鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

武田綾乃「響け!ユーフォニアムシリーズ 立華高校マーチングバンドへようこそ」を読む

武田綾乃さんの小説「響け!ユーフォニアム」シリーズ、「立華高校マーチングバンドへようこそ」(前編・後編)を読みました。 

響け!ユーフォニアム」の本編の主人公、北宇治高校吹奏楽部でユーフォニアムを吹く黄前久美子の中学校時代に、同じ吹奏楽部の友人だったトロンボーンの佐々木梓が、マーチングバンドの強豪の立華高校に進み、吹奏楽コンクールやマーチングコンテストに向かっていく中で、成長していく姿を描いた作品。「響け!ユーフォニアム」の本編シリーズからするとスピンオフ的な作品。本編シリーズとの時系列的な関係でいうと、「響け!ユーフォニアム」シリーズで主人公久美子の1年生時代を描いたいわゆる1年生編、第3作「北宇治高校吹奏楽部、最大の危機」までに対応していて、時期的にも、同作といわゆる2年生編の「波乱の第二楽章」の間の2016年8・9月に刊行されています。

まずは前編。

プロローグ

立華高校に進む梓、久美子になぜ北宇治高校に行くことにしたのかを聞く。その話を聞いて、自分も新たなスタートを切ったのだと感じる梓。

一 暴走フォワードマーチ

マーチングコンテストの全国大会の常連である立華高校に進んだ梓。同じトロンボーンパートの1年生、1年生で唯一の初心者の名瀬あみか、演奏技術はあるが運動神経が良くない戸川志保、志保と同じ中学出身で要領はいいが手を抜く癖のある的場太一の3人と、厳しいステップ練習など強豪校の洗礼を浴びるが、完璧主義で努力家の梓は、先輩たちに追い付こうと練習に打ち込む。そんな梓は、先輩から初心者のあみかの指導を任される。
3年生の先輩の高木栞は、同じトロンボーンの3年生の瀬崎未来が初心者で努力を重ねてパートリーダーに選ばれたこと、自分が同じように成長できなかったことに後悔の念を抱いていることを梓に話す。

二 追憶トゥーザリア

中学校の吹奏楽部を招いて行うハッピーコンサートに向けステップ練習に励むトロンボーン1年生の4人。自分の気持ちを吐努力家だがなかなかステップをマスターできない志保は、部活をやめたいと言い出す。志保は梓に、弱さを売りにするあみかが好きになれない、そんなあみかに負けそうになってる自分がいちばん嫌だ、梓に嫉妬している、と打ち明けると、梓は、できるまで一緒にやろう、自分のためにみんなの手助けをしている、頼られる自分が好き、と話す。
2年生の杏奈の協力などもあり、4人ステップをマスターし、ハッピーコンサートを迎える。梓は中学時代に友人だった柊木芹奈との苦い思い出がよみがえる。芹奈は、梓に対し、上から目線で、周囲に優しくする自分に酔っている、自分が不利にならないよう八方美人している、と厳しい言葉を投げたのだ。あみかと帰る電車の中で、久しぶりに芹奈に会った梓は、ちっとも変ってない、と厳しい言葉をかけられる。

三 緊張スライドステップ

吹奏楽コンクールの京都府大会に向けた合宿で、メンバーを決めるオーディションが行われる。その日の朝、パートリーダーの未来は梓に、自分が初心者で栞が熱心に教えてくれたこと、追い抜いているときは追い抜かれる人の気持ちなんて分からなかったけど、今はよくわかる、追われることは怖い、と話し、頼ることは悪くない、梓は甘えるの下手そうだからと伝える。
オーディションで梓は2年生を抑えてコンクールメンバーに選ばれるが、その後も練習の合間にあみかに教えようとする梓に、志保と太一は、自分の練習をしろ、このままではあみかは梓なしにはやっていけなくなる、と忠告する。その夜、あみかは中学時代の過去を話し、その過去と決別するために明るく振る舞っていると梓に話す。迎えたコンクールで、立華高校は関西大会出場を決める。

エピローグ

吹奏楽コンクールの京都府大会で関西大会出場を勝ち取った立華高校、帰りのバスで、あみかは梓に、マーチングコンテストでカラーガードを希望することにした、一人で頑張ってみることにした、だからもう梓がいなくても大丈夫、と伝える。梓はその言葉に衝撃を受ける。

 

次いで後編。 

プロローグ

小学生時代の梓、片親で、夏休みに梓を一人家に残して出掛けるのを不安に思う母親の不安に気付き、それを解消しようと、夏休みにも練習がある金管バンドに入ることを決める。

一 妄想マークタイム

関西大会出場を決めた立華高校吹奏楽部だが、近づくマーチングコンテストに向けた練習が中心になっていく。カラーガードになったあみかは、副部長でカラーガードリーダーの小山桃花からマンツーマンで厳しい指導を受ける。あみかが気になって仕方がない梓は、桃花に抗議しようとするが、志保に止められる。あみかには自分がいないとだめ、と言う梓は志保に平手打ちされ、我に帰り、あみかと距離を置くことにする。中学時代の芹那との出来事を思い出す梓。

二 瞬間パレードレスト

マーチングコンテストに向けた合宿を終え、お盆休みを迎える。桃花は私のためを思ってやってくれているとあみかが桃花を慕っていることを知った梓は、あみかに休み中に遊びに行こうと誘われるが、梓はその誘いをやんわり断る。休み中も個人練習に打ち込んだ梓は、吹奏楽コンクールの関西大会を迎える。
マーチングコンテストがメインでコンクールでの結果を追及しない部の姿勢に納得できず、本番に集中することができなかった梓は、自分が許せず一人泣く。そこに未来がやってきて励ます。吹奏楽以外に何が好き?との質問に、当惑して、じゃがいもとか…と言葉を濁す梓。未来は、明日の休みは完全に吹奏楽から離れてみたら、追い詰められる前に息抜きの方法を見つけるのも大事、と勧める。翌日、未来の勧めに従って自宅で過ごす梓は、中学の修学旅行での芹那との出来事を回想し涙する。
マーチングコンテストの京都府大会の直前、桃花の指導を受けるあみかを見て心が苦しくなる梓に、ドラムメジャーの南は、考えるのをやめてとりあえず馬鹿になってみたら、とアドバイスする。そして迎えた府大会、立華高校は関西大会出場を決める。

三 無意識テンハット

関西大会出場を決め、さらに練習の密度が増す中、梓は志保に呼び出され、あみかから梓とうまくいってないと相談に来たと聞かされ、梓は無意識にあみかを拒絶している、なぜ人間関係がそんなに極端なのか、私は二人に対等な友達でいてほしかっただけ、と指摘されるが、梓は志保の指摘が理解できない。中学時代の芹那との出来事がよみがえる。芹那にも同じようなことを言われ、その後は表面的な関係になったままだった。
大会も近づいた練習後、梓は未来に呼び出され、最初はあみかが梓に依存していると思ったけど、依存しているのは梓の方だった、あみかも梓と同じ目線に立ちたかったんだと思う、でも梓は自分が必要とされなくなるのが嫌だったのでは、と指摘される。先輩の言葉に、蓋をしてきた自分の醜い内心を吐露する梓。未来は何かをしてくれるから梓が好きなわけじゃない、梓はちゃんと必要とされてると励ます。
自分の醜い一面と向き合った梓は、自分からあみかに声をかけ、和解する。そして、迎えた関西大会で、立華高校は全国大会の出場を決める。

四 青春ベルアップ

全国大会に向け練習に励む中、未来が練習中に骨折してしまう。未来は梓には笑顔で接するが、保健室を出た梓の鼓膜に、南と二人きりになった未来のすがるような嗚咽が刺さる。ソロは梓が吹き、未来のポジションには太一が入ることになり、太一も遅くまで練習に打ち込む。
未来のように上手くならねばと追い詰められる梓は、無理がたたって高熱を出し練習中に倒れてしまう。未来は、頼ることは悪くないって言ってたのにどうしてこうなっちゃうかなあ、と嘆いた後、梓は梓、私みたいになろうと思わなくていい、ソロも吹きたいように吹けばいいと諭す。迎えに来た母親に梓は、未来の言葉を思い出し、ハグしてくれるって言ったら引く?と尋ねると、母親は梓を抱きしめる。
翌日、家で休んでいる梓を芹奈が訪ねてくる。電車で会ったあみかに見舞いに行けとうるさく言われたという。二人は互いの本心を打ち明け、和解する。そして2週間が過ぎ、未来は、先輩のためにも金賞を取ると宣言する梓に、私のためになんて考えなくていい、来年再来年に全国に行ける保証はない、これが最後の全国かもしれない、だから自分のためにやった方が絶対いい、と諭す。梓は、今まで自分はしっかりしていると思っていたけど、本当は上手く他人に頼れないだけだった、それに気づけたのは先輩たちのおかげ、と感謝する。そして迎えた全国大会、立華高校は見事金賞を受賞する。

エピローグ

3年生になって引退式を終えた梓。マーチングコンテストは、無事に全国大会金賞を取ることができた。そこに同じ中学出身のパートの1年生の恵里佳がやってくる。恵里佳に、かつて未来と話した自分の姿を見る梓。

 

響け!ユーフォニアム」の本編シリーズは、弱小だった北宇治高校吹奏楽部が、優れた指導者の滝が顧問に着任したことをきっかけに、様々なトラブルを乗り越えて、めきめきと実力をつけていくという、部全体の成長がメインのストーリーになっていて、久美子と秀一、麗奈たちとの関係など、個々の部員の人間関係や成長は、もちろん重要な要素・エピソードであるものの、相対的にはメインストーリーを彩るサブストーリーという感じがしますが、本作は、マーチングの強豪校である立華高校が舞台で、吹奏楽部のスタイルが確立されていることもあって、梓の人間としての成長に焦点を当てて描かれています。物語としては、テーマを絞ったことで、物語としての求心力がより強く、人間関係の交錯が本編よりも数多く織り込まれていて、洗練されているように思います。

それにしても、未来の素晴らしい先輩っぷりは見事すぎます。パートリーダーとしてソロをはじめ演奏面で主導的立場にあるだけでなく、本番メンバーから外れた1年生の成長や人間関係にまで目を配り、ここぞというところで介入し、アドバイスしていきます。父親が不在の梓にとっては、ある意味で父親的な要素を与えているように映りました。実際には、ここまで人間的に完璧な先輩は普通いないだろうと思いますが・・・

そういえば、以前に呼んだ「ホントの話」の第6編「友達の友達は他人」で描かれた芹奈と梓の関係、当時読んだときはさっぱりチンプンカンプンでしたが、本作を読んで、なるほど、こんなに複雑な過去があってのことだったんだなあと得心がいきました。その小品では、梓が芹奈の手帳にマーチングコンテストの日程を書き込んだことになっていましたが、本作にはそのような描写はないので、梓と芹奈が和解した後、おそらく翌年の梓が2年生の時の話だったのでしょうね。