鷺の停車場

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テレビアニメ「薬屋のひとりごと」⑥第21話~第24話

2023年秋クールで日本テレビで放送が始まった「薬屋のひとりごと」、今回は1月6日(土)から始まった第2クールの最後、第21話から第24話までを紹介します。kusuriyanohitorigoto.jp


2011年10月から小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、2014年から主婦の友社の「ヒーロー文庫」で文庫本が刊行されている日向夏さんの同名ライトノベルを原作にアニメ化した作品で、主要スタッフは、キャラクター原案:しのとうこ、監督・シリーズ構成:長沼 範裕、キャラクターデザイン:中谷 友紀子、アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLMなど。

繰り返しになりますが、公式サイトで紹介されている主要登場人物・キャストは、次のとおりです。< >内が、第21話から第24話までの中でそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。

  • 猫猫(マオマオ)【悠木 碧】:花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働きをしている。毒と薬に異常に執着を持つ。元来の好奇心と正義感から、とある事件に関わったことで運命が一変する。<第21~24話>

  • 壬氏(ジンシ)【大塚 剛央】:後宮で強い権力を持つ宦官。もし女性だったら傾国と言われるほどの美形。とある事件をきっかけに猫猫の「実力」に気づき、皇帝の寵妃の侍女に抜擢する。<第21~24話>

  • 高順(ガオシュン)【小西 克幸】:壬氏のお目付け役の武官。マメで気が利き仕事ができ、信頼が厚い。猫猫曰く「癒し系」。後宮では壬氏同様、宦官として任務にあたる。<第21~24話>

  • 玉葉(ギョクヨウヒ)【種﨑 敦美】:最も皇帝の寵愛を受けていると言われる上級妃・四夫人の一人「貴妃」。ある事件をきっかけに猫猫を侍女に迎える。<第22・24話>

  • 梨花(リファヒ)【石川 由依】:現帝の妃で四夫人の一人「賢妃」。後宮内で噂される「呪い」で御子を亡くし、自らも病に伏してしまっている。病のためやつれているが、本来は玉葉妃とは対象的な雰囲気の凛とした妃。<第22話>

  • 里樹妃(リーシュヒ)【木野 日菜】:現帝の四夫人の一人「徳妃」。幼い故に自身の振る舞いはもちろん、後宮の風習やしきたりの知識が浅い。そのため侍女たちからも軽んじられてしまっている。(第21~24話には登場しません)

  • 楼蘭(ロウランヒ):阿多妃の後に入内した四夫人の一人で「淑妃」。毎日のように髪型や化粧、雰囲気が変わるため、「変わり者」と言われ、後宮の噂の的となっている。父は先帝の時代からの重臣・子昌。(第22話で話すシーンもありますが、キャストは明かされていません)

  • 阿多妃(アードゥオヒ)【甲斐田 裕子】:現帝最初の妃で「淑妃」であったが、新たな「淑妃」楼蘭妃と入れ替わる形で後宮を去った。中世的な雰囲気で、男装の麗人のような振る舞いが後宮で人気を誇っていた。(第21~24話には登場しません)

  • 小蘭(シャオラン)【久野 美咲】:後宮の下女で猫猫と仲が良い。噂好きでおしゃべり。学はないが向上心を持つ一面も。<第22話>

  • 李白(リハク)赤羽根 健治】:若い武官で猫猫曰く出世株。武官らしく鍛え上げられた肉体を持つ。お人よしだが、自分の信念を貫く真っ直ぐな性格の持ち主。<第21話>

  • 翠苓(スイレイ)【名塚 佳織】:外廷で働いている、薬草に詳しい謎の官女。猫猫の実力を試すような言動をしているが…(第21~24話には登場しません)

  • 羅漢ラカン【桐本 拓哉】:軍部の高官でまわりから軍師などと呼ばれている。とても胡散臭いが、その慧眼・采配により、今の地位に上り詰めた。壬氏に無理難題を吹っ掛けてくるが、その真意は不明。興味のあるものは囲碁象棋と噂話。<第21~24話>

以上の12人のほか、第21話から第24話までに登場する個別に名前などが付けられているキャラクターとして、次のような人物がいます。< >内がそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。

  • 羅門(ルオメン)【家中 宏】:猫猫が「おやじ」と呼んで慕う養父。かつて後宮医官を務めていたが、追放された過去があり、今は花街で薬屋をしている。<第23・24話>

  • 紅娘(ホンニャン)【豊口 めぐみ】:玉葉妃の侍女頭。<第21・22・24話>

  • 桜花(インファ)【引坂 理絵】:玉葉妃の侍女。<第22・24話>

  • 貴園(グイエン)【田中 貴子】:玉葉妃の侍女。<第22・24話>

  • 愛藍(アイラン)【石井 未紗】:玉葉妃の侍女。<第22・24話>

  • 鳳仙(フォンシェン)【桑島 法子】:緑青館の妓女。梅毒を患い、離れで寝たきりになっている。<第23・24話>

  • 梅梅(メイメイ)【潘 めぐみ】:緑青館の三姫と言われる妓女。幼いころは鳳仙に禿として付いていた。<第23・24話>

  • 白鈴(パイリン)【小清水 亜美】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第21話>
  • やり手婆【斉藤 貴美子】:老舗の高級妓楼「緑青館」の女主人。昔は緑青館きっての妓女だったらしい。<第23・24話>

  • 皇帝【遠藤 大智】:現帝。<第22話>

  • 太后能登 麻美子】:先帝の后で現帝の母親。<第22話>

  • やぶ医者【かぬか 光明】:後宮医官を務める宦官。<第21話>

  • 陸孫(リクソン)【内山 昂輝】:羅漢の副官。<第21話>

  • 子昌(シショウ)【チョー】:楼蘭妃の父で、先の皇太后に気に入られていた重鎮。<第22話>

  • 羅漢 父【二又 一成】:羅漢の父。軍部の上司でもあった。<第23話>

  • 水蓮スイレン【土井 美加】:壬氏の侍女。<第24話>
  • 馬閃(バセン)【橘 龍丸】:高順の息子の武官で、壬氏とは幼なじみ。<第24話>

各話ごとのあらすじは、次のとおりです。< >内が公式サイトのストーリーで紹介されている内容になります。

#21『身請け作戦』

玉葉妃が再び懐妊した可能性があり、猫猫は翡翠宮で毒見役をすることになった。医局でやぶ医者に会った帰りに李白に呼び出された猫猫は、彼に紹介した緑青館の白鈴を身請けしたいと相談された。三姫のだれかが身請されるという噂を聞いて、白鈴に想いを寄せる李白は気が気でなく、思い悩んでいた。すると猫猫は、彼に服を脱いで裸になれと言い出す。>

緑青館の三姫のだれかが身請けされるという噂を耳にした李白は、武術の稽古にも身が入らない。

翡翠宮で毒見以外にやることがない猫猫は、前々から管理がずさんだと思っていた医局に掃除道具を持って訪れ、宮廷の医局では薬の管理が不十分だったことで減給の罰を受けた医官もいる、とやぶ医者を脅して掃除を始める。

掃除が一段落した休憩時、やぶ医者は甘い物を出してくれるが、その下に敷かれた紙を見た猫猫が、いい紙を使っていますね、と言うと、やぶ医者は、実家が村をまとめて作っていて宮廷に納めている御用達だ、と自慢するが、昔は作れば作るほど儲けられたが、先帝の母が木の伐採を禁じてからはだめになり、先立つものがなくて姉は後宮に行って、妹まで行くと言うから代わりに自分が後宮に来た、なり手が少ない宦官の方が高く売れたから、でも姉とは会えずじまいだったと昔話をし、それを聞いた猫猫は、思ったより苦労しているんだな、と思う。

そのころ、李白は身請けの噂話を耳にしてから、白鈴を想ってひとり悶々としていた。

日が変わって、猫猫が掃除の続きをするため医局を訪れると、やぶ医者は浮かない顔をしていた。妹から手紙でうちの紙が御用達でなくなるかもしれないと知らされたという。それが書かれた紙は、確かにがさがさしていて宮廷に卸せる品質ではなかった。狼狽えるやぶ医者に事情を聞くと、力仕事を牛に任せるようになった、材料も工程も昔から変えていないと言う。猫猫がその昔ながらの工程について尋ねると、やぶ医者は、普通の紙づくりと一緒だが、材料を砕く方法と糊作りにこだわっていて、糊が適度に固まるように湧き水を汲みおいていると話す。

それを聞いて閃いた猫猫は、葛を入れた湯飲みにお湯を注いで葛湯をやぶ医者に出し、飲みやすくする方法を教える、と言って、舐めた匙で湯飲みをかき混ぜるのを何回か繰り返す。やぶ医者がそれを真似すると、とろみがなくなってくる。やぶ医者は、唾液を混ぜたら糊もどろどろじゃなくなるのかな、と言ってポカンとする。察しの悪いやぶ医者に呆れながら、猫猫は、牛は口の中にたくさん唾液をためていますよね、念のためどこで水を飲んでいるか確かめてはいかがでしょうか、と言うと、それでようやく気付いたやぶ医者は、慌てて妹に手紙を出さないと、と急ぎ、猫猫は掃除は諦めて翡翠宮に帰る。

猫猫が翡翠宮に戻ると、紅娘からすぐに来てくれと連絡があったと知らされる。その場所に行った猫猫に、待っていた李白は、怖い顔をして、妓女の身請け金はいくらくらいだ?と尋ね、緑青館に行った際に三姫の1人が見請けされると聞いたと話す。猫猫は、相場は時価なのであくまで目安ということで、と釘をさしてから少し考え、白鈴が身請けされるとしたら古い馴染みで候補が2人、1人は交易商の大旦那で緑青館が傾いたときも通ってくれた好々爺、もう1人はお得意の上級役人でまだ若く30過ぎ、夜の遊戯の相手としてなかなか馬が合うそうだが、翌日少し疲れているのが気になる、と話す。

そこまで語った猫猫は、養父に引き取られるまで白鈴は母に近い存在だった、色欲の強い女だがそれと同じくらい母性を持った女だ、李白は白鈴の仕事を十分に理解した上で惚れている、多少駄犬ぽいが根は真面目そうだし女のために出世しようという愛すべきところもある、何より体力は絶倫、身請け先としては悪くない、と思いをめぐらす。

その先の話が気になる李白に猫猫は、お給金はいくら貰っていますか?と尋ねる。李白の反応から銀千枚くらいと踏んだ猫猫は、安い妓女なら400だが、緑青館の三姫の1人となれば少なくとも一万はほしいところだ、と言うと、李白の表情は強張り落ち込むが、仮に一万集めてきたとして身請けができると思うか?と言葉を絞り出す。仕方ないなあ、と思う猫猫は、李白を立たせて服を脱がせてポーズをとってもらい、その鍛えられた体躯を観察する。これはいけるかも、と思った猫猫が、最後の1枚の下着を脱いでもらおうとしたところに、高順を連れた壬氏が入ってきて、お前ら一体何をやっている、と顔に青筋を立てる。李白の顔は蒼白になるが、猫猫は、ごきげんよう、壬氏さま、と笑顔で返事する。

李白が立ち去った後、猫猫はその部屋で正座させられ、何をやっていた、と問い詰められる。美人は怒ると怖いなあと思いながら、猫猫は、呼び出しに応じて相談を受けていた、やましいことはない、見ていただけだ、好みの身体か調べるには実物を確認するのが一番、と答える。猫猫が自分の好みの身体か調べていたと誤解した壬氏は動揺して狼狽えるが、さらに猫猫は、見た目は人間の一要素にすぎないが、好みであるに越したことはない、と話し、実に均整の取れた肉体、毎日訓練を欠かさない真面目な方と見受けられ、武官の中でもかなり腕が立つ方ではないでしょうか、と李白を褒める。

私の身体を見ても同じようにわかるか?と問う壬氏に、李白に嫉妬しているのか、自分の方が美しいと誇示したいなんて、と思う猫猫だったが、壬氏の身体を見たところで何の意味もない、残念ながら小姐とは合わないと思いますので、と答え、壬氏はそこでようやく自分の誤解に気付く。

李白は、壬氏から呼び出される。壬氏は麗しい笑顔を浮かべて、君は意中の相手がいるようだね、身請け金を私が肩代わりする言ったらどうする、と言い出す。思ってもいない話に、李白は、テーブルを叩いて立ち上がる。壬氏は、うちの猫はかなり警戒心が強いが、君の相談を受け、なおかつ姉に等しい人間の伴侶としてどうかなどと考えている、都で武官になるというのは苦労したのではないか、と話す。李白は、自分を買ってくれるのは正直うれしいが、ここで受け取るわけにはいかない、貴方にとっては妓女の1人かもしれないが、私にとってはたった1人の女、妻として迎えたい女を自分で稼いだ金で請けずして男と言えようか、とその申し出を断ると、壬氏はさらに表情が柔らかくなって、それは失礼した、今後話をしたいことがあるかもしれないが、よろしく、と言って帰っていく。

帰り道、壬氏は高順は、心配なかったな、と話す。一方の李白は、いったい何だったんだと腰を下ろし、次の修練でちょっといいところを見せるか、それとも仕事を増やしてもらうか、と考えるが、それよりも、いつ会えるかわからない女に文を送ろう、一方的に迎えに行くのではなく彼女の意志も聞こう、それを信じて日々の糧にしようと心に決め、鍛錬に励む。

一方、猫猫には白鈴から文の返事が届いていた。やりて婆さんはいろいろ言っているが自分はまだまだ現役、それにいつかどこかの公子が迎えに来るのを待っている、と書かれた文を読み、猫猫は、そんな感じはしていた、白鈴に気に入られさえすれば身請け金は銀一万も必要ない、あとは運次第、と思う。そしてさらに、あの人が来て身請けの話をしていたから禿が勘違いしたのだと思う、と文には書かれていた。それが羅漢のことだと分かった猫猫は、文を閉じるのだった。

そんなころ、宮廷では、副官の陸孫が探していた羅漢を見つけ、会議が始まりますよ、と声を掛ける。すると羅漢は、青い薔薇、と呟き、フッと笑うのだった。

 

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「十六話 紙」、「十七話 身請け作戦」に対応する部分になっています。

#22『青い薔薇』

玉葉妃の妊娠が確かなものとなり、翡翠宮で穏やかな日々を過ごす猫猫。そんなある日、壬氏から次の園遊会で青い薔薇が必要になったと相談された猫猫は、羅漢がその難題を画策したことに気づき、負けるものかと、青い薔薇を咲かせることに挑戦する。園遊会が迫る中悪戦苦闘する猫猫だが、季節外れなので薔薇は蕾すらつけてくれない。>

春の芽吹きを感じる頃、玉葉妃の妊娠が確かなものとなっていた。翡翠宮で過ごす猫猫は、鈴麗(リンリー)公主(ひめ)玉葉妃のお腹に顔を当ててにっこり笑うのを見て、わかるのか?と思う。侍女たちも、可愛い~、と公主を愛しみ、紅娘は、私もそろそろ、と顔を赤らめるが、猫猫は、縁談が持ち込まれても全力で引き止められるだろう、有能すぎるのも困りものだと思う。

毎日が充実していると日が経つのが早い、壬氏の棟にいた2ヶ月は無駄に長かったのに、と思う猫猫は、公主の相手をするようになっていたが、毒茸の絵を描いて教えると、紅娘に取り上げられ、普通の花を描きなさい、と注意されるのだった。

そのころ、壬氏は、またも執務室にやってきた羅漢に、かつて宮中では青い薔薇をよく生けていた、また愛でたいものだ、何とかならないか、来月の園遊会で、と挑発され、引き受けざるを得なくなる。壬氏は高順に国中の花屋を当たらせるが、今は薔薇の季節ではないと報告を受け、困り切った壬氏は猫猫を呼び出す。

疲れ切った顔で相談する壬氏に、来月の園遊会までに用意できるかと頼まれ、薔薇が咲くのは少なくとも2ヶ月以上先だ、と抵抗するが、壬氏に無理難題を押し付けるやり口から、羅漢から持ち掛けられたのだろうと察した猫猫は、やるだけやってみる、とその依頼を引き受ける。猫猫は、逃げているだけも腹立たしい、どうせなら、そのにやけた片眼鏡モノクルをかち割ってやる、と心の中で誓うのだった。

猫猫は、壬氏に頼み、まず、以前おしろいの毒で臥せっていた梨花妃の療養のために水晶宮に作った蒸気風呂を使わせてもらうことにする。

猫猫は、蒸気風呂を温室に改装してもらう。天井から日光を取り入れ、蒸気で室内を暖めた部屋の中で花を育て、開花を早める狙いだった。花瓶を持って足の傷口が開いてしまう猫猫を見て、壬氏は無理は絶対にするなと慌て、高順はお目付け役として小蘭を派遣して手伝わせる。猫猫は、種類はばらけさせ、なるべく早咲きのものを選び、100株以上の鉢を温室に持ち込む。温度調整には細心の注意を払う猫猫は、他人に任せるのは難しいと、夜は自ら薪を燃やして蒸気を温室に送り、晴れた日には外に出して日光を浴びさせる。小蘭は、仕事がさぼれる上、おやつももらえると大喜びで手伝ってくれる。

そんな猫猫たちを、物珍しいのか、怖い物見たさか、水晶宮の侍女たちが遠巻きにジロジロ見ていた。気が散る猫猫は、何か気を逸らせることができればと、花街では当たり前だった爪紅(マニキュア)をすることを思いつく。小蘭にしてみると、小蘭は大喜びし、それを見た侍女たちは自分たちもしてみたくなって立ち去っていく。少しすると、後宮内で爪紅が流行していた。帝の寵愛を受け、流行の最先端である上級妃の梨花妃に勧めてみたのだった。翡翠宮に戻った際に爪紅を見せると、紅娘は非効率だと言うが、他の侍女は興味を示す。玉葉妃の毒見の後、猫猫は紅娘から、今度の園遊会玉葉妃は欠席し、楼蘭妃のお披露目に席を譲る形になると聞かされる。侍女たちは、薔薇の世話でどんどんやつれていく猫猫を心配する。そんな中、ようやく初めて蕾になっている鉢を見つけ、猫猫は、このままいけば何とか咲いてくれるかな、と思いながら眠りに落ちる。

そして園遊会の日、会場に向かう壬氏のところにやってきた猫猫は、壬氏に薔薇の鉢を差し出す。

園遊会が始まり、華やかな装いで入場してくる楼蘭妃は官たちの注目を集める。そこに、父親である高官の子昌が、至らぬ点はないかと声をかけてやってきて、楼蘭妃と帝の前に並ぶ。そこに色とりどりの薔薇の蕾を生けた鉢を持った壬氏が現れ、帝に献上する。壬氏は、自分に向けられる視線を感じ、いくら秀でた容姿があろうと、若造の宦官が出しゃばる様を好むほど、無欲な官ばかりではない、色情や嫉妬は扱いやすい、厄介なのは何を考えているのか分からない目だ、と子昌に視線を向け、楼蘭妃の実父で女帝の寵愛を受けた男で今の帝は頭が上がらない、だからこそこちらも微笑みを絶やさない、と思うが、それに今、子昌よりも厄介なのは羅漢だ、と視線をずらして羅漢を見る。その羅漢は、青い薔薇の蕾を見て、何と嫌味な、と思うのだった。

そのころ、疲れて眠っていた猫猫が目を覚ますと、会場から離れた東屋で桜花に膝枕されていた。桜花は、もう水晶宮に行っちゃだめ、いつもやつれ果てて帰ってくるんだから、と心配される。そこに、一輪の青い薔薇の蕾を持った壬氏が、起きたか、と歩いてくる。猫猫は、難しいですね、開花には至りませんでした、と詫びると、壬氏は、十分だと言い、どうやって青い薔薇を育てたのか尋ねる。猫猫は、染めただけだ、この薔薇はもともと全て白い花で、様々な色水を作って白い蕾に吸わせ、園遊会の間に色落ちしないよう色水が染み込んだ綿を固定したと説明する。

さらに、昔宮廷内で青い薔薇を見たというのは?と尋ねる壬氏に猫猫は、毎日毎日青い色水を薔薇に吸わせる暇人がいたのだろう、と話す。何でそんなことを、と言う壬氏に、さあ、女を口説く道具でも欲しかったのでは、と答える猫猫。壬氏は、猫猫が爪紅をしているのに気づき、珍しいな、と言い、似合いませんけどね、と答える猫猫は、鳳仙花と片喰があればもっと綺麗に染まるのだが、綺麗に染めたところで、これでもまともになったんだけど、と左手の小指を見ながら思う。

そして、同行していた高順に、頼んでいたものは?と尋ねると、高順は、言われたとおりに、と答え、猫猫は、ありがとうございます、と礼を言い、これで舞台は整った、後はいけ好かない奴に一泡吹かせるだけ、とニヤっと笑みを浮かべる。

そのころ、園遊会の会場で退屈そうに舞踊を眺める羅漢は、まさか挑発が失敗に終わるとは、と思う。園遊会の会場を後にする羅漢は、多くの人間の顔は碁石のようにしか見えない、軍部の部下の人間でもせいぜい象棋シャンチーの駒だが、駒に見合った配置をすれば大体の戦は勝てる、自分が無能でも割り当てさえやれば勝手に仕事を終わらせてくれる、と思う。そして、今日はいつも以上に目が痛い、どうにも赤い色がちらつく、と思う羅漢が、女たちが爪紅をしているのを見て、記憶の中の爪紅はけばけばしい赤ではない、うっすら染まった鳳仙花の赤だ、と思い出していると、目の前に爪紅をした猫猫が現れ、ハッとする。猫猫は、仕(シー)、相(シャン)の駒の顔をした男を従え、冷たい目線で自分をにらんでいた。

 

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「十八話 青薔薇」と「十九話 爪紅」の序盤部分に対応する部分になっています。

#23『鳳仙花と片喰』

<青い薔薇を完成させた猫猫だが、ついに実の父、羅漢と対峙することに。軍師であり象棋も得意な羅漢に、猫猫は条件付きの象棋の勝負を申し込む。その条件とは、猫猫が勝ったら羅漢は緑青館の妓女を身請けすること。勝負の行方にハラハラする壬氏と高順が見守る中、勝利を重ねる羅漢だが、“毒”を仕込んだ酒を用意した猫猫の作戦は……。>

緑青館で、離れの窓を開けて太陽をまぶしそうに見上げる梅梅。寝台では、鳳仙がわらべ歌を口ずさみながら、碁石のような黒と白のおはじきを布団の上に並べていた。

一方、宮廷での園遊会が終わった後、羅漢の目の前に現れた猫猫は、象棋シャンチーの駒が入った木箱を差し出し、お相手できないでしょうか、と誘う。喜ぶ羅漢は、断る理由などなかろう、可愛い娘の頼みとあらば、と二つ返事でそれに応じる。
そして、東屋に象棋の盤と駒を用意した猫猫は、勝負は変則なしの5局勝負で先に3勝したほうが勝ちだと言い、羅漢が勝てば猫猫は羅漢の子になる、猫猫が勝てば羅漢が緑青館の妓女を1人身請けするとのルールを決める。さらに猫猫は、蒸留酒を5つの杯に均等に注ぎ、袖から何やら液体の入った小瓶を取り出す。それはなんだい?と尋ねる羅漢に猫猫は、少しなら薬です、3口も飲めば猛毒になりますけど、と言い、小瓶の液体を5つの杯のうちの3つに注ぎ、5つの杯を入れ替えて、どれに入れたか分からないようにする。そして猫猫は、勝負1回ごとに勝った方が1つ選び、負けた者がそれを一息に飲む、そして、たとえどんな理由があろうとも試合を放棄したら負けということでお願いします、と言い、羅漢も、一瞬考えた後、かまわないよ、と応じる。壬氏は、これは揺さぶりか、確かに普通の相手なら怯むかもしれない、しかし相手は奇人と言われる軍師、ただの揺さぶりで心乱れるとは思えない、一体何を考えているんだ、と猫猫の狙いを訝る。
そして勝負が始まる。心底嬉しそうな顔をして戦う羅漢。一方の猫猫は、多少は心得があるのかと思いきや、ルールを知っている程度で実戦の経験はないようで、さっそく2連敗する。壬氏が心配しながら見ていると、猫猫が1勝する。
猫猫は、お情けでも勝ちは勝ちということでいいですね、と確かめるように言い、羅漢は、間違っても娘に毒を勧めるわけにはいかんからね、と応じ、薬というのは味はあるのかい?と尋ねると、猫猫は、一口飲めば嫌な味だと思うでしょうね、と答える。壬氏は、羅漢は2回まで負けることができる、そのうち1つでも味が違えば娘に毒が及ばないとわかる、そのためにわざと負けるとは、やはり抜け目のない男だ、と思う。羅漢が1つの杯を取って飲むと、嫌な味だ、と口にし、壬氏はこれは毒入りだ、猫猫が3杯目に毒を飲む心配はなくなった、それは同時に羅漢がこれ以上負ける必要がないということ、猫猫に勝ち目はない、と思って内心焦る。しかし、羅漢は、それに暑いな、と言うと、顔が真っ赤になった後、血の気が引いて、力なく倒れ込んでしまう。
動揺した壬氏が、これはいったい、と責めたてると、猫猫は平然とした顔で、酒は百薬の長と言いますから、と答え、羅漢を確認した高順も、酔っているだけのようです、と言う。壬氏は開いた口がふさがらない。猫猫は、面倒くさそうに羅漢を起こして水差しを乱暴にその口に突っ込んで水をぐびぐび流し込むと、下戸なんですよ、この人、と言う。壬氏が、さっき入れた液体は?と問うと、猫猫は、アルコールです、と答え、さっさとこの男を運び出して妓楼の花を選ばせましょう、とやる気のない声で言う。

酔って意識を失った羅漢には、古い記憶が蘇る。
生まれたときから人間の区別がつかなかった、父はこれでは役に立たぬと呆れ、名家の長子でありながら、手すさびで覚えた碁と象棋にのめり込み、奔放に生きることができた。要領は悪いが優秀な叔父だけは自分を理解してくれ、顔ではなく声や素振り、体格で人を覚えるんだ、と助言してくれたおかげで、次第に人の顔が駒に見えるようになった。叔父が車の駒に見えたとき、やはり優秀な男なのだと再確認できた。
成長してからは、武の才はないのに家柄のおかげでいきなり長を任されたが、部下を無駄なく使えばおつりがくる。人が駒となる象棋は面白いゲームだった。
そんな中、付き合いで行った妓楼で噂の妓女・鳳仙と対決する。白黒の碁石の中、爪紅を塗ったその指先だけが鮮やかに輝いていた。確かに強いがしょせんは井の中の蛙と思ったが、圧倒的な差で負け、こんなに負けたのはいつ以来だろうと思い、思わず腹を抱えて笑ってしまう。そして妓女を見て、人とはこのような顔をしているのか、と初めて思う。そこには、いつもの碁石ではなく、まるで鳳仙花のような、人を寄せ付けない眼をした顔があった。
それから、ひたすら碁と象棋を繰り返すだけの逢瀬が何年か続いた。妓楼で生まれた鳳仙は、誇りだけを固めたような性格だった。鳳仙は、象棋を打ちながら、母はおりません、私を生んだ女がいます、花街では妓女は母になれませんので、と言っていた。
しかし、才能ある妓女は、ある程度人気者になると売り惜しみが行われる。鳳仙もその1人で、きつ過ぎる対応は万人受けではないが、一部の好事家に受けていたらしく、次第に値が吊り上がり、3月に一度会うのがやっとになってしまう。
久しぶりに妓楼に行くと、鳳仙は、無愛想な顔で爪紅を塗っていた。盆の上には赤い鳳仙花の花と黄色い片喰が置かれていた。片喰は、解毒や虫刺されに効く生薬で、鳳仙花と同じで成熟した実に触れると種がはじけ飛ぶという。それをつまんでいると、鳳仙は、次はいつ来られますか?と尋ねる。また3か月後に、と羅漢が答えると、鳳仙はわかりましたと言うのだった。
鳳仙の見請け話を聞いたのはその頃だった。鳳仙の値は好事家たちの競り合いで吊り上がっていき、武官として出世したものの異母弟に後継ぎの立場を奪われた自分には到底太刀打ちできる額ではなかった。
3月ぶりに羅漢が妓楼を訪れると、鳳仙は、碁盤と象棋の盤の前で、たまには賭けをしませんか、あなたが買てたら好きなものを与えましょう、私が勝てたら好きなものをいただきましょう、お好きな盤を選んでください、と言う。ふと悪いことが頭をよぎるが、碁を選ぶ。鳳仙は、試合に集中したいから、と言って、付いていた禿の梅梅を下がらせ、勝負が始まるが、気づけば手が重なり、そして身体を重ねていた。鳳仙からは甘い言葉も何もなく、自分もそんな柄ではなく、ある意味、似た者同士だった。眠る羅漢の脇で、鳳仙はわらべ歌を口ずさむのだった。
その3か月後、優秀だった叔父が失脚し、叔父と親交があったために、父親からは家を出てしばらく遊学するよう命ぜられ、親であり上司である父には逆らえなかった。同じころ、鳳仙からは見請け話が破談になったと文があり、自分も半年ほどで戻れるだろうとたかをくくっていた。
しかし、戻ってくるまでに3年もかかってしまう。家に戻ると、鳳仙からの文がたくさん届いていた。その中の一通には、小袋に土くれか小枝かよくわからないものが2つ入っていた。それが切られた小指だと理解した羅漢は、大雨の中、慌てて緑青館に走る。全力で走りながら、指切りという呪いが流行っているのは知っていた、身請け話が破談になった原因はあの袋に入っていたもう1つの小さな指、なぜ気づけなかったのか、と悔やむ。
緑青館の前に着いて、鳳仙は?と大声で叫ぶが、そこにいたやり手婆に、鳳仙はもういない、3年も放っておいて今さら何しに来た、価値が落ちた妓女がどうなるかなんて知ったこっちゃないだろう、と罵倒され、箒で何度も思いきり叩かれる。地面に這いつくばって、少し考えればわかったはずだ、身請けの破談の原因は鳳仙の腹、店の名を汚し、信用と価値が地に落ちた妓女がたどる末路は、夜鷹のごとく客を取るしかなかった、と号泣するが、どんなに嘆いたところで時は戻らない、短絡的だった自分が招いたことだった。

羅漢が目を覚して寝台から身を起こすと、緑青館だった。そこに入ってきて、お目覚めですか?と声を掛けたのは梅梅だった。梅梅は、どこぞの貴人の使いの方が連れてきたんですよ、それにしてもひどい顔色、と言い、羅漢は、まさかあんなに強い酒だとは思わなくて、と応じる。梅梅は昔鳳仙のもとで禿をしていた、よく遊んでやった、筋がいいと褒めたらモジモジしていた、と思い出す羅漢は、梅梅が出したお茶を口にして、あまりの苦さに思わず吐き出してしまうが、猫猫が作ったそうですよ、と聞くと、思わず顔がにやけてしまう。そして、こちらの箱も猫猫が、と梅梅が差し出した木箱の中には、枯れた青い薔薇が一輪入っていた。梅梅は、枯らたとしても形を保つことができるのですね、と言い、それをじっと見る羅漢は何かを思う。

一方、馬閃とともに馬車で緑青館をあとにした猫猫は、着物の懐から青い薔薇の蕾を取り出し、それをじっと見るのだった。

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「十九話 爪紅」の後半部分と「二十話 鳳仙花と片喰」の前半部分に対応する部分になっています。

#24『壬氏と猫猫』

<猫猫に負けて、緑青館の妓女を身請けすることになった羅漢。華やかな女たちが並ぶ中、羅漢が梅梅の手を取ろうとした時、彼女が開けた扉から歌声が聞こえてきて……。一方、壬氏の家に呼ばれた猫猫は、羅漢の悩みと猫猫に執着する理由、そして父親に対する複雑な感情を語る。それから数日後の夜、城壁の上で美しく舞う猫猫の姿があった。>

猫猫から渡された枯れた青い薔薇を見つめ、鳳仙を思い出して思いを巡らす羅漢。残った娘とともにいたい、それだけが願いだった、憎まれても仕方がない、それでもそばに置きたかった、しかし、勝負に負けた以上、今回は諦めよう、それにしてもあの男、許せん、腹いせに何をしてやろうか、と思う羅漢。

そこにやり手婆が、ようやくお目覚めかい、と入ってきて、好きなのを選ばせてやるよ、と羅漢を妓楼の広間に案内する。居並ぶ妓女の中には、梅梅もいた。羅漢は、困ったもんだ、どんなに着飾った妓女も碁石にしか見えない、それならば、よくしてくれた梅梅に報いてもいいのかもしれない、と思い、梅梅の方に足を向ける。梅梅は、私とて妓女のプライドは持ち合わせてます、もしお望みでしたら何のためらいもございません、と言って窓に向かい、ですが選ぶならちゃんと選んでくださいね、と言って中庭に面する大窓を開ける。やり手婆は、勝手に開けるんじゃないよ、と怒鳴って閉めようとするが、わらべ歌を歌う声に気づいた羅漢は、目を見開いて歌声のする方に向かって走り出す。

猫猫が渡した薔薇に意味があったとしたら、まさか・・・と思いながら走る羅漢が歌声がする部屋に入ると、鳳仙が寝台の上に座って窓を見ながらわらべ歌を歌っていた。それを見た羅漢の頬には涙が伝っていた。追いついたやり手婆が、なにやってんだい、ここは病人部屋だ、早く出ておいき、と追い出そうとするが、羅漢は、寝台に近づき、この女で頼む、誰だっていいと言ったのは婆のほうだろう、金ならいくらでも出そう、10万でも20万でも払ってやる、と言い切る。なおも文句を言おうとするやりて婆を梅梅が止める。

寝台に座った羅漢は、懐から碁石が入った袋を取り出し、鳳仙の手のひらの上に碁石を置くと、鳳仙は初めて羅漢の方に顔を向ける。梅毒で鼻が欠け、瘦せこけた鳳仙だったが、羅漢には誰よりも美しい女に見えた。羅漢は涙しながら、碁をやろう、と言い、鳳仙の打つ手を見て、そう来たか、君の打つ手はいつも突拍子もない、猫猫はそんな君に似たんだな、と嬉しそうに話す。その様子を見つめる梅梅は、泣き崩れてうずくまり、ねえさん、最初から素直になっていればよかったのに、どうしてもっと早く・・・と嗚咽する。羅漢は、私はこの女を身請けする、鳳仙花のような美しい女を、と心に決める。

一方、緑青館に羅漢を送り届けて、馬閃とともに宮廷に帰ってきた猫猫が、疲れた、と思いながら歩いていると、楼蘭妃と子昌を見かけた馬閃は舌打ちし、腹黒親子め、と呟く。猫猫は、こんなところで高官の悪口を言うのはやめてほしい、誰かに聞かれたら自分も悪口を言っていたと誤解される、まだまだ青いね、と思う。

呼ばれて壬氏邸に行った猫猫は、こんなに痩せちゃって、と心配する水蓮から出された食事を食べ始めると、壬氏は、軍師殿のことをてっきる恨んでいるものと思っていたが、と声を掛ける。猫猫は、恨んではいない、うまく命中させてくれたおかげでここにいるので、と答え、何を想像したか知らないが、妓女の合意がなければ子は孕まない、避妊薬や堕胎剤もあるし、初期であれば流すこともできる、産んだのはその意思があったからだろう、むしろ謀られたのではないか、女とは狡猾な生き物、血の流れの周期を読めば子ができやすい日時などある程度予測がつく、妓女ならば文を出して訪問の日を変えてもらうこともできる、と語り、だからこそ狙いが外れたときは我を忘れたことだろう、自分を傷つけることすら厭わないほどに、それでは飽き足らず、赤子の小指まで添えて文を送った、と思う。

さらに猫猫は、羅漢に執務室以外で話しかけられたことがないか壬氏に尋ね、羅漢は人の顔が分からない、目や口の形は分かるのにそれをまとめて認識できず皆同じような顔に見えるそうだ、と話す。気の毒な奴だな、と壬氏が言うと猫猫は、その話をしてくれた養父も、かわいそうな奴でそのせいでずっと苦しんできたと言っていた、でもなぜか私と養父の顔だけはしっかり分かるみたいで、おかしな執着をするのもそれが原因のようだ、と話し、あのモノクル(片眼鏡)に「パパって呼んで」と言われたらどう思うか?と問う。壬氏が、眼鏡をかち割りたくなるな、と答えると、猫猫は、でしょう、自分を父親だと言い張るが、せいぜい種馬がいいところだ、と言い、あの男は枯れた薔薇の意味に気づいただろうかと思う。そして、嫌いであっても恨んではいない、羅門の娘となれた点だけは感謝している、と話す。
その割には露骨な嫌い方に見えたが?と壬氏が問うと、猫猫は、壬氏はまだあの男のことをよくわかっていない、祭事を止めようとしたとき私は羅漢に助けられた、おそらく何か起きることを感じていたのだろう、私のように証拠を集め予測を立てるのではなく、きな臭そうなことを勘で判断してそれをめったに外さない、腹立たしいことに面倒くさがりで自分で動かない、と言う。そして、もし本人が表立って動いていれば今ごろ蘇りの薬が手元にあったかもしれないと内心悔しがり、これは嫉妬だと分かっている、羅門に手放しでほめられるほどなのに、あの男は自分の恵まれた才を分かっていない、と思い、壬氏に、味方にはできないが敵にしない方がいいだろう、と言う。
ふと高順を見ると、哀愁漂う表情をしていた。どうしたのですか?と猫猫が尋ねると、世の中には好きで嫌われる父親なんていないと思ってください、と言うのだった。

後宮に戻って数日後、梅梅から猫猫に行李が届く。中には、誰が誰に身請けされたか書かれた手紙と、美しいひれが入っていた。猫猫の脳裏には、私が身請けされる時はちゃんと踊るのよ、と微笑む梅梅の顔が浮かぶ。本当は誰よりも優しい梅梅を送りたかった、と思いながら化粧する猫猫。

夜になり、猫猫は後宮の外壁の上に立つ。上着を脱いで束ねていた髪を下ろり、そこに青い薔薇を差し、梅梅から贈られたひれを操りながら舞う猫猫。案外覚えているものだな、と思って振り向くと、衛兵から通報を受けた壬氏がいた。驚いた猫猫は裾を踏んで転び外壁から落ちそうになるが、壬氏がその手を掴んで抱き寄せ、何をやっているんだ、と声を荒げた後、手を猫猫の頭の上に乗せ、手間をかけさせるな、と言う。猫猫が、花街では身請けされた妓女を見送る時に他の妓女が舞を舞う、基本的な教養のひとつとして教わった、と説明する。外ではあの変人が妓女を身請けすると噂になっていた、ついでに休暇届を出された、10日は休むつもりでいるらしい、と壬氏が言うと、猫猫は、手紙には三日三晩どころか七日七晩宴をすると書かれていたと言い、身請け金にいくら使ったか知らないが、行灯の上がりようはそこらの妓女の比ではない、しかし身請けされた妓女は表に出ることはない、緑青館の噂ばかりが大きくなってやり手婆の思うままだ、と思う。壬氏は、それにしても羅漢はいったい誰を身請けしたのか、知っているんだろう?と問うが、猫猫は、どんな美女でも壬氏さまには敵わない、とごまかす。
花街を眺めながら、猫猫は思う。あの男が身請けした女はそんなに長く持つまい。妓楼にいたとき、私を生んだ女の話を聞いたことはなかった。きっとやり手婆が口止めしていたのだろうが、そんな話はちょっとしたことから漏れていく。緑青館がつぶれかけた原因が自分にあること、鼻が欠けたことを恥じて自分を遠ざけていた女が誰であるのか。あの悪夢は本当にあったことだった。女の母たる記憶はなく、今あるのは歪んだ小指だけだ。羅門の娘として幸せになったのだから、もう自分には関係はない。

指の先って切っても伸びてくるのですよ、と壬氏に語りかけた猫猫が、ふと足を見ると、足の傷が開いていた。壬氏の顔は青ざめるが、猫猫はその場で傷を縫おうとする。慌てた壬氏は猫猫を脇に抱えて外壁から飛び降り、猫猫をお姫様抱っこして歩き出す。
壬氏の腕の中で、こんなときに申し訳ないのですが、ずっと言いそびれていたことがありました、としおらしい様子で言う猫猫。その瞳に壬氏がドキドキしていると、猫猫から出た言葉は、牛黄をください、だった。その瞬間、期待が外れた壬氏は猫猫の頭に頭突きを食らわす。猫猫は、大人げない、と思うが、そのほうが話していて気が楽だ、とも思うのだった。

後日、自分の部屋で、身請けのときにもらったを冬虫夏草を出してウハウハしている猫猫は、壬氏が来ていると声を掛けられる。壬氏の前に出ると、壬氏は、面白い話が回ってきた、頼みたいことがある、と言う。またか、と思う猫猫だが、好奇心からニヤッとして、私はいったい何をすればいいのでしょうか、と尋ねるのだった。

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「二十話 鳳仙花と片喰」の後半部分と「終話」に対応する部分になっています。

(ここまで)

 

以上のとおり、第2クールでちょうど原作小説の第2巻までの描いた形となっています。最終話の最後には、2025年に第2期が放送されることがアナウンスされたので、第3巻以降の部分が描かれることになるのでしょう。原作小説は既に15巻まで出ていますので、このペースでアニメ化するとしたら、あと10クール分くらいのストックはある計算になります。そこまで続く可能性は高くないだろうと思いますが、まずは来年の第2期を楽しみに待ちたいと思います。