アンドリス・ネルソンス指揮ボストン交響楽団
(録音:2017年9~10月(11番)、2018年3~4月(4番);ボストン、シンフォニー・ホール(ライヴ・レコーディング))
- アーティスト: アンドリス・ネルソンス,ボストン交響楽団,マルコム・ロウ,タマーラ・スミルノヴァ,アレクサンダー・ベリンゾン,エリータ・カン,ユンコン・チャン,ショスタコーヴィチ
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
- 発売日: 2018/07/18
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アンドリス・ネルソンスは、1978年生まれ、ラトヴィア出身の指揮者。2014年からボストン交響楽団の音楽監督に就任、2017年にはライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団のカペルマイスター(首席指揮者)にも就任しています。ボストン交響楽団とは、ショスタコーヴィチの交響曲全集の録音プロジェクトが進行しており、これはその第3弾に当たる録音のようです。
ひとまず、なじみのある11番を聴いてみました。次の4楽章からなりますが、すべての楽章がアタッカで(続けて)演奏されます。曲中のテーマには、当時の革命歌が多く使われているそうです。
第1楽章「宮殿前広場」Adagio 4/4拍子ト短調
冬の宮殿前広場、ゆったりとしたテンポの冬の重苦しい雰囲気、そして悲惨な事件の予兆を感じさせる音楽。
第2楽章「1月9日」Allegro-Adagio-Allegro-Adagio 6/8拍子 ト短調
宮殿前広場で請願行進する民衆に軍隊が発砲し、多数の死傷者が出た、1905年1月9日の「血の日曜日事件」を描いた楽章。低弦の静かに蠢くような動きに始まり、民衆の行進を表すような勇ましい音楽になりますが、宮殿前広場の静寂な音楽が一瞬現れ、弱音器を付けたトランペットが不吉な音を鳴らすと、軍隊の一斉射撃の激しい音楽に一変し、虐殺の光景を描く。射撃が止み、突然静まると、そこに静寂な宮殿前広場の音楽が流れる。
第3楽章「永遠の記憶」Adagio 4/4拍子 ト短調
「血の日曜日事件」の犠牲者を悼むレクイエムのように始まりますが、中間部では犠牲者の尊さを讃えるかように高揚します。
第4楽章「警鐘」Allegro non troppo-Allegro-Moderato-Adagio-Allegro 2/4拍子 ロ短調―ト短調
金管楽器の決然としたモチーフに始まり、皇帝の抑圧に屈しない民衆の力強さを表すようなクライマックスに至りますが、最後は帝政ロシアに警鐘を鳴らすように激しく終わります。
低音をたっぷりめにとったしっとりした音の響きは、この曲の雰囲気によく合っています。演奏もゆったりめのテンポで歌い上げていく感じ。バランスもよく整っています。ことさらに声高に叫ぶような感じではなく、明晰に描き、音楽そのものに語らせたような感じ。ボストン交響楽団の高い合奏能力が生かされています。
第2楽章、一度アダージョになって第1楽章のモチーフが出てきた後、再びアレグロに戻って軍隊の発砲を思わせる部分、スコアの指定よりもかなり速めのテンポで始まり驚きましたが、音楽が盛り上がっていくとともに腰をどっしりさせていくような展開は、意外と良かった。人によっては悪い意味で模範的な演奏という印象を受けるかもしれませんが、全体としてよく整ったいい演奏だと思いました。
家にある他の演奏も聞いてみました。
- ショスタコーヴィチ:交響曲第11番ト短調 op.103「1905年」[1957]
- ショスタコーヴィチ:ジャズ組曲第1番[1934]
- ショスタコーヴィチ:ジャズ組曲第2番よりワルツ第2番
- ショスタコーヴィチ:タヒチ・トロット op.16[1927]
マリス・ヤンソンス指揮フィラデルフィア管弦楽団
(録音:1996年12月)
ショスタコーヴィチ:交響曲第11番<1905年>、ジャズ組曲第1番・第2番
- アーティスト: ヤンソンス(マリス),ショスタコーヴィチ,フィラデルフィア管弦楽団
- 出版社/メーカー: ワーナーミュージック・ジャパン
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ヤンソンスがベルリン・フィル、ウィーン・フィル、バイエルン放送響など様々なオーケストラのショスタコーヴィチ交響曲全集の一環で録音されたもの。10番とこの11番の2枚が、フィラデルフィア管との録音になっています。そういえばヤンソンスもラトヴィア出身ですが、年齢はネルソンスよりも35歳ほど離れています。
こちらも、フィラデルフィア管の高い能力が発揮された優れた演奏。ネルソンスの演奏と比べるとより動きがある印象で、個人的には結構好きです。
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1959年2月2日;モスクワ(1)、1954年;レニングラード(2))
初演後間もない時期のスタジオ録音。モノラル録音ですが、音自体は意外と聞きやすい音。ピンと張りつめたような独特の厳しい雰囲気が特徴的で、この演奏を聞くと、他のどの演奏を聞いても生ぬるく感じてしまうところがあります。演奏もこの時代としてはかなり優れていると思います。オケの響きを含め、クセがあるので、好き嫌いは分かれるでしょうが、この曲の歴史的名盤であることは間違いないでしょう。
・ショスタコーヴィチ:交響曲第11番ト短調 op.103「1905年」[1957]
アンドレ・クリュイタンス指揮フランス国立放送管弦楽団
(録音:1958年5月19日;パリ、サル・ワグラム )
ショスタコーヴィチ : 交響曲 第11番 ト短調 作品103「1905年」
- アーティスト: クリュイタンス(アンドレ),ショスタコーヴィチ,フランス国立放送管弦楽団
- 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック クラシック
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フランスで、作曲者ショスタコーヴィチの立会いの下で行われた録音。ラヴェルなどフランスものの録音で有名なクリュイタンスですが、このような(当時としては)バリバリの現代曲の録音を行っていたとは意外でした。
演奏自体は、そう悪い演奏ではありませんが、今となっては、上の3枚と比べると、聞き劣りしてしまうのが正直なところ。ただ、初演直後の演奏の歴史的な記録としての意味はあるでしょうし、バスーンが世界的に主流のジャーマン式ではなく、フレンチ式の楽器なのも、ショスタコーヴィチの録音としては貴重だろうと思います。