鷺の停車場

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顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 四」

顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 四」を読みました。

2020年9月に文庫本で刊行された第4巻。第3巻に続いて読んでみました。 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 清霞の両親の暮らす別邸に赴いた帰り、待ち伏せていた敵方の首魁、甘水に“我が娘”と呼ばれ、迎えにいくと告げられた美世。
 甘水から身を守るため、美世は清霞の職場である屯所内で日中を過ごすことになる。そこで護衛として紹介された女性軍人、薫子は清霞の元婚約者候補だった。清霞と薫子の仲の良い様子に少しモヤモヤする美世だけれど、次第に薫子と友人同士の関係になっていく。だが、その裏では美世を狙う影が確実に彼女へと迫っていた―—。
 これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。

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主な登場人物は、

  • 斎森美世(さいもり みよ):異能を受け継ぐ名家・斎森家の長女。19歳。異能・見鬼の才がなく、継母や義妹に虐げられてきたが、清霞との縁談で一緒に暮らすようになり、正式に婚約した。

  • 久堂清霞(くどう きよか): 異能を受け継ぎ、他家の追随を許さない名家・久堂家の当主。27歳。帝大を出て帝国陸軍に入り、少佐として異能者で構成される対異特務小隊を率いている。冷酷無慈悲な人物として有名。

  • 薄刃新(うすば あらた):代々「夢見の力」を引き継いできた薄刃家の本家で、中規模の貿易会社「鶴木貿易」を営む鶴木家の御曹司の24歳。美世の従兄。

  • 甘水直(うすい なおし):薄刃家を飛び出した分家。人の知覚を歪ませる強力な異能を持ち、異能心教を率いる。

  • 陣之内薫子(じんのうち かおるこ):美世の護衛のため旧都の対異特務第二小隊から帝都に派遣された20歳の女性軍人。清霞の元婚約者候補で、清霞への思いを断ち切れずにいる。

  • 百足山(むかでやま):対異特務小隊に数人いる班長の1人。30歳前後。

  • 大海渡征(おおかいと まさし):帝国陸軍参謀本部の少将で清霞の上官。大海渡家の跡継ぎの40歳。

  • 久堂葉月(くどう はづき):清霞の姉。17歳のときに大海渡征と結婚し、2年後に旭を生むが、夫の親族との確執が原因で離婚、今は久堂家に戻っている。

  • 堯人(たかいひと):帝の次男。異能である天啓の能力を持ち、次の帝位の最有力候補。

  • ゆり江:清霞を幼い頃から親代わりに世話してきた使用人の老女。

  • 薄刃澄美(うすば すみ):美世の実母。薄刃家から斎森家に嫁いで美世を生むが、美世が2歳のときに病気で亡くなった。

  • 五道佳斗(ごどう よしと):対異特務小隊で清霞の側近を務める隊員。異能心教の摘発で踏み入った廃寺で爆発炎上に遭い、治療のため軍本部の附属病院に入院している。

  • 辰石一志(たついし かずし):辰石家の前当主の実が騒動を起こしたため久堂家の麾下に入った辰石家の当主を引き継いだ長男。

というあたり。

本編は、序章・終章と6章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

序章

数年ぶりに帝都に降り立った陣之内薫子は、甘水直と名乗る男性から、頼みたいことがあると声を掛けられる。

一章 爪痕と警戒

清霞や新とともに久堂家の別邸から帝都に戻った美世は、甘水直に邂逅するが、甘水は、ぼくの娘、きっとまた迎えに来る、と言い残し姿を消す。異能心教と相対するに当たり、甘水に狙われている美世は、対異特務小隊の屯所で護衛されて過ごすことになり、護衛に薫子が付けられる。美世は薫子が清霞の元婚約者候補と知り動揺する。

二章 初めての友人

美世は、斎森家に嫁ぐ前の母・澄美が甘水直と親しく話す夢を見る。薫子と友人同士の関係になった美世は、薫子の案内で屯所内を見て回るが、出会った百足山から、隊員の異能者の中には薄刃家に連なる美世を快く思わない者もいると聞かされる。

三章 友人との過ごし方

屯所での時間を持て余す美世は、荒れ放題の給湯室などの清掃に取り掛かる。そうした間に、女というだけで薫子を見下す男性隊員たちの態度に我慢できなくなった美世は、隊員たちに苦言を呈するが、そこに聞いてないふりをした薫子がやってきて制止する。

四章 本当の心の奥は

清霞と美世は、治療が進み面会許可が出た五道を見舞いに行く。清霞が席を外している間に美世は、対異特務小隊の隊長を務めていた五道の父が清霞を軍に誘っていたが、それを断った清霞が帝大に進んでいる間に、父は任務中に殉職し、それに責任を感じた清霞が軍に入ったことを話す。清霞と美世が帰ったすぐ後、見舞いに訪れた薫子に、五道は、清霞と美世の仲を引っ掻き回すのは止めろと忠告すると、動揺した薫子は逃げ帰っていく。屯所に戻って食堂で美世には勝てないと思い涙を流す薫子のところに、美世がやってくる。薫子に嫉妬していたことを謝る美世に、薫子は清霞が好きで美世に嫉妬していた自分の本心を明かすが、美世は改めて友だちになりたいと申し出て、薫子は罪悪感に押しつぶされそうになりながら、申し出を受け入れる。

五章 おそれを知らず

甘水直の正確な居場所を突き止めようと動いていた薄刃新は、宮城から車で帝が出て行くのを目撃し、甘水の仕業だと確信して、清霞に通報する。清霞は百足山に屯所の警護を託して出撃するが、薫子は顔面が蒼白となる。清霞は新と合流するが、そこに駆け付けた大海渡は、堯人の命だと清霞を屯所に戻らせる。清霞が不在の屯所では甘水が姿を現し、薫子を脅して侵入したと明かす。百足山たちが甘水に立ち向かうが、全く歯が立たず、美世が甘水の前に立ちはだかって対峙するが、甘水は美世を連れていこうとする。そこに駆け付けた清霞が甘水を退け、甘水は姿を消す。一方、宮城を出た帝の行方を捜す新は、許可を得て皇家の別荘を探索すると、そこに甘水が姿を現し、新に異能心教に勧誘する。

六章 これからの気持ち

引き続き屯所で過ごす美世は、百足山から女性に大きな態度をとっていたことを謝罪される。美世は甘水の侵入を手助けした薫子に寛大な処遇を要望するが、清霞は聞き入れない。大晦日、久堂家の本邸で葉月が開いたパーティに清霞と美世も参加する。五道や新、一志たちと顔を合わせた2人は、最後に大海渡に連れられてやって来た薫子と話す。

終章

久堂家本邸から戻った美世は、年越しに向けた夕食を作る。薫子を助けてくれたことを感謝する美世。年越し蕎麦を食べ終わり、穏やかに流れる時間、2人は二度目の口づけをする。

 

(ここまで)

 

本巻では、これまでの巻と比べると、あまり進展がなかった印象ですが、美世は護衛に付いた陣之内薫子との初めての友人関係などを通して、美世の内面は少しずつ成長してきていることがわかります。

春に結婚することは作中で明かされており、本巻の最後は大晦日なので、あと3~4か月で正式に結婚することになります。著者によるあとがきでは、それまでの間に、まだまだ試練が続くことが予告されているので、きっと、異能心教を率いる甘水直との対決もその間に決着を見ることになるのでしょう。