回しが多く、ゆったりしたテンポで、希望を失った2人の逃避行を描き、独特の空気感を感じさせる作品でした。モモを演じた北澤響の、少女らしさも残した、まっすぐな女性が印象的で、喪失感に苛まれ空虚だったトウドウが、モモの一途さによって救済され、一緒に歩き出す、そんな物語に思えました。

ところで、トウドウとモモの逃避行の最初、遊覧船に乗ったのは、船内でダムに沈んだ村として「旧日連村」が紹介されていたことからすると、津久井湖と思われますし、その後にモモを送りに行ったシーンの背景には「山梨信用金庫」の看板がありましたが、2人が軽ワゴン車(川崎ナンバー)で送ってもらって下りた駅は、千葉県の外房線にある「上総一ノ宮」駅でした。相模原市から外房までは、アクアラインなど高速を使っても相当な時間がかかるはずで、通りすがりのオジサンが好意で乗せてあげられるような距離ではありません。ロケ地の都合だったのでしょうし、セリフには具体の地名は全く出てこないので、実在の場所の立地は関係ないのだと思いますが、なまじ目に入ってくるだけに、ちょっと引っかかりを感じました。


上映終了後に、道枝監督と、イラストレーター・エッセイストの浅生ハルミンさんが登壇してのトークショー。(写真は終了時のフォトセッションのもの)


おふたりは旧知の仲だそうで、出会いのきっかけから始まり、20分ほどのトークショー。せっかくの機会、本作に込めた思いなど、作品の核心に近づくお話があまり聞けなかったのは残念ですが、キャスティングの経緯、モモがトウドウを追うシーン(手振れがすごかったのですが)のカメラワークの意図など、貴重なお話をお聞きすることができました。