鷺の停車場

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いぬじゅん「いつか、眠りにつく日3」

いぬじゅんさんの「いつか、眠りにつく日3」を読みました。

以前に読んだ「いつか、眠りにつく日」、「いつか、眠りにつく日2」の続編で、2021年1月に文庫本として刊行された作品。前巻に続けて読んでみました。

 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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思い出せば、もっと悲しくなる。―—それでも、君を忘れたくない。

案内人クロに突然、死を告げられた七海は、死を受け入れられず未練解消から逃げてばかり。そんな七海を励ましたのは新人の案内人・シロだった。彼は意地悪なクロとは正反対で、優しく七海の背中を押してくれる。シロと一緒に未練解消を進めるうち、大好きな誰かの記憶を忘れていることに気づく七海。しかし、その記憶を取り戻すことは、切ない永遠の別れを意味していた…。予想外のラスト、押し寄せる感動に涙が止まらない―—。

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主な登場人物は、次のとおりです。

  • 雨宮 七海:主人公の高校2年生。

  • クロ:死後の案内人で全身黒い服を着ている。「クロ」とは、七海が心の中で付けた呼び名。

  • シロ:見習いの案内人で、白い一枚布を羽織っている。金髪に近い茶色の髪をしている。

  • ハチ:七海の家で飼っている愛犬の柴犬。
  • 吉田 志穂:七海が高校で出会った地縛霊。

  • 斉藤 奏太:志穂が恋していた違う高校に通っていた男子。駅裏の畳屋「斉藤畳店」の息子。

  • 城田 愛梨:七海の中学時代からの友達。

  • 森上 有希子:七海を轢いた犯人・吉野と10年前に離婚した女性。高校3年生の娘・凜がいるが、七海より少し前に病気で亡くなった。

  • 桐島 侑弥:七海が3年前に出会い、大好きだった男子。違う高校に通っている高校3年生。

という感じ。

 

本編は、プロローグ、エピローグと6章で構成されています。多少ネタバレになりますが、各章の簡単なあらすじ、概略を紹介します。

プロローグ

祖母が亡くなり、締め付けられるように頭が痛む七海が病室を出ると、目の前に黒ずくめの男性が立っていた。葬式業者らしき男性は病室に入っていった後、ロビーの長椅子に座る七海の隣に座り、思い出せ、亡くなったのは祖母はない、お前なんだ、と告げる。

第一章 後悔に似ている

病院を出た七海は、自分が死んだなんてまさか、と思いながら家に向かう。その途中、自分と同い年くらいの白い一枚布を羽織った外国人らしい男子が立っていた。その男子は、七海ちゃんは残念ながら泣くなってしまいました、と話しかけるが、七海は彼を思いきり突き飛ばして走る。
家に帰って鍵を閉めるが、頭痛はさらにひどくなっていた。スーツ姿で帰ってきた父親に話しかけるが、父親の七海の姿が見えていないそぶりで初めて違和感を感じる。混乱する七海の前に再び白服の男子が現れ、七海が再び突き飛ばして自分の部屋に入ると、黒い服の男性がいた。
男性は49日間で未練解消という作業をしてもらう、未練を解消しないと地縛霊になると七海に告げ、白服の男子は見習いの案内人だと説明する。心の中で黒い服の男性にクロ、白服の男子にシロと呼ぶことにした七海。両親に別れを言えると思って一度は未練解消しようと思った七海だったが、両親が相手ではないと知って、未練解消なんてしたくない、と叫んで走り出す。
公園に逃げ込むと、ブランコに小学生くらいの女の子が座っていたが、普通でない雰囲気に後ずさりすると、現れたクロはあれが地縛霊だと説明し、未練解消させようとするが、自分が死んだことも受け入れられない七海は、未練解消なんてしない、と歩き出すが、シロが地縛霊になったら両親に悪い影響を与えるかもしれないと説得し、七海は未練解消をやってみることにする。

第二章 想いは雨に負けて

翌朝、昨日の頭痛もなくなり、夢の出来事だったのかと思う七海だったが、クロが再び現れて、夢でなかったことを知る。愛犬のハチから金色の光が出ているのは、未練解消の相手なのだろうとクロは話す。
ハチを散歩に連れていく七海は、本当の未練の相手は誰なのか考える。クロの勧めで高校に行くと、寝坊したシロがやってくる。学校の屋上に行った七海は、校庭の向こう側の桜の木の下に立っている女子生徒が地縛霊だと聞き、シロが止めるのをきかずその女子生徒に会いに行く。その女子生徒は吉田志穂と名乗り、七海の求めに応じて、雨の日に桜の木の下で会った斉藤奏太に恋していたが、どうしても彼に会いにいくことができなかった、と未練が解消できなかった理由を話す。
七海は、志穂に奏太の様子を教えてあげようと、奏太の実家の畳屋に行くと、奏太は七海やクロ、シロのことが見えていた。大学の4回生だという奏太に、クロが志穂の名前を出すと、奏太はあからさまに動揺し、まだ桜の木の下にいると聞いてがっくりと膝をつく。
七海たちと一緒に学校に行き、奏太は志穂と再会する。奏太は、初めて会ったとき、志穂はもう亡くなった後で、霊になった人が見える自分が学校の帰りに気づいて見に来て出会ったこと、志穂が亡くなったのは入学式の日だったことを話す。志穂はそれと強く否定するが、奏太の思いを知り、クロに連れられてあの世に行く。

第三章 足音さえ消えていく

志穂と別れた後に倒れ、学校の保健室で7日間寝込んた七海は、寝るなら家のベッドがいいと、シロはだまして家に逃げ帰るが、クロに連れられて学校に戻る。教室を覗き、愛梨の体の回りが光っているのを見た七海は、シロの勧めで、愛梨とふたりきりで会うため、夕方まで待つことにするが、保健室で寝て起きると、3日が過ぎていた。委員会活動をしている愛梨が教室に戻ってくるのを待って、七海は愛梨と会い、自分の思いを伝え、別れを告げる。

第四章 五月の朝に泣く

愛梨と会った後、再び寝込んでしまった七海は、クロの目を盗んで家に戻り、ハチを散歩に連れていくと、ハチは途中で突然足を止める。七海も耐えられない吐き気に襲われ、そして、近くの交差点で事故に遭って死んだことを思い出す。家に帰ってハチを戻すと、家に男性が訪ねてくる。それは、国選弁護人に言われて謝りにきた七海を轢いた犯人だった。母親は怒りでその男を追い返し、男はタクシーで帰っていく。七海はそのタクシーに忍び込み、その男・吉野のアパートまで付いていく。その自己中心的な振舞いに、地縛霊になった取りついてやりたいと思う七海だったが、奥さんと思われる女性に気づかれて、七海はアパートを飛び出して逃げる。
しかし、その女性は、少し前に亡くなった有希子だった。七海はシロの理解を得て、有希子の未練解消の手伝いをしようとする。有希子は、吉野が財産目当てで復縁を迫り、娘の凜の前に姿を現すようになった、凜を守るために、未練解消はせず地縛霊として吉野に取り着いてやると話す。吉野が凜から金をせびり取ろうと向かうタクシーに有希子たちは忍び込むが、凜は毅然とした態度で吉野の要求を拒み、吉野を追い返す。それを見た有希子は、凜の前に姿を現し、抱き合って思いを伝え、未練を解消してあの世に向かう。

第五章 君はいつも笑っていた

夢を見た七海は、自分が大好きだった桐島侑弥の名前を思い出す。シロたちに求められ、その思い出を話す。中学2年生になる直前の春休み、高台にある公園に夕日を見に来た七海は、引っ越してきたばかりの1年上の侑弥と出会い、それから毎週火曜日と木曜日に公園で会っていた。初めて会ってから3年が経って、侑弥は親の転勤で東京に引っ越すことになったことを打ち明け、そして七海が好きだ、と告白するが、その返事をする前に、七海は死んでしまったのだった。
クロとシロの勧めで、侑弥に会うために公園に行った七海は、侑弥から父親は単身赴任になって自分は残ることになったと聞かされる。七海は、自分も侑弥が好きだと告白し、そして、自分が死んでしまったと話し、自分の思いを侑弥に伝える。

第六章 本当の涙、本当の未練

侑弥との未練解消を終えても、あの世に行けない七海は、おばあちゃんに会おうと、入院している総合病院に行くが、おばあちゃんは未練解消の相手ではなく、話をすることもできない。クロは、七海は誰かのために泣いているだけ、もっと自分のために泣けるようになれば、本当の未練を見つける手がかりになるはずだ、と言い、七海もその言葉に納得する。見舞いにやってきた両親とおばあちゃんが話す光景を見て、七海は3人への思いを口にし、涙を流す。
涙を流して体の重みがすっきり消えて元気になった七海を、クロは事故に遭った交差点に連れていき、ここでなにがあったかをちゃんと思い出せば終わりだと伝える。記憶のピントがうまく合わない七海は、新聞に事故の記事が載っていないか調べようと、学校の図書室に向かう。死んだ翌日の新聞データを検索すると、女子生徒は重体で、飼い犬が死亡したと書かれていた。七海は自分の不安を振り払うように、自宅に走り、ハチの元に急ぐが、ハチの体は冷たく、どんなに揺さぶっても起きない。そこにクロが現れ、ハチが身を挺して七海を助けたこと、七海が見てきたハチは幻だったこと、そして、未練解消をしていたのは七海ではなくハチだったこと、シロがクロに姿を変えてもらったハチだったことを打ち明け、七海はおばあちゃんと同じ総合病院に入院していて、明日の朝に目を覚ますと伝える。ハチはクロに連れられてあの世に行く。

エピローグ

病室で目を開けた七海は、最初にクロに会った日にいた病院が、おばあちゃんが入院していた病院ではなく、ハチが診てもらっていた動物病院だったと理解する。すると、見舞いに来ていた愛梨に飛びつくように抱きしめられる。愛梨に感謝の言葉を伝えると、愛梨は涙を流し、七海の両親を呼びに飛び出していく。スマホの電源を入れると、侑弥からのメッセージが何十件と届いていた。メールで入院していることを伝え、侑弥に会ったら告白の返事をきちんとしようと思う七海は、ぜんぶハチが教えてくれたことだ、私が眠りにつく日まで待っていてね、と心の中で願う。

 

以上の本編の後に、次の番外編も収められています。

番外編 いつか、眠りにつく日 ~SIDE クロ~

未練解消から逃げ出した高校1年生の安田ひまりを追って、ビルの屋上でつかまえたクロ。ひまりに、自分をクロという名前で呼んだ人のことを教えてほしいと言われ、森野蛍、池田光莉、雨宮七海の話をすると、ひまりは、ビルの屋上を去り、まっすぐ家の方に向かっていく。がんばれよ、とつぶやいて空を見上げるクロは、あの3人もひまりを応援してくれているような気がするのだった。

 

(ここまで)

背表紙の紹介文にある「押し寄せる感動に涙が止まらない」というほどは感動しませんでしたが、前2巻と同様に、切なくも心温まる物語。
読者が予想できないような結末に導くための仕掛けだろうと思いますが、クロの策略によって、主人公が他人の未練解消のために動かされるという前2巻の設定は、本巻でも共通しています。ただ、前2巻ではその仕掛けが、ご都合主義のように感じてしまうところがあったのですが、本巻では、そうした違和感は少なくなっていて、著者が巧みになったのかな、と感じました。それでも、ハチがシロに姿を変えて登場するという仕掛けを使わずに、ハチの七海への思いが伝えられれば、より素直に心に響く物語になったのではないかという気はします。