鷺の停車場

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顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 五」

顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 五」を読みました。

2021年7月に文庫本で刊行された第5巻。第4巻に続いて読んでみました。 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 清霞の力で敵の首魁、甘水の襲撃を一時退けた美世たち。だが、帝都では甘水の一派が勢力を拡大。美世たちは皇太子、堯人の宮城でさらなる襲撃に備えることになる。
 そんな中、美世は先の襲撃で気づいた清霞への想いに戸惑っていた。穏やかな親愛とはまた別の強い感情に、今の幸せが変わることを怖れる美世。けれどある日の夜、清霞と語りあう時間を得た美世は、彼の提案でひとつずつ質問をしあうことになって……。「恋、という感情を―—憶えたことはありますか」これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。

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主な登場人物は、

  • 斎森美世(さいもり みよ):異能を受け継ぐ名家・斎森家の長女。19歳。異能・見鬼の才がなく、継母や義妹に虐げられてきたが、清霞との縁談で一緒に暮らすようになり、正式に婚約した。

  • 久堂清霞(くどう きよか): 異能を受け継ぎ、他家の追随を許さない名家・久堂家の当主。27歳。帝大を出て帝国陸軍に入り、少佐として異能者で構成される対異特務小隊を率いている。冷酷無慈悲な人物として有名。

  • 薄刃澄美(うすば すみ):美世の実母。薄刃家から斎森家に嫁いで美世を生むが、美世が2歳のときに病気で亡くなった。

  • 甘水直(うすい なおし):薄刃家を飛び出した分家。人の知覚を歪ませる強力な異能を持ち、異能心教を率いる。澄美の元婚約者候補。

  • 薄刃新(うすば あらた):代々「夢見の力」を引き継いできた薄刃家の本家で、中規模の貿易会社「鶴木貿易」を営む鶴木家の御曹司の24歳。美世の従兄。

  • 大海渡征(おおかいと まさし):帝国陸軍参謀本部の少将で清霞の上官。大海渡家の跡継ぎの40歳。

  • 久堂葉月(くどう はづき):清霞の姉。17歳のときに大海渡征と結婚し、2年後に旭を生むが、夫の親族との確執が原因で離婚、今は久堂家に戻っている。

  • 堯人(たかいひと):帝の次男。異能である天啓の能力を持ち、次の帝位の最有力候補。

  • ゆり江:清霞を幼い頃から親代わりに世話してきた使用人の老女。

  • 五道佳斗(ごどう よしと):対異特務小隊で清霞の側近を務める隊員。異能心教の摘発で踏み入った廃寺で爆発炎上に遭い、治療のため軍本部の附属病院に入院している。

  • 辰石一志(たついし かずし):辰石家の前当主の実が騒動を起こしたため久堂家の麾下に入った辰石家の当主を引き継いだ長男。異能はほとんど使えないが、解術の専門家。

  • 陣之内薫子(じんのうち かおるこ):美世の護衛のため旧都の対異特務第二小隊から帝都に派遣された20歳の女性軍人で、清霞の元婚約者候補。

というあたり。

本編は、序章・終章と4章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

序章

晦日、堯人は、大海渡と内大臣の鷹倉に今上帝の失踪を国民に隠したままにすることを話し、異能心教への対策に考えをめぐらす。

一章 年明け、ざわめき

元日。美世は清霞を初詣に向かうが、前日の口づけを思い出しての羞恥心から、おかしな挙動をしてしまう。参道で、異能心教の喧伝を目撃した清霞は屯所に通報し、駆け付けた五道たちが捕縛する。翌日、屯所に向かう清霞は、美世に宮城に行く準備を進めるよう話す。

二章 宮城と落ち着かない日

屯所に行った清霞に、大海渡は、宮城で堯人と美世を護衛する堯人の計画が政府や宮内省の了解を得たこと、異能心教の取り締まりが後手に回っている現状に、政変に備えて心の準備をするよう話す。美世は、薄刃家が落ちぶれ始めた頃、甘水直と母・澄美が話す夢を見る。
そして、葉月とゆり江の付き添いで宮城に入った美世は、清霞や護衛役の薄刃新たちと打ち合わせを行った後、部屋に入って荷物を片付ける。一方、清霞は護衛の任に当たる対異特務小隊で五道たちから異能心教の報告を受け、面会した薫子から、甘水が脅したときの詳細を聞き、国の中枢に異能心教が入り込んでいると語る。

三章 夜

宮殿のある一室で開かれた会合で、堯人は、宮城に部外者を入れたことについて文部大臣や海軍大臣たちから批判を受ける。裏切り者が誰かと考える堯人は、大臣たちに謝罪し、天啓で未来の可能性を得たと話す。その夜、葉月が開いた婦女子会に参加した堯人は、甘水が仕掛けてくるのは雪が降る日だと話す。終わった後、葉月に清霞への思いを聞かれた美世だが、恋愛感情によって誰かを不幸にしてしまうことを恐れ、口に出すことができない。
宮城に入って5日目、新は美世に、異能は思いの強さで強くなったり弱くなったりすることもあるそうだと話す。そこに、文部大臣と秘書官が乗った車がやってくる。文部大臣は新を挑発するが、そこに内大臣の鷹倉が駆け付けて、秘書官は新に何やら声を掛けて去っていく。その後、新は美世に、永遠には君を守れないと話す。その夜、清霞と同じ布団で寝ることになり動揺して寝付けない美世に、清霞はひとつずつ質問をし合うことを提案する。

四章 夢の中に在る過去

清霞たち対異特務小隊では、解術が専門の辰石一志も呼んで、異能心教が生み出す異形への対策について打ち合わせる。一方、美世は、再び薄刃家の夢を見るが、そこには澄美はおらず、甘水に美世、と呼びかけられる。甘水は、美世がこれまで見た薄刃家の夢は、甘水の夢に美世が夢見の力で入り込んだものだと話し、異能者が先導する新しい世界を作りたいと語る。美世は協力を拒むが、甘水は、清霞を落としたら、美世はこちらにくることになる、と告げる。
目覚めた美世は、それを一刻も早く清霞に伝えなければと思うが、護衛役の新がおらず、向かうことができない。衛兵に声を掛けても拒否されることに訝しむ美世。そこに、文部大臣の秘書官がやってきて、美世を連れていこうとする。彼は異能心教が生み出した人工的な異能者だった。そこに、清霞と一志が駆け付け、異形たちを退治する。美世は甘水の狙いを清霞に話す。
その頃、軍本部は甘水によって密かに異能心教の手に落ちていた。甘水は、軍に捕らえられた異能心教の人工異能者たちを解放し、甘水側に裏切った新は、清霞に罪状を告げて捕らえる。清霞は、愛している、ずっとあの家で待っていてほしいと美世に声を掛け、連行されていく。美世は自らを責め、慟哭する。

終章

清霞が連行されて4日が経ち、美世は葉月たちと宮城を出て、久堂家の本邸に滞在先を移していた。美世は、甘水の誘いに乗って、清霞に会いに行くと決意し、久堂家を出て振り向くことなく進んでいくのだった。

 

(ここまで)

 

清霞が捕らえられるのは個人的には予想外の展開。タイトルや紹介文から、最後は幸せに結婚を迎えることになることが約束されているようなものなので、安心して読めるわけですが、この後どのような展開を経てハッピーエンドに着地するのか、続巻が刊行されたら続きも読んでみようと思います。