鷺の停車場

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松尾由美「雨の日のきみに恋をして」

松尾由美さんの小説「雨の日のきみに恋をして」を読みました。その紹介と感想です。

雨の日のきみに恋をして (双葉文庫)

雨の日のきみに恋をして (双葉文庫)

 

以前に、映画でも観た「九月の恋と出会うまで」を読んだので、もう一冊くらい読んでみようと手にした作品。

巻末の注書きによると、2007年9月に新潮文庫から刊行された「雨恋」を改題した作品とのこと。「改題」ということなので、加筆修正は加えられておらず、約9年後に双葉社文庫から刊行するに当たって、タイトルだけ変更したということなのでしょう。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

<二匹の猫の世話を条件に叔母のマンションに引っ越したぼくは、ある雨の夜、部屋で女性の声を聞いた。「わたしは幽霊です」という彼女は、自分を殺した人を探してほしいという。戸惑いながらも、真相究明に乗り出したぼくは、いつしか、雨の日にしか現れない彼女に恋をしていた。そして、すべての謎が明かされたとき——奇跡の恋を描いた感動のラブストーリー『雨恋』が、装いも新たに!>

 

小説に章立てはなく、数字の見出しで5つの部分に区切られています。

多少ネタバレになりますが、ごく簡単にそれぞれの部分の概略を紹介すると、次のような感じです。

 

1.30歳の会社員・沼野渉は、2匹の猫の世話をする条件で、ロサンゼルスに転勤する叔母が住んでいたマンションで暮らすことになる。ある雨の夜、沼野はリビングで女性の声を聞く。姿の見えないその女性は、24歳だった3年前に亡くなった小田切千波と名乗り、既婚のデザイナー・守山に頼まれて彼のマンションだったこの部屋で一人で住んでいた、遺書も書いて青酸化合物のカプセルで自殺を企てた、直前で思いとどまったが、足をすべらせて頭を打って意識を失っている間に誰かにそのカプセルを飲まされて殺された、その人を探してほしいという。渉は犯人を探すため千波に詳しく話を聞こうとするが、雨の日にだけここに来るという千波は、雨が止むとともに去っていく。

2.次の雨の日に千波から話を聞いた渉は、素性を隠して千波の会社の関係者などへの聞き込みを始める。千波は最初の容疑者として亡くなる直前に会社の金の使い込みに気づいた元上司の望月の名を挙げるが、彼は既に使い込みがバレて会社を辞めており、アリバイもあった。それを千波に報告すると、少し納得したのか、千波の脚のひざ下だけが見えるようになる。

3.次に千波は、壁に掛かっていた絵がなくなっていた、その絵を盗んだ人が犯人ではないかと語る。渉は当時マンションの管理人だった渡辺や事件処理に関わった刑事の曽我部に接触すると、その絵は掛かっていたのが落ちただけで盗まれてはいなかったことが判明する。それを千波に報告すると、千波のウェストから下の下半身全体が見えるようになる。

4.渉は守山の助手をしていた倉橋に会い、その日、守山が祖母の容態が悪化して祖母がいる札幌に飛行機で向かったこと、現在は守山が入院していることを聞き出す。千波に頼まれて守山が入院する病院に向かった渉は、そこでテレビで女性キャスターをしている30代半ばの堂本とすれ違う。渉が倉橋たちに確認すると、堂本は守山の恋人だったことがわかる。渉は堂本を疑うが、千波が死んだ時間帯にはテレビに出演していたことが判明する。すると、千波の首から下がすべて見えるようになる。

5.渉は上半身も見えるようになった千波を女性として意識するようになる。守山と祖母の関係などを聞き出そうと、渉は曽我部から聞き出した札幌にいる守山の親族に手紙を書く。その返事には、祖母の遺産相続をめぐって、守山を養子にした祖母と守山の血筋を疑う親戚の間にわだかまりがあったこと、千波が守山のマンションで死んだことが発覚して、守山は遺産を受けることができなくなったことなどが書かれていた。そして、千波がこの部屋で守山の祖母とやりとりしていた手紙の謎が解ける。渉の意識を察したのか、千波は渉の手を取って自分の胸に当て、そして服を脱ごうとするが、幽霊は服を脱ぐことができないことがわかる。次の雨の日までの間、渉はあることに気づいて守山に会いに行き、自分の推理が正しかったことを知る。次の雨の日に現れた千波に、渉は真実を伝える。顔も見えるようになった千波を渉は抱いてキスし、リビングのソファで一緒に眠る。翌朝、渉が目を覚ますと、千波は消えようとしていた。渉は眠ったまま彼女が消えていくのを見守るのだった。

(ここまで)

 

主人公が、非現実的な存在に頼まれたことをこなしていくうちに、その人を好きになるという展開は、男女は入れ替わっているものの、以前読んだ「九月の恋と出会うまで」と共通しています。ただ、犯人探しのミステリー的な要素は、同作よりもよく考えられていて、最後の意外な結末に持っていくところも見事だと思いました。

幽霊と人が話をすることができ、心残りに思っていたことが満たされて幽霊が消えていく、という設定は、たまたまですが、直前に読んだ七月隆文「君にさよならを言わない」、飯田雪子「きみの呼ぶ声」と同じ。こういう幽霊ものは、一つのジャンルとまでは言いませんが、よくある舞台設定なのかもしれません。