鷺の停車場

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顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 三」

顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 三」を読みました。

2020年2月に文庫本で刊行された第3巻。第2巻に続いて読んでみました。 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 婚約者の清霞と向き合うと決め、前を向いて歩き出した美世。
 そんな折、清霞の父から義両親の住む屋敷に招待される。そこではじめて顔を合わせた清霞の母は、美世を絶対に認めないという構えだった。義母に認められたくて、罵声を浴びせられても美世は自分から歩みよっていく。そんな美世を清霞は見守り、日常から離れた場所で二人の仲も深まっていく。
 同時に村では鬼が出るという噂が立ち、清霞は調査に赴く。それは新たな事件の幕開けだった―—。
 これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。

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主な登場人物は、

  • 斎森美世(さいもり みよ):異能を受け継ぐ名家・斎森家の長女。19歳。異能・見鬼の才がなく、継母や義妹に虐げられてきたが、清霞との縁談で一緒に暮らすようになり、正式に婚約した。

  • 久堂清霞(くどう きよか): 異能を受け継ぎ、他家の追随を許さない名家・久堂家の当主。27歳。帝大を出て帝国陸軍に入り、少佐として異能者で構成される対異特務小隊を率いている。冷酷無慈悲な人物として有名。

  • 久堂葉月(くどう はづき):清霞の姉。17歳のときに大海渡征と結婚し、2年後に旭を生むが、夫の親族との確執が原因で離婚、今は久堂家に戻っている。

  • 久堂正清(くどう ただきよ):清霞と葉月の父。虚弱体質で、清霞が大学を卒業したのとほぼ同時に家督を譲り、地方の別邸で隠居生活を送っている。

  • 久堂芙由(くどう ふゆ):清霞と葉月の母。気位の高い生粋の令嬢で癇癪持ち。

  • 笹木(ささき):久堂家別邸の管理人兼執事を務める老齢の男性。

  • ナエ:笹木の妻の女中。

  • 堯人(たかいひと):帝の次男。異能である天啓の能力を持ち、次の帝位の最有力候補。

  • ゆり江:清霞を幼い頃から親代わりに世話してきた使用人の老女。

  • 薄刃澄美(うすば すみ):美世の実母。薄刃家から斎森家に嫁いで美世を生むが、美世が2歳のときに病気で亡くなった。

  • 鶴木新(つるき あらた):中規模の貿易会社「鶴木貿易」を営む鶴木家の御曹司の24歳。本名は薄刃新。美世の従兄。

  • 五道佳斗(ごどう よしと):対異特務小隊で清霞の側近を務める隊員。

というあたり。

本編は、序章・終章と6章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

序章

村人が黒ずくめで顔を隠した人影を見かけたと噂になっている中、男は黒いマントの怪しい人影を見つけ、その後を追って村はずれの古びた小屋に行くと、角が2本生えた巨大な黒い影そ遭遇し、意識が途切れる。

一章 義父と招待

葉月と一緒にデパートに行き洋服を買った美世は、その帰り、清霞と葉月の父・正清に出会う。そのまま清霞の屯所に行くと、正清は2人に会いに来たと話し、自分たちが住む別邸に招待したいという。清霞は、不機嫌そうな顔をするが、堯人の指名で怪奇現象への対処のため別邸のすぐ近くの農村に向かうことになったため、その招待を受ける。正清は、別邸の周りに不審者が出るようになったと話す。清霞は、美世を見て、嫌悪感を抱いている母親ともう一度だけ向き合ってみようと思う。

二章 揺れて、照れて

正清、清霞と鉄道に乗って別宅に向かった美世は、芙由から、粗末な見た目、低劣、と罵声を浴びせる。清霞は次に何か言ったら殺す、と静かに激怒するが、美世は逃げずに芙由と仲良くしたいと、しばらく見守るよう清霞にお願いする。その後、農村を視察する清霞に付き添った美世だが、寝室にベッドが1つしかないことに激しく動揺し、別のベッドを用意してもらうため慌てて部屋を飛び出す。

三章 義母と直面

翌日、美世が芙由の部屋に向かうと、芙由は美世に女中と同じ着物に着替えさせ、ナエたちと一緒に屋敷の掃除をさせる。自慢の息子である清霞が美世と結婚することを許せない芙由は、立場を分からせなければと使用人の仕事をさせたが、何の文句も言わず平気で掃除をする美世の姿に不満を抱き、癇癪を爆発させるが、正清が止めに入る。一方、村に向かった清霞は、村人たちから怪奇現象についての情報を集め、怪しい人影が潜伏しているという村はずれの古い小屋で、新興の宗教団体”名無しの教団”の紋章が入った黒いマントを見つける。その帰り、不審な気配を感じた清霞は、マントを付けた男を見つけ、捕らえる。

四章 巡る思い

帰宅した清霞は、美世にその日の出来事を報告させる。清霞は怒りを露わにするが、美世はちゃんと向き合いたいと話す。その夜、シガールームに向かった清霞は、正清に捕らえた男から聞き出したことを話す。一方、帝都の宮城では、清霞からの情報を知った堯人は、薄刃新を呼び出し、久堂家別邸に向かうよう指示する。

五章 迫るものは

翌日、清霞はこの日も怪奇現象の調査に向かう。美世は気持ちが重くなりながら、再び芙由に向き合おうとするが、芙由は世界で一番嫌い、目障りだがら出て行ってちょうだい、と美世を拒む。涙を流す美世だったが、ナエたちの掃除や洗濯を手伝う。夕方、帰宅した清霞にその日の出来事を話す美世は、もう少しだけあきらめずにいたいと思う。翌朝、朝食を食べているところに、笹木が村人のひとりが助けを求めて駆け込んできたと焦った様子でやってくる。鬼が出て仲間が食われたと話す村人は、白目を剥いて意識を失ってしまう。村に出て行く清霞を見送った美世は、内面から働きかけて意識を戻そうと異能を使おうとするが、そこに飛び込んできた薄刃新が美世を止める。村に出た清霞は、異能を使う統率者と出会う。その男は、教団の祖師、甘水直の考えを伝え、教団への参加を呼び掛ける。一方、別邸の守りを託された正清は、別邸に近づいてきたマントを付けた3人の信徒を倒し、その1人が持っていた鬼の血を入れた小瓶を手に入れる。

六章 春になったら

新のサポートを受けて異能を使い、男の意識を取り戻させた美世は、帰ってきた清霞を出迎える。その夜、清霞と美世は、新から、甘水家が薄刃家の分家のひとつで、甘水直は、数少ない薄刃の異能を持ち、薄刃澄美の婚約者候補だったこと、澄美が斎森家に嫁いだ直後に離反し行方をくらませたことを聞かされる。新が去った後、清霞は、美世に口づけをして、春になったら結婚しようと話す。美世が別邸を離れる日、芙由は口悪い物言いをしながら、レースの白いリボンを美世に渡す。芙由が去った後、ナエは、それは美世を認めた証だと話し、そのリボンで美世の髪を結う。そして、正清たちに見送られて、美世と清霞、新は帝都への帰路につく。

終章

対異特務小隊の五道は、指令を受け、教団関係者が出入りしているという帝都郊外の廃寺に向かうが、もぬけの殻だった。爆弾に延びる導火線に火がついていることに気づいた五道は慌てて結界を張るが、廃寺は巨大な炎に包まれる。帝都に戻った美世、清霞、新が薄刃の異能の気配を感じると、3人の前にひとつの影が近づき、声をかける。

 

(ここまで)

 

このシリーズでは、巻を追うごとに少しずつ新たな登場人物が出てきますが、本巻では清霞の両親の正清と芙由が登場し、美世と芙由の邂逅と和解が主なテーマになっています。そして、怪奇現象を起こす異能教団の祖師が薄刃家を飛び出し離反した甘水直であることが明らかにされます。次巻では、美世と甘水との間で何かが起こるのでしょう。