鷺の停車場

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カルロ・ゼン「幼女戦記」第12巻 "Mundus vult decipi,ergo decipiatur"

カルロ・ゼン著の小説「幼女戦記」、3月に刊行された最新巻の第12巻を読みました。

幼女戦記 12 Mundus vult decipi, ergo decipiatur

幼女戦記 12 Mundus vult decipi, ergo decipiatur

 

ルーデルドルフが亡くなり、戦争指導を一手に仕切ることになったゼートゥーアが、独自の戦略眼で意外な手を打ち、事態は大きく動いていきます。

 

これまでと同様、あらすじ紹介を兼ねて、時期が明示されている場面を列挙してみます。

(以下は統一暦。小説の登場順)

プロローグ

ターニャ・フォン・デグレチャフに恋焦がれるロリコンの連邦のロリヤが、ルーデルドルフの暗殺、そして帝国のイルドア侵攻を聞いて激怒する。 

第一章:世界の敵

1927年11月21日 帝都・参謀本部:戦闘機の空きスペースに潜り込んでイルドアへ査察に向かおうとするゼートゥーアは、出発間際、帝国の行方に思いをめぐらし、面会にやってきたコンラート参事官に、暗号が解読されていることを告げ、丁々発止のやりとりをする。

1927年11月22日 イルドア戦線:レルゲンとの間で暫定停戦交渉を成立させたカランドロ大佐、レルゲンに会いに行くと、そこにはレルゲンではなくターニャを護衛に付けたゼートゥーアがいた。連邦が大きくなりすぎないよう、合州国に参戦させるためにイルドアに侵攻したと聞かされ驚愕するカランドロ。カランドロの退出後、ゼートゥーアはターニャにイルドア攻撃の計画を指示する。

第二章:舞台

1927年11月下旬 多国籍軍司令部:ドレイク中佐は、本国から訪れたミスター・ジョンソンに多国籍義勇軍のイルドア配属を伝えられる。

1927年11月27日 イルドア方面:ターニャは、レルゲン大佐率いる第八機甲師団を援護して暫定停戦の終了後攻撃に転じる準備に当たる。レルゲンと話をするターニャのもとに、王都攻撃を禁じ、敵魔導部隊の撃滅を命ずる軍令が届く。

1927年11月29日 イルドア戦線:ターニャ率いる第二〇三航空魔導大隊は、油断していると偽装して敵を誘き出すため、鹵獲した敵車両に乗って進軍する。そして哨戒中の合州国魔導師を発見する。

同日・イルドア半島上空:合州国イルドア派遣軍の第七航空魔導連隊・コリントのジャクソン中尉とジェシカ中尉は、警戒飛行中に第二〇三航空魔導大隊を発見し司令部に報告する。しかし、奇襲に転じた第二〇三航空魔導大隊によって、コリントは壊滅的な被害を受ける。

同日・帝国軍第八機甲師団:レルゲンとターニャは、王都攻撃をあえて禁ずるゼートゥーアの狙いが何かを推測する。そこに敵野戦軍の総攻撃を命ずる軍令が届く。

第三章:アポイントメント

連合王国大使館—通話記録HFZ115号:在イルドア連合王国大使館にゼートゥーアから会食の手配を依頼する電話が入る。当惑する大使館員。

1927年12月5日 イルドア戦線:査察の名目でイルドアを訪れているゼートゥーアは、師団長たちとの会合で、王都を攻撃し敵野戦軍を撃滅する作戦を告げ、その狙いを語る。その帰り、ゼートゥーアは連合王国大使館に電話をかける。同行するウーガ中佐は困惑する。 

同日・帝国軍最前衛・サラマンダー戦闘団:ゼートゥーア大将が視察に来るとターニャに告げられ、士官たちは衝撃を受ける。やってきたゼートゥーアは、出撃準備に向かうターニャに、グランツ中尉の中隊を自分の護衛に付けるよう命ずる。

同日・イルドア軍参謀本部:カランドロ大佐は、瓦解しつつあるイルドア王国軍の現状に、防衛計画に反対してガスマン大将に意見具申するが、受け入れられない。

1927年12月6日 イルドア戦線:サラマンダー戦闘団の将校らと王都攻撃の計画を練るターニャは、機甲部隊を率いるアーレンス大尉に、第八機甲師団と敵に勘違いさせる陽動作戦を命ずる。

同日・イルドア王都/イルドア軍参謀本部:首都防衛の指揮官となったガスマン大将は、ゼートゥーアの意図に見当が付かず、考えをめぐらす。

同日・帝国軍最前線:進軍するサラマンダー戦闘団。ターニャは航空魔導大隊を率いて威力偵察に出撃し、敵防衛陣地を蹂躙する。

同日・帝国軍第八機甲師団:ターニャからの報告を受け、レルゲン率いる第八機甲師団は進撃し、完勝を収める。ゼートゥーアは、グランツたち護衛を引き連れて王都に向かい、市街地に足を踏み入れる。

第四章:短期滞在者

1927年12月11日イルドア王都郊外/帝国軍前衛陣地:陣地で塹壕を構築させるターニャは、塹壕戦への対処能力が不足する部下たちに頭を抱える。そこに、王都周辺の安全の確保せよとのゼートゥーアからの命令が届く。その命令の意図が合州国向けの陽動だと気付いたターニャは、火力が不足する現状に、合州国軍の砲兵陣地の奪取に向かう。

1927年12月13日 アライアンス司令部・連合王国エリア:再展開命令を受けてイルドアに到着したドレイクは、大使に、合州国への配慮から、連合王国軍として連邦軍とは別行動をとるよう求められ、そして、合州国・イルドア合同魔導軍が壊滅したことを聞かされる。

1927年12月9日・帝国軍遣イルドア査察司令部:ウーガ中佐は、ゼートゥーアから、大佐に昇進して第一〇三鉄道輸送連隊の連隊長への転属を命ぜられ、翌年には参謀本部の戦務課長になると聞かされる。そして、イルドアから徴発した物資を輸送するよう命ぜられる。

1927年12月16日イルドア王都:ターニャはウーガ大佐から、イルドアの資源、機械などを根こそぎ鉄道で持ち出す一方、占領している北部イルドアからの避難民を王都に輸送していると聞かされ、ゼートゥーアの狙いを理解する。 

第五章:労働

1927年12月17日・イルドア王都:帰還の準備を進めるターニャは、レルゲンから任務を延長し、魔導大隊で撤退する本隊を援護するよう命令を受ける。ターニャは、敵の海上輸送路を寸断するため港湾施設の攻撃を提案し、受け入れられる。攻撃に向かった第二〇三航空魔導大隊は、合州国軍の激しい対空砲火に苦しみながら、敵を混乱させることに成功するが、そこにドレイク率いる連合王国魔導部隊が、さらに合州国海兵隊も来襲し、撤退する。

第六章:兵站攻撃

(見出しなし):合州国の軍人だったと思われる老人が、後世になって、ゼートゥーアのイルドア戦を回顧する。

1927年12月20日 帝都参謀本部:イルドアが避難民を受け入れ、合州国軍など同盟諸国の支援を受けて混乱が回避されている事実を知ったゼートゥーアは安堵する。

同時期・遣イルドア合州国軍司令部:合州国海兵隊のイルドア遠征軍を率いるトルガー中将は、当初は想定もしていなかった大量の食糧供給が必要になったことで、兵站が大混乱し、迅速に北進する計画が実行できなくなっている現状を嘆く。

1927年愛の語らわれるべき季節 愛の巣にて:ゼートゥーアのイルドア作戦により連邦への各国の支援の激減を懸念するロリヤは、連邦の存在感を高めるため、冬季攻勢の発動を提案する。

1927年12月25日 イルドア王都郊外:撤退する帝国軍の殿軍を務める第二〇三航空魔導大隊、ターニャは合州国軍を王都に迎え入れようと威力偵察に向かうことを決める。

同日・アライアンス軍魔導部隊: 友軍が襲われていると聞いたメアリー・スー中尉は、ドレイク大佐の判断を無視し、援護しようと出撃する。その威力に帝国軍は逃げ出し、帝国軍が撤退したことを知ったスーは王都に合州国の旗を掲げる。

同日・帝都:参謀本部でコンラート参事官と一服を楽しむゼートゥーアのもとに、王都が奪還されたとの急報が入る。紫煙を楽しむゼートゥーアは「世界が騙されたがるならば、私に騙されてもらう」とほくそ笑むのだった。

 

副題の"Mundus vult decipi,ergo decipiatur"とは、「世界は騙されることを欲している、それゆえ世界は騙される」という意味のラテン語だそうです。最後のゼートゥーアの言葉は、これにあやかったなのものですね。

戦争後の列強の力関係も考慮して、連邦の独り勝ちを阻止しようと、合州国を戦争に引き込むためにイルドアに侵攻するゼートゥーアの戦略眼は、常人の域を超えています。ターニャは転生前の歴史の知識もあって、この戦略を理解することができるわけですが、そのほかのこの当時の軍人にはとうてい思いつくことすらできないことでしょう。

第11巻を読んだときには、そろそろ戦争も終わりを迎えるのかも、と思っていましたが、このような展開になると、少なくともあと2~3巻は続きそうに思えてきました。最近は年に1巻程度の発刊ペースのようですが、巻末の広告によれば、次の巻が発刊されるのは本年冬ごろの予定だそうです。次の巻が出るころには関心が多少薄れてしまっているかもしれませんが、また出たら読んでみたいと思います。