鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

いぬじゅん「いつか、眠りにつく日」

いぬじゅんさんの「いつか、眠りにつく日」を読みました。

たまたま見かけて手にした小説。第8回日本ケータイ小説大賞大賞を受賞し、2014年3月に単行本として刊行された作品だそうで、加筆修正を加えて、2016年4月に文庫本が刊行されています。

 

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

------------

会えば、もっと悲しくなる。―それでも、君に会いにいく。

高2の女の子・蛍は修学旅行の途中、交通事故に遭い、命を落としてしまう。そして、案内人・クロが現れ、この世に残した未練を3つ解消しなければ、成仏できないと蛍に告げる。蛍は、未練のひとつが5年間片想いしている蓮に告白することだと気づいていた。だが、蓮を前にしてどうしても想いを伝えられない…。蛍の決心の先にあった秘密とは? 予想外のラストに、温かい涙が流れる。

------------ 

主な登場人物は、次のとおりです。

  • 森野 蛍(もりの ほたる):主人公の高校2年生。

  • 大高 蓮(おおたか れん):陸上部。中学校で同じクラスになって以来、蛍が5年間片想いしている相手。

  • 山本 栞(やまもと しおり):同じクラス蛍の親友。

  • クロ:死後の蛍の前に現れた案内人。「クロ」とは、蛍が勝手に付けた呼び名。

  • 福嶋 タキ(ふくしま たき):蛍の母方の祖母。総合病院に入院している。

  • 大場 孝夫(おおば たかお):クロが蛍に紹介した霊。未練が解消できない内容のものだったため、自らの選択でこの世界に残り、家族を見守っている。

  • 村松 涼太(むらまつ りょうた):トラックに轢かれて亡くなった保育園児。

  • カクガリ:涼太の担当になった新人の案内人。「カクガリ」は、蛍が勝手に付けた呼び名。

  • 仲山 麻紀子(なかやま まきこ):涼太が通っていた保育園の先生。涼太の死は自分のせいだと自分を責める。

  • 恭子(きょうこ):20年前の津久ヶ丘高校の生徒で、学校の屋上から飛び降り自殺をした少女。未練を解消できず地縛霊となっている。

という感じ。

以下は、多少ネタバレになりますが、簡単なあらすじ、各話の概略を紹介します。

なお、プロローグ、目次の前に1ページ、都立津久ヶ丘高等学校の修学旅行生を乗せたバスが東名高速道路で事故に遭ったニュースが記されています。

プロローグ

バスで修学旅行に行く蛍は、片想いしている蓮への気持ちを気付いている栞に、その気持ちを正直に話すことができず、隠しごとばっかり、こんなの友達じゃない、と怒らせてしまう。その直後、蛍たちが乗ったバスは、交通事故に遭う。

第1章 透明な存在

蛍が目覚めると、案内人だというクロが姿を現し、蛍が交通事故で死んだことを告げ、1ヶ月も寝ていたから時間がないと、蛍を外に連れ出す。

クロは、あっちの世界に行くには49日間で3つの未練を解消しなければならず、あと19日しか時間がないことを説明し、蛍を1人目の祖母のところに連れていく。バスを降りた蛍は祖母が入院しているはずの病院に向かうが、竹本トシと名乗る老婦人に出会い、自分のことが見えていることに興奮する蛍は、言われるがままに屋上についていく。

しかし、竹本は地縛霊で、蛍は精気を吸い取られてしまうが、危ういところでクロに助けられる。

第2章 触れては消える

竹本に精気を吸い取られた蛍は、その後1週間寝込んでしまい、残る時間は12日になってしまう。回復した蛍は再び病院に行くが、祖母はおらず、退院したのではと自宅に向かうと、祖母がいた。抱きつき泣く蛍。祖母は蛍に小さい頃に蛍がほしがっていた手鏡を渡す。

未練は解消したが、永遠の別れが訪れてしまうことに、かえって悲しくなった蛍は、通っていた高校を訪れ、蓮との思い出を回想する。

蓮に会いたいと心の底から思っているが、まだその勇気が出ない蛍に、クロは、蛍を栞の家に連れていく。栞と対面するが、動転した栞は走って逃げ出してしまう。クロもそれを追いかけ、蛍もその後を追うが、再び地縛霊に遭遇し、クロに助けられる。

クロは、未練が解消できなくても地縛霊になるとは限らないと、蛍を孝夫に会わせる。孝夫は、その未練が、幼い子の成長を見守りたいという叶わない内容だったため、そのままの姿で霊として居座ることを選んだことを話す。

栞を探すクロと蛍。クロは大きな公園にいた栞を見つけ、蛍は栞と会う。2人は互いの気持ちを打ち明け、抱き締めて泣く。

第3章 きっと、泣くでしょう

栞との未練解消から4日が経ったが、蓮に会いにいく決心がつかない蛍。そんなとき、蛍は涼太とカクガリに出会う。

何が未練かもわからず手を焼くカクガリに、蛍は涼太に話しかけ、未練解消を手伝うことにする。保育園に行ってみるが、未練の相手がいるような兆候は見られない。

蛍たちは、涼太が慕っており、涼太が死んだ後、ずっと保育園を休んでいる麻紀子の家を訪れる。部屋で麻紀子はひたすら涙を落していたが、未練の相手らしい兆候はない。そこに訪問してきた涼太の母親は、自分が涼太に声を掛けたため涼太が道に飛び出してトラックに轢かれたと自分を責める麻紀子に、自分を責めるのはやめましょう、と元気づける。蛍が涼太に最後に何を思ったか尋ねると、涼太は走り出す。涼太が向かったのは保育園のウサギ小屋で、赤ちゃんウサギのことを涼太は心配していたのだった。涼太の未練は解消され、成仏していく。

第4章 蛍の光

それからさらに日が過ぎ、未練解消の残り時間はあと3日となっていた。蓮に会う決心がつかないまま、学校の屋上に行った蛍は、恭子と出会う。恭子は、同級生の彼と交際して妊娠し、中絶したが、彼は自分を避けるようになり、屋上から飛び降りて自殺したこと、未練は、彼を殺すことだったが、彼が悔やんで泣いているのを見て、殺せなくなり、地縛霊となったことを話し、一番罪深いのは自分で、自ら死を選んではいけなかったと言う。

そこにクロが姿を現し、今日で死んで20年が経つ、20年は時効に当たると恭子を解放し、恭子は光となって消えていく。恭子の話を聞いて決心がついた蛍は、屋上から下りて蓮に会いに行く。

蛍が蓮が立っているトラックに足を踏み入れ、蓮、と名前を呼ぶと、蓮は、笑った顔で、会いに来てくれてありがとうと言い、最初の出会いの思い出話をした後、蛍を強く抱きしめ、蛍も蓮を抱きしめる。蓮は蛍にずっと好きだったと告白し、蛍が私も好きだったと言うと、短くキスをし、ありがとうと言って駆け出し、姿を消してしまう。あっけない別れに、蛍は声をあげて泣く。

エピローグ

3つの未練を解消し、あっちの世界に行く覚悟がついた蛍に、クロは思ってもいなかったことを告げる。蛍はまだ死んでおらず、意識不明のまま生きていること、未練を解消したから生きるか死ぬか選択できること。蛍は、生きることを選ぶ。

さらにクロは、蛍ではなく、祖母、栞、蓮が死んでいて、本当は3人が未練解消をしていたことを打ち明ける。蛍の記憶はフラッシュバックし、交通事故の時、蓮が自分を抱きしめて守ってくれたことを思い出す。蓮が死んだのは自分のせいだと思う蛍に、蓮は大好きな蛍を守れて満足していると言い、3人は蛍を励まし、別れを告げる。病室で意識を取り戻した蛍は、みんなの分もしっかり生きる、と決意する。

 

(ここまで)

死後に、四十九日の間に未練を解消できれば成仏でき、できなかったら地縛霊になってしまう、という設定は、正直安易さも感じましたが、そこで描かれるのは、心温まる物語で、最後は主人公は亡くなった身近な3人と別れることになるわけですが、前向きになれる作品でした。続編も出ているようなので、機会があれば続けて読んでみようと思います。