鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

スクリーンで観た映画を振り返る2022(アニメ映画)

あけましておめでとうございます。今年がみなさま、また私自身にとっても良い一年となることを願ってやみません。

さて、年を越してしまいましたが、昨年2022年に観たアニメ映画を、印象に残った順に振り返ってみます。

かがみの孤城

2018年に本屋大賞を受賞した辻村深月さんの同名小説を原作にアニメ映画化した作品で、学校に居場所がなく不登校となっている女子中学生が鏡の中の不思議な城に迷い込む物語。それぞれ事情を抱えて学校に行くことができない中学生たちがメインなので、重たい部分もありますが、現実と城を行き来する中で少しずつ明らかになる他の仲間たちの過去もうまく描かれ、後半になって、伏線が見事に回収されていく展開は見事。感動すると同時に、謎がスッと解けていく爽快感もあり、うまくまとめられた優れた作品でした。(12月23日(金)公開)

◎すずめの戸締まり

日本各地の廃墟を舞台に、災いの元となる”扉”を閉めていく少女の解放と成長を描く冒険物語。レベルの高い作品。商業的に成功が期待される(失敗が許されない)状況で制作された作品だったはずですが、それを確実にクリアしてくる作品を作り上げるところは、新海監督の確かな力量を感じます。個人的には、「天気の子」よりも良かった。これまでの新海作品と大きく違うのは、東日本大震災という、まだ人々の記憶に残る大災害を、かなり直接的に素材として使っていること。このあたりは、評価が分かれる部分かもしれません。(11月11日(金)公開)

神々の山嶺(いただき)

夢枕獏のベストセラー小説を谷口ジローが漫画化した同名コミックを原作にフランスで2021年にアニメ映画化された作品で、エベレスト単独登頂に挑む孤高のクライマーと、彼を追うカメラマンの姿を描いた作品。何より、アニメならではの迫真の映像に圧倒されました。緊張感の張り詰めた登山シーンなど、雪山登攀の過酷さ、危うさ、美しさ、そして死の恐怖を、リアルな映像、アニメならではの手法で、追体験させられるような感覚がありました。(7月8日(金)公開)

◎バブル

重力のバランスが壊れてしまった東京を舞台に、不思議な少女と出会った少年を描いたアクションアニメ。何より、映像の美しさ、迫力は魅力的。これはスクリーンの大画面で観るべき作品です。ストーリーの細部の設定など、突っ込みどころもあるように思いましたが、それを意識させない圧倒的な映像でした。典型的なボーイミーツガールの物語ですが、思っていたよりかなりいい作品でした。(5月13日(金)公開)

アンネ・フランクと旅する日記

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アンネ・フランクが記したアンネの日記を原案に、アンネの空想の友人であるキティーが、過去から現代のオランダにタイムスリップし、アンネの生涯をたどっていく物語。アンネの身に降りかかったホロコーストのことだけでなく、キティーを介して、現代でも、戦争や内乱によって難民となった子どもたちの苦難が続いていることを絡ませた構成も巧みで、心に響くいい作品。もっと広く上映されていい映画だと思いました。(3月11日(金)公開)

◎夏へのトンネル、さよならの出口

「ウラシマトンネル」と噂される不思議なトンネルで、ほしいものを手に入れようと協力する、それぞれ事情を抱えた高校生男女のひと夏の物語。爽やかな余韻が残るいい作品でした。絵も綺麗で、映像の美しさが印象的でした。(9月9日(金)公開)

◎ブルーサーマル

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小沢かなのコミック「ブルーサーマル ―青凪大学体育会航空部―」をアニメ映画化した作品で、大学入学を機にグライダーと出会った女性が、体育会航空部に入って成長していく姿を描く物語。それぞれの要素の掘り下げがもう少しあるとなお良かったと思いますが、主要な要素をバランス良く盛り込んだテンポの良い展開で、爽やかな余韻を感じるいい作品でした。(3月4日(金)公開)

◎僕が愛したすべての君へ

自分がいる世界と少しだけ違う選択肢を進んだ並行世界があるという設定の下、高校生の時にクラスメイトとして知り合った女の子と、同じ大学、研究所に進み、結婚して子どもも授かった男性の一生を描いた物語。2人は幸せな一生を送りましたが、並行世界では、必ずしもそうではなく幸せの可能性の数だけ不幸せの可能性もあることが示されます。姉妹作の「君を愛したひとりの僕へ」で張られた伏線が回収される部分も多く、後味の良い作品でした。(10月7日(金)公開)

◎君を愛したひとりの僕へ

上記の「僕が愛したすべての君へ」の姉妹作で、自分がいる世界と少しだけ違う選択肢を進んだ並行世界があるという設定の下、高校生の時に交通事故で身体を失い、精神だけが幽霊のように残った恋人を救うため、研究に打ち込む男性の姿を描く物語。切ない物語ではありますが、最後はちょっと救われる形で終わります。非現実的な設定が多く、元恋人を助けたいと願い、研究に没頭する主人公の心の痛みが迫る物語でした。(10月7日(金)公開)

◎鹿の王 ユナと約束の旅

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上橋菜穂子の同名小説をアニメ映画化した作品で、未知の病がまん延する世界で、それぞれの目的を果たそうとする人々の奮闘を描いた物語。悪くない作品でしたが、それほどには響きませんでした。元々は長い作品を圧縮したような印象で、何かを暗示するようなシーンがところどころにあったのですが、その意味がわからないところも多く、消化不良感が残ったのは残念でした。(2月4日(金)公開)

◎グッバイ、ドン・グリーズ

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アニメ「宇宙よりも遠い場所」の監督いしづかあつこ、アニメーション制作のMADHOUSE、キャラクターデザインの吉松孝博が組んだオリジナルアニメで、3人の高校生が夏休みに山火事の犯人と誤解されてしまい、無実の証拠を探しに旅立つ物語。何気ない冒険を通じて、とても大切な何かを得るというのが物語の骨格で、それ自体はいいと思うのですが、ディテールの描写は腑に落ちないところが多く、それほど響きませんでした。個人的には、もっと落ち着いた雰囲気で展開した方がいいような気がしました。(2月18日(金)公開)

 

このほか、以前にスクリーンで観ていて、今年再び観た作品もありました。

この世界の片隅に

かつてスクリーンで20回以上観た作品ですが、カットしたシーンを追加した「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の公開後は観る機会がなかったので、およそ3年ぶりの鑑賞。細部も含め、展開はほとんど覚えていましたが、久し振りに観ることもあって、新鮮に心に響いてくる感じで、刺さるシーンでは、以前と同じように、自然と涙がこぼれました。やはり名作です。(2016年11月12日(土)公開) 

 

昨年観たアニメ映画は、新作11本と、ここ数年では最も少ない本数となりました。アニメ映画は数多く公開されていましたが、私自身は見ていないテレビアニメやゲームのシリーズもので、初見では十分に楽しめなさそうで、劇場に足が向かなかった作品が多かったことが大きかったのかなと思います。

今年は、宮崎駿監督「君たちはどう生きるか」、山田尚子監督「きみの色」など個人的に期待している作品もあり、どれだけ素晴らしい作品に出会えるのか、楽しみにしたいと思います。