鷺の停車場

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ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

再び、クラシックのCDを。

ソヒエフは、2005年からトゥールーズ・カピトール国立管弦楽団の首席客演指揮者・音楽アドヴァイザーに、2008年からは音楽監督に就任していましたが、今年に入って、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、音楽監督を辞任したそうです。そのコンビによる2019年のライヴ録音。

 

曲をごく簡単に紹介すると、次のような感じです。

第1楽章:Adagio-Allegro non troppo-Allegro-Adagio

ハ短調・4分の4拍子。力強い低弦のパッセージで始まり、それに高弦が絡んでくる開始は、ショスタコーヴィチ交響曲で最も有名な第5番の冒頭と共通しています。冒頭の主題の後、ヴァイオリンが引きずるような第2主題を歌い、さらに、テンポを速めて5拍子の第3主題が示されます。経過句の後、フルートが冒頭の主題を奏して展開部が始まり、様々な主題が変形して現れ、音楽が高揚していくと、打楽器のトレモロの轟音の中、金管楽器による威圧的な冒頭の主題で再現部が始まります。それが静まると、コールアングレイングリッシュ・ホルン)が静かにモノローグを奏し、第3主題、冒頭主題、第2主題が現れ、静かに曲を閉じます。演奏時間は約27分30秒(スコアに記載されているメトロノーム記号どおりの速さで演奏した場合。以下も同様)

第2楽章:Allegretto

変ニ長調・4分の4拍子。行進曲風で力強い第1主題の後、木管楽器によるおどけたスケルツォ風の第2主題が現れ、短い展開部の後、第1主題が再現し、雰囲気を変えた第2主題の後、曲を閉じます。演奏時間は約6分30秒。

第3楽章:Allegro non troppo

ホ短調・2分の2拍子。弦楽器が機械的に続く4分音符を強奏する中、木管楽器が悲鳴のように主題を奏し、弦楽器と管楽器による掛け合いの部分を経て、トゥッティで主題が強奏された後、トランペット・ソロの中間部を経て、再び冒頭からの部分が再現されますが、後半部では、金管楽器、弦楽器は全てミュート(弱音器)を付けて演奏され、ティンパニもコペルティ(響きを止めるために打面に布を置く)で演奏されます。音楽が再び高揚すると、休みなくアタッカで次の楽章に続きます。演奏時間は約6分40秒。

第4楽章:Largo

嬰ト短調・4分の4拍子。冒頭、第3楽章から続く暴力的な叫びの後、弦楽器・金管楽器などのユニゾンパッサカリアのテーマが提示され、次第に静まると、低弦が葬送曲を思わせるパッサカリアのテーマを10回繰り返す上で、悲しげで内省的な変奏が奏でられ、休みなくアタッカで次の楽章に続きます。演奏時間は約9分。

第5楽章:Allegretto-Adagio-Allegretto

ハ長調・4分の3拍子。バスーンによる田園的な明るい主題の後、チェロによる優美な第1エピソード、チェロとバス・クラリネットによる荒々しい第2エピソードを経て、主題によるフーガが展開され、高揚していくと、第1楽章のクライマックス、威圧的な展開部の冒頭が再現されます。その後、第2エピソード、第1エピソード、主題と逆の順序で圧縮された形で再現された後、静かなコーダで曲を閉じます。演奏時間は約12分30秒。

 

ソヒエフの演奏は、まず、第1楽章、ゆったりめのテンポですが、ダレた感じは全く受けません。展開部で、音楽が高揚するにつれテンポを上げていく演奏も多いのですが、目立ってテンポを速めることなく、じわじわと緊張を高めていくところは個人的には好印象。フランスのオケというと何となく華奢で線が細いイメージがありますが、力感も十分です。第3楽章などアンサンブルの乱れがみられる部分もありますが、それほど不満は感じさせることなく、いい演奏でした。第5楽章冒頭のバスーンのソロが、一般的なジャーマン式のファゴットではなく、フレンチ式のバソンで聞けるのは、かなり珍しいと思います。

 

この曲は、ショスタコーヴィチ交響曲の中でも、第7番、第10番などと並んで、個人的に最も好きな曲のひとつ。

久しぶりに、手元にある他のCDも聴いてみました。

ショスタコーヴィチ交響曲第8番 ハ短調 op.65
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルハーモニー交響楽団
(録音:1982年3月28日 レニングラードフィルハーモニー大ホール(ライヴ))

ムラヴィンスキー晩年の本拠地でのライヴ。個人的には、この曲のベスト盤。緊張感が張り詰めた空気の中で、圧倒的な音楽が展開されていきます。単純な音型が続く第3楽章は、弦楽器の演奏がだんだん詰まってテンポが(意図せず)速くなってしまう演奏が多いのですが、この演奏はそうしたところも感じさせません。

強いて欠点を挙げれば、おそらく実際よりピッチが高くなっていて(半音以上高くなっていると思います)、結果として、時間も短くなっているところ。それを修正したCDも後に発売されていますが、私は未聴です。

 

ショスタコーヴィチ交響曲第8番 ハ短調 op.65
モーツァルト交響曲第33番 変ロ長調 K.319
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラードフィルハーモニー交響楽団
(録音:1960年9月23日 ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール(ライヴ))

ヨーロッパ公演の一環でロンドンで行われたコンサートを収録したライヴ。CDの表記によれば、これが交響曲第8番のイギリス初演とのこと。
ちょこちょことアンサンブルの乱れもあり、完成度という面では、先に挙げた1982年盤には及びませんが、こちらも優れた演奏。イギリス初演というためか、あるいはムラヴィンスキーが晩年の1982年盤当時より精力的だったのか、演奏にはより意志的な感じがあり、熱気も感じられます。

ショスタコーヴィチ交響曲第8番 ハ短調 op.65
ルドルフ・バルシャイ指揮ケルン放送交響楽団
(録音:1994年3月14日、1995年10月16日 ケルン、フィルハーモニー

生前のショスタコーヴィチとも親交があったバルシャイが、1992年から2000年にかけてケルン放送交響楽団と録音した交響曲全集に収載されている1枚。
バランスの取れた優れた演奏で、スコアにも比較的忠実な印象。特に、ゆったりめのテンポで運ばれる第1楽章が素晴らしい。ケルン放送響も好演ですが、いいところで乱れが出たり、ちょっと詰めが甘い印象があるのは残念。

ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

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ショスタコーヴィチ交響曲第8番 ハ短調 op.65
セミョン・ビシュコフ指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1990年3月 ベルリン、フィルハーモニー

第5番、第11番に続く、ビシュコフベルリン・フィルとのショスタコーヴィチ交響曲の第3弾(これが最後になってしまったようですが)。
ベルリン・フィルだけあって、演奏のクオリティは高いです。音の威力もあり、アンサンブルの乱れもほとんどありません。ただ、第1楽章の展開部でどんどんテンポが上がっていくところなど、解釈は私の好みとちょっと合わないところもあり、個人的な評価はまずますといったところ。

ショスタコーヴィチ交響曲第8番 ハ短調 op.65
ベルナルド・ハイティンク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(録音:1982年12月 アムステルダム、コンセルトヘボウ)

まだ冷戦下の時代、西側で初めて、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を指揮して録音された交響曲全集の中の1枚。
ハイティンクらしく、奇を衒わない実直な演奏で好感が持てます。第3楽章ではどんどんテンポが速くなっていってしまったり、残念なところもありますが、オーケストラの実力も発揮されたまずまずの好演だと思います。

ショスタコーヴィチ:戦争交響曲集

ショスタコーヴィチ:戦争交響曲集

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ショスタコーヴィチ交響曲第8番 ハ短調 op.65
ワレリー・ゲルギエフ指揮キーロフ管弦楽団
(録音:1994年9月 ハールレム(オランダ)、コンセルトヘボウ)

ゲルギエフとしては、初めてのマリンスキー劇場管弦楽団(当時の呼称はキーロフ管弦楽団)とのショスタコーヴィチ交響曲の録音となった1枚。
改めて聴くと、オーケストラの力不足という印象。ソ連崩壊からまだ3年ほど、オーケストラを取り巻く環境は厳しかったのだろうと推測しますが、率直にいえばハズレな感じです。その後、2011年6月から2013年3月にかけて、同じマリンスキー劇場管弦楽団と再録音しているようですので(私は未聴)、ゲルギエフの演奏を聴いてみたい方は、そちらの方がいいのではないかと思います。

 

なお、紹介したCDの楽章ごとの演奏時間は、それぞれ次のようになっています。

・ソヒエフ       :Ⅰ28'22''/Ⅱ6'19''/Ⅲ6'10''/Ⅳ10'35''/Ⅴ14'57''
ムラヴィンスキー[1982] :Ⅰ24'33''/Ⅱ6'07''/Ⅲ6'17''/Ⅳ 9'37''/Ⅴ12'58''
  (なお、前述のALTUS盤はⅠ25'48''/Ⅱ6'24''/Ⅲ6'35''/Ⅳ10'06''/Ⅴ13'44''とのこと)
ムラヴィンスキー[1960] :Ⅰ24'40''/Ⅱ6'17''/Ⅲ5'53''/Ⅳ 9'29''/Ⅴ13'30''
バルシャイ      :Ⅰ27'27''/Ⅱ6'42''/Ⅲ6'28''/Ⅳ 9'38''/Ⅴ13'45''
ビシュコフ      :Ⅰ25'01''/Ⅱ5'59''/Ⅲ6'24''/Ⅳ10'25''/Ⅴ14'43''
ハイティンク     :Ⅰ25'55''/Ⅱ6'14''/Ⅲ5'57''/Ⅳ 8'49''/Ⅴ14'47''
ゲルギエフ      :Ⅰ25'33''/Ⅱ5'56''/Ⅲ6'13''/Ⅳ10'48''/Ⅴ14'37''

こうしてみると、ソヒエフ盤の第1楽章の演奏時間が他の録音よりも飛び抜けて長いことがわかります。強いていえば、ムラヴィンスキー盤は全体的にテンポが速めといえますが、前述のように実際の演奏よりも時間が短くなっているようなので、実際には他の演奏とそれほどの差はなかったのかもしれません。