鷺の停車場

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映画「キリエのうた」

仕事が休みの日の朝、TOHOシネマズ柏に行きました。


朝9時ごろ、この日は世間的には平日ということもあり、ロビーにお客さんはまばらでした。


この日の上映スケジュール。この日は計20作品が上映されていました。


私が観るのは「キリエのうた」(10月13日(金)公開)。全国347館と大規模な公開です。


上映は179+2席のスクリーン8。今のところ、映画情報サイトでの口コミ評価はおおむね好評ですが、この日のお客さんは6~7人とかなり寂しい入り。本編178分とかなり上映時間が長いことで、敬遠されやすいところもあるのかもしれません。


(チラシの表裏)


(チラシの中見開き)


岩井俊二の原作・脚本・監督によるオリジナルストーリーで、石巻、大阪、帯広、東京を舞台に、歌うことでしか“声”を出せない住所不定の女性路上ミュージシャン、行方のわからなくなった婚約者を捜す青年、傷ついた人々に寄り添う女性小学校教師、過去と名前を捨てて路上ミュージシャンのマネージャーとなる謎めいた女性の4人を中心に、それぞれの出逢いと別れを描いた作品。

公式サイトで紹介されている主な登場人物は、次のとおりです。(説明部分は適宜加筆しました)

  • キリエ(本名:小塚 路花)【アイナ・ジ・エンド】:東京でギターを弾いて路上ライブを行うストリートミュージシャン。歌うこと以外では声が出せない。

  • 潮見 夏彦【松村北斗】:医師の家の一人息子。医学部を目指して受験し、一度は大阪の大学の医学部に進むが、その直前に遭った東日本大震災の経験から、その後は牧場で働く。

  • 寺石 風美【黒木 華】:大阪の小学校教師。身寄りのないイワンに温かく声を掛ける。

  • 一条 逸子(イッコ)(本名:広澤真緒里)【広瀬すず】:キリエに声を掛け、マネージャーを買って出て、SNSなどを使って宣伝し、客を集める。

  • 風琴【村上虹郎】:ギタリスト。路上ライブをしていたキリエに声を掛け、一緒に路上ライブを行うようになる。

  • 波田目 新平【松浦祐也】:IT会社社長。住む家がないイッコがキリエを連れて転がり込む。

  • 松坂 珈琲【笠原秀幸】:ストリートミュージシャン。風琴の紹介でキリエに会い、グッズ販売のノウハウなどを教えるなど後押しする。

  • 日高山 茶花【粗品霜降り明星)】:キーボード奏者。後にキリエのバックバンドメンバーとして参加する。

  • イワン【矢山花】:謎の少女。

  • 御手洗 礼【七尾旅人】:ストリートミュージシャン天王寺の路上で偶然知り合った小学生の路花と歌を歌うが、通報を受けた警官に職務質問されて逃げようとしたため取り押さえられ、路花とは離れ離れになる。

  • マーク・カレン【ロバート キャンベル】:加寿彦のパートナー。

  • 小塚 呼子大塚愛】:キリエの母。

  • 沖津 亜美【安藤裕子】:児童福祉司

  • 潮見 加寿彦【江口洋介】:夏彦の伯父。

  • 潮見 真砂美【吉瀬美智子】:夏彦の母。

  • 潮見 崇【樋口真嗣】:夏彦の父。石巻で病院を営んでいる。

  • 広澤 楠美【奥菜恵】:真緒里の母。帯広でスナックを営み生計を立てている。

  • 広澤 明美浅田美代子】:真緒里の祖母。かつては楠美と同じくスナックを営んでいた。

  • 横井 啓治【石井竜也】:楠美の恋人。帯広で牧場を経営している。

  • イッコの元恋人【豊原功補】:イッコが最初に転がり込んだ部屋の住人。

  • イッコの元恋人のガールフレンド【松本まりか】:元恋人が自分の部屋に引き入れたガールフレンド。

  • 根岸 凡【北村有起哉】:音楽プロデューサー。イッコの紹介でキリエを知り、その歌を気に入って親身にフォローする。

というもの。

 

時間の長さを感じさせない素晴らしい作品でした。最初は、キリエとイッコが新宿で出会うところから始まり、2023年の東京でのキリエとイッコのエピソードを中心に、2018年の帯広での高校時代のイッコ(真諸里)のエピソード、2011年の大阪での風美のエピソードが合間に挿入される形で描かれていきます。風美のエピソードは、最初はキリエやイッコたちとは無関係に挿入されますが、意外なところで4人の人生が絡まっていることが次第に明らかになっていきます。このあたりの展開は見事です。また、アイナ・ジ・エンドの素晴らしい歌声も特筆もの。この説得力ある歌唱がなければ、この作品は成り立たなかったのではないでしょうか。

 

ここから先は、ネタバレになりますが、自分の備忘を兼ねて、この4人がどう絡まっているかを整理してみます。前述のように、本編では、それぞれのエピソードが合間合間に挿入される形で描かれているので、以下の記載は、基本的に出来事の時系列順に記載しており、本編で描かれる順序とは異なっています。

 

2011年、石巻。高校3年生の夏彦は、同じ高校の1学年下の小塚希(きりえ)に告白されて恋人関係となり、希を妊娠させてしまう。希は漁師だった父親を亡くしており、キリスト教の信者である母親・呼子と妹・路花(るか)と暮らしている。呼子は、家を訪ねてきた夏彦に、2人が本気なのであれば、と希の出産を認めるが、夏彦はそれを親には言いだせない。夏彦の家は病院で、夏彦も地元宮城県の大学への進学を目指して医学部を受験するが、受かったのは大阪の大学だけだった。
夏彦はそれを希に電話で報告し、希もそれを喜ぶが、それから間もなく、東日本大震災石巻を襲う。ちょうど希と電話していた夏彦は希の安全を心配するが、希は路花が小学校から帰ってきていないことを心配し、小学校に迎えに行くが、路花の姿はなく、教会に行ったのではと向かう途中、路花を見つけ、抱き締める。

2011年、大阪。小学校教師の風美は、近くにある古墳で、女の子の歌声が聞こえることが気になっていた。何度か足を運ぶうちに、担任するクラスの男の子が何も言わんことから「イワン」とあだ名を付けた小学生の女の子がいるのを見つけ、優しく声を掛けて自宅に泊まらせる。
女の子が眠っている隙に背負っていたランドセルの中を確認した風美は、その女の子が「小塚るか」という名前で、石巻からやってきたことを知る。ネットを検索して、東日本大震災直後に「小塚希(キリエ)」を探す投稿があったことを見つけ、それがるかの姉であることを確かめた風美は、そのアカウントに連絡を取る。やってきた青年は、夏彦で、大阪の大学医学部に入学したが、震災でそれどころではなくなってしまったと話し、希や路花との間のこれまでの出来事を打ち明ける。夏彦は、路花が姉のフィアンセが大阪の大学に行くことになったことを聞いて、単身大阪に向かうトラックに忍び込んで大阪にやってきたことを知って、路花のことは自分が何とかしたいと話す。
しかし、役所に連絡すると、身寄りの親族のいない路花は保護されて施設に入ることになり、路花と血縁関係のない夏彦や風美には、全く情報が入ってこなくなってしまう。夏彦は肩を落とし、風美は力になれなかったことを謝る。

2018年、帯広。高校3年生の真緒里は、父親は家を出て行き、スナックで営む母・楠美と祖母・明美との3人暮らしだった。経済状態から、大学進学は諦めていたが、楠美がスナックの常連客で牧場を営む横井からプロポーズされ、真緒里の学費を出してもらえることになり、横井は牧場で働く夏彦を真緒里の家庭教師に派遣する。最初は諦めていたものの、自分の運命を変える機会だと東京の大学への進学を目指して勉強を始める。
ある日、夏彦から1年下に小塚路花という女の子がいる、自分の妹で、しゃべらない子だがいい子だから仲良くしてほしいとお願いされた真緒里は、図書館で路花を見つけて話しかけ、2人は友人になる。東京の大学に無事合格し、家で宴会が行われる中、真緒里は父が残していったクラシックギターを、ギターに興味を示していた路花に渡そうと夏彦に託す。
路花は、夏彦がいる牧場で働きたいと、無理を言って養親を見つけてもらい、帯広の高校に進学していたが、養親の家を出て夏彦の家で暮らすようになったことで、養親の怒りを買い、その通報により、夏彦と引き離されてしまう。そして、夏彦には、その後、路花についての情報が途絶えてしまう。

2023年、東京。新宿の路上でライブを行っているキリエ(路花)を見つけたイッコ(真緒里)は声を掛け、自分の部屋に泊める。キリエは「キリエ」は姉の名前だと話し、イッコは、母親の恋人が学費などを出してくれていたが、母親が恋人から逃げられてそれもなくなったと話し、真緒里という名前は捨てて逸子になると言う。そして、イッコはキリエのプロデューサーを買って出て、知り合いの音楽関係者に声を掛けて根岸に会わせたり、SNSでライブをPRしたりして、次第にお客を集めていく。
最初に転がり込んでいた元恋人の部屋を出て、キリエを連れて波田目の家に転がり込んだイッコだったが、ある日、ライブ中にある男性を目撃したことをきっかけに、突然波田目の家を出て姿を消す。
そうしているうちに、波田目の家に、警察がイッコが結婚詐欺をしていたと情報収集にやってくる。自分もイッコに騙されていたことを知って動転し混乱する波田目は、怒りの矛先を一緒に転がり込んできたキリエに向けて無理やり犯そうとして、ペニスが勃たずに思いとどまるが、キリエは波田目の家から追い出されてしまう。
そして、キリエにも警察が事情聴取に訪れ、夏彦も警察に呼び出されて事情を聞かれる。夏彦は久しぶりの路花との再会を喜び、路花の路上ライブにも参加するが、その帰り、路花を守ってあげられなかったと後悔の涙を流し、キリエは夏彦を慰めて抱きしめる。
そして、住む家を失い、新宿の街頭で眠っていたキリエの前に、イッコが現れて声を掛ける。姿を消してから、ビジネスホテルに泊まる生活を続けていたイッコは、キリエの家に泊まろうと当てにしていたが、キリエがほぼ路上生活だと聞いて、どこかに出かけようと誘って電車に乗り、海沿いの街に行く。砂浜でゴロンと横になったキリエは、最近感動したことは何か尋ねると、イッコはそれはキリエの歌だと答え、ライブしてよ、と頼む。キリエは寝ころんだまま前説を始め、起き上がって踊り、歌う。
キリエは、新宿の公園で開かれたストリートミュージシャンたちによる野外音楽フェスに出演する。イッコは、キリエに贈る花束を買って、会場に向かう。しかし、キリエが出番を待つ間に、周辺からの騒音の苦情を受けて、警官たちがやってきて、フェスの責任者の松坂に使用許可証の提示を求める。松坂は許可は取っているというものの、許可証を示すことができない。
その頃、花束を持って会場に向かっていたイッコは、結婚詐欺の被害者らしき暴漢に後ろから襲われて背中を刺される。暴漢は通りかかった男性たちに取り押さえられ、イッコは刺された背中から血が流れるのも構わず歩き出すが、たどり着くことができない。
一方のフェス会場。警官が拡声器で中止を指示する中、ライブは続いていた。キリエのは出番となり、風琴が叩くドラムに乗ってキリエが歌い出すと、観客はそれに反応する。

(ここまで)

 

唯一理解が及ばなかったのは、イッコが真緒里という本名を捨てて、結婚詐欺を働くようになったこと。母親が恋人から逃げられて経済状態が苦しくなったことは、背景として描かれていましたが、高校時代のエピソードで描かれた真緒里とは雰囲気を一変させて、そんな大胆な犯罪に手を染めた理由がそれだけとは思えませんでしたが、そこに至る経緯は全く描かれないので、最後まで腑に落ちませんでした。本編178分という長さなので、その経緯まで描くことは時間的にも無理だったのだろうと思いますが、その引っ掛かりがなければ、もっと心に響いたのでは、と思いました。