鷺の停車場

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映画「ほしのこえ」

新海誠監督の劇場公開第1作である「ほしのこえ」(2002年2月2日(土)公開)をDVDで観ました。

ほしのこえ(サービスプライス版) [DVD]

ほしのこえ(サービスプライス版) [DVD]

 

全体で25分程度の作品。脚本、作画をはじめ、ほとんど新海監督1人で作られた作品だそうです。

2046年、中学3年生のミカコとノボルは互いに恋心を抱いていたが、ミカコは国連宇宙軍に選抜され、翌年、地球外の生命体タルシアンを探索・撃破する艦隊の一員として宇宙に旅立つ。ミカコとノボルは携帯メールで連絡し合うが、地球から遠ざかるにつれて、メールが着くまでの時間も開いていく。ミカコのメールを待つ日々にいらだち、メールを待つことを止めるノボル。「このまま何も見つからないで、早く地球に帰れるのがいちばんいい」と心情を吐露するミカコ。そこにタルシアンが出現し、戦闘が始まるが、増援されるタルシアンから逃れるため、艦隊は1光年先にワープし、さらに8.6光年先にワープする。ワープ先で惑星アガルタに降り立ったミカコは、8光年離れたノボルにメールする。「24歳になったノボルくん、こんにちは! 私は15歳のミカコだよ。ね、わたしはいまでもノボルくんのこと、すごくすごく好きだよ」その後もタルシアンとの戦闘を続けるミカコ。8年半後、社会人となった24歳のノボルにミカコからのメールが届く。ノイズで本文は読めなくなっていたが、ノボルにはミカコの思いを理解する。・・・というあらすじ。

互いに想いを寄せながら結ばれない切ない恋模様というのは、「雲の向こう、約束の場所」、「秒速5センチメートル」などその後の新海誠作品のほとんどで描かれるテーマ。「君の名は。」も、そのほかの要素が加わって作品のスケールは大きくなっていますが、瀧と三葉の関係は、本作のノボルとミカコの関係に通ずるものがあります。ただ、瀧と三葉は、ラストに再び出会って、その後には明るい未来が待っていると思わせる形で終わりますが、本作では、たとえ気持ちが通じ合っていたとしても、現実に再び会うことはできないのだろうと感じさせるより切ない終わり方。

遠くに離れ、時間が経っても互いを想い合っているというのは、現実にはなかなかないことだし、艦隊の一員としてタルシアンと戦うミカコは、精神的にタフさを要求する戦闘をともに戦う同じ艦隊の仲間のうちに、恋愛に発展する人が出てきておかしくないとも思うので、一歩引いて醒めた眼でみると、非現実的な展開ではあるのですが、観ている間は、胸がキュっと締めつけられるような、どうにもならない気持ちになりました。

しかし、これだけの映像をほとんど1人で製作されたというのは、非常に驚き。とりわけ、背景の美しさ・繊細さは後の新海監督作品に通ずるものがあります。主役2人のキャラクターは、さすがにその後の作品と比べものにならないほど粗いですが、キャラクターの顔の微妙な表情やしぐさで語らせる映画ではないので、さほど不満を感じることもなく、観ることができます。

完成された作品として減点方式で観ると、ツッコミどころはいろいろありますが、1人のクリエーターが作ったチャレンジングな作品として加点方式で観ると、いろいろ見どころもあり、その後の新海監督作品の源流を感じさせるところも随所にあって、これはこれでいい映画でした。