鷺の停車場

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映画「湯を沸かすほどの熱い愛」

映画「湯を沸かすほどの熱い愛」(2016年10月29日(土)公開)をBlu-rayを借りて観ました。

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [Blu-ray]

湯を沸かすほどの熱い愛 通常版 [Blu-ray]

 

双葉(宮沢りえ)は、高校生の娘の安澄(杉咲花)と2人暮らしだが、安澄は学校で結構ないじめに遭っていて不登校寸前。1年前に家出した夫一浩(オダギリジョー)と銭湯を営んでいたが、今はパン屋のパートで生計を立てている双葉は、ある日、仕事中に倒れ病院で末期ガンと診断される。2~3カ月の余命しか残されてはいないと知った双葉は落ち込むが、やらなければいけないことがあると動き出す。
まず、探偵(駿河太郎)に依頼して夫の居場所を突き止め、余命がわずかであることを明かして連れ戻そうとする。夫は出ていった愛人の子の鮎子と一緒に戻ってきて、双葉は4人で銭湯を再開する。
そんな中、安澄は体育の授業の際に制服を(おそらくいじめっ子グループに)隠される。双葉は布団にこもり登校を拒否する安澄に、立ち向かわなきゃダメ、何も変わらないと奮い立たせて学校に行かせる。登校した双葉は勇気を振り絞って立ち向かい、制服は返ってくる。
その後のある日、鮎子は家族に黙って出て行ってしまう。その日は、実母が出ていった日からちょうど1年後の日だった。迎えに来るという実母の約束を信じてかつて住んでいたアパートに向かったのだ。しかし実母は現れず、迎えにきた双葉と安澄に連れられて家に帰る。そうした日々の中で、家族の絆は深まっていく。
ガンの進行を自覚する双葉は、タカアシガニを食べに行くと、子2人を連れて、夫が友人から借りてくれた車で旅に出る。双葉は、安澄の本当の母親(篠原ゆき子)に会わせ、真実を伝えようとしたのだった。道中、北海道出身というヒッチハイクの青年拓海(松坂桃李)を車に乗せることになる。双葉は、子どもが寝入ったところで拓海と踏み込んだ話をし始め、北海道出身というのがウソであること、彼の母が3人目で、実母の顔は知らないことなどを知り、北海道出身というなら最北端を目指せ、それがあなたの目標と抱擁しながら諭す。
拓海と別れ、目的地である駿河湾の漁港の町に着いた双葉は、安澄の実母君江が働いている食堂でタカアシガニを注文する。君江は耳が聞こえないが、食堂ではうまくやっているようだった。食べ終わって会計したところで、双葉は突然君江に平手打ちをするが、その直後、安澄に本人が一浩の前妻の君江の子であることを伝える。安澄は激しく動揺するが、真実を安澄に語り、嫌がる安澄を君江に会わせようとする。安澄は、双葉が君江から毎年送られてくるカニのお礼状をなぜ自分に書かせていたのか、自分に手話を習わせていたのが耳の聞こえない君江のためだったことに初めて気付く。そこに平手打ちで何か気付いた君江が安澄のところにやってきて、2人が親子であることが明らかになる。君江と話合った安澄を双葉に頼まれた鮎子が連れて戻ってくると、車の脇で双葉は倒れていた。かつぎこまれた病院に一浩も駆け付け、君江と再会する。
その後双葉はリハビリ病院に入院する。安澄と鮎子は双葉の前では悲しい顔をしないでと約束し、銭湯の番台には安澄が双葉に代わって座るようになる。そんなある日、双葉の下に探偵が報告にやってくる。彼女は自分の実母がどこにいるか調査を依頼していたのだった。探偵のサポートもあって実母の家に向かうが、実母はそんな娘はいないと会うのを拒否する。塀越しに見る実母は、孫と楽しそうに遊んでいた。自分を認めない実母を許せない双葉は、とっさに門柱の上に飾ってあった小さい置物を祖母たちが遊ぶ部屋のサッシに向けて投げつける。
双葉はいよいよ病状が悪化し、面会もままならないようになる。一方、君江はときどき安澄たちの家を訪れるようになり、双葉の言葉どおり北海道の最北端まで行って戻ってきたヒッチハイクの青年拓海が訪れ、銭湯の営業に拓海も加わる。やがて双葉は亡くなるが、双葉の思いはそれぞれの人に強い支えとなっているのだった。双葉の葬儀は銭湯で行われ、遺体はいったん霊柩車で出立するが、(本当はいけないのを承知で)銭湯の釜で火葬され、双葉が煙となって、煙突から立ち上る。その火で沸かされた銭湯の湯舟で、安澄たち家族はお風呂に入る。(ここまで)

監督は長編デビュー作となる中野量太。親との絆を断ち切られた子どもたちが、一緒に暮らす中で双葉の強い愛のおかげ家族の絆を深めていく過程は、現代の童話のような、メルヘンも感じます。普通であれば、いったん家出した夫を探偵に依頼してまで突き止めることはしないでしょうし、突き止めたところで連れ戻すのはそうそう困難でしょう。それに、仮に連れ戻せたところで、家族の絆を修復することはおよそ難しいと思います。あってほしいけど現実にはなかなかない話だからこそ、観ていて涙がこぼれるのだろうと思います。

全てを見通しているかのような双葉の、思慮深くもあり、かつ行動力のある生き方が強く印象に残る、いい映画でした。