橘由華「聖女の魔力は万能です 2」を読みました。
2016年4月から小説投稿サイト「小説家になろう」に連載が始まり、2017年2月にカドカワBOOKSから単行本として刊行が始まった作品で、テレビアニメ版が2021年4月からの2021年春クールに第1期、2023年10月からの2023年秋クールに第2期が放送されています。
第2巻の本作は、2017年2月刊行の第1巻から7ヶ月後の2017年9月に刊行されています。著者のあとがきを読むと、単行本化に際して、「小説家になろう」の連載時から、かなりエピソードが追加されたようです。
背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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度重なる活躍で聖女疑惑を掛けられてしまったセイ。なんとかバレずに済んだけれど、監視付きの王宮で、本格的に魔法を学ぶことになってしまう。さらには、スパルタ講師のお眼鏡に適いすぎて、実戦訓練に連れて行かれることに……。「貴女には傷一つ付けさせません。私が守ります」ってそれ、"研究に必要な貴女には"って意味ですよね!?
安心安全簡単な森だから、なんてヤバいフラグが立ちまくっている実戦訓練がそのまま終わるはずもなく……!?
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本書の冒頭のカラー挿絵で紹介されている主要登場人物は、次のとおりです。
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セイ:”聖女召喚の儀”で喚び出された20代OL。派手に活躍しすぎて、聖女とバレそうになっている
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アルベルト・ホーク:第三騎士団の団長。瀕死の重傷のところをセイに助けられ、それから感じの良い仲に
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ユーリ・ドレヴェス:宮廷魔導師団の師団長。綺麗な外見だが、その本性は……?
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エアハルト・ホーク:宮廷魔道師団の副師団長で、アルベルトの兄。口数は少ないが、常識人かも?
このほかに、この第2巻で登場する名前が付けているキャラクターとしては、次の人たちがいます。
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ヨハン・ヴァルデック:薬用植物研究所の所長で、ヴァルデック伯爵家の次男。アルベルトの親友。
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ジュード:薬用植物研究所の研究員。人懐っこく面倒見が良い、研究所に入ったセイの面倒を見ることになる。
- 愛良:セイと同時に異世界に召喚された女子高生・御園愛良(みその あいら)。
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エリザベス・アシュレイ:王宮図書室で出会った侯爵令嬢。セイとすっかり仲良くなり、リズと呼んでいる。
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ジークフリート・スランタニア:スランタニア王国の国王で、カイルの父。
- マリー:王宮でセイの世話をしてくれる侍女。
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カイル・スランタニア:スランタニア王国の第一王子。アイラこそが聖女だと確信し、セイを放置する。エリザベスの婚約者。
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レイン・スランタニア:スランタニア王国の第二王子。
- 宰相:スランタニア王国の宰相のドミニク・ゴルツ。
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ダミアン・ゴルツ:カイルの幼馴染で側近の1人。ドミニクの息子。
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マルク・ヤーン:カイルの側近の1人。
- ヘルツォーク:王立学園(アカデミー)の教師。
本編は、主人公・セイの視点から描かれる6章と、その間に挿入されるセイ以外の者の視点から描かれる「舞台裏」と題する2つの閑話で構成されています。各章の概要・主なあらすじは、次のようなもの。
第一幕 鑑定
国内で唯一、人物に対して鑑定を行える魔導師であり、聖女召喚の儀の後、昏睡状態になっていた宮廷魔導師団師団長が1週間ほど前に意識を回復し、セイは鑑定を受けるため、ヨハンの同伴で宮廷魔導師団に向かう。自分のステータスに「聖女」と表示されているセイは、ステータスを確認されたら一発でアウトだと思い、気が重い。
師団長のユーリ・ドレヴェスの部屋を訪れ、副師団長のエアハルト・ホークも同席してセイの鑑定が始まるが、ユーリの鑑定魔法は弾かれる。ユーリはセイのレベルが自分より高いことが考えられると言い、セイが基礎レベルが55だと伝えると、同席していて3人は驚愕する。ユーリはセイに魔法を使っているところを見せてもらい、金色の光が混じるセイの魔法が自分の使う魔法と違うことを指摘する。
鑑定の2日後、セイのもとに、国王が翌日に王宮で会いたいと伝える使者がやってくる。翌日、セイは早朝から王宮に移動し、侍女たちによって身支度を調えられ、護衛のために来たというアルベルトとともに王座の間に向かう。
王座の間で、ジークフリートは居並ぶ家臣たちの前で、公式に召喚とカイルの非礼を謝罪し、様々な功績を上げたセイにお詫びを含め恩賞を与えたいと言う。宰相は爵位でも領地でもなんでもいいと言うが、そうしたものは不要だが、何か受け取ってこの話を終わりにしたいと考えたセイは、あっても邪魔にならない恩賞をと考え、禁書庫の閲覧許可と、魔法を学ぶため講師を付けてもらうことを求め、ジークフリートはその要望を受け入れる。
舞台裏
ユーリは、王の執務室を訪ね、セイとアイラに鑑定魔法を施した結果を報告する。セイの基礎レベルがユーリより10も高いと聞いて、ジークフリートと同席していた宰相は鑑定魔法が弾かれるのも無理はないと思う。ユーリは魔法に金色の粒子が混じっているセイが十中八九聖女だろうと報告して、下がっていく。
ユーリが部屋を辞した後、ジークフリートは、カイルがアイラの保護に邁進した結果、周囲と軋轢が生じている状況に溜息を吐く。召喚の儀の際にカイルに放置されたセイの怒りが国に向かっているのは非常に問題だと考えるジークフリートは、正式な謝罪の準備を指示し、聖女として待遇する必要はあるが、あまり派手にはしない方がいいだろうと話す。
一方、師団長室に戻ったユーリ。ユーリは高い魔法の才能を前宮廷魔導師団師団長に見出されてその養子となって、宮廷魔導師団に入っていた。好きなように魔法を研究するために師団長となり、師団長としての業務は必要最小限しかしないユーリの補佐のため駆り出されたのがエアハルトだった。セイの魔力に興味津々のユーリに、エアハルトは今後やり過ぎないよう目を光らせなければならいことを憂えるのだった。
ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 5「鑑定」にほぼ対応する部分になっています。
第二幕 特訓
謁見の数日後、恩賞について文官と打ち合わせをしたセイは、魔法のほかにも講義を受けることになる。
文官に受けたい講義の一覧を提出して数日後、講義が始まる。魔法の講師となったのは何と宮廷魔導師団師団長のユーリだった。聖女の能力に関する事柄はどれも国家機密で、セイの能力を知る者は少ないほどいい、また、セイの魔力について調べさせてほしいとユーリは話し、セイの魔力に興味津々なユーリはニコニコとして講義を始める。実技の時間も加わると、その柔らかい物腰とは裏腹に、ユーリの指導はスパルタだった。講義以外でも練習した方がいいと考えたセイは、第三騎士団の訓練に参加させてもらい、回復魔法を早く掛けられるよう練習する。1週間が経ち、訓練に参加した成果もあり、セイはユーリの予想よりも早く上達する。スパルタ指導は討伐に支援要請が来るからだろうと考えていたセイだったが、ユーリにはそんな意図はなく、セイの魔法を観察したかったからだった。しかし、セイほどの聖属性の魔法の使い手はおらず、支援要請は来るかもしれない、来るとすれば行き先は西の森だろうと話す。
第三幕 淑女
そして、セイが「淑女の日」と呼ぶダンスやマナーなどの講義が集中する日、セイjは支度のためにいつもより早く起きて王宮に向かい、侍女にドレスなど身支度を調えてもらう。午前にマナーの講義を受け、午後にダンスのレッスンを受けていると、アルベルトが顔を出し、講師の誘いでアルベルトとダンスを踊る。社交シーズンになってセイがパーティに参加する時には、自分にエスコートさせてほしいとアルベルトに言われ、セイは照れて顔を赤らめながら、エスコートをお願いする。
次の淑女の日、ダンスの講義は休みとなり、代わりにマナーの講師からの課題だとお茶会の招待状を渡される。それはアシュレイ侯爵家の令嬢からのお茶会の招きだった。セイがお茶会の場所に向かうと、待っていたのはリズだった。リズは、セイと同じく召喚され、王立アカデミーに通うアイラの状況などについてセイに話し、お茶会は無事に終了する。
ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 6「淑女」にほぼ対応する部分になっています。
舞台裏
16歳の高校生の御園愛良は、コンビニに買物に出ようとした瞬間に異世界に召喚されていた。第一王子のカイルから国の危機的な状況など召喚の経緯を説明されるが、元の世界には戻れないと聞いて涙する。愛良を庇護しなければいけないと思ったカイルは、愛良を気遣い、愛良もカイルたちに依存するようになっていった。
王立学園に通うようになって、愛良は順調に能力を伸ばしていたが、学園にだいぶ慣れてきたころ、リズに声を掛けられ、婚約者のいる殿方と親しくするのはよくない、と忠告を受けるが、そこに険しい顔をしたカイルが駆け付け、アイラのことは自分が面倒を見る、とリズを咎め、愛良を連れて去っていく。リズは後からやってきたレインと、タイミングが悪かったと苦笑する。2人は、愛良がカイルに囲い込まれている状況を改善するため、リズが愛良を補佐する形にできないかと考えていたのだ。
一方、自室に戻った愛良は、女性の友人がいない状況に、リズの提案を受けた方が良かったのではないかと思い悩むが、現状を変えることは選ばなかった。
ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 7「章間」にほぼ対応する部分になっています。
なお、テレビアニメ版では、セイを聖女だという声が高まるのを知ったカイルは、愛良の今後のことを思って、セイを放置したのは自分の驕りが招いた失態だが、自分の独断と暴走に巻き込まれたとなれば愛良も同情を受けるだろうと言って、最後まで無能で頑固なわがまま王子を確信犯的に演じる、という設定になっていましたが、本作ではそうした描写はありません。
第四幕 品種改良
禁書庫の閲覧許可が下りたセイは、久しぶりに行った図書館でさっそく禁書庫の本のページをめくり、上級ポーションに使われる薬草よりも効果の高い薬草の情報がないか探す。そこにやってきたユーリから、植物にも微量の魔力があると聞き、薬草に魔力を付与しようと試みるなど研究に打ち込む。ユーリは、魔物の殲滅に特化した魔法はあるが、それは聖女が使ったもので、存在のみが伝えられていて詳しいことは分からないと話す。
翌日、ユーリから聞いた聖女の術について考えるセイに、ヨハンは、聖女の術は、誰が使うにしても不変な共通項がなく、使用者によって発動方法も異なるのかもしれないと話す。
新鮮な空気を吸おうと研究所の外に出たセイが星空を見上げ、この世界に来てからのことを思い返していると、胸の辺りが温かくなり、胸から金色の霞のように光が広がり、その光が弾けると、空からキラキラと金色の粒子が降ってくる。
慌てて飛び出してきたヨハンは、霞がかかったところの薬草がそうでない薬草と違っていることに気付く。その薬草を使うと、他の人でも1.5倍の性能のポーションが作れることが分かる。
その後、セイはその魔法を再び発動できないか何度か試すが、再現できないでいた。
第五幕 討伐
召喚されてから9ヶ月、研究所でポーション作製に勤しむセイに、ヨハンは、今後の討伐に回復要員として参加してほしいとの使いが来たと伝える。予想どおりの内容に、セイはそれを二つ返事で了解し、西の森への討伐に参加する。
出発の朝、セイはヨハンやジュードたちに見送られて出発する。同じ馬車に乗るユーリから魔法の講義を受け、野営地では食事の準備を手伝うセイは、1日半ほどかけて、西の森の入口に到着する。
西の森に入り、ユーリやアルベルトたちとともに森の中を進んで行くと、徐々に魔物に遭遇する間隔が短くなっていき、セイも回復魔法を使って騎士たちを支援する。森の最深部に到着すると、窪地には黒い沼のようなものがあり、そこから魔物が次々と湧き出していた。そして、ついにサラマンダーが姿を現す。騎士たちやユーリも応戦するが、アルベルトが黒い狼のような魔物の攻撃を受けるのを見たセイが、嫌、やめて!と思った瞬間、聖女の術が発動し、光が弾けると、魔物も沼も何もかもが消え、そこには森があるだけになっていた。状況を理解した騎士たちは歓声を上げる。
ここまでが、テレビアニメ第1期のEpisode 8「覚醒」にほぼ対応している部分になっています。
第六幕 聖女
召喚されてから10ヶ月、討伐からしばらく経つと、セイは周囲の自分への態度が以前よりも恭しくなっていることに気付く。地方での討伐にも駆り出されるようになるだろうと聞いて、宮廷魔導師団に移らなければならなくなるのではと不安になるセイだったが、ヨハンは地方には地方独特の薬草やポーションがあるから、それを見て回る仕事だと思えば、研究所に在籍したままでも問題ないだろうと安心させる。
そんなころ、セイが王宮の回廊を歩いていると、リズとカイルが言い争っているのを見る。カイルは聖女と噂されているセイは聖女ではないと言い切り、たまたまそこに通りかかったセイに手を伸ばすが、アルベルトがそれを遮り、そこに現れたジークフリートは、セイが聖女であるとカイルに告げ、事情を聞くためカイルとリズを別の場所に連れていき、セイはその場を離れる。
王宮で働く人々からすっかり聖女として認識され、接する態度がますます丁寧になってくる中、セイはリズと愛良とのお茶会を開く。先の騒動の後、カイルは聖女に関する事柄から外されて王宮内で謹慎となり、取り巻きたちも自宅謹慎、第二王子のレインがカイルの後任の責任者となる。お茶会で、愛良がもう少し魔法の勉強がしたいと言うのを聞いたセイは、宮廷魔法師団に入団することを勧め、愛良は学園を卒業後、宮廷魔導師団に入団することを決める。
本章は、テレビアニメ第1期のEpisode 9「聖女」の途中までにほぼ対応しています。
(ここまで)
以上のとおり、この第1巻では、テレビアニメの第1期の中盤、第5話から第9話までに当たる部分が描かれています。
この続きも、少しずつ読み進めてみようと思います。