鷺の停車場

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鴨志田一「青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない」

電撃文庫から出ているライトノベル青春ブタ野郎」シリーズの第12作の「青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない」を読みました。

第10作の「青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない」から始まった第3部ともいうべき大学生編の第3巻。

 

表紙の帯の裏には、次のように紹介されています。

 

『12月1日、咲太は塾で担当する生徒がひとり増えた。姫路紗良――峰ヶ原高校の一年生で、成績優秀な優等生。
「今日からお願いします。咲太せんせ」
 三日前に咲太が見た夢と一言一句同じ挨拶をする彼女もまた、霧島透子から思春期症候群をプレゼントされていた。紗良はそれを「治さないでほしい」というが、一体どんな思春期症候群を発症しているのか。「麻衣さんが危ない」というメッセージも気がかりな中、面倒なことになったと頭を抱える咲太だったが……
 教え子のため、そして麻衣とのクリスマスデートの平穏を守るため! 師走の咲太が東奔西走する、シリーズ第12弾。』

 

主な登場人物は、次のようなもの。

  • 梓川 咲太(あずさがわ さくた):大学1年生の主人公。峰ヶ原高校を卒業し、公立大学の統計科学学部に進学した。実家を出て、藤沢で花楓と2人暮らしをしている。

  • 桜島 麻衣(さくらじま まい):咲太の1学年上の恋人。子役時代から有名で今は国民的女優。峰ヶ原高校在学時に思春期症候群となったことがきっかけで咲太と付き合うようになり、今は同じ大学に通っている。

  • 霧島 透子(きりしま とうこ):2年近く前から動画サイトでのみ活動している謎のシンガー。ミニスカサンタの姿で咲太の前に現れた。

  • 双葉 理央(ふたば りお):咲太の峰ヶ原高校時代の数少ない友人の1人で、1人で科学部で活動していた。今は理系国立大学に通っており、咲太と同じ塾で講師のバイトしている。

  • 姫路 紗良(ひめじ さら):峰ヶ原高校の1年生で、成績優秀な優等生。通っている塾で、咲太を新しい担当に使命した。

  • 山田 健人(やまだ けんと):峰ヶ原高校の1年生で、咲太の塾の生徒。同級生である紗良のことが気になっている。

  • 吉和 樹里(よしわ じゅり):峰ヶ原高校の1年生で、咲太の塾の生徒。ビーチバレーのクラブチームに所属している。

  • 加西 虎之介(かさい とらのすけ:塾で理央が教えている高校2年生。紗良の幼なじみ。

  • 赤城 郁実(あかぎ いくみ):咲太の中学時代のクラスメイト。今は咲太と同じ大学の医学部看護学科に通っている。

  • 上里 沙希(かみさと さき):咲太の峰ヶ原高校時代のクラスメイト。咲太と同じ大学の医学部看護学科に進み、郁実の友人となっている。

  • 梓川 花楓(あずさがわ かえで):咲太の2学年下の妹。中学時代にネットのいじめに遭って不登校になり、通信制の高校に進学した。

  • 福山 拓海(ふくやま たくみ):大学で咲太の友人となった統計科学学部の1年生。

  • 美東 美織(みとう みおり):大学で咲太が知り合った国際商学部1年生の女の子。

  • 花輪 涼子はなわ りょうこ):麻衣のマネージャー。

  • 豊浜 のどか(とよはま のどか):咲太と同学年の麻衣の母親違いの妹。アイドルグループ「スイートバレット」のメンバーで、咲太と同じ大学に通っている。

  • 古賀 朋絵(こが ともえ):咲太の1学年下の峰ヶ原高校の後輩。思春期症候群を治したことで咲太と仲良くなった。同じファミレスでバイトするバイト仲間でもある。

  • 広川 卯月(ひろかわ うづき):「スイートバレット」のセンター。通信制高校を経て、咲太と同じ学部に進学したが、退学した。

  • 国見 佑真(くにみ ゆうま):咲太の峰ヶ原高校時代からの数少ない友人。高校時代はバスケ部に所属していた。卒業後は消防士として働いている。高校時代から沙希と付き合っている恋人。

  • 牧之原 翔子(まきのはら しょうこ):咲太の初恋の相手。実は、中学1年生の少女・牧之原翔子の思春期症候群によって姿を現した未来の翔子の姿だった。心臓移植手術を受けた後、沖縄に引っ越し、現在は中学3年生。

  • 鹿野 琴美(かの ことみ):花楓の親友。咲太と花楓が家族で横浜に住んでいた頃、同じマンションに住んでいた仲良くなった。琴美は今でもそのマンションに住んでいる。

 

以下は、ネタバレになりますが、各章ごとの少し詳しめのあらすじです。

 

第一章 十二月の贈り物

  1. 12月1日、桜川咲太はバイトしている塾で、塾長から姫路紗良も担当してほしいと言われ、元々の担当である山田健人と吉和樹里に紗良を加えた3人に数学の授業を始める。

  2. 「霧島透子を探せ」「麻衣さんが危ない」というもう1つの世界の自分からのメッセージについて、咲太は双葉理央に相談し、霧島透子を理由に思春期症候群を発症した誰かが桜島麻衣を危険に陥れる可能性が高いと考える。帰宅した咲太は、家の電話で透子のスマホに電話を掛けると、透子から折り返し電話がかかってくる。咲太は透子に会う約束を取り付けようとするが、麻衣の誕生日である12月2日でないと会わないと言われてしまう。

  3. 翌日、麻衣が運転する車に乗った咲太にそれを話すと、麻衣はデートのキャンセルに理解を示してくれるが、ランドマークタワーに車を停め、アクセサリーブランドのお店に咲太を連れて行き、咲太はそのお店で誕生日のプレゼントとしてリングを麻衣に贈る。

  4. 大学に着いた咲太が学食で昼を食べていると、赤城郁実がやってきて、咲太のお願いで、もう1つの世界にメッセージの真意を問いかけているが返事はなかったと伝える。

  5. 授業が,終わった咲太は、公衆電話から透子のスマホに電話をかけ、正門の前で透子に会う。透子に連れられてケーキ屋に入るが、咲太以外の人には透子は見えていないようだった。咲太はそうなったことに心当たりがあるのか、これからも誰かを思春期症候群にするのかと尋ねるが、透子は、自分は歌を届けているだけ、何がいけないのかと首をかしげ、イブの夜に聞いてほしいクリスマスソングを用意していると話す。

  6. そのケーキ屋でモンブランを買って帰宅した咲太は、来ていた麻衣に透子と話したことを伝える。麻衣は、24日と25日の予定は空けておいて、箱根の温泉にでも行ってゆっくりしようと誘われ、咲太は歓喜する。

第二章 秘密と約束

  1. 12月24日、普段より遅い時間に起きた咲太は、鹿野琴美とスイートバレットのクリスマスライブに行く花楓を見送った後、正午過ぎに家を出て、藤沢駅で紗良と待ち合わせし、鎌倉行きの江ノ電に一緒に乗る。私の思春期症候群を治さないという約束を覚えてますか?と紗良に尋ねられた咲太は、紗良に指切りげんまんをさせられる。何かおかしいと思った瞬間、咲太は目を覚ます。それは夢で、現実の日付は12月3日だった。

  2. ファミレスでのバイトの休憩中、朝に見た夢が予知夢の類である可能性が高いと思う咲太は、紗良が思春期症候群であることに、まいったな、と言葉を漏らす。それを耳にした古賀朋絵は、紗良から咲太の連絡先を聞かれていることを話し、朋絵と紗良のメッセージのやりとりで、咲太はバイトが終わった後に紗良に会うことになる。

  3. バイトを終えて紗良に会った咲太。鞄を取りに塾に戻った紗良は、咲太に今朝見たという不思議な夢の話をする。その内容は、咲太が朝に見た夢と全く同じ内容だった。紗良は、ゴールデンウィーク直後の失恋がきっかけで思春期症候群になったこと、思春期症候群のおかげで吹っ切れたことを話し、思春期症候群を治さないでくださいね、と咲太に頼む。
    紗良と別れて塾のエレベーターに乗った咲太は理央とばったり出会う。相談したいことがあると言う理央とハンバーガーカフェに入った咲太は、朝の夢や紗良との出来事を理央に話す。理央は、紗良の思春期症候群を治すヒントを得るために透子に会うことを勧める。一方、理央の相談は、塾で担当している加西虎之介から告白されたというものだった。

  4. 咲太は毎日のように透子のスマホに電話を掛けるが、進展がないまま数日が過ぎる。12月9日の金曜日、大学に行った咲太は、昼休み、教室の窓から並木道を歩くミニスカサンタ姿の透子を見つけ、授業が間もなく始まるのも構わず、教室を飛び出す。
    咲太が声を掛けると、透子はクリスマスソング用の動画素材の撮影をしていた。透子は紗良のことは知らなかったが、思春期症候群は自分からのプレゼントで間違いないと思うと言い、24日の午後4時にクリスマスソングの生配信をするから来てと咲太に一方的に約束して去ってしまう。

  5. 翌日の12月10日の土曜日、塾のバイトに向かう咲太は、藤沢駅前で虎之介に声を掛けられ、もう1つのバイト先のファミレスで話を聞くことになる。虎之介は、紗良のことを気を付けてあげてほしい、と咲太にお願いし、紗良とは幼なじみで、中学までは自分も紗良が好きなんだと思っていたが、理央を好きになって、恋愛感情だと思っていたものが、そうじゃなかったかもしれないと気づいたと話す。虎之介の話を聞いて、紗良は虎之介に事実上振られて思春期症候群を発症し、妙にモテるようになったことがわかった咲太は、クリスマスイブに理央に振られる夢を見たと話す虎之介に、アドバイスを贈る。

  6. 塾で紗良、健人、樹里に授業をした後、紗良と駅前のカフェに入った咲太。紗良は、虎之介は自分が好きだと思っていたのが勘違いだとわかってすごくショックだったと話すが、まだ虎之介が好きなのか咲太に尋ねられても、答えることができない。紗良も虎之介が好きだと思い込んでいただけではないかと言う咲太に、紗良は挑戦的な目をして、どうすれば咲太のように人が好きになれるかと問いかける。

第三章 I need you

  1. 12月12日の月曜日、大学の学食で美東美織に紗良の話をした咲太は、美織の言葉で、紗良が、誰かを好きになるよりも、誰かに好かれる自分を一番好きになってしまったのだと気づく。

  2. 12月14日の水曜日、塾で授業の準備をする咲太は、樹里から、健人が紗良に告白して振られる夢を見たと相談される。樹里が健人のことを好きだと気づいた咲太は、樹里にアドバイスを贈る。
    樹里と健人に授業をした後、別メニューの紗良に大学入試の過去問などを解かせる。自分もうまく解けない問題に、咲太は教室の前を通り過ぎた理央に声を掛け、その問題を紗良に解説してもらう。その分かりやすい説明に、咲太は紗良に、理央に見てもらった方がいいと言うが、紗良は、私は咲太せんせがいい、と明確に拒絶し、感情をむき出しにして衝動的に言葉を発したことに、紗良自身も驚く。

  3. 翌日の木曜日、大学で会った福山拓海が見ていた学祭の歴代のミスター&ミスコン優勝者を紹介するサイトを見た咲太は、昨年のミスコン優勝者が透子で、本名は岩見沢寧々、国際教養学部の2学年上であることがわかる。

  4. PCで岩見沢寧々の検索をした咲太は、透子が高校2年生のときから地元北海道でモデル活動をしており、ミスコンをきっかけにモデル事務所に所属してファッション雑誌などで活動していたが、今年の4月6日を最後にSNSの更新が止まっていることがわかり、その時期に周囲から認識されなくなったのだろうと考える。

  5. 帰宅した咲太に、塾長から連絡先を聞いた紗良から電話がかかってくる。紗良は前日の態度について謝るが、咲太がレベルに合った先生に付いた方が紗良のためになると言うと、咲太にレベルアップしてほしいと言う。きちんと話し合った方がいいと思った咲太が翌日会えないか聞くと、紗良は前に担当してもらっていた関本先生から会って話がしたいと言われていると話し、咲太はある提案をする。

  6. 翌日の12月16日、咲太は、大学の後、紗良の代わりに関本との待ち合わせ場所に行き、紗良にはもう会わないよう関本にお願いする。最初は咲太の胸倉を掴んだ関本だったが、最後は力なく笑って去っていく。
    その後、紗良と喫茶店で話す咲太。紗良のためを思って、他の先生の授業も試しに受けてみてほしい、と勧める咲太に、紗良は言葉の正しさは理解したが、感情が追い付いていない様子で、納得しきれない顔で、言うとおりにしてみる、と答える。
    店を出ると、紗良は、その人がどこで何をしていて、何を考えているのが見える、咲太の秘密もいっぱい知っている、しかし、誰でもというわけでなく、見えるのは少し強めにぶつかった人だけだと明かし、咲太の力になれる、透子に合わせてほしいと話す。咲太は、どうしてクリスマスイブに紗良と一緒にいたのかを理解する。

  7. 帰宅した咲太は、湯船に浸かりながら、紗良の思春期症候群の原因が量子もつれだとすれば、咲太の状態が紗良に伝達されているなら、咲太も紗良の状態を共有していて、自分がそれに気付いていないだけではないかと考える。そして、目を閉じると、24日の咲太とのデートを楽しみにする紗良の意識が見える。

第四章 December 24th

  1. 12月24日、以前に見た夢のとおりに正午過ぎに家を出て、紗良との待ち合わせ場所の藤沢駅に向かうと、なぜか麻衣が現れ、私も一緒に行くと言う。戸惑う咲太に、やってきた紗良は完全に困惑する。

  2. 麻衣が運転する車に乗る咲太と紗良。紗良は車内での麻衣と咲太の仲の良いやり取りを見て、さらに困惑して、拗ねたような顔をする。

  3. 鎌倉駅近くの駐車場に車を停めた麻衣は、モンブランを買うためにちょっとした行列ができているお店に連れて行き、咲太に並ばせて、紗良を連れてのどかに頼まれた鳩サブレ―などを買いに歩き出す。咲太は、麻衣と一緒の紗良は自分を気にする余裕はないだろうと考え、感覚を遠くに飛ばし、紗良の意識をのぞき見る。紗良は、ずっと麻衣だけを見て、考えてきた予定が全部台無し、と不満に思いながらも、綺麗でカッコいい麻衣がどうして咲太先生と付き合っているんだろうと考える。そして、その疑問を麻衣にぶつけるが、揺るがない麻衣の態度に、紗良の心は痛みにひび割れそうになるが、麻衣はギリギリのところで一歩引いて、どうして咲太と付き合っているのかを話し出す。ふたりで幸せになるためよ、という麻衣の言葉に、紗良が、こんな人に勝てるわけない、と感じた瞬間、咲太は紗良の意識から断ち切られる。

  4. 順番が回ってきてモンブランを注文したところで、麻衣からお店に咲太あての電話がかかってくる。電話を代わると、紗良がいなくなったという。咲太が店の電話を借りて紗良のスマホに電話をかけるが、紗良は応答しない。咲太は買ったモンブランを店に預け、紗良を探しに飛び出す。さっきのぞいた紗良の意識で見た、紗良が考えていたデートプランを頼りに、お寺の竹林に囲まれた細道で紗良を発見した咲太だったが、紗良は、もう何も見えなくなった、咲太先生の役に立てない、と言葉を絞り出す。紗良の思春期症候群を利用することにならなくて良かった、と言う咲太に、吹っ切れた様子の紗良は、第一志望に合格したら改めて告白する、と宣言する。

  5. モンブランを回収して大学に向かう咲太たち。透子の配信が始まる午後4時になり、紗良がスマホで検索すると、生配信が始まっており、大学に着くころには、生配信は終わっていた。咲太が配信を行っていた大学の中庭に向かうと、ミニスカサンタ姿の透子がいた。咲太はモンブランを差し入れに渡し、岩見沢寧々さんですよね?と投げかけるが、透子は、わたしは霧島透子、と静かだが強い意志を感じる声で拒絶し、本校舎の中に消えていく。しかし、一緒についてきた紗良には、透子が見えていなかった。

終章 聖なる夜に

紗良を藤沢駅まで送った後、そのまま車を走らせ、麻衣と咲太は夜8時ごろに箱根の温泉旅館に到着する。涼子が先にチェックインしてくれていたおかげで、2人は宿をキャンセルせずに済んだのだった。2人きりでないのを残念がる咲太だったが、穏やかに流れる満たされた時間に幸せを感じる。
その夜、咲太は、現実としか思えない不可思議な夢を見る。その夜、数多くの若者が似たような夢を見たが、麻衣だけは朝まで夢を見なかった。

(ここまで) 

 

大学生編に入ってからは、思春期症候群の原因が、高校生編で描かれたものと比べるとそこまで深刻なものではなくなっているので、深い葛藤を覚えることは少なく、スッと読める物語になっている印象を受けます。

終章の最後に記された、クリスマスイブの夜に見た夢のくだりは、次巻で描かれる物語への伏線になっているのでしょう。

この先は、2023年7月に刊行された第13巻、大学生編の第4弾となる「青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない」へと続き、本年8月刊行予定の第14巻、大学生編の第5弾となる「青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない」、本年10月刊行予定の第15巻、大学生編の第6弾となる「青春ブタ野郎ディアフレンドの夢を見ない」で完結するのだそうです。ここまで読んだので、最後まで続けて読んでみたいと思います。