鷺の停車場

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武田綾乃「響け!ユーフォニアム3 北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」を読む

武田綾乃さんの小説「響け!ユーフォニアム」シリーズ、「北宇治高校吹奏楽部のいちばん暑い夏」に続く第3作「北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」を読みました。

本作は、高校1年生のユーフォニアム奏者の主人公黄前久美子が所属する北宇治高校吹奏楽部が、吹奏楽コンクールの関西大会を突破した後、全国大会に出場し、そして3年生が卒業するまでを描く、「響け!ユーフォニアム」シリーズの第3巻でいわゆる1年生編の完結編。2015年4月に刊行されています。

プロローグ

ユーフォニアム3年の田中あすかがまだ幼かった頃、元父親だった新藤正和から自宅にユーフォニアムと作曲ノートが届けられる。受け取ったあすかはそれを開き、銀色に輝く楽器にひかれる。この場面は、テレビアニメ版(第2シリーズの「響け!ユーフォニアム2」。以下同じ)では描かれませんが、その総集編的な劇場版「届けたいメロディ」の冒頭のシーンで出てきます。

一 唸れ! トランペット

テレビアニメ版でいうと、おおむね、第6話「あめふりコンダクター」と第7話「えきびるコンサート」の一部に当たります。

関西大会を突破した北宇治高校吹奏楽部は、学校の文化祭で演奏を披露する。台風が近づき雨が降る中、ずぶ濡れで帰ってきた久美子の姉の麻美子は大学を辞めたいと言い出す。

翌日は台風で休校になるが、麻美子と家にいると心が重く感じる久美子は、雨足が弱まった夕方、外に出かけると、花屋で花束を買う滝に出会う。久美子は滝がいつもはしていない銀色の指輪を左薬指にしていることを指摘すると、滝は、今日は特別な日なのだと答える。

翌日の放課後、久美子は職員室で、あすかの母親が受験勉強のため娘を退部させると滝と教頭に迫るのを見る。滝は本人の意思でない退部届は受け取らないと答え、母親は逆上するが、あすかは部活を休んで母親を連れ帰る。

翌日の休日練習、騒動を知った部員たちは動揺し、合奏も集中を欠いたものになる。滝は、こんな状態では合奏するたびに下手になってしまうと合奏を中止し、パート練習に切り替える。自分たちの不甲斐なさに涙を流す部員たちに、部長の晴香は、あすかは特別なんかじゃなかった、今度はあすかを支える番、いつでも部活に戻ってこられるようにしたい、自分についてきてほしいと呼びかける。

久美子は、緑輝の話で、滝が買った花の名が「イタリアンホワイト」、花言葉は「あなたを思い続けます」だと知る。

二 轟け! トロンボーン

テレビアニメ版でいうと、おおむね、第7話「えきびるコンサート」の一部、第8話「かぜひきラプソディー」に当たります。

京都駅で行われた駅ビルコンサートには、あすかも参加し、晴香は見事なバリトンサックスのソロを披露する。

麻美子は両親に大学を辞めて美容師になりたいと訴える。以前から美容師志望で本当は楽器も続けたかったと言うが、父親の健太郎は、やるなら生活費や学費は自分で稼げ、本気なら覚悟を示せ、と一喝する。

久しぶりに部活に顔を出したあすかは、翌週久美子に家に来るよう約束させるが、その後部活の欠席が続く。滝はあすかが週末までに部活を続ける確証が得られないなら、全国には夏紀に出てもらうと部員たちに告げる。夏紀と香織はあすかを部活に戻す作戦を画策し、久美子に協力を求める。

練習後、職員室の滝に音楽室の鍵を返しに行った久美子は、滝の机の上に学生時代の写真があることに気づく。滝は亡き妻が滝の父親が指導していた北宇治吹奏楽部にいたこと、病気になってからも顧問になって北宇治を全国で金賞に導くことを願っていたことを話す。

三 響け! ユーフォニアム

テレビアニメ版でいうと、第9話「ひびけ!ユーフォニアム」、第10話「ほうかごオブリガート」、第11話「はつこいトランペット」、第12話「さいごのコンクール」に当たります。

久美子があすかの家を訪ねる日、香織はあすかの母お気に入りの菓子折りを持たせる。久美子に勉強の指導をするあすかは、休憩時、事情を話す。元父親は著名なユーフォ奏者「進藤正和」で、あすかが幼少時に離婚。小1のころ自宅にユーフォと作曲ノートが届き、あすかはそれをきっかけにユーフォを始めたが、母親はそれに反対し、成績が悪くなったらやめるという条件で続けていた。進藤が全国大会の審査員と知って、どんな形でも演奏を聞いてほしいと自分の都合を優先した、だからこうなったのかも、と自嘲するあすか。合宿の朝吹いていた曲は進藤のノートにあったものだと話すあすかに、久美子は、あの曲が大好き、今だって聞きたいくらい、と答える。あすかは久美子を連れて川辺に行き、ユーフォでその曲を吹く。

麻美子は久美子に、高校生のとき、大人のふりをせず、後悔も失敗も受け止めるから自分で決めさせてと親に言えば良かった、今度は自分の将来は自分で決めると語り、全国大会を見に行くと久美子に告げる。

次の日の昼休み、久美子は教室のあすかを呼び出し、自分はあすかと一緒にコンクールに出たい、どうして大人のふりをして諦めるのか、絶対後悔する選択はしてほしくない、あきらめないでほしいと泣きながら訴える。週末になって、あすかは部活に復帰する。全国模試30位以内という結果を出し母親を説得したのだった。

大会前日、吹奏楽部は現地入りして会場近くの施設に泊まる。その夜眠れず部屋を出た久美子は、秀一から渡しそびれたと誕生日プレゼントをもらう。それはイタリアンホワイトの飾りがついたヘアピンだった。

翌日、部員たちは金賞目指して舞台に立つ。結果発表の前に指揮者賞贈呈があり、部員たちが声掛けを決めていないとあせる中、麗奈は一人立ち上がり、舞台上の滝に向かって「先生、好きです!」と叫ぶが、周囲も滝も告白とは受け取らない。北宇治高校は銅賞に終わるが、滝はあすかに、審査員の進藤からの「よくここまで続けてきたね、美しい音色だったよ」との伝言を伝え、あすかは素直に喜ぶ。

エピローグ

3年生の卒業の日、卒業式を終えた久美子はあすかに自分の想いを伝えると、あすかは久美子に元父親から送られた作曲ノートを渡す。ノートを開いた久美子はあすかが吹いていた曲の名前を初めて知る。テレビアニメ版の第13話(最終話)「はるさきエピローグ」の後半で描かれた場面。

 

小説の技術的なことは分かりませんが、第1作などと比べると、洗練されて、心理描写の彫りも深くなっているような感じがします。個人的には、第1章の滝が合奏練習を中止し、晴香が部員に呼びかける場面が特に印象的でした。テレビアニメ第7話でのそのシーンは、集中を欠く部員たちを滝が厳しく指弾、というだけの印象でしたが、滝自身の苦悩や、滝を落胆させていることに悔し涙を流す部員など、それぞれの葛藤が伝わってきて、その後の晴香の呼び掛け、それに対する優子の反応などが、より心に迫る感じがありました。