鷺の停車場

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テレビアニメ「薬屋のひとりごと」⑤第17話~第20話

2023年秋クールで日本テレビで放送が始まった「薬屋のひとりごと」、今回は1月6日(土)から始まった第2クールの中盤、第17話から第20話までを紹介します。kusuriyanohitorigoto.jp

2011年10月から小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、2014年から主婦の友社の「ヒーロー文庫」で文庫本が刊行されている日向夏さんの同名ライトノベルを原作にアニメ化した作品で、主要スタッフは、キャラクター原案:しのとうこ、監督・シリーズ構成:長沼 範裕、キャラクターデザイン:中谷 友紀子、アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLMなど。

繰り返しになりますが、公式サイトで紹介されている主要登場人物・キャストは、次のとおりです。< >内が、第17話から第20話までの中でそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。

  • 猫猫(マオマオ)【悠木 碧】:花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働きをしている。毒と薬に異常に執着を持つ。元来の好奇心と正義感から、とある事件に関わったことで運命が一変する。<第17~20話>

  • 壬氏(ジンシ)【大塚 剛央】:後宮で強い権力を持つ宦官。もし女性だったら傾国と言われるほどの美形。とある事件をきっかけに猫猫の「実力」に気づき、皇帝の寵妃の侍女に抜擢する。<第17~20話>

  • 高順(ガオシュン)【小西 克幸】:壬氏のお目付け役の武官。マメで気が利き仕事ができ、信頼が厚い。猫猫曰く「癒し系」。後宮では壬氏同様、宦官として任務にあたる。<第17~20話>

  • 玉葉(ギョクヨウヒ)【種﨑 敦美】:最も皇帝の寵愛を受けていると言われる上級妃・四夫人の一人「貴妃」。ある事件をきっかけに猫猫を侍女に迎える。<第20話>

  • 梨花(リファヒ)【石川 由依】:現帝の妃で四夫人の一人「賢妃」。後宮内で噂される「呪い」で御子を亡くし、自らも病に伏してしまっている。病のためやつれているが、本来は玉葉妃とは対象的な雰囲気の凛とした妃。(第17~20話には登場しません)

  • 里樹妃(リーシュヒ)【木野 日菜】:現帝の四夫人の一人「徳妃」。幼い故に自身の振る舞いはもちろん、後宮の風習やしきたりの知識が浅い。そのため侍女たちからも軽んじられてしまっている。(第17~20話には登場しません)

  • 楼蘭(ロウランヒ):阿多妃の後に入内した四夫人の一人で「淑妃」。毎日のように髪型や化粧、雰囲気が変わるため、「変わり者」と言われ、後宮の噂の的となっている。父は先帝の時代からの重臣・子昌。(第17~20話には登場しません)

  • 阿多妃(アードゥオヒ)【甲斐田 裕子】:現帝最初の妃で「淑妃」であったが、新たな「淑妃」楼蘭妃と入れ替わる形で後宮を去った。中世的な雰囲気で、男装の麗人のような振る舞いが後宮で人気を誇っていた。(第17~20話には登場しません)

  • 小蘭(シャオラン)【久野 美咲】:後宮の下女で猫猫と仲が良い。噂好きでおしゃべり。学はないが向上心を持つ一面も。(第17~20話には登場しません)

  • 李白(リハク)赤羽根 健治】:若い武官で猫猫曰く出世株。武官らしく鍛え上げられた肉体を持つ。お人よしだが、自分の信念を貫く真っ直ぐな性格の持ち主。<第19・20話>

  • 翠苓(スイレイ)【名塚 佳織】:外廷で働いている、薬草に詳しい謎の官女。猫猫の実力を試すような言動をしているが…<第18・20話>

  • 羅漢ラカン【桐本 拓哉】:軍部の高官でまわりから軍師などと呼ばれている。とても胡散臭いが、その慧眼・采配により、今の地位に上り詰めた。壬氏に無理難題を吹っ掛けてくるが、その真意は不明。興味のあるものは囲碁象棋と噂話。<第17・18・19話>

以上の12人のほか、第17話から第20話までに登場する個別に名前などが付けられているキャラクターとして、次のような人物がいます。< >内がそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。

  • 梅梅(メイメイ)【潘 めぐみ】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第18話>

  • 白鈴(パイリン)【小清水 亜美】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第18話>

  • 女華(ジョカ)【七海 ひろき】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第18話>

  • やり手婆【斉藤 貴美子】:老舗の高級妓楼「緑青館」の女主人。昔は緑青館きっての妓女だったらしい。<第18話>

  • 羅門(ルオメン)【家中 宏】:猫猫が「おやじ」と呼んで慕う養父。かつて後宮医官を務めていたが、追放された過去があり、今は花街で薬屋をしている。<第18・19話>

  • 水蓮スイレン【土井 美加】:壬氏の侍女。<第17・18・20話>

  • 馬閃(バセン)【橘 龍丸】:高順の息子の武官で、壬氏とは幼なじみ。<第17・20話>

  • 鳳仙(フォンシェン)【桑島 法子】:緑青館の妓女。梅毒を患い、離れで寝たきりになっている。<第18話>

  • 紅娘(ホンニャン)【豊口 めぐみ】:玉葉妃の侍女頭。<第20話>

  • 桜花(インファ)【引坂 理絵】:玉葉妃の侍女。<第20話>

  • 貴園(グイエン)【田中 貴子】:玉葉妃の侍女。<第20話>

  • 愛藍(アイラン)【石井 未紗】:玉葉妃の侍女。<第20話>

  • 医官【手塚 ヒロミチ】:猫猫が薬をもらいに行った外廷の医局の医官<第18・20話>

  • 右叫(ウキョウ)【長谷川 芳明】:緑青館の男衆頭。<第18話>

  • 禿【宮白 桃子】:緑青館の禿。<第18話>

  • 屋台のおやじ【内野 孝聡】:街歩きに出た猫猫が串焼きを買った屋台のおやじ。<第17話>

  • 中年飯盛女【大南 友希】:壬氏が向かった飯屋の店頭で客引きをしていた女。<第17話>

各話ごとのあらすじは、次のとおりです。< >内が公式サイトのストーリーで紹介されている内容になります。

#17『街歩き』

<国を滅ぼす原因にもなりそうな美貌の壬氏に、猫猫は化粧で別人に変えてくれと頼まれた。日焼けして見えるようにおしろいを塗り、体にさらしを巻いて不恰好な体型になり、平民の服を着て別人へと変身する壬氏。一仕事終えた猫猫は久しぶりの休みに里帰りを考えるが、水蓮と高順に引き止められて自分も変装することになってしまい、壬氏と共に街を歩くはめになった。>

壬氏に、俺に化粧をしてくれないか、と頼まれた猫猫は、ただでさえ美しい壬氏が化粧などしたら争いが起きると思い、国を滅ぼす気ですか?と思わず口に出る。どうしてそうなる!と反応した壬氏が、お前のおしろいはどうやって作っている?と尋ねる。それを聞いて、くすませる方か、と安心した猫猫が作り方を説明すると、壬氏は、それはすぐできるか?と尋ねる。一晩あればすぐ作れる、使うのは壬氏様ですか?と猫猫が答えると、壬氏は俺を今と全く違う姿の人間にしてくれと頼む。

その夜準備をした猫猫が翌朝に壬氏の私室に行くと、湯あみを終えた壬氏が髪を水蓮に拭かせていた。猫猫は、壬氏様は今日も一日美しのでしょう、と嫌味を言い、本当に別人になりたいとお思いですか?と尋ねる。壬氏が、昨晩からそう言っているだろう、と答えると、猫猫は、こんな上等な香を焚く庶民はいない、妓楼の上客の見分け方はにおいだ、と言う。それを聞いて、壬氏は、羅漢にそういうことはその世界を知る者に聞く方が早いと言われたことを思い出す。猫猫は、高順に臭いの残る使い古しの平民の服を用意してもらい、髪に油と塩を溶かした湯を付けて髪の光沢をなくし、手拭いを壬氏の筋肉質の身体に巻いて不格好な体形に変えてその服を着させる。そして、日焼けした肌にするため化粧を始めるが、壬氏の美しい肌にいたずら心を抱いた猫猫が赤い紅を壬氏の唇に差すと、見ていた高順と水蓮もその美しさに言葉を失い、猫猫は、この3人だけで良かった、もし別の者がいたら大惨事だったと思う。猫猫は、気を取り直して、その紅を拭き取って、顔にまだらやほくろを付け、目の下にくまを、身体の各所にしみを作り、不衛生な手にしていく。その途中、壬氏の手のひらを見て、猫猫は剣術か棒術をやっていると思われる硬いタコができていることに気づく。そして、唇と喉を腫らせて声を変えるために数種の刺激物を混ぜた液体を壬氏に飲ませ、仕上げに、頬に綿を詰める。化粧が終わると、麗しい宦官ではなく、不健康な顔をした平民の男になっていたが、猫猫は、それでも二枚目半くらいに見えるのだから、元の良さには困ったものだと思う。

暇をもらって里帰りすることになっていた猫猫はうきうきして片付けを始めるが、高順から、実家に帰るなら途中まで壬氏と同じ道筋、別人に変装してもいつもと同じ従者を連れていればおかしく思われる、と猫猫を壬氏に同行させようとする。水蓮はわざとらしく頷き、壬氏も乗り気になる。猫猫は、私が付いていても代わり映えしない、部屋付きの下女と知られているし、と逃れようとするが、水蓮に猫猫もいつもと似ても似つかない姿になればいいのよね、と言われ、逃げ場を失う。

馬車に乗って宮廷を出た壬氏と猫猫。そばかすを付けない普通の化粧をし、水蓮の娘が着なくなった服を着て良家の娘風に変装した猫猫は、馬車を下りると、姿勢が美しすぎるとダメ出しをして、壬氏に言われたとおりに「壬華」(じんか)と呼ぶと、居心地が悪い猫猫に対し、壬氏は、そうですね、お嬢様、と目をきらきらさせて答える。その2人には、高順の指示で馬閃がひそかに護衛に付いていた。

壬氏が向かう花街の手前の飯屋に向け歩いていく2人。猫猫は途中の市の露店で、大根を買って鶏を絞めてもらい煮付けようかと考えるが、その格好で買物ですか?と壬氏に止められる。おやじに食わせてやろうと思ったのに、と歩き出した猫猫は、おやじは医師としても薬師としても右に出る者はいないくらい凄いが、損得勘定が欠落している、だから本来食いはぐれることがない仕事なのにあばら家に住んでいると思う。楽しそうに歩く壬氏だが、ムスッとして歩く猫猫に、何で黙っている?と聞く。別に話すことがないから、と冷ややかに答えると、壬氏は衝撃を受けたように情けない顔になる。何かマズイことでも言ったのかと思う猫猫は、屋台で串焼きを2本買い、冷めないうちに食べましょう、と壬氏に渡してへへッと笑顔を見せ、通りから狭い路地に入ってそれを食べる。壬氏は、野営のときのより美味い、塩が効いていると言うが、それを聞いた猫猫は、宦官が武官のことはしないと思っていたが、と疑問に思う。

その頃、壬氏の屋敷に高順が戻ると、水蓮が壬氏の子供時代に遊んでいたおもちゃを片付けていた。水蓮が壬氏の様子を尋ねると、高順はすこぶる上機嫌だったと答える。笑顔を見せた水蓮は、あなたにしては気の利いた提案をした、気に入ったおもちゃがあればそればかりで遊んでいた、こっそり隠すと手が付けられないくらい泣いてしまって、高順が新しいおもちゃを持ってきては、どうにかしようと苦労していた、と思い出話をする。高順は、ひとつのものに執着する、壬氏様はそれが許される立場にありませんから、と言うのだった。

壬氏と別れたらもう一度市に戻って露店で大根と鶏を買おうと思っている猫猫は、待ち合わせなら早めに行った方がいいのでは、と歩を早めるが、壬氏は、さっさと別れたいような口ぶりだな、と不満げに言う。素知らぬ顔をする猫猫に、壬氏は、宮廷の生活も悪くないだろう、花街の生活よりずっといいと思うが、と話しかける。猫猫は、確かに悪くない、自分の意思で出仕しているし、与えられた部屋も綺麗、ただ、1人残された養父がちゃんと生活できているか心配、養父は薬の師だからまだまだ長生きしてもらわないと困る、と答える。よほど有能な薬師のようだな、と壬氏が言うと、漢方のみならず西方の医術にも心得がある、若い頃は西方に留学していたこともあったそうだ、と答える。よほど優秀だったのでは、留学は国に選ばれなければ行けないはずだ、と驚く壬氏に猫猫が、凄い人だ、天は二物を与えずと言うが与えられた人間もいる、と言うと、そんな御仁がなぜ花街で薬屋を?と問う。猫猫は、運だけはない人だからだろう、いくら二物を持っていても、いつもつを取られてしまったから、と答えると、養父が宦官だと知った壬氏は、宦官、薬師、医官…とぶつぶつ言って考え出す。

そうしているうちに、壬氏が知り合いと待ち合わせしているという花街の手前にある飯屋が見えてくる。上が宿屋、下が食堂になっていて、店頭では飯盛女たちが客引きをしていた。それを見て、猫猫はわざわざ変装までしてやってきた理由が分かった、なら花街まで来てくれればいいのにと思う。

壬氏は、緑青館の馴染みには詳しいのか?と尋ねる。猫猫が、派手に立ち回る客であれば、と答えると、さらに、どんな奴がいる?と尋ねる。猫猫が、秘密です、守秘義務があるので、とそっけなく答えると、妓女の価値を下げるにはどうすればいい?と問う。猫猫の表情は一変し、不愉快なことを聞きますね、と言って溜息をついた後、いくらでもある、特に上位の妓女ならば、と言い、緑青館では禿時代に一通りの教育を済ませ、容貌の良い者とそうでない者に分けられる、後者は顔見世が終わるとすぐ客を取り身を売ることになり、見込みのある者は、茶飲みから始まり、教養で客を取って、どんどん値が吊り上がり、身請けまで客に一度も手を付けられないこともあると説明した後、手つかず花だからこそ価値がある、手折ればそれだけで価値は半減する、さらに子を孕ませれば価値などないに等しくなる、と冷ややかに言い放ち、それを聞いた壬氏は愕然とする。

 

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「六話 化粧」の途中から最後まで、「七話 街歩き」と「九話 羅漢」の中盤部分に対応する部分になっています。

#18『羅漢』

<壬氏と街で別れて里帰りした猫猫は、羅門に頼まれて緑青館の離れへと薬を届ける。そこには病に臥せる妓女がいて、猫猫は薬を飲ませつつ、昔の緑青館や当時の妓女たちのことを思い出して物思いにふける。一方、後宮に戻った壬氏は、事あるごとに壬氏に絡み、猫猫に興味を示す軍師の羅漢と話すうちに、猫猫との関係に気づく。>

壬氏に妓女の価値を下げる方法を聞かれて、子を孕ませれば価値などないに等しくなる、と冷ややかに言い放った猫猫。壬氏の待ち合わせ場所である飯屋まで来て、別れようとする猫猫に壬氏は、ここで別れるのかと抗議するが、猫猫は、せっかく変装したのに自分が一緒に入ってはだめでしょうと断り、歩き出し、大丈夫、何の感慨もなく言ってのけた、と思う。振り返ると飯屋に入っていく壬氏の姿が目に入り、今宵はお楽しみくださいませ、と内心思いながら見送る。

羅門が住む実家に帰った猫猫は、翌朝、赤子のころの自分が母親に左手を押さえられ刃物を向けられる悪い夢で目を覚ます。壬氏にあんなことを話したせいか、と思う猫猫に羅門がおはようと声をかける。羅門に、緑青館に行ってくれないかと頼まれ、猫猫が緑青館に行くと、どっちにするんだい、さっさと決めちまいな、と迫るやり手婆さんに白鈴が、その話はもういいじゃない、と言い争っていた。猫猫はそれを横目に離れに向かう。

離れに入ると、病に臥せる鳳仙が寝ていた。猫猫は、昔は毛嫌いされて追い出されたが、もうそんな元気もないか、それともとうに言葉も忘れたか、病が進んで記憶もずたずたに引き裂かれているのだと思う。そして、鳳仙に羅門が処方した薬を飲ませながら、おやじの薬はよく効くが、こうなっては気休めにもならない、それでも与えるしか治療法がわからない、と思う。

そのころ、やり手婆さんは、あの客がまた来ていると報告を受け、溜息をついて、まったく鼻が利くね、と呆れながら、梅梅を呼ぶ。

緑青館は、今でこそ格式ある妓楼だが、10数年前は泥のかかった看板をかけていた時期があった。鳳仙は、その数年間に客をとり、不幸にも梅毒をうつされたが、羅門が緑青館を訪ねたころはちょうど潜伏期間で、病状を伝えていれば対処できただろうに、突然現れた元宦官の羅門を素直に信じるはずもなく、数年後に再び発疹が出始めると、腫瘍がまたたく間に広がり、以来、客の目の届かない離れに押し込められているのだった。猫猫は、使い物にならなくなった妓女はどぶに投げ出されなかっただけ寛容だと思いながら、換気のために窓を開け、香を焚く。すると、鳳仙は鼻が欠けた顔に薄ら笑みを浮かべ、かすれた声でわらべ歌を歌いだす。そこに禿がやってきて、小姐さんに言われてやってきたと言って、あの変な眼鏡の人がいるからこっちには戻らないほうがいいと伝言を伝える。

猫猫は雑巾を絞りながら、ここにいればあの客が来ることはない、緑青館の顧客で古い馴染みのあの男、と思っていると、鳳仙はわらべ歌をやめて、碁石のような黒と白のおはじきを布団の上に何か懐かしむように並べ始める。それを見る猫猫は、莫迦な女、と思う。

夕方になり、部屋の隅に座り込んでいた猫猫に、梅梅があの客は帰ったと知らせに来てくれる。梅梅がその客の相手をしていたのだ。梅梅は、良かった、姐さん今日は具合良さそうね、と鳳仙の掛布団を掛け直して、猫猫にまたあの話が来た、と言う。鳥肌が立つ猫猫が、よく付き合えるね、と言うと梅梅は、おばばも金払いさえ良ければ何も言わないし、と言う。ばばあが私を妓女にしたがるのはそういうことだろう、雇われてなければ今ごろ売り飛ばされていたかも、と言う猫猫に、ほかから見たらまたとない御縁だ、望み望まれを願って叶う妓女がどれだけ少ないか、と言う。

猫猫と一緒に風呂に入る梅梅は、私もそろそろいい齢だしちゃんと考えないとね、と言う。梅梅はまだ三十路前だが、妓女にとってはもう引退の年齢だと思う猫猫が、独立すれば?と言うと、梅梅は、もう少しだけこの仕事を続けると語る。その横顔を見て、複雑な感情があるような気がした猫猫は、梅梅の感情は私にはよくわからない、深く考えたくもない、もしそれが恋というものだとしたら、そんな感情はきっと私を生んだ女の体内に置いてきてしまった、と思うのだった。そんな猫猫に、梅梅は、久しぶりに背中を流そうか、と猫猫を誘う。そこに入ってきた白鈴と女華は、流しっこなんて懐かしい、と表情を緩める。

一方、宮廷に戻った壬氏は、まさか待ち合わせの店が花街のような接待をしていたとは、そんなものを買いに行ったわけではないのに、とため息をつく。

壬氏が入る前に呼吸を整えて、意を決するように猫猫が働く厨房に入ると、壬氏と関わりたくないといった雰囲気で、いそいそと仕事をしていた。壬氏は猫猫を呼び止め、水蓮と飲んでくれ、変人からの土産だ、と羅漢が置いていった果実水が入った瓶を渡す。

そんな猫猫の様子を見ていた水蓮は、今夜は精進料理だから肉や魚をつままないよう伝えた際、変な草を物置に隠すのはダメ、置き場所がないなら壬氏にお願いして余っている部屋を使わせてもらったらどうかと言う。猫猫が貴人の住まう場所を薬棚扱いすることはできない、と固辞すると、水蓮は、貴い生まれだからといって最初から別のものだと思わないで、何がどう転がって人生どうなるかわからない、身分だけでなんでも分けるのはもったいない、と諭す。

そんな水蓮に頼まれ、猫猫は薬をもらいに外廷にある医局を訪れる。薬棚の充実ぶりに興奮した猫猫が医局中を漁りたい気持ちを必死に抑えていると、翠玲が詰所の常備薬をもらいにやってくる。それを聞いて、以前会ったのも軍部の近くだった、薬草の匂いがするのは軍部に勤めているからか、と思う猫猫。薬をもらった翠玲が出て行った後、医官が本来なら官女なんてやらなくていいのに、と呟く。おそらく壬氏のものであろう薬を持ち帰る猫猫は、何の薬だろうと思ってちょっと舐めてみると、芋の粉のような味だった。

屋敷に戻って掃除をする猫猫は、考えてみると壬氏には不可解な点が多い、前日からゆっくり湯浴みをして、香を焚いて出かけた、精進料理もそう、まるで禊だ、宦官も祭祀をやれるのだろうか、高貴な人物であればおかしくないが、それほどの男がなぜ宦官なのか、と考える。

一方の壬氏は、執務室で、猫猫の養父は元宦官で医官だそうだ、と話すと、高順は、元医官に教えを受けたならあの知識も納得がいくが、そんな優秀な医官が宦官にいただろうか、と頭をひねる。

そこに再び羅漢が、前日の話の続きをしよう、と言ってやってくる。猫猫から妓女の価値を下げる方法を聞いた壬氏が、ずいぶんあくどいことをされたようですね、と言葉を投げる。すると羅漢は、とんびには言われたくない、10年以上かけてようやくやり手婆を説得したのに横からかっさらわれた身にもなるといい、と言い返す。壬氏が、油揚げを返せと?と問うと、いや、いくらでも出しましょう、昔と同じ轍は踏みたくない、嫌だと言えば何も言えない、あなたに逆らえるのは片手の指ほどしかいない、と言う。それを聞いた壬氏は、自分の正体に気づいていると感じる。そして羅漢は、ただ「娘」がどう思うか、と言って不敵な笑みを浮かべる。それを聞いた壬氏は、ああ嫌だ、認めたくないが、羅漢は猫猫の実の父親だ、と気付く。羅漢は、不敵な笑みを浮かべ、娘にそのうち会いに行くと伝えてほしいと言って、壬氏の執務室を出て行く。

執務室を出た壬氏は、猫猫を呼び止め、今度お前に会いたいという官がいる、と言い、その名が羅漢であることを明かすと、猫猫はこれまで見たこともない険しい顔になる。それを見て驚いた壬氏が、どうにか断っておくと言うと、猫猫は、ありがとうございます、と頭を下げて仕事に戻っていく。壬氏は、あんな顔は初めて見た、もう二度と見たくない、と思うのだった。

一方の猫猫は、外廷を小走りに移動しながら、やっぱり気づかれていたか、とがっかりしていたが、小高い丘に薬草がたくさん植えられているのに気付く。興奮して近づくと、そこに鎌を持ってやってきた翠苓が声をかける。猫猫は咎められるのではとギクッとするが、翠苓は、非公式の場所だし別に咎めない、ただ医官も知っている場所だからあまり出入りしない方がいい、と忠告する。猫猫がこの場所を任されているのかと尋ねると、さあね、私も好きな物を植えさせてもらっているだけ、と答え、何を植えているのか、との問いに、蘇りの薬、と答える。そんなものが実在するなら喉から手が出るほどほしい、と思った猫猫が摑みかかろうすると、翠玲は、冗談よ、と言い、薬師と聞いたけれどどれほどの腕前なのかしら、と口にする。猫猫が、さあ、と口を濁すと、翠玲は、もう少し先の話だけど、ここに朝顔を植える、と言って帰っていく。

 

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「八話 梅毒」「九話 羅漢」(第17話で描かれた中盤部分を除く)「十話 翠玲」に対応する部分になっています。

#19『偶然か必然か』

<軍師羅漢が猫猫の父親であることを知り、思い悩む壬氏。一方、猫猫は先日のぼや騒ぎに乗じて祭具が盗まれたことを李白から聞く。酒で亡くなった浩然以外にも、祭具の管理者の死亡、海藻の毒に倒れた官僚など、一連の事件に偶然とは言い切れない妙な繋がりを感じた猫猫は、壬氏に相談して、事件の再調査に乗り出す。>

執務室で高順からこの日の予定について午後に中祀があると報告を受ける壬氏は、羅漢の名前を出したときの猫猫の様子を思い出していた。

一方、外廷の回廊を掃除していた猫猫は、走ってやってきた李白に、困ったことが起きた、と話しかけられる。李白は、前に倉庫にボヤが出た日に別の倉庫で盗みがあった、あのときの騒ぎに乗じたとしか考えられない、と言い、祭具が1つじゃなくなくなったが、ちょうど今詳しい管理者がいない、去年死んだらしい、管理者はちょっと前に好物の海藻に当たって食中毒になり意識が戻っておらず仕事に復帰できない状態だと話す。同じ時期にそれらの出来事が起きていることに、偶然にしては不可解だと思う猫猫。李白とさらに話をすると、去年死んだ前の管理者は塩の過剰摂取で死んだ浩然だった。猫猫は、1つ1つは事故にみえるが、もし何かの目的のためにわざと引き起こされたのだとしたら、と考え始める。そして李白から、ボヤになった倉庫で猫猫が拾った象牙の煙管は倉庫番が官女を城外まで送っていったときにお礼にもらったものだったと聞いて、ボヤを起こして警備が薄くなった隙に別の倉庫に忍び込んだ、初めからそれを狙って官女が煙管を渡したしたら、とさらに考える。そして、官女の顔は襟巻をしていて見えなかったが、女にしては上背があって何か薬の匂いがしたそうだ、身長からしてお前じゃないのはわかっているが、心当たりはないか?と聞かれた猫猫は、翠玲が思い浮かぶが、憶測で物を言っちゃいけないよ、という羅門の口癖を思い出し、ほかに何か不可解なことはなかったか尋ねる。を調べたら何かあるのか、と問う李白に猫猫は、何かあるかもしれない、何もないかもしれない、と答える。どっちだよ、と呆れる李白に、猫猫はしゃがみこんで地面に円を3つ重なるように描き、偶然がいくつも重なってやがて必然になったとき、そこにその長身の官女がいたらどうでしょうか?と言うと、李白はなるほど、お前は見た目によらず賢いな、と豪快に猫猫の肩を叩く。ふと猫猫が後ろを振り返ると、僻んだ顔でじっと見ていた壬氏が、楽しそうだな、とうらやましそうに呟き、李白は慌てて去っていく。

壬氏の執務室に行った猫猫は、李白が気になることがあったので話を聞きに来ただけのようだと説明し、壬氏にも関係がないと言い切れないと思った猫猫は、その内容を詳しく話す。話を聞いた壬氏は、妙なつながりがあったものだ、と言い、何があると思う?と猫猫に問う。猫猫は、1つの事件を確実にというより、いくつか罠を仕掛けてどれかが成功すればよいという具合にも見える、と話す。乗り気ではないのか?と尋ねる壬氏に、私は単なる下女なので言われた仕事を行うだけだ、と冷ややかに答えると、壬氏は、ならこういうのはどうだ、交易商人たちのところを回ったとき面白いものが出ていると聞いた、と言って手元の紙に筆で「牛黄」と書いて猫猫に見せる。それは、牛の胆石で、薬の最高級品とされる垂涎の品だった。興奮した猫猫は、思わず壬氏の執務机に詰め寄ってその上に上って身を乗り出す。高順に袖を引っ張られて我に返った猫猫は机を下り、失礼いたしましたと謝り、本当にいただけるのでしょうか?と確認する。壬氏は、仕事次第だ、情報は逐一やろう、と言い、猫猫は、わかりました、壬氏様の思うままに、とその務めを受ける。

猫猫は書庫で宮廷で起きた事故や事件を調べる。食中毒を起こした高官は礼部の者だった。対応してくれた文官に、その高官の官職名を見せ、どんな官職なのか尋ねると、祭事を司っていると答える。猫猫は書き物を持ってきてもらい、偶然が重なり合い、必然が起こる場所があるはずだと、資料を調べて事件の関係者の部署などを書き連ね、手がかりを探す。祭事に興味を示した猫猫に、人のよさそうな文官は、いいものがあると言って、何やら設計図のような書面を持ってきて猫猫に見せる。それは祭事が行われる外廷の西の端にある蒼穹壇の図面だった。文官は、天井に大きな柱をぶら下げており、中央の祭壇の上にはひれが垂れ下がっていて、毎回柱を下ろして祝いの言葉を足していくのだと説明し、以前は礼部にいたが、強度が心配で進言したらここに飛ばされたのだと話す。それを聞いた猫猫は、もし柱を固定する金具が壊れて天井から柱が落ちてきたら、一番危ないのは真下にいる祭事を行う者、やんごとなき方が犠牲になる、どの祭具が盗まれたのか、こんな重要な祭具がなくなれば作り直すはず、と思った瞬間、彫金細工師の3人の息子のことが頭に浮かぶ。何かに思い当たった猫猫は文官に、ここで次に祭事が行われるのはいつかと尋ね、ちょうど今日だと聞いた途端、書庫から飛び出し、蒼穹壇に向かって走る。

猫猫は、予想が正しければこれは長い時間をかけて練られた計画のはず、1つ1つは確実じゃないが、いくつも仕掛けることでどれかが重なり合う、そしてようやくここまで結びついた、予想がもし的中していたとしたら、と頭を整理しながら走る。そして、円形が五重に重なり合った塔を見つけ、門の中に入っていくと、その前には官が並んでいた。猫猫はその間を走り抜け、階段を上って塔に入ろうとするが、武官に止められる。緊急事態だ、命の危険があると訴えても通してもらえず、騒ぎを起こせば祭事を止められないかと思いわざと挑発的な物言いをするが、激高した武官に頬を殴打され、地面に倒れてしまう。ゆっくり身を起こした猫猫は、気を失いそうになりながら、なおも通してもらおうとするが、なお通そうとしない武官に、後ろに控えていた羅漢が、この娘の言うとおりにしたらどうか、私が責任を取る、と声を掛ける。猫猫は、誰がいるのか見なくもない、こんな謀ったようなタイミングで、と嫌な気持ちになるが、今はそんなことを気にしている場合じゃない、声の主が誰かなんてどうでもいいと思い直し、走って祭壇に向かう。

中に入ると、黒い服を着て、独特の冠をつけた男が祭壇の前に立ち、儀式を執り行っていた。祭壇に走る猫猫に、ギシっと音が聞こえる。猫猫が祭壇の前の男に飛び込んで、そのまま引き倒した瞬間、金具が壊れ、大きな音を立てて大きな柱が床に落ちる。

猫猫が、間に合ったと思って自分の足を見ると、柱が落下した際に足を怪我していた。何でこんな状況になっている?と言う声は、壬氏だった。猫猫は、牛黄をいただけますか?と言うが、壬氏は、それどころじゃないだろ、どうしたんだその顔は、と痛々しげに猫猫を見る。どうして壬氏がここにいるのだろうと思う猫猫だったが、先に足を、と言ったところで意識が遠のく。壬氏は、意識を失った猫猫を抱えて、青穹壇を出て歩いていく。外に控えていた羅漢も、階段にじっと立ったままその様子を見送るのだった。

 

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「十一話 偶然か必然か」「十二話 中祀」に対応する部分になっています。

#20『曼荼羅華』

<祭事に乱入して、大怪我を負うも壬氏を救った猫猫は、これまでに起きた祭具の盗難事件や、祭具の管理者の死亡など、祭事にまつわる一連の事件の繋がりを推理する。祭事を執り行っていた壬氏の立場や、意外な人物まで関わっていたこの事件について、そら恐ろしさを感じる猫猫。その一方、ありえない薬の存在を知って驚きを隠せない猫猫だが…。>

大怪我を負って意識を失っていた猫猫が目を覚ますと、豪奢な天蓋があり、白檀の香が焚かれていた。そこが壬氏の寝室であることに気付いた猫猫は、どうしてこんなところに、と思って身を起こすと、そこにやってきた水蓮が、15針も縫ったから無理しちゃだめと言い、医局で寝かせるのも、と壬氏が連れてきたと話す。

水蓮に言われて着替えた猫猫は、いったいどういうことだ!と声を荒げる馬閃、それを止める高順、壬氏を前に、ことの真相を説明する。これは偶然が重なり合った事故、しかし、まるで意図的に偶然が引き寄せられたようだった、そういう意味では、事故でなく事件と言えるだろう、と話し始め、浩然の死、倉庫のボヤと祭具の盗難、それとほぼ同時期の祭具の管理者の食中毒、おそらくそれらは誰かの思惑で起こされた、さらにもう1つ、祭事では祭壇の柱を金属線で釣り上げ床の金具と固定していた、もし事故に見せかけようとするなら要の金具を狙うだろう、盗まれた金具は亡くなった彫金細工師によって作り直された、その金具が熱で壊れるようになっていたとすれば、と説明する。
莫迦か、金属だぞ、そんな程度の熱で、と立ち上がって反論する馬閃に、猫猫は、亡くなった彫金細工師の秘伝の技術を使えば火のそばにあるだけで溶けてしまう、と言い、彫金細工師の家を訪れたときの出来事を思い出した馬閃は矛を収める。
彫金細工師も一味だったのかと疑う壬氏に、猫猫は、いや、何も知らず、これと同じものをあの特殊な金属で作ってくれ、とでも頼まれて金具を作っただけだろう、しかし、祭事で事故が起きれば職人も不審に思う、その前に消してしまえば、依頼人の名も、低温で溶ける金属の技術も闇に葬られ、とても都合が良かっただろう、実際に殺されたのかはわからないが、少なくとも依頼した人物はその技術が何であるか知っていた、と話す。

話し終えた猫猫は、まさかあの場に壬氏がいるとは、こんな大掛かりな事件で命を狙われるに値する人物とは、いったい何者なのか、と思うが、知ったところで面倒になるだけだ、と考えるのをやめる。その頭には、翠玲の姿が浮かぶ。

ほどなくして、猫猫のもとに李白が訪ねてくる。李白は、例の事件に翠玲が関係していたが、死体で見つかった、刑部が部屋に乗り込んだときには、毒をあおって倒れていた、医官による検死で死亡と確認された、翌日には棺に入れたまま火刑に処されると話す。猫猫は他の関係者はいないか尋ねると、李白はいないと答え、これで一件落着だと言って去っていくが、あれだけこまごましたことを全部ひとりでやったとは思えない猫猫は、本当にこれで終わりだろうか、翠玲は自殺するような女だろうかと考える。蘇りの薬、と翠玲が言っていたことが引っかかる。

憶測じゃ駄目だ、断言できない、と思った猫猫は、壬氏の執務室を走って訪ね、検死した医官と死体置き場で話がしたいと頼むが、その顔は好奇心で緩んでいた。

翌日、死体置き場に入る猫猫に壬氏と高順もついてくる。やってきたのは外廷の医局の医官で、その顔はやつれていた。猫猫が、翠玲が飲んだ毒に曼荼羅華が使われていなかったか尋ねると、医官は口を濁す。猫猫は、厩の上の小高い丘に曼荼羅華を植えたのではないか、曼荼羅華は毒性は強いが適量なら麻酔薬として作用する、医局にそれがないとは思えない、と更に問う。医官が、症状から見てその可能性は高いが、特定はできない、と答えると、猫猫は、実際に確かめてみましょう、と言って、高順に用意してもらっていた鍬を手に取り、翠玲の棺の蓋をこじ開ける。すると、中に入っていたのは、翠玲ではなく、別の女性の死体だった。翠玲じゃない?と言って動転する医官は、膝をついて、確かに翠玲だったんだ、脈も心臓も動いてなかった、と口にする。猫猫が、つまり、いいように利用されたのだんですね、毒の正体を解明するために死体を切り刻もうとは考えもしなかった、翠玲もそれを見越していた、と言うと、医官は怒ってつかみかかろうとするが、高順に止められる。さらに続ける猫猫は、翠玲が使ったのは曼荼羅華だけではない、医局の薬の在庫を調べれば、何を使ったかがわかる、と話す。

そこに、壬氏が、遺体が違うというのはどういうことだ、翠玲の遺体はどうなる?と問うと、猫猫は、棺桶を燃やすにしても中身が空だと怪しまれる、新しい棺に死体を入れて持ち込み、すり替えたのだろう、翠玲は自分で歩いて帰ったのだ、人を死んだように見せる薬がある、遠い異国にあるというその薬は人を一度殺し、しばらくの後蘇らせるそうだ、詳しくは分からないが材料に曼荼羅華と河豚毒を使うと聞いた、と話す。

猫猫に頼まれて、高順が空の棺桶を調べると、釘の跡があった。猫猫は、翠玲が入っていたのだろう、助けに来た者が棺桶を開ける頃には息を吹き返し、別の死体が入った棺桶を代わりに置き、業者の恰好に変装して出て行ったのだろうと話す。壬氏は、そんな確証のない方法を使ったのか、と疑うが、猫猫は、どうせ見つかれば死刑になるのだろう、それくらいなら私は喜んで賭ける、ここに遺体がないということは翠玲は賭けに勝ったということ、代わりの死体が燃やされた後なら完全勝利だったはずだが、と話し、そんな真似はさせない、と思う。数々の事件を事故に見せかけた知識、それをやってのける度胸、自分の命を賭けてまで皆を騙そうとしたしたたかさ、こんな人物がさっさとくたばっては面白くない、蘇りの妙薬の作り方を絶対教えてもらう、と思う猫猫は、感情を抑えきれなくなり、生きていたら会いたいですね、と言葉が漏れ、高笑いを上げる。

そのころ、柘榴宮では、楼蘭妃が侍女から何やら耳打ちをされ、一瞬顔色を変える。

一方、壬氏は自室で物思いにふける。結局、翠玲のことは秘密裡に終わらせた、翠玲という官女についても曖昧な点が多い、医官の師が翠玲の後見人だったというが、その師は数年前に翠玲の才能を見抜いて養子にしたというが、それ以前のことはよく分からない、長丁番になりそうだ、と思う壬氏。そこに猫猫を送り届けた高順が帰ってくる。壬氏は、猫猫が心配なのは怪我だけではない、羅漢のこともある、猫猫の父親であるのは確かなようだが、猫猫の態度を見る限り事情があるのだろう、と思う。

翌日に後宮に行く壬氏は、高順が毒見した後にある薬を飲み、洗練された所作、天女の笑み、蜂蜜の声、後宮が現帝のものになった5年前に宦官となった24歳の男、それが壬氏なのだ、壬氏の仮面をかぶると決めてからこうして毎日男でなくす薬を飲み続けている、と思う。そんな壬氏に高順は、そのうち本当に不能になりますよ、と言い、さっさとお手付きを作れと言わんばかりに、早く孫を抱かせてください、と言うのだった。

翌日、柘榴宮の楼蘭妃を訪ね、天女の笑みを浮かべて対応する壬氏は、後宮を周りながら考えをめぐらす。楼蘭妃はかなりの洒落者で髪も化粧もころころ変わる、帝は毎度訪れるたびに誰かわからなくなって混乱し、あまり食指は動かないが、楼蘭妃の父親が先の皇太后に気に入られた重臣で下手に扱うわけにもいかず、10日に一度は通っているという。乗り気でないのは里樹妃も同じで、先帝の幼児趣味を嫌悪している帝は、里樹妃に手を出すつもりはなさそうだ。壬氏は、少女の頃に今の帝を産んだ皇太后は、その十数年後、もう1人子を産んでいる、その際、医官は皇太后に付きっきりになり、何事もなく出産を終えた、だが阿多妃の出産は皇太后の出産と重なったためにないがしろにされ、その結果、阿多妃は子宮を失い、現帝の初めての子も亡くなった、もしその時の子が今生きていれば、と考える壬氏だったが、下らぬ妄想だ、と頭から振り払い、次の子をさっさと作ってしまえばいいのだ、と思う。

壬氏が高順とともに翡翠宮の玉葉妃を訪れると、玉葉妃はけだるそうにしていた。侍女頭の紅娘が他の侍女を遠ざけたところで、玉葉妃は壬氏にあることを打ち明ける。

外廷の自分の屋敷に戻った壬氏は、猫猫に声を掛け、玉葉妃の月経が途絶えているらしいと話し、後宮に行くよう伝える。後宮は男子禁制だから羅漢と顔を合わせることはないだろう、むしろ都合がいいと思う猫猫だったが、壬氏が気を使ってくれたのだろうかとも思う。

久しぶりの後宮生活は、以前と変わらず、猫猫は毒見の毎日を過ごす。玉葉妃の妊娠については、月経が来ていないこと以外はこれといった確証はなかったが、帝は玉葉妃のもとを訪れては娘と遊び、それを見て、単なる好色おやじではないのかもしれないと思う猫猫は、相談役としても心強かった阿多妃がいなくなり、代わりに入内してきたのは宮廷にすら影響を与えかねない変わり者の娘、無下にもできないが、子ができても厄介、頭の痛い話だろう、と思うのだった。

そのころ、緑青館にお茶を飲みに来ていた李白は、禿たちが三姫のうちの1人が身請けされると噂話をしているのを耳に挟む。

 

原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」収載の「十三話 曼荼羅華」「十四話 高順」「十五話 後宮ふたたび」に対応する部分になっています。

(ここまで)

 

この第2クールは、あと4話か5話で終わることになりますが、原作小説の展開をほぼ省略せずに描いているペースで続くとしても、残り五話となっている第2巻の最後までは確実にたどり着くでしょうし、おそらく、第3巻の序盤くらいまでは描かれることになるのだろうと思います。

この続きは改めて。