鷺の停車場

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山本文緖「きっと君は泣く」

山本文緖さんの小説「きっと君は泣く」を読みました。 

きっと君は泣く (角川文庫)

きっと君は泣く (角川文庫)

 

著者の山本文緒は1962年生まれで、本作は、1993年7月に光文社カッパ・ノベルズから刊行されていたものを1997年7月に角川文庫から再刊行した作品のようです。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

【椿、二十三歳。美貌に生まれた女に恐いものはない、何もかもが思い通りになるはずだった。しかし祖母がボケはじめ、父が破産、やがて家や職場で彼女の心の歯車はゆっくりと噛み合わなくなってゆく。美人だって泣きをみることに気づいた椿。
弱者と強者、真実と嘘……誰もが悩み傷つくナイーブな人間関係の中で、ほんとうに美しい心ってなんだろう?
清々しく心洗われる、”あなた”の魂の物語。】

 

作品は、数字の見出しで区切られた6章で構成されています。

おおまかな内容を紹介すると、

 

コンパニオン専門の派遣会社で働く23歳の桐島椿は、美しく隙のない祖母に憧れていた。自分の美貌に自信を持ち、中学3年生のときの初体験の相手だった群贅とその後も関係を続けながら、男と付き合い、恋人を作ってきた椿だったが、祖母が入院したことをきっかけにするように、少しずつ歯車が狂っていく。
祖母は、やがてボケの症状が出始め、父親の会社は倒産、父親は危篤状態となり、家も売り払われ、椿は群贅の家に転がり込む。
祖母の担当の研修医の中原との結婚を考える椿は、食事に誘って次第に親密になり、ついには自分を抱くよう迫るが、中原は慎重さを崩さない。焦る椿はこれまで付き合ってきた独身男性と次々とデートするが、結婚はことごとく断られる。
祖母が妾だったと信じて疑わない椿は、その愛人に会いに行くが、その祖父は既に亡くなっており、祖母は妾ではなく正妻だったこと、そしてこれまで知らなかった祖母の黒い内面を知る。
群贅がエイズとの噂を聞いた椿は、相談した看護婦の勧めで検査を受ける。エイズの検査結果が陽性となり混乱する群贅からの電話に、椿は待ってるからと声を掛ける。直後に中原に食事に誘われ、父親が倒れて田舎に帰ることになった中原からプロポーズされるが、エイズ検査の結果が陽性だったと嘘をついて立ち去る

 

・・・というあらすじ。

 

背表紙の紹介文とは、かなり印象の違う作品、というのが率直な感想。

自分の美貌への自信、憧れだった祖母の隙のなさ、経済的な余裕・・・それまで自分を無意識に支えてきた要素が少しずつ失われていく中で、さまよう女性の心の揺れ動きを描いた作品なのだと受け止めました。が、その揺れ動きには、よく理解できないところがありました。

例えば、最後、中原が大好きだと確信し、ためらうことはないと頭では分かっているのに、そのプロポーズを嘘をついて断り、愛していないと確信している群贅を待つことを選ぶわけですが、咄嗟にそのような嘘をつく心理は、分かるようで分からない感じ。

群贅と関係を続けながら、男性遍歴を重ねていくという、椿のキャラクター設定に共感が持てないことが大きかったのか、この作家さんの作風が私の作品の好みと違うのか、別の作品も読んでみようと思いました。