鷺の停車場

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映画「高野豆腐店の春」

お休みの日の午前、MOVIX柏の葉に行きました。


世間的には平日の11時過ぎの時間帯、夏休み終了間近と思われる親子連れなど、けっこうロビーは賑わってました。


この日の上映スケジュールの一部。この日は27作品・31種類の上映が行われていました。この映画館にしてもかなり上映作品が多い日だったのではないかと思います。

この日観るのは「高野豆腐店の春」(8月18日(金)公開)。全国66館と中規模での公開、映画情報サイトでの口コミ評価は総じて高いように見受けられますが、この映画館を含め、公開2週目で早くも1日1回上映となったところが多く、早めに行かないと終わってしまいそうな感じなので、たまたま仕事が休みになったこの日に行くことにしました。なお、実際、この映画館では、9月7日(木)で上映終了になってしまうようです。


上映は103+2席のシアター6。お客さんは25人くらいだったでしょうか。



(チラシの表裏)


(その前に配布されていた別バージョンのチラシ)

 

尾道の一角に店を構える豆腐店を舞台に、愚直で職人気質の父と、明るく気立てのいい娘・春の人生を描いたオリジナル・ストーリーで、監督・脚本は三原光尋

 

公式サイトのストーリーによれば、


尾道の風情ある下町。その一角に店を構える高野豆腐店。父の辰雄藤竜也と娘の春麻生久美子は、毎日、陽が昇る前に工場に入り、こだわりの大豆からおいしい豆腐を二人三脚で作っている。
ある日、もともと患っている心臓の具合が良くないことを医師に告げられた辰雄は、出戻りの一人娘・春のことを心配して、昔ながらの仲間たち──理髪店の繁徳井優、定食屋の一歩(菅原大吉)、タクシー運転手の健介山田雅人、英語講師の寛太(日向丈)に協力してもらい、春の再婚相手を探すため、本人には内緒でお見合い作戦を企てる。辰雄たちが選んだイタリアンシェフ小林且弥と食事をすることになり、作戦は成功したようにみえたが、実は、春には交際している人がすでにいた。相手は、高野豆腐店の納品先、駅ナカのスーパーで働く道夫(桂やまと)だった。納得のいかない辰雄は春と口論になり、春は家を出ていってしまう。

そんななか、とある偶然が重なり言葉をかわすようになった、スーパーの清掃員として働くふみえ(中村久美)が、高野豆腐店を訪ねてくる。豆腐を作る日々のなか訪れた、父と娘それぞれにとっての新しい出会いの先にあるものは──。

 

というあらすじ。

 

主な登場人物は、

  • 高野 辰雄【藤 ⻯也】:高野豆腐店の店主。妻を若くして亡くし、春と2人暮らし。

  • 高野 春【麻生 久美子】:辰雄の娘で豆腐店の看板娘。若い頃に結婚したが、数年で別れ、辰雄と同居している。

  • 中野 ふみえ【中村 久美】:辰雄と親しくなる婦人。駅ナカのスーパーの清掃婦として働いている。

  • 金森 繁【徳井 優】:辰雄の悪友で理髪店の店主。

  • 鈴木 一歩【菅原 大吉】:辰雄の悪友で定食屋「三宝食堂」の店主。

  • 横山 健介【山田 雅人】:辰雄の悪友でタクシー運転手。

  • 山田 寛太【日向 丈】:辰雄の悪友で英語学校の講師。

  • 金森 早苗【竹内 都子】:理髪店店主・繁の妻。

  • 西田 道夫【桂 やまと】:駅ナカのスーパーの仕入れ担当。達夫は内心「ちんちくりん」と蔑称している。

  • 田代 奈緒【黒河内 りく】:演劇部の高校生で、演出家の卵。

  • 村上 ショーン務【小林 且弥】:イタリアンのシェフ。辰雄たちのお眼鏡に適い、春の結婚相手に選ばれる。

  • 坂下 美野里赤間 麻里子】:中野ふみえの姪。豪志とともにふみえが入院する病院にやってくる。

  • 坂下 豪志【宮坂 ひろし】:ふみえの姪・坂下美野里の夫。

など。

 

愚直で職人気質の父と明るく気立てのいい娘の間の心の動きを、ユーモラスなシーンも交えながら優しいまなざしで描き、心温まる作品でした。ユーモラスなシーンは、ベタな寸劇風で、個人的には正視するのが辛すぎて耐えられませんでしたが、そうしたシーンが減った後半の展開は、滋味深く、心に沁みるものがありました。単純に父娘関係を描くのかと思いきや、被爆などの要素も重層的に描かれているのも、物語に深みを加えていたと思います。

なお、冒頭の尾道の風景を重ねていくシーンを観て、個人的には、小津安二郎へのオマージュを感じました。舞台となっている尾道は、言うまでもなく、小津の代表作である「東京物語(1953年11月3日(火)公開)で主人公・周吉が暮らす町として作品の舞台の1つとなっていますし、本作の冒頭のシーンで映し出された石灯籠は、「東京物語」の後半の印象深いシーンのものと同一ではないかと思います。加えて、娘の結婚話を絡めて親子関係を描くという骨格は、「晩春」(1949年9月13日(火)公開)、「麦秋(1951年10月3日(水)公開)、「秋日和(1960年11月13日(日)公開。これは母と娘の話ですが)、「秋刀魚の味(1962年10月18日(日)公開)など小津安二郎の戦後の監督作品の多くと共通していますし、シリアスなテーマをユーモラスなシーンを交えながら描くところも共通しています。「高野豆腐店の春」というタイトルも、「小早川家の秋(1961年10月29日(日)公開)を意識したのではないかと個人的には思ってしまいました。

 

以下は、ネタバレになりますが、備忘を兼ねて、よりくわしいあらすじ・展開を記してみます。(細部には記憶違いもあるだろうと思いますが)

 

瀬戸内海に臨む街並み、海を背景にした高台の大きな石灯籠のショット、通りすぎる列車・・・。
尾道で早朝、作業場に入り、大豆を使って豆腐作りを始める職人気質の高野辰雄、しばらくすると、一人娘の春も作業場に入ってきて、「よろしくお願いします」と挨拶をして作業に加わる。豆乳ににがりを加えてかき混ぜ、固まってきた豆腐を型に入れ、水を抜いて取り出し、一丁ごとに切り分けていく。作業が一段落したところで、春が絞りたての豆乳をグラスに注ぎ、2人で飲む。それが2人のルーチンだった。
昼間、店番をする春に常連客がやってくる。チーズ入りの商品が販売中止になっていることを尋ねられて、父がチーズが嫌いだから、と弁解する春。
ある日、狭心症の既往歴がある辰雄は、病院で検査を受け、カテーテル手術を勧められるが、手術が怖い辰雄は、それを固辞して診察室を出る。動揺し、手袋を落としたことに気づかない辰雄に、待合ベンチに座って順番を待っていた老婦人がそれを拾って辰雄に渡し、励ましの言葉をかける。
悪友の金森繁の理容店で散髪する辰雄は、若い頃に離婚した40代の娘・春の結婚を心配する繁、鈴木一歩、横山健介、山田寛太からお見合いを勧められる。一度は断った辰雄だが、夜に心臓が苦しくなって目覚めたりするうちに、自分がいなくなった後の春の行く末が心配になり、春には内緒で、繁にお見合い相手探しを依頼する電話をかける。ダメだしをしたりした末に、候補は4人に絞り込まれ、一歩の店「三宝食堂」で、繁たちも見守る中、辰雄は候補者と面接をする。そして、イタリアンシェフの村上ショーン務を相手として選ぶ。
辰雄は、村上と春が自然に話できるよう、田代奈緒にシナリオを作ってもらい、彼女の演技指導を受けて練習するが、素人の辰雄たちの演技はガチガチで、うまくいかない。
結局、辰雄は村上を自分の豆腐店の客として迎えて、春と引き合わせる。そして、辰雄、春、村上の3人で食事をすることになる。
そんな頃、豆腐を出品している駅ナカのスーパーで豆腐を並べている辰雄のところに、仕入れの担当者が代わったと西田道夫を紹介される。スーパーが勧める東京への進出を拒む辰雄は、西田が気に食わず話半分で取り合わず、トイレに行くが、その手洗い場でハンカチを置き忘れてしまう。それに気づいた清掃婦が、辰雄に声を掛けてハンカチを渡すが、それは、病院で手袋を拾ってくれた老婦人・中野ふみえだった。スーパーの休憩スペースで話をするうちに、辰雄はふみえを意識するようになる。
辰雄とふみえは、喫茶店で会い、お互いの身の上話をする。ふみえは身寄りがないと話し、辰雄は50歳前の娘がいることを話す。ふみえは習っているピアノのコンサートのチラシを渡して辰雄を誘い、辰雄は持ってきた自慢の豆腐と豆乳をふみえにプレゼントする。辰雄は、対岸に住むふみえを見送りに船乗り場まで行き、互いに手を振って別れる。
坂を上って高台にある自宅に帰ったふみえは、辰雄の勧めのとおりに豆腐を味わい、舌鼓を打つ。ふみえは、被爆者手帳を持つ被爆者だった。
そして、村上との食事の日、辰雄、春、村上の3人は村上の知り合いが営むレストランで食事をする。辰雄が席を立ってトイレに行っている間、春は村上に豆腐について熱く語る。村上と別れて尾道の商店街を歩いて帰る辰雄と春。春は辰雄と腕を組み、上機嫌の辰雄は歌い出す。

数か月が経った平成29年の春。悪友たちから、最近春がきれいになった、結婚について切り出されるかも、とからかわれる辰雄。そんなある夜、辰雄は春から、ちょっと話したいことがあると話しかけられるが、動揺した辰雄は話をごまかしてその場から逃げてしまう。悪友たちに咎められ、朝の豆腐作りの後、何の話だったのか切り出した辰雄は、会ってほしい人がいる、との春の言葉に、村上のことだと早合点して喜ぶが、それが西田であることがわかると、途端に不機嫌になる。それを機に、2人の関係は冷え込み、辰雄がご機嫌をとろうとしても春は冷やかな対応をするようになる。
辰雄、繁、一歩は、村上の店を訪ねて、村上に春との経過を問い質すが、村上は、結婚前提でお付き合いしたいと春に申し込んだが、断られたと話し、辰雄は申し訳ないと詫びる。
そして、春の冷たい対応に耐えられなくなった辰雄は、とりあえず会うから日取りを決めとけ、と白旗を上げ、春は喜ぶ。
しかし、3人で食事に行った和食料理店では、辰雄は一言も話さずに日本酒を飲むばかり。そして、宴の終盤、外国でブームに乗っかった粗悪な商品が日本食だと受け取られるのは我慢できない、研修生を招いて習わせることができないか、辰雄の豆腐を世界に広めたい、と熱く語る西田に、昔ながらの職人気質の辰雄はそれを聞いて激高し、喧嘩別れのようになってしまう。その帰り、辰雄の態度を咎める春に、辰雄は、好きにしろ、と吐き捨てると、春は、好きにさせていただきます、と言って、家を出て行ってしまう。
春は体調を崩したことにして、家出したことを隠して豆腐店で接客する辰雄。そこにお店を訪ねてきたふみえに春との一件を話すと、ふみえは、それは完全に辰雄が悪い、結婚して生活していくのは当人たちなのだからと諭し、心臓のペースメーカーの電池を交換する手術を受けることになったことを辰雄に話す。
そんな中、ふみえの姪の坂下夫婦がふみえに会いにやってくる。あけすけにふみえに何かあった家の権利のことについて話す美野里に冷たく対応するふみえ。席を外して病院の談話スペースに座っていた辰雄の近くのテーブルに、ふみえの病室を出た坂下夫婦が座る。自分たちの資金繰りが厳しいからハンコを押させてふみえの家の権利を手に入れたい、手術が失敗して死んでくれればいいのにと話す2人に、辰雄は激高して豪志を投げ飛ばし、警察に連行されてしまう。
辰雄の身元引受人として警察署にやってきた春と西田。辰雄が連れてこられるのをベンチに座って待つ春は、小学生のころ、よく父と母が喧嘩して警察に迎えに来たが、それが級友たちにバレてしまうのがとても恥ずかしかったと西田に話す。警官に連れてこられた辰雄は、一瞬おどけるが、冷たい態度の春に、黙って西田の車に乗る。
自宅に送ってもらった辰雄は、春と西田に、先日の自分の態度について謝罪し、西田に、春を頼む、と声を掛ける。感激した西田は「はい、ありがとうございます!」と高ぶった声で答える。
ふみえを見舞いに行った辰雄は、春は妻の連れ子で、親友が若くして亡くなり、その妻子を引き取ったこと、その妻も40歳前に亡くなったことを打ち明け、春は自分の娘であることをどう思っているのか・・・と話すと、ふみえは本人に直接聞いてみるよう勧める。
辰雄と和解した春は、当分は以前のように豆腐店を手伝ってくれることになった。そうしたある日の朝、豆腐作りをしている最中にふみえから突然電話が入る。ふみえは、こんな時間に電話したことを詫び、声を聞いて元気が出たと話すが、電話から聞こえる看護婦の声から、これからふみえが手術を受けることがわかる。それを聞いた春は、辰雄に病院に行くよう促し、たまたまやってきた西田と3人でタクシーをつかまえ、病院へ急ぐ。廊下を走る辰雄は手術室に向かう途中のふみえに会うことができ、手を握ってふみえを励ます。

1年後、退院したふみえと会う辰雄、買ったばかりのスマホの使い方をふみえに教えてもらい、メッセージのやりとりをする。そこにあった街角ピアノを見て、辰雄はずっと持っていたピアノのコンサートのチラシをふみえに見せ、弾いてみては、とふみえに勧める。ためらいながらもピアノの前に座り、弾き始めるふみえは、弾き終わると、周囲の人たちから温かい拍手を受ける。
そして、いつもの朝、豆腐作りを始める辰雄は、春に最後までやってみるよう言い、春はこれまで辰雄が譲らなかった、豆乳ににがりを加えてかき混ぜ、型に入れる工程などを全部1人で行う。でき上った豆腐を辰雄は褒めるが、春は辰雄の豆腐の美点をいくつも挙げてお父さんの豆腐の方が全然おいしいと言う。辰雄は不意に、自分の娘でいてくれてありがとう、と感謝の言葉をかける。その言葉を聞いて、お父さんの娘で良かったと言って肩を震わせて涙を流す春を、辰雄は優しく抱き寄せるのだった。

(ここまで)