2023年秋クールで日本テレビで放送が始まった「薬屋のひとりごと」、今回は1月6日(土)から始まった第2クールの最初、第13話から第16話までを紹介します。
2011年10月から小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、2014年から主婦の友社の「ヒーロー文庫」で文庫本が刊行されている日向夏さんの同名ライトノベルを原作にアニメ化した作品で、主要スタッフは、キャラクター原案:しのとうこ、監督・シリーズ構成:長沼 範裕、キャラクターデザイン:中谷 友紀子、アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLMなど。
繰り返しになりますが、公式サイトで紹介されている主要登場人物・キャストは、次のとおりです。< >内が、第13話から第16話までの中でそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。
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猫猫(マオマオ)【悠木 碧】:花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働きをしている。毒と薬に異常に執着を持つ。元来の好奇心と正義感から、とある事件に関わったことで運命が一変する。<第13~16話>
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壬氏(ジンシ)【大塚 剛央】:後宮で強い権力を持つ宦官。もし女性だったら傾国と言われるほどの美形。とある事件をきっかけに猫猫の「実力」に気づき、皇帝の寵妃の侍女に抜擢する。<第13~16話>
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高順(ガオシュン)【小西 克幸】:壬氏のお目付け役の武官。マメで気が利き仕事ができ、信頼が厚い。猫猫曰く「癒し系」。後宮では壬氏同様、宦官として任務にあたる。<第13~16話>
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玉葉妃(ギョクヨウヒ)【種﨑 敦美】:最も皇帝の寵愛を受けていると言われる上級妃・四夫人の一人「貴妃」。ある事件をきっかけに猫猫を侍女に迎える。<第14話>
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梨花妃(リファヒ)【石川 由依】:現帝の妃で四夫人の一人「賢妃」。後宮内で噂される「呪い」で御子を亡くし、自らも病に伏してしまっている。病のためやつれているが、本来は玉葉妃とは対象的な雰囲気の凛とした妃。<第14話>
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里樹妃(リーシュヒ)【木野 日菜】:現帝の四夫人の一人「徳妃」。幼い故に自身の振る舞いはもちろん、後宮の風習やしきたりの知識が浅い。そのため侍女たちからも軽んじられてしまっている。<第14話>
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楼蘭妃(ロウランヒ):阿多妃の後に入内した四夫人の一人で「淑妃」。毎日のように髪型や化粧、雰囲気が変わるため、「変わり者」と言われ、後宮の噂の的となっている。父は先帝の時代からの重臣・子昌。<第14話>
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阿多妃(アードゥオヒ)【甲斐田 裕子】:現帝最初の妃で「淑妃」であったが、新たな「淑妃」楼蘭妃と入れ替わる形で後宮を去った。中世的な雰囲気で、男装の麗人のような振る舞いが後宮で人気を誇っていた。(この第13~16話には登場しません)
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小蘭(シャオラン)【久野 美咲】:後宮の下女で猫猫と仲が良い。噂好きでおしゃべり。学はないが向上心を持つ一面も。(この第13~16話には登場しません)
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李白(リハク)【赤羽根 健治】:若い武官で猫猫曰く出世株。武官らしく鍛え上げられた肉体を持つ。お人よしだが、自分の信念を貫く真っ直ぐな性格の持ち主。<第14話>
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翠苓(スイレイ)【名塚 佳織】:外廷で働いている、薬草に詳しい謎の官女。猫猫の実力を試すような言動をしているが…<第13話>
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羅漢(ラカン)【桐本 拓哉】:軍部の高官でまわりから軍師などと呼ばれている。とても胡散臭いが、その慧眼・采配により、今の地位に上り詰めた。壬氏に無理難題を吹っ掛けてくるが、その真意は不明。興味のあるものは囲碁と象棋と噂話。<第13~16話>
以上の12人のほか、第13話から第16話までに登場する個別に名前などが付けられているキャラクターとして、次のような人物がいます。< >内がそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。
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水蓮(スイレン)【土井 美加】:壬氏の侍女。<第13~16話>
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羅門(ルオメン)【家中 宏】:猫猫が「おやじ」と呼んで慕う養父。かつて後宮で医官を務めていたが、追放された過去があり、今は花街で薬屋をしている。<第13・16話>
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やり手婆【斉藤 貴美子】:老舗の高級妓楼「緑青館」の女主人。昔は緑青館きっての妓女だったらしい。<第13・14話>
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梅梅(メイメイ)【潘 めぐみ】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第13話>
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白鈴(パイリン)【小清水 亜美】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第13話>
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女華(ジョカ)【七海 ひろき】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第13話>
- 皇帝【遠藤 大智】:現帝。<第13話>
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紅娘(ホンニャン)【豊口 めぐみ】:玉葉妃の侍女頭。<第14話>
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河南(カナン)【庄司 宇芽香】:里樹妃の侍女頭。<第14話>
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陸孫(リクソン)【内山 昂輝】:羅漢の副官。<第14話>
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馬閃(バセン)【橘 龍丸】:高順の息子の武官で、壬氏とは幼なじみ。<第15・16話>
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役人の弟【丹羽 正人】:鱠を食べて亡くなった役人の弟。<第15話>
- 長男【神尾 晋一郎】:亡くなった彫金細工師の長男。<第16話>
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次男【後藤 光祐】:亡くなった彫金細工師の次男。<第16話>
- 末っ子【小林 大紀】:亡くなった彫金細工師の三男。<第16話>
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母親【恒松 あゆみ】:亡くなった彫金細工師の妻で、三兄弟の母親。<第16話>
各話ごとのあらすじは、次のとおりです。< >内が公式サイトのストーリーで紹介されている内容になります。
#13『外廷勤務』
<後宮を解雇されたものの、壬氏に身請けされる形でまた宮廷に戻ることになった猫猫。緑青館を出るその時まで梅梅たち三姫に可愛がられながらも、今度は自らの意思で宮廷へと赴く。しかし、新しい職場は慣れ親しんだ後宮ではなく、外廷にある壬氏の家だった。猫猫はこれまでとは違う待遇に戸惑うが、壬氏に官女になるための試験を受けるように言われる。>
夜、帝と相対して酒を飲む壬氏は、どんなに努力しても知も武も凡人に毛が生えた程度にしかならなかったが、外見だけは誰よりも秀でたものがついてきた、それを最大限利用してやる、しょせん帝の手の上であがく子どもに過ぎないことは分かっている、後宮管理でもなんだってやってやる、それが自分の道を選ぶ唯一の方法、と心の中で思うのだった。
一方、壬氏からの身請け話を受けた猫猫は、緑青館で梅梅から化粧品などあれこれの品を持って行けと渡され、宮廷勤めなんていい仕事をもらえたんだから、それに見合う人間になろうと思わないと、と諭される。冬虫夏草(虫から生えた草)の誘惑に負けて話しを受けたのは少々軽率だったかもしれないが、周りから見ればまたとない幸運、年老いた養父(羅門)を残してまた住み込みで働くのは気がひけるが、養父も好きにしなさいと言ってくれた、と考えを巡らせながら家に帰った猫猫は、羅門から、医官でもないのに薬の調合道具を持って行けば毒殺でも企んでいると疑われると忠告される。
これからはいつでも帰ってこれると自分を納得させ、猫猫は翌朝、緑青館の三姫に美しく仕立てられ、迎えに来た壬氏と馬車で花街を出発する。いつも以上に美しい猫猫に壬氏は見惚れるが、周囲の注目を集めてムッとし、ここではいつものそばかす顔に戻してくれ、と命じるが、猫猫はその真意には気づかない。
そのころ、外廷でひとり碁を打っていた羅漢は、後宮管理官が緑青館の妓女を見請けしたらしいと話す声を聞いて、緑青館、とつぶやく。
宮廷に着いた猫猫だったが、連れてこられたのは後宮ではなく壬氏の家だった。同伴していた高順は、後宮に戻るものだと思っていた猫猫に、一度辞めさせた手前、そう簡単に戻ることはできない、今度は外廷で働くことになる、と説明する。
初老の侍女・水蓮が猫猫を出迎える。壬氏を坊ちゃんと呼ぶ水蓮は、家の中を猫猫に案内する。壬氏は、お前に下働きをさせる気はないと言い、官女試験を受けてもらう、と告げる。
翌朝、猫猫が厨房に向かうと、水蓮がひとりで朝食の準備をしていた。水蓮は、他に侍女はいない、執務室の方はともかく、お部屋の方は任せられない、何度か新しい子を入れたことはあったが色々あって続かなかった、糸ではなく髪の毛で縫われた下着が箪笥に入っていたことがあったと話し、それを聞いた猫猫は身の毛がよだつ。
朝食の時間となり、無駄に色気が漂う壬氏の寝起き姿を見て、この部屋に水蓮と高順しか入らない理由がよく分かる、と納得する猫猫は、発情期の虫みたいだ、この宦官の匂いを集めて惚れ薬にしたら売れるかも、と邪な考えを浮かべる。
仕事で忙しい壬氏を置いて、高順が猫猫tに外廷の中を案内し、建物の名前と部署を説明する。その広さと建物の数に、果たして覚えられるか不安になる猫猫。
戻った猫猫は、水蓮に頼まれて執務室に炭を持って行くが、室内の調度品はどれも一級品で、猫猫はあの坊ちゃんはどれだけ位が高いのか、と思う。執務室を出ると、外廷の女官たちが猫猫を睨み、猫猫が掃除をしていると、官女たちにどうしてあなたみたいな子が壬氏直属なのか、と詰め寄られる。あなたがたは私に嫉妬しているのですか?と不用意に質問して、ビンタを食らってしまう。猫猫は、このような醜女をあの天女のような方が相手にするはずがない、そうだとすれば何と特殊趣味(マニアック)な方だろうと言っても納得してもらえず、猫猫は仕方なく左腕の包帯をほどいて、自分で火傷薬の実験をしてひどい状態となった左腕を見せ、天女のようなお方が自分のような者にも食い扶持を与えてくれたと説明して、その場を逃れる。
壬氏の命に従って試験勉強をするものの、長続きせず、壬氏にもらった冬虫夏草を出して見ては顔を緩めていた猫猫は、試験には合格できず、水蓮と高順は、どうしましょうか、と頭を抱える。
そして、壬氏の部屋付きの下女となった猫猫は、外廷内を歩いていると、ある一角に薬草が数多く生えているのを見つけて歓喜するが、突然背後から頭を叩かれる。猫猫が振り返ると、数日前に絡んできた官女たちの中にいた背の高い官女が、ここから先はあなたの立ち入る場所ではないはずだ、と言って立ち去っていく。その白壇の香りと独特の苦みを帯びた匂いに、猫猫は、軍部か、とつぶやいて帰っていく。その様子を、建物の2階から羅漢が見つめていた。
原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」所収の「一話 外廷勤務」に対応する部分になっています。
#14『新しい淑妃』
<新たに後宮に入った楼蘭妃を交えて、上級妃たちに妃教育が行われることになった。官女試験に落ちて壬氏の部屋付きの下女となった猫猫は、玉葉妃と梨花妃の推薦もあり、その講師を頼まれる。緑青館から教材を取り寄せ、寝室での秘術を伝授する猫猫。その夜、授業を終えた猫猫が休んでいると、外から不審な音が聞こえ、好奇心が刺激されるが……。>
雪が降るある日、入内した楼蘭妃が後宮に入ってくる。柘榴宮に着いた楼蘭妃は、髪飾りを外し、椅子に座って何か考える様子を見せる。
そのころ、玉葉妃は、本気ですか?と質す紅娘に、もちろん、せっかく猫猫が戻ってきてくれたのだから、と言って何やら書状をしたためる。
一方、猫猫は、外廷にはろくに薬草が生えてない、少しずつ増やさないと、と自分で薬草を植えていたが、掃除を頼んだのは執務室、と水蓮にたしなめられ、慌てて執務室に向かう。
そのころ、壬氏には玉葉妃と梨花妃から推薦状が届いていた。そこにやってきた猫猫に、壬氏は、柘榴宮に新しい淑妃が入った、そこで行う妃教育の講師をしろと告げ、玉葉妃と梨花妃が推薦人だと言う。猫猫は、おしろいの毒で体調を崩した梨花妃を治療した際にかつて妓女たちから聞いた秘術を耳打ちしたせいだろうと思い当たる。
猫猫は、2人の妃の推薦とあっては無視できないと、緑青館から教材を取り寄せ、玉葉妃、梨花妃、里樹妃、楼蘭妃の4人の上級妃が侍女頭を従えて待つ会場に向かう。楼蘭妃を初めて見た猫猫は、帝のお通りはありそうだが、後宮のバランスが崩れることはなさそうだと思う。
猫猫は、女の園における秘術ゆえ、他言無用でお願いします、と言って教材を配り、講義を始める。それを聞いて、玉葉妃は面白がり、梨花妃は顔を赤らめ、里樹妃は気絶寸前となるが、楼蘭妃は顔色を変えずに教材を侍女頭に放り出し、関心を示さない様子だった。興味津々の壬氏は扉に耳を付けて中の様子を伺おうと聞き耳を立てるが、よくわからない。
講義を終えて猫猫が出てきたところで、壬氏が部屋の中を見ると、玉葉妃はマンネリ離脱と喜び、梨花妃は目を輝かせ、里樹妃は絶対無理と落ち込み、楼蘭妃は関心なさそうに顔を横に向けていた。猫猫は、推薦人の2人には喜んでもらえたようだが、楼蘭妃は最後まで何を考えているのかよく分からない妃だったと思う。壬氏はどんな授業をしたのかと尋ねるが、猫猫は後日帝に感想を伺ってください、と言って歩き出す。
その夜、柘榴宮の楼蘭妃は、侍女を従えて自分の椅子に座り、何やら考えていた。
一方、役目を無事に終えて布団に入った猫猫は、疲れたとこぼすが、報奨の金一封が楽しみだと眠りにつく。すると、外廷の一角で爆発が起きる。その音で目が覚めた猫猫は、何が起こったのか気になって見に行こうと一瞬思うが、水蓮の顔が頭に浮かんで、思いとどまる。
そのころ、爆発が起きた現場の近くでは、羅漢が腰を落として何かを見ていた。部下に問われても何もないと言うが、その床には煙管が落ちていた。
翌日、執務室では壬氏が忙しそうに仕事をしていた。猫猫は、執務室の用済みの書類を捨てに外に出て外廷の中を歩いていると、薬草が生えているのを見つけ、思わず夢中になるが、ふと気が付くと、他の武官と話し込んでいる李白を見かける。帯の色が以前と違うのを見て、出世したのかと思う猫猫。猫猫に気づいた李白が声をかけるが、李白は猫猫が一度解雇されたことも、外廷勤務になったことも知らなかった。猫猫は、後宮を出てとある御仁の部屋付きをしているとだけ説明し、何をしているのか尋ねると、李白は昨晩のボヤの火元が分からないので駆り出されたと語る。
昨日の音がこれだと知った猫猫は、現場の様子を確認し、その状況から、ボヤというより爆発に近い、李白が駆り出されたのは放火を疑ってのことだろうと思う。建物の中に焦げた芋があり、象牙細工の煙管が落ちているの見つけて原因を察知した猫猫は、李白に材料を集めてもらって木箱を作り、中に小麦粉を入れて、火種を用意する。猫猫は危ないので離れるようにと言うが、李白はその言葉を聞かず、木箱の近くから離れない。猫猫が火種を箱に投げ入れて、走って逃げると、木箱は爆発し、甘く見て逃げなかった李白の髪の毛にも火が燃え移るが、用意していた水をかけて事なきを得る。
猫猫は、原因は小麦粉で、小麦粉やそばといった粉は燃えやすく、空中に舞うと火がつくことがある、火種は煙管、一目を盗んで一服するため倉庫に入ると、粉が空中に舞う、そこに煙管に火を付けると、倉庫内に充満した小麦粉に着火して、爆発が起きたのだろうと説明し、倉庫番には倉庫での煙草は止めるように伝えることを求める。感心する李白に猫猫は、自分も緑青館で間借りしていた部屋を吹っ飛ばしたことがあると言う。服が濡れてクシャミをする李白に、猫猫は花街の羅門の薬がよく効く、と宣伝して、仕事に戻る。
その夜、自分の部屋で、猫猫は煙管をそのまま持ってきてしまったことに気づく。改めてその煙管を見て、倉庫番が持つには立派すぎる、もしかして大切なものか、と思った猫猫は、磨いて返そうと考える。
その頃、街の飲み屋では、酒瓶を床に落として割り、くそっ、俺なんて、と愚痴をこぼす男に、別のある男が視線を向けていた。
原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」所収の「二話 煙管」「三話 後宮教室」に対応する部分になっています。
#15『鱠』
<倉庫のボヤ騒ぎで拾った煙管が気になる猫猫。そんな折、高順から「河豚を食べて昏睡状態になった官僚がいる」と相談されるが、料理には河豚が使われていなかったらしい。猫猫は無愛想な若い武官の馬閃と共に真実を確かめるために官僚の家へ行く。厨房の棚には倒れた官僚の好物だという海藻があり、季節外れのその食材を、猫猫はこっそりと持ち帰った。>
宮廷内で噂話をする官僚たち。ボヤ騒ぎを李白が解決するとは意外だった、どうも壬氏の部屋付きの下女が一役買ったらしい、壬氏といえば緑青館の妓女を身請けしたそうだ、知的で冷たい目つきの美女だとか、などと話しているのを耳にして興味を抱いた羅漢は、その話、詳しく教えてくれないか、と話しかける。
その夜、猫猫は、高順から見てもらいたいものがあると、古い事件の資料を見せられる。そこには、10年前の商家でフグの鱠に当たって食中毒が起きたことが書かれていた。フグと聞いて、その毒のピリピリした感覚がいいんだ、と食べたくなる猫猫。今度その手の料理屋に連れて行くと言われて俄然やる気になった猫猫に、高順は、昔この事件に関わったことがある、これとよく似た事件が最近起こったと元同僚から相談を受けた、官僚がフグの鱠を食べて昏睡状態に陥っていると話す。
今回の事件では、鱠にはフグの皮と身を湯引きしたものを使っていたそうだ、それを食べて昏睡状態に陥った、しかし、料理人は今回も前回もフグを調理に使っていないと言い張っている、しかも、今回の役人と前回の商人はともに美食家で、珍味を好んでおり、フグも好物だった、事件後に厨房のゴミから内臓や皮が全て発見され、肝は食べていないと判断された、料理人はともにフグは前日の料理に使ったもので、別の魚を使ったと無罪を主張しているが証人はいない、役人は料理を全て食べ終わった30分後、中毒症状を起こして倒れ、痙攣しているところを発見されたという。
高順の説明を聞いた猫猫は、これだけでは何とも言えない、もう少し情報を集めてきてほしいと依頼する。高順が立ち去った後、考え込む猫猫に、何の話をしていたのか、と壬氏が突然話しかけ、驚愕した猫猫の顔に、壬氏も落ち込む。
翌日、高順は、官僚に出す料理はほとんど書かれていると料理人が言う料理書を猫猫に渡す。それを開く猫猫。鱠の作り方におかしな点は見当たらないが、季節によって手に入る材料が変わるためか、材料については詳しく書かれていなかった。そこに通りかかった壬氏は、話に混ぜてほしそうに声を掛ける。今回の事件は1週間ほど前に起き、海藻を使っていたそうだ、と高順から聞いた猫猫は、その家の厨房を見せてもらうことはできないかと高順に頼む。
高順はさっそく手配し、指定された待ち合わせ場所に行くと、無愛想な若い武官の馬閃が待っていた。馬閃は、話は聞いている、お前はあくまで私のお付きだ、勝手なことはするな、と釘を差され、馬車に乗って官僚の屋敷に向かう。下男の案内で厨房に入ると、そこに厳しい顔つきの壮年の男が急ぎ足でやってきて、勝手に入るな、出て行けと突っかかる。馬閃が奥方に確認を取っていると反論すると、勝手にしろ、と渋々引き下がり、その場で2人を監視する。猫猫が下男に誰かと尋ねると、倒れた官僚の弟で、官僚が倒れた後、その妻も寝込んでしまい、屋敷を取り仕切っていると説明する。厨房の中を見渡した猫猫は、棚に壺が並んでいるのに気づき、そのうちの1つを開けてみると海藻が入っていた。下男に聞くと、それは旦那様が好きなもの、お気に入りで良く食べていた、毒はないと思う、と説明する。終わったなら早く出て行け、と弟に言われ、猫猫は厨房を出る。
帰りの馬車で、何で簡単に引き下がったのかと馬閃に問われた猫猫は、引き下がったとは思っていない、と弟には見つからないように持ち帰ってきた海藻を見せ、この海藻が取れる時期にはまだ少し早いが、塩漬けにしてもこの時期までは持たない、おそらくこの近辺で採れたものではない、どこか仕入れたのか分かるといいのだが、と言うと、馬閃は何かに気づいたようにハッとする。
戻った猫猫は、壬氏、高順、馬閃の前に海藻を盛った2枚の皿を見せる。官僚の屋敷から持ち帰った海藻をあらかじめ2つに分け、水にさらしておいたものだと説明する。馬閃から海藻は南方から持ち込まれたもので、下男によれば官僚が冬場にその海藻を食べることはなかったと聞いた猫猫は、確信を深め、南方ではあまりこの海藻を食べる習慣がないのかもしれない、美食家と知った交易商人がわざわざ地元民に海藻を取らせ塩漬けを作らせたのではないか、と推測を話し、世の中には毒が無毒になることがある、鰻には本来毒があるが、血を抜いたり加熱することで食べられるようになる、この海藻の場合は石灰水に浸けることが必要、ここに用意したのは、石灰水に浸けたものとそうでないもの、と説明し、その一方を口にする。びっくりした壬氏は、無理やり猫猫に薬で吐かせる。
気を取り直して説明を続ける猫猫、交易商人に海藻の塩漬けを持ってくるよう提案したのは誰なのか、食べる習慣のない地方から取り寄せれば危険性が高いのは当たり前、と説明すると、高順は、分かりました、と言う。猫猫は、ここにいる人たちは賢い、これ以上言う必要はないだろう、と説明をやめる。
後日、猫猫は高順から、結局犯人は役人の弟だった、買い付け先を見つけたところで自分が買ったと白状した、動機は次男の自分がないがしろにされており長男を邪魔だと思ったから、海藻の毒は酒場で横に座った客から偶然教わったと聞かされる。
高順からの依頼を片付けた猫猫は、壬氏が持ってきた冬虫夏草(虫から生えた奇妙な草)を何に使おうか考えて思わず浮かれて顔がにやつく猫猫、そこに帰ってきた壬氏に、おかえりなさいませ、とつい笑顔で挨拶してしまい、いつもの仏頂面と違う猫猫に動揺した壬氏は柱に頭を打ち付ける。
落ち着いた壬氏は、お疲れのようですね、といたわる水蓮に、仕事が溜まっているが、どうにも馬が合わない相手がいて、意見が違ってしまうのだ、相手は頭が切れる軍部の高官、家柄はいいのに四十を過ぎて妻帯もせず、甥を養子に取って家のことを任せている有名な変人、興味があるのは専ら碁と将棋と噂話、難癖をつけては突撃してきて案件の判を押すのを先延ばしにしてくる、どうも標的にされたらしいとこぼす。それを聞いた猫猫は、忘れよう、思い出してもろくなことにならないと思うが、嫌な予感がする。
壬氏は、緑青館に縁のある猫猫を下女にしたことで、羅漢に付きまとわれるようになっていた。またも壬氏の執務室に突撃してきた羅漢は、緑青館にはなじみの妓女がいた、将棋では勝てるが囲碁は負けてばかりだった、あれほど面白い女にはもう会えないだろうと身請けも考えたが、物好きの2人の金持ちが競い合うように値を釣り上げた、諦めきれず少々汚い手を使って希少価値を下げたと壬氏に話す。そして、そちらに最近入った下女が妙に謎解きが得意と聞いた、知人に宮廷御用達の彫金細工師がいたが、先日ちゃんと後継者を指名しないまま逝ってしまった、3人の子どもがいて弟子にしていたが、秘伝といえる技術を伝えないまま逝ってしまったのが不憫、彼の思わせぶりな遺言が何かの手がかりになるのではないか、その秘伝の技術を知る術はないか、そちらの下女が調べてくれたりしないだろうか、と猫猫に謎を解いてほしいと求め、壬氏はひとまず話を聞かせてもらえないかと言うのだった。
原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」所収の「四話 鱠」に対応する部分になっています。
#16『鉛』
<「皆、昔のように茶会でもするといい」――息子に秘伝を授けずに亡くなった宮廷御用達の彫金細工師が残した不思議な遺言。壬氏から調べてほしいと頼まれた猫猫は、彼らの家を訪ねる。作業小屋、開かない箪笥、硝子製の金魚鉢、三兄弟それぞれに残された3つの形見と作業小屋の不思議な間取りの謎に気づいた猫猫は、細工師の遺言通り兄弟たちと共に“茶会”を開く。>
壬氏は、ちと面倒なことなんだが、と話し始める。いつもなら有無を言わさず面倒ごとを持ってくるのに壬氏にあるまじき台詞だなと思う猫猫。知り合いのそのまた知り合いのもめごとで、宮廷御用達である彫金細工師が弟子である息子たちに技術を継承しないまま死んだらしい、その中には余所では一切伝えられていなものもあるという、彫金師には3人の息子がいて、みんな弟子をしており、父親が死んだ後はそのうちの誰かが御用達になると言われている、父親が残した遺言には形見分けの品が書かれており、長男には離れの作業小屋、次男には細工の施された家具、三男には金魚鉢、そして一言、皆、昔のように茶会でもするといいと言い残した、遺言を聞いた当人たちもさっぱりらしい、と壬氏はさらに説明する。そのままの意味なのか、それとも違う意味なのかと考え出す猫猫に、気になるなら行ってみればいい、ということだ、と住所が書かれた文を渡す。
準備がいい、最初からこうなることを読んでいたみたいだ、面白い、と思った猫猫は、明日お時間をいただけるのであれば、と答えると、水蓮はいってらっしゃいと言わんばかりに手を振るが、戻ったら仕事を増やされるんだろうな、と猫猫は覚悟する。
翌日、猫猫が待ち合わせ場所に行くと、前に官僚の屋敷に行った時と同じく、馬閃が馬車を用意して待っていた。馬車の中で馬閃は、前もそうだったが、自分のお付きという形だ、勝手に動くなよ、と釘を刺す。
その家に着いて玄関を叩くと、若い男が話は聞いていると出迎える。男は渡り廊下を進み、離れの作業小屋に案内する。今は母屋で作業をしており、作業小屋は職人たちの茶飲み場になっているという。そして、兄さんたち、連れてきたよ、と作業小屋に2人を招き入れる。
部屋は、真ん中に箪笥があって邪魔だが、それでも部屋の見た目が悪くないのは、その周りに配置された卓の妙な統一感と、箪笥の洒落た雰囲気のせいだろうと猫猫は思う。箪笥を見ると、角には彫金細工がはめられ、一番上の3列とその下の中央の引き出しに鍵穴があって、そこだけアクセントに他と違う金属が施されており、動かないように金具で床に固定されていた。兄2人のうち小太りの男は、それは俺のものだ、見るのはいいが触るんじゃないぞ、と言い、これが次男で、もう1人の長身の男が長男なのだろうと猫猫は思う。
窓は西洋風で妙に縦に細長い窓が箪笥の正面に1つあるだけで、そばにある栗の木のせいで、窓から入るのは木漏れ日だけだった。窓の下にある棚の上には、長い間何かが置かれていたような跡が残っていた。
兄弟が話すのを聞く猫猫は、三男に形見分けされた金魚鉢がガラス製なのを見て、3人の形見分けの品はそれぞれ価値があると言えるだろうと思うが、次男は、せっかく形見分けをもらっても、鍵は1つしかないし鍵穴に入らない、上段の3つの引き出しは全部同じ鍵で開くらしいが、肝心の鍵がない、これではもらった意味がないとこぼし、長男も、小屋をもらっても箪笥を動かせないのでは邪魔でしょうがない、いい迷惑だ、と文句を言う。それに対して三男は反論しようとするが、兄2人から、お前はいいよな、さっさと金に換えられるものをもらったんだから、しばらく食うには困らない金になる、と言われ、言い返せなくなってしまう。それを見た猫猫は、兄2人と三男の関係はずいぶん冷めているみたいだと思う。
そこにやってきた兄弟の母親は、お客さんの前でみっともないと息子たちを戒め、長男と次男がひねくれてしまって、末っ子は自分の意見も言えない、主人も最後の最後まで心配していたと語り、一同にお茶を出して去っていく。
兄弟たちは座る席が決まっているかのように場所を変えて席に着く。窓から入る太陽の光が箪笥の方に伸びているのを見た猫猫は、改めて中段の鍵穴の中を覗くと、中に何かが詰まっていた。そこにやってきて、何か分かったのかと尋ねる馬閃を見て、誰かに似ていると思っていたが、高順に似ているのだな、と猫猫は気がつく。改めて次男に尋ねると、昔は鍵が開いたのだが、親父が細工しているうちに開かなくなってしまった、鍵を壊したら中の物も壊れると言われ、強引に開けるわけにもいかないと言う。
考えを巡らせ、もしかして、と何か思い当たった猫猫は、金魚鉢はもともと棚の上に飾ってあったものではないかと三男に尋ねると、三男は、そうだ、昔は金魚を入れていたが、ここ数年は金魚を飼うこともなくただの置き物になっていると話し、金魚鉢を棚の跡があった部分の上に置く。何かを思いついた猫猫は、水をもらいに行ってくると言って作業小屋を出て行く。水をもらってきた猫猫はそれを金魚鉢に流し入れると、三男はこの絵柄がこちらに向くように、と言って金魚鉢の側面に施された絵柄を箪笥の正面に向けると、太陽の光は金魚鉢の水を通って、一点に集約されて、箪笥の中段にある鍵穴にぴったり当たる。
しばらく経って、太陽が小屋の脇にある栗の木の陰に入って日が陰ったところで、鍵穴から妙なにおいがするのを感じた猫猫は、次男に鍵を開けるよう促す。しぶしぶ次男が中段の鍵穴に鍵を差し込むと、鍵が回って鍵が開く。驚く兄弟たちに猫猫は、父親は貧血や腹痛などを繰り返してなかったか、ほかに吐き気や気鬱などはなかったかと尋ねる。それを肯定した三男に、猫猫ははんだを使っているのかと更に尋ね、三男はそうだと答える。猫猫は茶会をしろという遺言に従ったまでだと言い、その引き出しを取り出して見せると、鍵の鋳型が入っており、鋳型にはまだ少し温かく柔らかい金属が入っていた。金魚鉢を通って鍵穴に当たった太陽の光の熱によって、鍵穴に詰まっていた金属が温められて溶け、真下の鋳型に流れ込んだのだと気づいた猫猫は、その鍵を取り出して上段の鍵穴に差し込むと、3つの鍵は開き、3つの引き出しには、2種類の金属の塊、そして青みがかった金属の結晶のような塊が入っていた。兄2人は何が皆仲良くだよ、やってられないと荒れるが、三男だけはじっと3つの塊と見る。
それを見て、猫猫は死んだ父親の意図を理解できたのは末っ子だけだろう、はんだは数種類の金属を混ぜ合わせることで本来個々で溶ける温度より低い温度で溶けるという、3つの塊のうち2つは鉛と錫、そしてもう1つの塊を合わせることで新しい金属ができるのではないか、さして当たっていた時間は長くないのに溶けたのは溶ける温度がそれだけ低いということ、大きさが違う引き出しも配合の比率に関係しているのかもしれないが、これ以上口を出す必要はないと考える。
長男と次男は、何が遺言だ、親父に期待して損した、と吐き捨てて部屋を出て行こうとするが、三男は2人を呼び止め、いたずらなんかじゃない、親父は兄弟に仲良くしてほしくて遺言を残した、だからこれからも兄さんたちと一緒にやっていきたい、と訴える。2人は才能のある三男は親父に特別に可愛がられていたと言って取り合おうとしないが、三男は、親父は兄さんたちを信頼していた、と長男と次男の長所をそれぞれ褒めていたことを話して、父親は兄弟を同じように見ていたと語り、3人は仲直りする。
猫猫は、花街の緑青館という店に羅門という薬師がいる、医術の腕も確かなので、何か体調が悪いようであれば訪ねてみてください、と三男に宣伝して、馬閃とともに職人の家をあとにする。
後日、また壬氏の執務室にやってきた羅漢は、あの3兄弟、一番できるのはやはり末の息子だったようだ、あの後末っ子がめきめきと力を見せ始め、後継になって宮廷に出す細工を扱うと言われている、長男と次男は今回の件で職人から足を洗い、長男は売上げの管理、次男は販路の開拓とそれぞれ別の方面から家業を支えることになった、要するに適材適所に落ち着いたということだと話す。壬氏は、あの屋敷で何があったかはわからない、猫猫は知っていて黙っているのだろうと思う。そして羅漢は、最後に、先代の作った細工は素晴らしかった、単なる金具だが、祭具にあの細工を使えば映えるだろう、と言って思わせぶりに壬氏を見る。自分に祭具のことを言っても仕方ないと思う壬氏がなぜ軍師殿がそんな、と言いかけるが、羅漢はそれを遮って、埋もれた才能をそのままにしておくのは勿体ない、才能があるなら目を掛けてやるべきだ、と言う。
それを聞いて、一理あり、胡散臭い男だが人の才能を見る目は確かだ、その采配で今の地位に上り詰めたと言ってもいい、と思った壬氏は、以前に聞いた妓女の希少価値を下げる方法について聞こうとするが、羅漢は、そういうことはその世界を知る者に聞いた方が早い、と答えをはぐらかし、もう時間だ、部屋付きの女官たちにでもあげてください、と持っていた果実水の入った徳利を置いて帰っていく。羅漢が出て行って、疲れて机に突っ伏す壬氏に、高順は、お疲れのところ恐縮ですが、と話を切り出す。
帰ってきた壬氏に呼び出された猫猫。壬氏は、お前は化粧に詳しいか?と突然猫猫に尋ねる。はあ、一通りは、と答えた猫猫に壬氏は、俺に化粧をしてくれないか、と言うのだった。
原作小説では、シリーズ第2巻の「薬屋のひとりごと 2」所収の「五話 鉛」と、「六話 化粧」の冒頭、「八話 梅毒」の末尾に対応する部分になっています。
(ここまで)
この続きは改めて。