鷺の停車場

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顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 七」

顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 七」を読みました。

2023年7月に文庫本で刊行された第7巻。現時点ではこれが最新巻ということになります。第6巻に続いて読んでみました。 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 様々な困難を乗り越えて、ついに迎えた祝言の日。桜吹雪が舞う美しい陽気に反して、美世は朝から気が気でなかった。前日に緊急の呼び出しがあり仕事に向かった清霞が、婚礼のはじまる時刻が近づいても帰ってこないのだ。
 花嫁衣装に身を包み、「誰よりも私が、明日を心待ちにしている」という清霞の言葉を信じて待つ美世。けれどその裏では、五道と深い因縁のある強力な異形の影が動いていた。
 少女があいされて幸せになるまでの物語は、婚礼を迎え、幸せな「家族」の物語へ―—。

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本書の冒頭に掲載されている「登場人物紹介」で紹介されている人物は、次のとおりです。

  • 斎森 美世(さいもり みよ):清霞の婚約者となり恋を知る。希有な異能「夢見の力」を持つ。

  • 久堂 清霞(くどう きよか):名家、久堂家当主。帝国陸軍対異特務小隊隊長。当代随一の異能の使い手。

  • 五道 佳斗(ごどう よしと):対異特務小隊所属。清霞の忠実な部下。

  • 辰石 一志(たついし かずし):辰石家の当主。解術の天才。

  • 薄刃 新(うすば あらた):美世の従兄で薄刃家当主の息子。

  • 薄刃 義浪(うすば よしろう):斎森澄美の父で、美世と新の祖父。

  • 堯人(たかいひと):皇太子。天啓の能力を持つ。

  • 斎森 澄美(さいもり すみ):美世の実母。故人。

  • 久堂 正清(くどう ただきよ):久堂家前当主。清霞の父。病弱。

  • 久堂 芙由(くどう ふゆ):清霞と葉月の母。気位が高い。

  • 久堂 葉月(くどう はづき):清霞の姉。一児の母。

  • ゆり江(ゆりえ):久堂家の使用人。清霞も頭が上がらない。

そのほか、本巻では、次のような人物も登場しています。

  • 甘水 直(うすい なおし):異能心教の祖師。薄刃家を飛び出した分家で、人の五感を操作する強力な異能を持ち、権力奪取を目指したが、清霞や美世によって命を落とした。澄美の元婚約者候補。

  • 大海渡 征(おおかいと まさし)帝国陸軍参謀本部の少将で清霞の上官。葉月の元夫で、2人の間には息子・旭がいる。

  • 塩瀬(しおぜ)夫人:美世が葉月に連れられて参加した料理の勉強会を主宰した夫人。

  • 長場 君緒(ながば きみお):美世の小学校時代の同級生。旧姓は本江(ほんごう)。美世に対する嫉妬から、美世に呪いをかける。

  • 五道 壱斗(ごどう いつと):佳斗の父で、元対異特務小隊隊長。任務中に凶悪・強力な異形「土蜘蛛」と対峙し、命を落とした。

  • 光明院(こうみょういん):旧都を拠点とする対異特務第二小隊隊長。清霞と美世の結婚式の媒酌人を務める。妻は節(せつ)

  • 陣之内 薫子(じんのうち かおるこ):対異特務小隊にいた際に美世の友人となった女性軍人。現在は対異特務第二小隊に所属している。

  • 辰石 幸次(たついし こうじ):美世の幼なじみで、かつては美世が思いを寄せていた。現在は対異特務第二小隊の新人隊員。

  • 斎森 香耶(さいもり かや):美世の母親違いの妹で幸次の婚約者。かつては実母とともに美世に辛く当たっていたが、1年前に斎森家が起こした騒動の後、奉公に出されている。

 

本編は、序章・終章と5章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

序章

よく晴れて気持ちのよい春風が吹く、待ちに待った美世と清霞の祝言の日。しかし、その清霞はいなかった。清霞を信じたいと思う美世だったが、式が始まる時間が間近に迫り、美世は清霞の妻という名に恥じない立派な振舞いをしなければと気を引き締めて、支度部屋を出る。

一章 おまじない

婚礼の日がすぐそこまで迫ってきたある日、美世は作った弁当を清霞に手渡して見送り、家事に無心になって取り組んでいると、美世が淑女としての心構えや振舞いを習っている葉月がやってくる。葉月は清霞と美世の結婚について書かれた新聞や雑誌の切り抜きを美世に見せ、美世は照れや羞恥を感じつつも、幸福感が湧いてくる。
一方、対異特務小隊の屯所では、五道が清霞の退職に納得せず不満を漏らしていた。しかし、「夢見の異能」を持つ美世を守るためには、軍人という身分が枷だと感じていた。
清霞と夕食を一緒に食べる美世は、この前のように名で呼んでくれないか、と顔を近づける清霞に、狼狽して涙を流してしまう。
翌日、美世は葉月と一緒に塩瀬邸で開かれる料理の勉強会に参加する。そこで会った長場君緒は、新婚さん向けのおまじない、と言って、美世にちょっとした話を聞かせる。
その夜、美世は、清霞に向かって、旦那さまなんてきらいです、怒っています・・・と心にもない言葉が口から出てしまい、半泣きになって清霞の前から逃げ出す。

二章 心ときめく

美世に厳しい言葉を投げられた清霞は、打ちのめされて後悔に苛まれ、夜のうちに逃げるように家を出て、屯所で翌日を迎え、恥を忍んで五道と一志に謝罪の仕方について助言を求める。2日が経っても清霞と美世はぎくしゃくしたままだったが、芙由と家を訪ねてきた正清は、美世に拙い呪いがかけられていることをすぐに見抜き、それに気付かなかった清霞は浮かれていたのだろうと笑う。慈愛に満ちた正清の瞳に、美世は胸がいっぱいになり、それまでの悩みが消える。
帰宅した清霞にそのことを話すと、清霞は頬を真っ赤に染めて、そうかもしれない、とため息を吐くが、怒っているお前が可愛らしくてうれしかったという清霞の言葉に、美世は困惑して逃げ出すが、胸の内の暗雲は消え、清霞への愛おしさだけが残っていた。
翌日、清霞は屯所にやってきた大海渡から、家人に何か異形のものが憑いているという、参謀本部にも縁がある長場という家の夫婦からの相談への対応を頼まれる。午後、妻の君緒とともに屯所を訪ねてきた長場から母親に何かが憑いているようだから祓ってほしいと頼まれ、まずは隊員を調査に向かわせることにする。長場だけが先に出て行った後、君緒は清霞に、夫からひどい扱いをうけている、助けてください、と大粒の涙を流して懇願するが、清霞の感情は全く動かない。美世の名前を出してなおもすがりつく君緒に不快感を募らせる清霞は、きっぱりと拒絶する。

三章 桜に見守られて

美世にかけられた呪いは清霞によって解呪されたが、美世が術の影響が出やすいためにその影響が残ってしまう。美世は、清霞の提案で、退院したばかりの薄刃新、その祖父の義浪とともに、宮内庁管轄の禁域内にある異能者の墓所・オクツキにある澄美の墓参りに訪れる。残っている影響が出ないよう会話を控える美世を訝しむ新は、清霞が浮気したのではと疑う。清霞はその言葉に一瞬狼狽える様子を見せるが、あとで美世には話す、と言って会話を打ち切る。斎森家の墓にたどり着いた美世は、静かに手を合わせ、澄美へと思いを馳せ、心の中でようやく穏やかに生きられるようになったことなどを語りかける。
その夕方、美世は重箱に料理を用意し、清霞、ゆり江とともに花見の宴が開かれる薄刃家に向かう。葉月、正清、芙由、大海渡、さらに五道、堯人も姿を現し、一志も参加して宴が始まる。お忍びで参加した堯人は、珍しく感情を表に出して笑い、親友である清霞の結婚を祝して乾杯する。宴たけなわとなった頃、清霞のところに新がやってきて昼間に狼狽えたわけを聞いてくる。清霞は君緒との一件を話し、嫌な予感がすると漏らす。新と話しているところに、一緒に初めての夜桜が見たいとやってきた美世に、清霞は愛おしさを感じて思いを伝える。
そして、結婚式前日の夕方、美世は漠然とした不安を感じていたが、夕食の準備に取りかかろうとした矢先に、屯所から危険な呪物が見つかったと緊急の呼び出しが入り、清霞は軍服に着替え、絶対に式に支障が出ないようにする、誰よりも私が明日を心待ちにしているんだ、と言って出かけていく。美世は、清霞がいつ帰ってきてもいいように、夕食を作るが、朝になっても清霞が帰ってくることはなかった。

四章 夫婦の契り

呼び出しを受けた清霞が長場家に向かうと、土蔵にあった木箱に強力な呪物で、かつて五道の父親の命を奪った「土蜘蛛の脚」があることがわかり、長場は君緒を疑って怒鳴り散らし、君緒は恐怖に顔を引きつらせながら必死に首を横に振る。対異特務小隊の隊員たちは、箱に入ったままでも移動は困難なため、その場で交代で封印作業に入る。木箱を持ち込んだのは君緒だという目撃証言から、清霞は君緒を尋問すると、君緒は、怪しい雰囲気の旅の僧侶が訪ねてきて、願いを叶えてやる、その箱の中身を少し憎い相手にふれさせればいいと置いていったという。
そうしているうちに、いつしか日はすっかり高くなっていた。夜を徹した作業で、封印は完了し、屯所への護送に入るが、婚礼が始まる時間は迫っていた。五道は早く会場に行くよう促すが、清霞は冷静さを失っている五道に、この危険で重要な任務を放りだせないと思ったところに、対異特務第二小隊の隊員が救援にやってくる。
一方、美世は女性が旅の僧侶の装いをした男性から木箱を受け取る夢を見るが、最後まで見届けられずに目を覚ます。結婚式の日の朝が来て、支度部屋で支度を終えて清霞の到着を待つが、清霞は一向に姿を現さない。いよいよ時間がやってきて、葉月、ゆり江、芙由とともに控室に移動する。美世は、このまま一日が過ぎてしまったらどうしたらいいのだろうと重たい心を引きずって、なんとか控室にたどり着く。媒酌人を務める光明院夫妻と挨拶を交わし、控室で待つが、予定の時間を少し過ぎてしまい、美世が覚悟を決めて控室にいる人たちに向かって口を開こうとしたその時、清霞が息を切らせて到着し、美世は清霞のもとに駆けつける。
そして結婚式が始まる。花嫁行列の中で歩く葉月は、神職と巫女に先導されて神社の本殿に歩みを進める清霞と美世を眺めていると、これまでのことが思い返され、胸がいっぱいになって涙が滲みそうになる。
婚礼の儀が進む中、斎主に指示されるまま儀式の所作をこなすのに精一杯な美世は、本当に夫婦なるのだという実感が湧かないが、三三九度の段になって、清霞の妻になるということが、ようやく現実味を帯びて胸に迫る。美世を見る清霞のまなざしも、いつもよりもさらに優しく、愛に溢れていた。
婚礼の儀が終わり、帝都会館の宴会場での祝宴が始まる。大臣や議員、新や義浪など親族だけでなく、元使用人の花、対異特務小隊の隊員など異能者など、ざっと百人以上の人たちが出席し、清霞と美世は挨拶に追われる。招待客との挨拶を切り抜け、大海渡、正清と芙由、五道たちがやってきた後、光明院は対異特務第二小隊の隊員として出席した薫子と幸次を美世に引き合わせ、挨拶の後、幸次は、預かっているものがある、とあるものを差し出す。

五章 幸せということ

婚礼の儀、祝宴を終えて家に戻った美世は、幸次から渡された一通の封書を持って今に向かう。それは香耶からの封書で、自室でひとりで読むには重すぎると、居間にいる清霞のそばでそれを開いて読む。そこには、励ましのような、皮肉のような文面が書き連ねられていたが、昔の香耶に感じていたいやらしさや歪みは感じられず、美世は香耶が元気に日々を満喫しているのだろうと感じ、自分自身が前に進めているのだと思う。手紙を読み終えた美世に、清霞は長く、深い口づけをし、美世はその甘い感触に、意識も感覚も熱く、溶けていく。そして結婚して初めての夜は流れていく。
数日が経ち、清霞は結婚式の日に途中で抜け出した任務に関係した仕事で多忙を極め、美世は家でひとり、毎日の家事をこなして過ごしていた。
清霞のために差し入れの弁当を作り、ゆり江と一緒に屯所に届けに行った美世は、ちょうど玄関から出てきた幸次と少し話した後、屯所内に入り、五道が清霞を呼びに行ったのを待っている間に、応接室から出てきた君緒と鉢合わせする。君緒は、美世に話しかける隙に着物の袂から折りたたみの小刀を取り出して美世の胸めがけて振り下ろすが、清霞から持たされていたお守りによって、美世は着物にも傷を受けることなく惨事を逃れる。五道に取り押さえられた君緒は、尽くしても夫にも義母にも冷たくされている自分とは全く違う美世に怒りの思いをぶつけ絶叫する。
君緒の連行に付き添った五道は、屯所に戻る途中で清霞が美世を門まで送り届ける幸せに満ち溢れた様子を見て、清霞は変わったことを実感し、いつか自分もあんな似合いの相手を見つけられたら、と思うのだった。

終章

初夏に差しかかったころ、忙しい状況がずっと続いている清霞がなかなか休みをとれないため、昼休憩にでもゆっくり話したいと、美世は公園で待ち合わせて、一緒に弁当を食べる。人心地ついたところで、疲れがたまっている清霞は、頭を美世の膝に預けて寝息を立て始める。もうすぐ時間になるというところで、清霞さん、と声を掛けて起こし、その姿に愛おしさを感じる。立ち上がった清霞は、美世に手を差し伸べて引き起こすと、美世の唇に口づけをする。外で昼間からこんな大胆に、と動揺する美世をよそに、清霞は上機嫌で、仕事が落ち着いたら、新婚旅行に行かないか、と話す。ささやかな会話を交わしつつ二人で歩いて、美世はこれ以上ない幸せに包まれ、満開の笑みを浮かべるのだった。

(ここまで)

 

前巻のあとがきで著者がにじませていたとおり、ついに清霞と美世は結婚式を迎え、正式に夫婦となる、期待・予想どおりのタイトル回収巻となっています。本巻のあとがきで、さらにこの物語は続いていくことが明らかにされていますが、出会ってから結婚に至る本巻で、物語としての大きな区切りを迎えたことは間違いないだろうと思います。

いわば、本巻までが結婚に至るまでの「第一部」で、次巻以降は、結婚した後の美世と清霞を描く「第二部」ということになるのでしょう。