鷺の停車場

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テレビアニメ「薬屋のひとりごと」③第9話~第12話

2023年秋クールで日本テレビで放送が始まった「薬屋のひとりごと」、前回に続いて、第9話から第12話まで、第1クールの最後までを紹介します。

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2011年10月から小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、2014年から主婦の友社の「ヒーロー文庫」で文庫本が刊行されている日向夏さんの同名ライトノベルを原作にアニメ化した作品で、主要スタッフは、キャラクター原案:しのとうこ、監督・シリーズ構成:長沼 範裕、キャラクターデザイン:中谷 友紀子、アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLMなど。

繰り返しになりますが、公式サイトで紹介されている主要登場人物・キャストは、次のとおりです。< >内が、第9話から第12話までの中でそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。

  • 猫猫(マオマオ)【悠木 碧】:花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働きをしている。毒と薬に異常に執着を持つ。元来の好奇心と正義感から、とある事件に関わったことで運命が一変する。<第9~12話>

  • 壬氏(ジンシ)【大塚 剛央】:後宮で強い権力を持つ宦官。もし女性だったら傾国と言われるほどの美形。とある事件をきっかけに猫猫の「実力」に気づき、皇帝の寵妃の侍女に抜擢する。<第9~12話>

  • 高順(ガオシュン)【小西 克幸】:壬氏のお目付け役の武官。マメで気が利き仕事ができ、信頼が厚い。猫猫曰く「癒し系」。後宮では壬氏同様、宦官として任務にあたる。<第9~12話>

  • 玉葉(ギョクヨウヒ)【種﨑 敦美】:最も皇帝の寵愛を受けていると言われる上級妃・四夫人の一人。ある事件をきっかけに猫猫を侍女に迎える。<第9・10・12話>

  • 梨花(リファヒ)【石川 由依】:現帝の妃で四夫人の一人「賢妃」。後宮内で噂される「呪い」で御子を亡くし、自らも病に伏してしまっている。病のためやつれているが、本来は玉葉妃とは対象的な雰囲気の凛とした妃。(なお、第9~12話には登場しません)

  • 里樹妃(リーシュヒ)【木野 日菜】:現帝の四夫人の一人「徳妃」。幼い故に自身の振る舞いはもちろん、後宮の風習やしきたりの知識が浅い。そのため侍女たちからも軽んじられてしまっている。<第10・11話>

  • 阿多妃(アードゥオヒ)【甲斐田 裕子】:現帝最初の妃で四夫人中最年長の「淑妃」。中性的な雰囲気で、男装の麗人のような振る舞いが後宮内で人気を誇る。里樹妃とは先帝の時代から関わりがある。<第10・11話>

  • 小蘭(シャオラン)【久野 美咲】:後宮の下女で猫猫と仲が良い。噂好きでおしゃべり。学はないが向上心を持つ一面も。<第10・12話>

  • 李白(リハク)赤羽根 健治】:若い武官で猫猫曰く出世株。武官らしく鍛え上げられた肉体を持つ。お人よしだが、自分の信念を貫く真っ直ぐな性格の持ち主。(なお、第9~12話には登場しません)

以上の9人のほか、第9話から第12話までに登場する個別に名前などがついているキャラクターとしては、次のような人物がいます。< >内がそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。

  • 桜花(インファ)【引坂 理絵】:玉葉妃の侍女。<第10話>

  • 愛藍(アイラン)【石井 未紗】:玉葉妃の侍女。<第10話>

  • やぶ医者【かぬか 光明】:後宮医官を務める宦官。<第9話>

  • 羅門(ルオメン)【家中 宏】:猫猫が「おやじ」と呼んで慕う養父。<第9・11・12話>

  • 風明(フォンミン)【日髙 のり子】:阿多妃の侍女頭。<第10・11話>

  • 河南(カナン)【庄司 宇芽香】:里樹妃の毒見役の侍女。<第10・11話>

  • 浩然(コウネン)【後藤 ヒロキ】:50歳代の人柄のいい武人。<第9話>

  • 馬閃(バセン)【橘 龍丸】:高順の息子で、壬氏とは幼なじみ。<第12話>

  • やり手婆【斉藤 貴美子】:老舗の高級妓楼「緑青館」の女主人。昔は緑青館きっての妓女だったらしい。<第12話>

  • 梅梅(メイメイ)【潘 めぐみ】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第12話>

  • 白鈴(パイリン)【小清水 亜美】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第12話>

  • 女華(ジョカ)【七海 ひろき】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第12話>

各話ごとのあらすじは、次のとおりです。< >内が公式サイトのストーリーで紹介されている内容になります。

#9『自殺か他殺か』

<激務に追われる壬氏の元に、ある武官の訃報が届く。死因は仲間うちでの宴会で酒を飲みすぎたこと。だが武官のことをよく知る壬氏は納得できず、酒による死について猫猫に尋ねる。すると猫猫は、武官の食生活と深酒の理由を知り、酒が入っていた酒瓶から本当の死因を推理するのだった。猫猫は人々の死に想いを馳せ、「私は毒殺にしてほしい」と訴える。その真意とは?>

猫猫が里帰りから帰ってきてから、執務室でいじけた様子を見せる壬氏。それを見る高順は、あの日、笑い転げる玉葉妃から事の詳細を聞くのに苦労したことを思い返し、壬氏はどんな想像をしたのだろうか、あれだけ急いで仕事を終わらせて向かうと知らない男と里帰りとは青天の霹靂だったろう、と思いを巡らせる。

その夜、ある男が壬氏の執務室に駆け込んでくる。それは、浩然が亡くなったとの知らせだった。翌日、壬氏は翡翠宮を訪れ玉葉妃にそれを報告するが、侍女頭を別な用事で外させていた壬氏は、同席する猫猫に死因はやはり酒だと思うか、と尋ねる。

玉葉妃のもとを辞した壬氏は猫猫に、浩然は仲間内の宴席で大量に酒をあおったというが、酒に強い浩然が飲みすぎで死ぬとは思えないと話し、瓢箪に入れた宴席で飲まれていた酒の残りを猫猫に出す。久しぶりの酒に喜ぶ猫猫だったが、それを飲むと、甘みのある酒に塩味を付けたような味がする。壬氏は、昔は辛党だったがある時から突然、食事もほとんど甘味にするくらいに大の甘党に変わったと話す。その酒を飲み干した猫猫は、浩然が飲んでいた酒の甕の破片を手に入れるよう壬氏にお願いする。そして、浩然について調査を依頼した猫猫は、その報告書を読んで、やっぱり、とつぶやく。

浩然が飲んでいた酒の甕の破片には、乾いた塩の粒が残っていた。猫猫は、塩は取り過ぎると毒になる、飲んだ酒の量と溶け込んだ塩の量を考えれば、塩が原因であってもおかしくないと話す。それだけ塩辛いものを飲んだら普通は味でわかるのではと訝る壬氏に、猫猫は、浩然の生活習慣について書かれた報告書を示し、浩然はおそらく塩味だけが分からなくなっていた、味覚がなくなる病があると話し、真面目で妻と子どもを早くして流行病で亡くしたことによるストレスが原因だったことを示唆する。
誰が酒瓶に塩を入れたのか、と考える壬氏に、それを調べるのは私の仕事ではない、ただ、酒の席のちょっとした嫌がらせのつもりで気に入らない人間の酒瓶にいたずらを仕掛けたのかもしれない、相手が平気な顔で飲み続けるので気づくまで加えてやろうと思うかもしれない、と言い、ここまできっかけを与えれば犯人を教えたも同然、と内心思う。
そこまで話したところで、壬氏が喪に服していることに気づいた猫猫が尋ねると、壬氏は小さい頃に世話になったと話す。そこで、そうだ、と何かを思い出したように手を叩いた壬氏は、礼だ、と言って酒が入った瓢箪を取り出し、バレないように飲めよ、と猫猫に渡す。ちゃんと仕事してください、サボっているのではと詰め寄る猫猫に壬氏は、酒は20歳になるまで禁止せよという内容の法案があったことを仄めかす。酒が飲めなくなるとショックを受けた猫猫は、それは絶対に通さないでくださいと嘆願するのだった。

翌日、猫猫が医局に行くと、医者を呼びに来る男がやってきて、猫猫はやぶ医者についてその現場に向かう。筵に横たえられていたのは下女の水死体で、外の堀に浮いていたという。検死する立場のやぶ医者は水死体を怖がって猫猫に検死するようにお願いするが、猫猫は死体には触るなと言われていると断る。
そこに、それは意外なことだな、と言って壬氏がやってくる。猫猫は、見慣れた光景だ、花街は一歩裏に入れば無法地帯だ、と言い、薬の師匠に止められている、人間も薬の材料になるからだ、と死体に触ることを止められている理由を話す。猫猫は、羅門から、好奇心旺盛な猫猫は一度でも手を出したら墓荒らしをしかねない、絶対に一線を越えるな、と言われていたのだ。
やぶ医者がいやいや検死をする中、水死体を見る猫猫は、指先は真っ赤、水の中は冷たかっただろう、と思う。

執務室に戻った壬氏は、衛兵の見解では、前日の夜に塀に上り堀に身を投げた投身自殺だと言い、どう思うか猫猫に尋ねる。猫猫は、自殺かどうかは分からないが、少なくとも1人では無理、上るための道具はなかった、芙蓉妃の幽霊騒ぎのときに、城壁をたんねんに調べて回り、職人が利用したと思われる突起を見つけたが、纏足だった女には無理だろうと話す。
それを聞いて、他殺なのか、と問う壬氏に猫猫は、それは分からないが、生きたまま堀に落ちたのは確かだ思う、這い上がるために何度も堀を掻いたのだろう、死体の指先が赤く血に染まっていたと話す。

猫猫は、その部屋の花瓶に生けられた花を眺めながら、私なら自分から命を絶とうとは絶対に思わない、他人から殺されるのも真っ平だ、死んでしまえば薬も毒も試せない、でも、もし自分が死ぬとするなら…と思いをめぐらせる。何を考えている、と声を掛けた壬氏に猫猫は、死ぬならどんな毒にしようかと、と話し出し、人はいつ死ぬか分からない、望まなくても他人の悪意が加わることで不本意な死を遂げることもある、それがいつ訪れるのかは誰にも分からない、と語る。猫猫の脳裏には、後宮に来てから遭遇してきた事件の記憶が蘇る。
そして猫猫は、もし私を処刑する場合は毒殺にしてほしい、自分が何か粗相をした場合に処分を下すのは壬氏さまでしょうから、と突然言い出す。深刻な顔をする壬氏は、なぜそんなことを言い出すのか問うが、猫猫は、それは私が平民だから、些細な失敗で簡単に吹き飛ぶ命だ、と語り、壬氏のもとを辞する。

その後、猫猫は、死んだ下女が園遊会の毒殺騒ぎの場にいたという噂を耳にする。それらしい遺書も見つかり、自殺ということで事件は幕を閉じる。

そして、探させていた腕にやけどを負った者について、2か月も経って判明し、高順は壬氏に報告する。意外と大物でした、と言って高順が報告したのは、柘榴宮で暮らす阿多妃の侍女頭の風明だった。

 

原作小説では、シリーズ第1巻の「薬屋のひとりごと」所収の「二十五話 酒」「二十六話 自他」に対応する部分になっています。

#10『蜂蜜』

園遊会で里樹妃に毒を盛った犯人は、外廷の堀で入水自殺した女官だったという噂が後宮に広がる。しかし、一介の下女が里樹妃を毒殺する理由に疑問を持った壬氏は、猫猫に死んだ女官が仕えていた柘榴宮の調査を命じる。侍女頭の風明に案内され、大掃除を手伝う猫猫。すると、柘榴宮の様子をうかがう里樹妃の姿が見えて、大きな謎を解くきっかけにつながっていく。>

夜、ひとり城壁の上に上り、何かを思って酒を飲む阿多妃。

昼、お茶会で余ったお菓子を小蘭に渡す猫猫は、小蘭から、堀で水死した女官は自殺で柘榴宮の下女で、里樹妃に毒を盛った犯人だという噂だ、阿多妃を上級妃から外して若い妃を輿入れするという噂だったし、と聞かされる。

阿多妃は帝の1歳上の35歳、東宮(皇太子)時代の帝との間に生まれた男児を亡くしている。後宮という制度上仕方ないが、梨花妃や玉葉妃もいつまで寵愛を受けられるかわからない、子をなせなければ意味がない、と猫猫は思う。

そんな中、翡翠宮では里樹妃を招いてお茶会が開かれることになり、猫猫たち玉葉妃の侍女たちは準備に追われる。それは後宮の縮図ともいうべき妃同士の腹の探り合いで、侍女たちも帝が来るときよりも気を遣う。そうした場で、穏やかな会話の中から情報を引き出し、交易の中継地点である実家に送っているという玉葉妃を、猫猫はさすが妃と思う。

お茶会が始まり、玉葉妃は甘いものが好きな里樹妃に蜂蜜で煮た柑橘の皮を振る舞うが、それを見た里樹妃の顔色が変わる。猫猫は、蜂蜜もアレルギーでダメなのかと思うが、後ろに控える侍女たちが、出されたものを食べないなんてまた好き嫌いしてると陰口を囁き合っているのを見て、里樹妃へのいじめがあるのは間違いないと直感する。それを毒見した猫猫は、機転を利かせてこれはダメだと玉葉妃に合図を送り、気付いた玉葉妃は、もう少し漬け込んだ方がいいみたい、とその場をとりなし、違うものを出して里樹妃のピンチを救う。

お茶会が終わると、猫猫はやってきていた壬氏から茶会はどうだったかと声を掛けられ、このお茶会が壬氏の差し金だったのかと直感する。壬氏はさらに、園遊会での毒殺騒ぎの犯人が自殺した柘榴宮の下女だったという噂だが、下女は本当に自殺したと思うかと尋ねる。猫猫はそれを決めるのは自分ではないと答えると、一介の下女が里樹妃の皿に毒を盛る理由は?とさらに壬氏は追及する。猫猫が分かりませんと答えると、壬氏は翌日から柘榴宮に手伝いにいくよう指示する。

翌日、他の2人の下女とともに3日間の手伝いに柘榴宮に向かった猫猫は、屋敷は主の色に染まる、玉葉妃の翡翠宮は家庭的、梨花妃の水晶宮は高潔に洗練されていたが、阿多妃の柘榴宮は無駄がなく品があり実用的だと感じる。侍女頭の風明が出迎え、壬氏から何をしろとも言われていない猫猫はとりあえず働くことにする。そこに通りかかって声を掛けた阿多妃に、一緒に来た2人の下女は目を輝かせて憧れの眼差しを向け、猫猫も華やかさや豊満さはないが中性的な凛々しさがあって美しい、官服を着れば若い文官に間違えそうだと思う一方で、誰かに似ているような気がする。

風明の指示で働き始めた猫猫は、風明が左腕に包帯を巻いているのが目に留まる。翡翠宮もそうだが、柘榴宮の侍女はよく働く。風明は親しみやすく、人を扱う術をよく心得ていると感じる猫猫は、冷え込む夜に寝具を貸してくれる風明に付いていくと、蝋燭から甘い匂いがするのに気付く。

翌日、本当にここに毒殺騒ぎの黒幕がいるのかと思いながら働き出す猫猫。侍女たちは皆働き者で、風明はその筆頭だった。適齢期をとうに過ぎているが、嫁いでいれば良妻になっただろうと思う猫猫は、阿多妃に生涯尽くすことを選んだのであれば、その忠誠心の強さは毒殺を行う理由にもつながる、新たな妃が輿入れしようという今、上級妃の立場が最も危ういのは阿多妃だが、先に他の席が空けば…と考えを巡らす。

そんな中、手伝いに入った部屋には高級品の蜂蜜が入った甕が数多く保存されていた、侍女から風明の実家が養蜂場を営んでいると聞いた猫猫は、前日の蝋燭は蜜蝋だったのだろうと思う。そこに、里樹妃が毒見役の河南を連れて柘榴宮の近くを歩いているのを見かけ、里樹妃が蜂蜜を見て顔色を変えたことを思い出す。

翡翠宮に戻った猫猫は、柘榴宮でのことを壬氏に報告する。くだけた態度でお茶に蜂蜜を入れて飲む壬氏は、もし特別な方法で外部と連絡を取れるとすれば誰だと思う?と質問する。可能性があるとすれば侍女頭の風明ではないか、左の手首に包帯が巻かれていた、以前見つかった炎の色が変わる木簡は袖口が焦げた女物の衣に包まれていた、と答える猫猫は、わざわざ何色もの炎を作るとすれば暗号だ、と思う。猫猫の答えを聞いた壬氏は、まあ及第点だな、と言い、褒美として指につけた蜂蜜を猫猫に舐めさせようとする。嫌悪感から顔色を変えて怯える猫猫、せめてトリカブトの蜜なら割り切れるのに、と思った瞬間、これまでの里樹妃や死んだ下女、風明との出来事が頭に浮かび、蜂蜜、とつぶやく。そこに、私の侍女に何をしている、と怒りを露わにした玉葉妃が姿を現し、壬氏は慌てて逃げていく。残った高順に、猫猫はいくつか確かめたいことがあるとお願いする。

高順に里樹妃の元に連れていってもらった猫猫は、侍女たちが邪魔しようとするのを、文句があるなら直接壬氏に言ってくれとかわして、里樹妃から、赤子の時で覚えていないが蜂蜜で一時は命も危うい状態になったことがあり乳母から食べるなと禁止されていたことを聞く。さらに、風明と面識があるか尋ねると、里樹妃の顔が強張る。

何かに気付いた猫猫は、後宮の昔の出来事を調べる方法はないか高順に尋ね、高順は宮廷の書庫を探すことにする。賢い娘だ、一部変わったところはあるが、知識の深さと冷静さ、理性的に物事を考えて処理する能力は目を見張るものがある、と思いながら書庫を探す高順は、ある資料を見つける。

それは17年前の帝が東宮時代の出来事を記した書物だった。猫猫は、帝と阿多妃の間に男児を1人設けている、先帝と皇太后の子、現帝の弟が生まれたのと同じ時期、帝の東宮時代の子はその1人、妃も阿多妃だけ、帝と阿多妃は乳兄弟…と書かれている内容を読んでいくが、16年前にその男児が死亡し、取り上げた医官羅門が追放されたという記述を目にする。猫猫は、後宮に数多く生えている薬草は自分が昔から使っているものばかり、羅門は花街の薬師にはもったいないほどの医術を持ち、片足の膝の骨を抜かれた元宦官、何となくそんな気がしていた、何やってんだよ、おやじ、と思うのだった。

 

原作小説では、シリーズ第1巻の「薬屋のひとりごと」所収の「二十七話 蜂蜜 其の壱」「二十八話 蜂蜜 其の弐」に対応する部分になっています。

#11『二つを一つに』

後宮の書物によって、養父である羅門と、阿多妃とその息子の身に起こった過去のある事件を知った猫猫。そこで阿多妃の侍女頭の風明を訪ねて皇子の死因を探ろうとするが、敬愛する阿多妃に生涯を捧げて仕える風明は、重大な秘密を抱えていた。そんな彼女の思いを汲んだ猫猫は一計を案じる。>

宮廷の書庫にあった書物で、阿多妃が生んだ男児が死んだことにより当時医官だった養父・羅門が追放されたことを知った猫猫は、文箱を持って柘榴宮に風明を訪ねる。玉葉妃からの文を直接お届けするようにと、と言う猫猫に、風明は阿多妃は茶会に出ていると言うが、猫猫がその箱を開けて中を見せ、風明にお話ししたいことがあると言うと、表情を硬くした風明は、わかったわ、と言って猫猫を中に通す。

猫猫は、通された風明の自室が荷物が整理されているのを見て、やっぱり、と思う。

自分で麺麭を切り、果実の蜂蜜煮をかけて猫猫に振る舞う風明に、猫猫は、いつ引っ越されるのですか、と聞くと風明は、察しがいいのね、と言う。大掃除は表向きの理由、新年の挨拶とともに新しい上級妃を迎えるため、阿多妃はこの宮を去らねばならないのだ。猫猫が、阿多妃はもう子を産めないのですね、と尋ね、沈黙する風明に、出産時に何があったのか更に尋ねる。風明は、あなたには関係のない話、と言うが、猫猫は、関係ない話ではない、出産の場にいたのは自分の養父(ちち)だと言う。それを聞いて立ち上がった風明に、不幸なのは東宮妃だった阿多妃の出産が時の皇后の出産と時期が重なったこと、皇后と天秤にかけた結果阿多妃の出産は後回しにされた、阿多妃が子宮を失ったのはその時ですね、その後阿多妃のもとに生まれた子は幼くして亡くなった、風明は責任を感じているのではないか、当時阿多妃に代わって赤子の世話をしていたのはあなただったはず、と言葉を続ける猫猫。何もかも知っているのね、阿多妃を助けられなかったやぶの娘なのに、と言う風明に、猫猫は自分の推理を話し始める。

赤子の死因はこの間の毒おしろい事件と同じだと思われているが違う、貴女の言うやぶはおしろいを使うのを禁じていたはず、聡明な貴女がそれによって赤子を死なせることはない、と話す猫猫は、本当の死因はこれです、と文箱を開ける。

その中には蜂蜜が入った小瓶と赤い花が入っていた。赤い花を手に、猫猫は、花の中には毒があるものも多くその蜜にも毒性がある、それは知っていても、毒を含まないただの蜂蜜、滋養にいいと与えていた薬が、赤子にとって毒になることは知らなかった、そして阿多妃の子は息絶える、死因は謎として当時医官だった羅門が出産時の処置も含め度重なる失態により後宮を追放された、それから貴女は偶然にも阿多妃の子の死因を知ることとなる、ある人物が蜂蜜が赤子にとって毒になると教えた、阿多妃にだけは自分が子を殺した原因だと知られたくなかった、だから消そうと考えた、その人物こそが里樹妃だと話す。

顔を強張らせる風明に、猫猫はさらに話を続ける。先帝の時代、里樹妃は年上の嫁である阿多妃に懐いていた、阿多妃も里樹妃のことを可愛がっていた、親元から離れた幼い娘ともう子を持つことのできない女性、一種の共依存が生まれていたのかもしれない、そのうちに貴女は里樹妃から赤子のころに蜂蜜を食べて死にかけたと知らさせる、阿多妃にそれを聞かせないために里樹妃を柘榴宮から追い返すようになった、やがて先帝が崩御し、里樹妃は追い返された理由も分からぬまま出家した、しかし、里樹妃は同じ上級妃、阿多妃を追いやる立場として再び後宮に現れ、母親を求めるように何度も阿多妃に会いに来ようとする、子を産めない阿多妃の立場を守るため、そして蜂蜜の件を隠すために、貴方は里樹妃のスープに毒を入れた、と。

真相を言い当てられた風明は、ほしいものは何、何でもいいのよ、と懐柔しようとするが、猫猫はそんなものはありません、それに意味がないことはご自分で分かっているでしょう、とそれを拒む。立ち上がって窓際に歩を進めた風明は、淡々と話し始める。

阿多妃に初めて会ったときからこの方以外に仕えるべき方はいないと感じていた、女でありながらしっかりした意志を持ち、東宮と同じ目線で話せる、心から尊敬していた、親に言われるがままに侍女となった私と比べどれほど衝撃を受けたことか、なのに私は阿多妃の一番大切なものをこの手で奪ってしまった、と口にすると、風明は感情を露わにし、あのとき阿多妃は皆が気に病む必要はない、子は天の命に従ったのだと言ったが、阿多妃が毎夜泣きあかしていることを私は知っていた、と言うと、うずくまり、顔を伏せて嗚咽する。

それを目の当たりにする猫猫は、この16年間どのような思いで仕えたのだろうか、伴侶を持つこともなく、ひたすら阿多妃のために働いていた、私には分からない、そこまで他人を大切に思える心はない、私の話を聞けば壬氏は必ず風明を捕まえる、何があろうと極刑は免れない、賢い風明はすべて分かっているはずだ、と思い、泣き崩れる風明に歩み寄って、私に提案がある、私にできるのは2つあった動機を1つにすることだけ、結果は変わりません、それでも良ければ受け入れてください、と、ある提案をする。

その後、翡翠宮の応接間で壬氏に会った猫猫は、壬氏から、風明が自首してきたが何か知らないか、と聞かれるが、何のことでしょう、何か分かるかと思って調べたが無駄になってしまった、と白を切る。壬氏は、阿多妃が四夫人の座にとどまれるようにするためという動機だが、阿多妃が上級妃を下りることは決定いている、後宮を出た後は南の離宮に住むことになった、もともと決まっていたもので、皇帝の判断だそうだ、と話す。

洗濯のために外に出た猫猫は、あのときの風明への提案は、里樹妃の毒殺と赤子の死の原因の2つの動機を1つにすれば、赤子の死の原因を阿多妃に知られないようにすることはできる、自身の死は免れないが、それが自分にできる最大限だったと振り返る。

阿多妃が後宮を去る前夜、壬氏は阿多妃のもとを訪ねる。一方、眠れない猫猫は、散歩でもしようと外に出て、城壁に登り、物思いに耽る。そこに、男装をした阿多妃が姿を現す。猫猫は恐縮してその場を譲って退去しようとするが、阿多妃は一杯付き合わないか、と猫猫を誘う。
好物の酒に釣られた猫猫に阿多妃は、月見酒を交わしながら、息子がこの手からいなくなってからずっと、私は妃ではなく皇帝の友人だった、いや友人に戻ったのかな、まさか妃になるなんて思わなかった、お情けで飾りの妃をやっていただけ、早く誰かに受け渡したかった、どうしてすがりついていたのだろう、と本音を語る。そして、阿多妃は立ち上がり、水の中は寒かっただろうな、苦しかっただろうな、と口にし、自分の下女が飛び降りた堀へ酒を零し、莫迦だよな、みんな莫迦だ、とつぶやく。そうかもしれません、と返す猫猫。

阿多妃が去った後、猫猫は、何となく分かった、やはりあの下女は自殺だったのだ、阿多妃はそれに気付いていた、風明は自殺に加担していたかもしれない、阿多妃に嫌疑がかからぬように冷たい水の中に沈んだ下女、知られたくない秘密を守り自ら絞首台に上がった風明、阿多妃の意思にかかわらずそのために命をかける者がいる、と思うのだった。

自分も戻ろうと外壁を降りる途中、猫猫は何者かに声をかけられ、思わず足を滑らせてしまう。落ちた先は壬氏の体の上だった。すぐにどこうとする猫猫だったが、壬氏に突然後ろから抱きしめられる。抵抗しても、寒いからやだ、と甘えた声で猫猫を離そうとしない壬氏。壬氏は、家主は俺を酒に誘って飲ませるだけ飲ませた挙げ句、どこかへ出かけてしまった、戻ってきたと思ったら、すっきりしたから帰れと追い出された、とこぼす。壬氏をそんなふうに扱える人間が後宮にもいるのだと猫猫は妙に感心し、落ちた自分を受け止めてくれたのに礼も言わず放せというのは失礼かもしれないと思い直し、壬氏に抵抗するのを止めると、壬氏は涙を流していた。

翌日、後宮を去る阿多妃の見送りに現れた壬氏。2人とも二日酔いの心配はなさそうだと2人を眺める猫猫は、2人が並んだ姿を見て、阿多妃が誰かに似ていると思っていた人は壬氏だったのだと思い当たり、服装を入れ替えたほうがよっぽどお似合いだと思った瞬間、頭の中で何かがひらめき、考えを巡らせ始める。
猫猫は、前夜に阿多妃が「息子がこの手からいなくなってから」と「死んでから」と言っていなかったことに引っかかり、ほぼ同時に生まれた阿多妃の子と皇后の子がもし取り替えられていたとしたら、と考える。皇后のもとに生まれた赤子の方が庇護を受けることを阿多妃は出産のときに身に染みて感じただろう、出産直後の体調では何が正しいのか判断などできなかったかもしれない、しかし、その結果自分の息子が助かったのであれば、それは阿多妃の本望だっただろう、後日赤子が取り替えられたのばれたとして、もしそれが赤子が死んだ後であれば、気付かなかった羅門が片膝の骨を抜かれる刑まで受けたことにも納得がいく、もしそうなら、皇帝の弟が今微妙な立場にあることも、潔いはずの阿多妃が後宮を去らずに上級妃にとどまり続けた理由も分かる、と考える猫猫だったが、実に下らない馬鹿馬鹿しい妄想だ、と考えるのをやめる。

そこに、阿多妃を母親のように慕う里樹妃が走り寄ってきて、彼女を心配する河南もその後を走って追う。里樹妃は阿多妃に追いつく直前に転んでしまい、涙を流すが、そこに歩み寄り、里樹妃に語り掛ける阿多妃の顔は母親のように見えた。

その後、壬氏は、高順から風明の一族と関係者の名簿を渡される。そこに猫猫の名前があるのを見て、どうしたものかと思うのだった。

 

原作小説では、シリーズ第1巻の「薬屋のひとりごと」所収の「二十九話 蜂蜜 其の参」「三十話 阿多妃」に対応する部分になっています。

#12『宦官と妓女』

<風明の一件による処罰は、彼女の親族だけでなく、その関係者にまで及んだ。そこには、猫猫が人さらいに売り飛ばされた商家も含まれていた。後宮に残ることを望む猫猫だったが、口下手が災いして、風明の関係者として解雇されてしまう。花街に戻り、古巣の緑青館で働く猫猫だが、ある夜、白鈴・女華・梅梅の三姫の供として客の待つ屋敷を訪れると、見覚えのある人物がいて……。>

阿多妃の侍女頭で園遊会で里樹妃に毒を持ったことを自首した風明が処刑された後、その親族は財産を奪われ、重さの違いはあるがすべて肉刑に処された。犯行は風明の一存によるものとされ、主の阿多妃には幸い沙汰がなかったが、処罰の対象となる風明の実家やその取引先を含む関係者の名簿が高順から壬氏に示される。後宮内の関係者の子女は80人ほど、後宮にいる2,000人の中ではなかなかの的中率だった。そして、その名簿の中には、猫猫の名前もあった。さらわれて売り飛ばされた先が風明の実家の関係者だったのだ。関係者は解雇されることになっていたが、猫猫を気に入っている壬氏はどうしようかと悩む。

高順は、お望みであれば隠蔽しますが、と進言するが、壬氏は、正しいかどうかは関係なく、自分が言えばそのとおりになる、平民と貴人の区別を付けたがる猫猫は、どんなに嫌な命令でも受け止めるだろう、隠蔽すればこのまま後宮にとどめておける、しかし、それがもし本人の意思に反しているのであれば、どのように受け取られるか、2人の間の亀裂がこれ以上開くのがとても恐ろしい、と考えをめぐらせる。頭を悩ませる壬氏を見て、高順は、都合のよい駒ではなかったのですか?と言う。最初はそうだったが、今の壬氏の思いは変わってきていた。

一方の猫猫は、小蘭から風明の家と取引があった家の娘は全員解雇されるという噂を聞かされる。嫌な予感がする猫猫は、今解雇はかなり困る、李白の後まだ上客を緑青館に送り込めていない、今帰れば確実に売り飛ばされてしまう、と不安になり、その場を駆け出し、前に確認したとき自分の書類上の実家は交易をしている商家になっていた、風明の実家が養蜂農家なら何らかの接点があるかもしれない、と思いながら、壬氏を探して走り回る。

猫猫は、ようやく見つけた壬氏に声を掛け、話があると訴える。私はどうなるのでしょうか、と尋ねる猫猫に壬氏は名簿を見せる。そこに自分の名前があるのを見て、解雇というわけですね、と言う猫猫に壬氏は、どうしたい?と問う。猫猫は、玉葉妃の侍女になってから、毒見もできるし、医局にも出入りできる今の生活をそれなりに気に入っていたが、解雇しないでくださいなどと言える立場ではない、媚びる目をしないようにしなければと思い、私はただの女官です、言われるままに下働きでもまかないでも、毒見役でも、命じられればやります、と言う。内心、多少給金が下がっても文句は言わない、売り飛ばされるまでの時間が稼げれば何とかする、だからクビにしないでくれ、と思う猫猫だったが、直接的な物言いを避けた猫猫の真意は伝わらず、壬氏は、わかった、金は弾もう、と言い、解雇となってしまう。

解雇通知の翌週、猫猫は荷物をまとめ、お世話になった人たちに挨拶に回り、後宮を出て花街へ帰っていく。一方、猫猫がいなくなってひどく落ち込んでいる壬氏に、高順は、いつまでそうしているのか、やはり引き止めれば良かったのでは、と声を掛けるが、壬氏は、何も言うな、と落ち込んだ声で返すだけだった。高順は、まったくもって手間のかかる厄介な主人だ、と思いながら、かつて猫猫の身元引受人になった李白を訪ねる。

壬氏が金を弾んでくれたことで売り飛ばされずに済んだ猫猫は、羅門のもとに戻って薬屋の仕事に戻っていたが、三姫の引き立て役として、妓楼の外で行われる貴人の宴に参加することになる。
李白の紹介の宮廷高官の宴だという、一晩の酌で一般の給金1年分の金が消える三姫をまとめて屋敷に呼んだ豪勢な宴で、詩歌を吟ぜず二胡も弾けず舞踏もできない猫猫は作り笑顔でお酒を注いで回るが、ある円卓で、浮かない顔の男性がひとりうなだれているのに気づく。猫猫が声をかけると、ひとりにしてくれ、と言うその男性は、何と壬氏だった。
綺麗に着飾り化粧をした妓女が猫猫であることに気づくと、壬氏の顔に生気が蘇り、俺が買ってやろうか、と言い出す。猫猫が、いいかもしれません、もう一度後宮に勤めるのも悪くないと本音を話す。それを聞いた壬氏は、後宮が嫌で辞めたんじゃなかったのか、と不満げに言うが、猫猫は続けたいと打診したのに解雇したのは壬氏だ、と反論する。そんな猫猫を愛しく思う壬氏は、指先で猫猫の唇に触れ、口紅の跡がついた指を自分の唇にそっと当てて微笑む。それを見て照れる猫猫は、いたずらな笑みを浮かべる壬氏から思わず目をそらす。宴が終わると、それを目撃していた三姫たちから壬氏との関係をしつこく追求されるのだった。

日が変わり、緑青館でそばかすの材料を作ろうと思った猫猫は、後宮での日々を思い出す。そこにやってきたやり手婆は、猫猫をある妓女のもとに連れていって診させるが、猫猫は打つ手がないと首を振る。その後、緑青館でもらい湯をする猫猫は、後宮のみんなは元気かな、と思ったところでやり手婆も風呂に入ってくる。後宮に戻るのかと聞かれる猫猫は、わからない、ただ、後宮も花街もたいして変わらないのかも、と答える。

その夜、眠れない猫猫は、雪が舞う中、夜風に当たりながら後宮での日々を振り返る。

数日後、壬氏が高順を連れて緑青館を訪れ、やり手婆には目が眩む金を、猫猫が心を奪われる虫から生える奇妙な草を差し出し、猫猫を見請けする。

 

原作小説では、シリーズ第1巻の「薬屋のひとりごと」所収の「三十一話 解雇」「終話 宦官と妓女」に対応する部分になっています。

(ここまで)

 

以上のとおり、第1クールでは、原作小説の第1巻のちょうど最後までを描いたことになります。

再び宮中に戻ってくることになった猫猫。原作のとおりであれば、第13話以降の第2クールでは、外廷で壬氏付きの侍女となった猫猫が描かれることになるのでしょう。

この続きは改めて。