年末年始の休日にTOHOシネマズ流山おおたかの森に行きました。
夕方15時半ごろの時間帯、ロビーはかなりの混雑でした。
この日の残りの上映スケジュール。この時間には上映が終わっていた作品も含めて、この日は23作品・29種類の上映が行われていました。
この日観たのは、「PERFECT DAYS」(2023年12月22日(金)公開)。全国で約165館と中規模での公開です。2023年の第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、主演の役所広司が日本人俳優としては19年ぶり2人目となる男優賞を受賞したことは、マスコミなどでも報道されていたので、観てみようと思いました。
上映は103+2席のスクリーン3。お客さんは40人くらいは入っていたと思います。
(チラシの表裏)
東京・渋谷を舞台にトイレの清掃員の男が送る日々の小さな揺らぎを描いたオリジナルドラマで、監督はヴィム・ヴェンダース、脚本はヴィム・ヴェンダースと高崎卓馬。
公式サイトのストーリーによれば、
思いがけない出来事が、まるで風のように男の日々を揺らした。
そしてそれは光と影の踊りを生んだ。
東京渋谷の公衆トイレの清掃員、平山は押上の古いアパートで一人暮らしている。
その日々はきわめて規則正しく、同じことの繰り返しのなかに身を置いているように見えた。
ルーティンは孤独を遠ざけるものかもしれない。
けれど男のそれはどこか違ってみえた。
夜が明ける前に近所の老女が掃除する竹ぼうきの音が響く。
それが聞こえると男はすっと目をあける。
少しのあいだ天井をみつめる。おもむろに起きあがると薄い布団を畳み、歯を磨き、髭を整え、清掃のユニフォームに身をつつむ。
車のキーと小銭とガラケーをいつものようにポケットにしまい部屋をでる。
ドアをあけて空をみる。
スカイツリーをみているのか。光を見ているのかはわからない。
缶コーヒーを買うと手作りの掃除道具をぎっしり積んだ青い軽にのって仕事へむかう。
いつもの角でカセットテープを押し込む。
カーステレオから流れてくるのはThe Animals のThe House of Rising Sun。
いくつもの風変わりなトイレを掃除してまわる。
その日はひょっとすると声をひとつも出していないかもしれない。
掃除を終えると夕方にはあのアパートに戻る。
自転車に乗り換えて銭湯へゆき、いつもの地下の居酒屋でいつものメニューを頼み、そして寝落ちするまで本を読む。
そしてまた竹ぼうきの音で目をさます。
男の人生は木のようだった。
いつも同じ場所にいて動かない。
同僚のタカシのいい加減さをどうして憎めないのか。
いつものホームレスの男が気になる。
清掃のあいまに見つける木漏れ日が好きだ。
フィルムを現像してくれるこの店はいつまであるだろうか。
銭湯で出会う老人が愛おしい。
古本屋の女性の的確な書評を聞くのも悪くない。
日曜だけ通う居酒屋のママの呟きが気になる。
今日はあいにくの雨だ。それでも予定は変えない。
そんな彼の日々に思いがけない出来事が起きる。
そしてそれは彼の今を小さく揺らした。
・・・というあらすじ。
公式サイトで紹介されている主要登場人物は、次のとおりです。
-
平山【役所 広司】:東京渋谷にある公共トイレの清掃員として働いている。毎朝同じ時間に起き、支度をし、植木に水をやり、缶コーヒーを飲みながら仕事にでかける。カセットで音楽を聴き、古本を買って読む。その日々は穏やかで、同じことの繰り返しにみえる。
-
ホームレス【田中 泯】:代々木深町の公園に住み着いたホームレスの男。すべてを捨ててそこにいる男は、陽の光に手をときおり伸ばす。その様子がどこか荘厳で、平山は小さな敬意を覚えている。
-
ニコ【中野 有紗】:平山の姪。母親と喧嘩をして、鎌倉の家を出て十数年ぶりに平山を訪ねてくる。小さいときに平山だけが自分の理解者だと感じることがあった。
-
タカシ【柄本 時生】:平山の同僚。調子がよくいい加減な性格で、平山はどこか憎めないものを感じている。いつも金がないと嘆き、いつもそれを世の中のせいにする。最近はアヤに夢中。
-
アヤ【アオイヤマダ】:ガールズバーで働く女の子。タカシのことは好きでも嫌いでもない。自分の世界があって、他人にはあまり期待しないようにして生きている。
-
ケイコ【麻生 祐未】:平山の妹。ニコの母親。鎌倉の実家近くで裕福に暮らしている。父と兄が衝突したとき、自分は何もできなかった。そのことに負い目を感じながら、そのせいで十数年兄と会えずにいた。
-
ママ【石川 さゆり】:浅草で居酒屋をやるようになったのは離婚してだいぶたってからだった。最近は常連もついてなんとかやっていけるようになった。平山に好意をもっているが、もうそれをどうこうする年でもないと思っている。
-
友山【三浦 友和】:ママの元夫。離婚してすぐ再婚をした。妻と子供がいる。病気をきっかけに過去を振り返る小さな旅をはじめて、昔の結婚相手の様子を見にやってくる。
主人公・平山が過ごす日常の日々と、その中でのさざ波のような心の揺れ動きを描き、心に沁みる作品でした。深く感銘を受けるというタイプの作品ではありませんが、役所広司の素晴らしい演技もあって、ふと涙腺が緩むシーンもありました。
劇中で描かれる中での大きな出来事といえば、同僚のタカシが辞めたこと、家出をした姪のニコが平山のアパートに押し掛け数日泊まったこと、ママのお店に行こうとした平山が友山にママが身体を寄せているのを目撃してしまいコンビニで角ハイボール缶3本とロングピース1箱を買って隅田川の川岸でハイボールをあおったこと、といった程度で、劇的な出来事が起きるようなことはありません。
また、ヴィム・ヴェンダースの小津安二郎へのリスペクトも感じました。ヴェンダースは、鎌倉にある小津安二郎の墓を訪問し、小津安二郎の監督作品「東京物語」で主演した笠智衆や撮影を担当した厚田雄春などにインタビューするドキュメンタリー映画「東京画」を1985年に作るなど、小津安二郎を敬愛している映画監督としても知られています。本作で役所広司が演じる主人公の名前が「平山」なのは、その「東京物語」や小津の遺作である「秋刀魚の味」で笠智衆が演じた主人公「平山周吉」から取られたものであることは間違いないでしょうし、随所にみられたローアングル、平山とニコが神社境内のベンチに並んで座ってお昼を食べる時の所作など、小津安二郎作品を意識したのだろうと思われる描写もありました。
ちなみに、まったくの余談になりますが、劇中で主人公の平山が仕事に向かうときに乗る軽ワゴン車は、いま不正問題で揺れているダイハツの車でした。
なお、先に書いた主要キャラクターのほかに、公式サイトでは次のキャストが紹介されています。公式サイトでは人物の紹介はありませんが、記憶の範囲で補筆してみます。
-
竹ぼうきの婦人【田中 都子】:平山が住むアパートの近くで毎朝竹ぼうきで道を掃除している婦人。
-
酔っ払いのサラリーマン【水間 ロン】:酔っぱらって平山が掃除中の公共トイレに入ってきたサラリーマン。
-
子供【渋谷 そらじ/岩崎 蒼維】:平山が掃除する公園の公共トイレに隠れていた子供。
-
迷子の子供【嶋崎 希祐】:迷子になり平山が掃除する公園の公共トイレの個室で泣いていた子供。
-
母親【川崎 ゆり子】:迷子の子供の母親。
-
赤ちゃん【小林 紋】:迷子の子供の母親がベビーカーに乗せていた赤ちゃん。
-
神主【原田 文明】:平山がいつもお昼を食べる神社の神主。
-
旅行客【レイナ】:公共トイレの使い方がわからず平山に使い方を尋ねた黒人女性。
-
番台【三浦 俊輔】:平山がいつも通っている銭湯「電気湯」の番台に座る男性。
-
銭湯の老人【古川 がん】:平山と同じ時間帯に銭湯にやって来る老男性。
-
かっちゃん【深沢 敦】:平山が毎日のように通う東京メトロ浅草駅の改札脇にある居酒屋の客?
-
常連客【田村 泰二郎】:東京メトロ浅草駅の改札脇にある居酒屋の客。
-
居酒屋の店主【甲本 雅裕】:東京メトロ浅草駅の改札脇にある居酒屋の店主。
-
年配女性【岡本 牧子】:?
-
レコードショップの店員【松居 大悟】:平山がタカシに連れてこられた下北沢のレコードショップの店員。
-
レコードショップの客【高橋 侃/さいとうなり/大下ヒロト】:平山が来店したときにレコードショップにいた客。
-
野良猫と遊ぶ女性【研 ナオコ】:平山が街中で見かけた女性。
-
OL【長井 短】:平山がいつもお昼を食べる神社で隣のベンチでお昼を食べるOL。
-
地元の年配男性【牧口 元美/松井 功】:?
-
でらちゃん【吉田 葵】:タカシになついている知的障害?の男性。
-
古本屋の店主【犬山 イヌコ】:平山がよく訪れる古本屋の店主。
-
女子高校生【殿内 虹風】:平山が掃除中の公共トイレにやって来た女子高生。
-
ケイコの運転手【大桑 仁】:家出したニコを引き取りに平山のアパートにやってきたケイコが乗る車の運転手。
-
電話の声【片桐 はいり】:タカシが会社を辞めたときに平山にタカシの分のシフトも担当するよう電話してきた会社のスタッフ。
-
タクシー運転手【芹澤 興人】:平山が掃除中の公共トイレにやって来たタクシーの運転手。
-
駐車場係員【松金 よね子】:?
-
佐藤【安藤 玉恵】:タカシが辞めた後タカシの分のシフトの担当として臨時にやってきたスタッフ。
このように、ほとんどはちょっとだけ登場するチョイ役です。こうした細部のキャストが公式サイトで紹介されているのは、なかなか珍しいと思います。