2023年秋クールで日本テレビで放送が始まった「薬屋のひとりごと」、前回に続いて第5話から第8話までを紹介します。
2011年10月から小説投稿サイト「小説家になろう」に掲載され、2014年から主婦の友社の「ヒーロー文庫」で文庫本が刊行されている日向夏さんの同名ライトノベルを原作にアニメ化した作品で、主要スタッフは、キャラクター原案:しのとうこ、監督・シリーズ構成:長沼 範裕、キャラクターデザイン:中谷 友紀子、アニメーション制作:TOHO animation STUDIO×OLMなど。
繰り返しになりますが、公式サイトで紹介されている主要登場人物・キャストは、次のとおりです。< >内が、第5話から第8話までの中でそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。
-
猫猫(マオマオ)【悠木 碧】:花街で薬師をやっていたが、現在は後宮で下働きをしている。毒と薬に異常に執着を持つ。元来の好奇心と正義感から、とある事件に関わったことで運命が一変する。<第5~8話>
-
壬氏(ジンシ)【大塚 剛央】:後宮で強い権力を持つ宦官。もし女性だったら傾国と言われるほどの美形。とある事件をきっかけに猫猫の「実力」に気づき、皇帝の寵妃の侍女に抜擢する。<第5~8話>
-
高順(ガオシュン)【小西 克幸】:壬氏のお目付け役の武官。マメで気が利き仕事ができ、信頼が厚い。猫猫曰く「癒し系」。後宮では壬氏同様、宦官として任務にあたる。<第5~8話>
-
玉葉妃(ギョクヨウヒ)【種﨑 敦美】:最も皇帝の寵愛を受けていると言われる上級妃・四夫人の一人。ある事件をきっかけに猫猫を侍女に迎える。<第5~8話>
-
梨花妃(リファヒ)【石川 由依】:現帝の妃で四夫人の一人「賢妃」。後宮内で噂される「呪い」で御子を亡くし、自らも病に伏してしまっている。病のためやつれているが、本来は玉葉妃とは対象的な雰囲気の凛とした妃。<第6話>
-
里樹妃(リーシュヒ)【木野 日菜】:現帝の四夫人の一人「徳妃」。幼い故に自身の振る舞いはもちろん、後宮の風習やしきたりの知識が浅い。そのため侍女たちからも軽んじられてしまっている。<第5・6話>
-
阿多妃(アードゥオヒ)【甲斐田 裕子】:現帝最初の妃で四夫人中最年長の「淑妃」。中性的な雰囲気で、男装の麗人のような振る舞いが後宮内で人気を誇る。里樹妃とは先帝の時代から関わりがある。(なお、第5~8話には登場しません)
-
小蘭(シャオラン)【久野 美咲】:後宮の下女で猫猫と仲が良い。噂好きでおしゃべり。学はないが向上心を持つ一面も。<第5・7話>
-
李白(リハク)【赤羽根 健治】:若い武官で猫猫曰く出世株。武官らしく鍛え上げられた肉体を持つ。お人よしだが、自分の信念を貫く真っ直ぐな性格の持ち主。<第6~8話>
以上の9人のほか、第5話から第8話までに出てくる個別に名前などが付いている登場人物は、次のとおりです。< >内がそれぞれのキャラクターが登場(声優が出演)する放送回です。
-
紅娘(ホンニャン)【豊口 めぐみ】:玉葉妃の侍女頭。<第5~8話>
-
桜花(インファ)【引坂 理絵】:玉葉妃の侍女。<第5~8話>
-
貴園(グイエン)【田中 貴子】:玉葉妃の侍女。<第5~8話>
-
愛藍(アイラン)【石井 未紗】:玉葉妃の侍女。<第5~8話>
-
馬閃(バセン)【橘 龍丸】:高順の息子で、壬氏とは幼なじみ。<第5話>
-
河南(カナン)【庄司 宇芽香】:里樹妃の毒見役の侍女。<第6話>
-
羅門(ルオメン)【家中 宏】:猫猫が「おやじ」と呼んで慕う養父。<第7・8話>
-
やり手婆【斉藤 貴美子】:老舗の高級妓楼「緑青館」の女主人。昔は緑青館きっての妓女だったらしい。<第7・8話>
-
梅梅(メイメイ)【潘 めぐみ】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第8話>
-
白鈴(パイリン)【小清水 亜美】:緑青館の三姫と言われる妓女。<第8話>
-
気前がいい婆【津田 匠子】:猫猫が倒れた妓女と客を手当てした娼館の女主人。<第8話>
各話ごとのあらすじは、次のとおりです。< >内が公式サイトのストーリーで紹介されている内容になります。
#5『暗躍』
<梨花妃は回復し、玉葉妃の宮でいつもの生活に戻った猫猫。ある日医局にいると、ひどく怯えた宦官が「呪いを解く薬がほしい」とやってくる。宦官の話から彼の言う呪いの正体を見抜き、軟膏を処方する猫猫。すると今度はそれを見た壬氏に呼び出されてしまう。猫猫が玉葉妃の翡翠宮に戻ると、同僚たちが気合を入れて園遊会の準備をしていた。>
翌朝、馬閃に剣術の稽古をつける壬氏。稽古が終わり、高順に猫猫の様子を尋ねる壬氏は、水晶宮で見た猫猫の意外な一面を思い返す。
一方、後宮内で初物の松茸を見つけて歓喜する猫猫は、翡翠宮で侍女たちから押し付けられた包子などを小蘭に差し入れると、小蘭から後宮の女官が媚薬を使って女嫌いで有名な堅物武官を落としたとの噂を聞かされ、自分の作った媚薬のせいではとビクッとする。
その後、猫猫は松茸を持って医局を訪れ、仲良くなったやぶ医者と松茸を堪能するが、そこに、怯えた宦官が呪いを解く薬を作ってほしいとやってきて、かぶれた掌を見せる。宦官は、2日前の晩に後宮から出たゴミを燃やす仕事をしていると、衣が焦げた女物の衣と木簡が出てきて、それを火に投げ入れたら炎が見たこともない色に変わり、掌がかぶれたと話す。
怯える宦官の前で猫猫は、小さく付けた炎に様々な粉を振って色を変えてみせ、花火と同じく、燃えるものによって色が変わるので呪いなどではないこと、手がかぶれたのはおそらく木簡に何か原因となるものが付着していたのだろうと話し、軟膏を処方する。そこに、高順を連れた壬氏が現れ、やぶ医者がお茶を用意している間に猫猫を連れていき、猫猫から詳しく話を聞く。話を聞き終えた壬氏は、土瓶蒸しが好きだ、頼んだぞ、とキラキラした笑顔で言って、猫猫を帰す。
猫猫から話を聞いた壬氏は、高順に後宮で最近腕にやけどを負った人を探させる。帰り道、猫猫は、色付きの木簡はたぶん暗号、そんなものを使うのは公にできない内容があるのだろうと推測するが、考えても仕方がない、とそれ以上考えることをやめる。
猫猫が翡翠宮に戻ると、侍女たちが園遊会の準備をしていた。園遊会とは、年2回、宮廷の庭園に偉い人たちが集まり、出し物が行われたり食事が振る舞われたりする会で、現在の皇帝は結婚しておらず后がいないため、正一品の妃(皇后候補)、すなわち、上級妃である梨花妃、玉葉妃、里樹妃、阿多妃の4夫人が招かれること、前回は出産直後だった梨花妃と玉葉妃が出産直後で欠席したため、4夫人が揃うのは今回が初めてであること、自分たちには特に仕事はなく、皇帝に付き従っていればいい、たまに挨拶に来た官たちに笑顔を振りまくのを忘れずに、と聞かされる。今回は玉葉妃が生んだ鈴麗公主のお披露目とあって、侍女たちは、これは戦い、と気合が入っていた。
園遊会には乗り気でない猫猫も準備を始める。突風が吹く屋外で行われる園遊会には鉄の膀胱が必要になると思った猫猫は、体が温めるため生姜と蜜柑の飴を作り、肌着にカイロを入れるポケットを縫い付けると、侍女全員の分を作るようにと頼まれ、話を聞きつけた壬氏と高順からも頼まれる。皇帝直属のお針子や食事係までもが作り方を教えてほしいとやってきて、猫猫は手仕事に追われる。
そうして園遊会の日がやってくる。玉葉妃は、変な虫がつかないように、と侍女たちに髪飾りなどを渡し、猫猫にも首飾りを付ける。桜花たちが猫猫を化粧で化けさせようとすると、意外な事実が明らかになる。
4人の上級妃を順々に訪ねる壬氏が玉葉妃のところにやってきて、いつものように猫猫にちょっかいを出そうとするが、見慣れたそばかすがない猫猫の顔を見て驚く。壬氏が化粧したのかと言うと、猫猫は化粧を落としたからそばかすが消えた、乾いた粘土でそばかすの化粧をしていた、自分が襲われないようにするためだ、とわざと付けていたことを明かす。それを聞いて、自分の管理不行き届きを詫びる壬氏。猫猫が壬氏様のせいではありませんと答えると、壬氏は申し訳なかったと詫びながら、猫猫の頭に男物の簪を差し、あとは会場で、と言って去っていく。玉葉妃は、さっそく約束を破ったのね、私だけの侍女じゃなくなったじゃない、と言って簪を差し直すが、猫猫はその意味が分からない。そして、園遊会が始まる。
原作小説では、シリーズ第1巻「薬屋のひとりごと」所収の「十四話 炎」「十五話 暗躍」「十六話 園遊会 其の壱」に対応する部分になっています。
#6『園遊会』
<華やかな大イベント“園遊会”がついに始まった。帝と4人の上級妃、皇族や高官たちが一堂に会し、次々と披露される出し物で賑わう会場は、各妃の侍女同士の諍いの場でもあった。食事の時間となり、出される料理を次々と口へ運ぶ毒見役の猫猫。しかし、毒見を終えた料理を前になぜか表情を強張らせる里樹妃の姿に、不審を抱く。>
上級妃である玉葉妃、梨花妃、里樹妃、阿多妃が初めて揃った園遊会。冷たい風が吹く中、猫猫は玉葉妃の侍女たちと身を寄せて寒さをこらえる。会場で出し物が披露される様子を覗き見る猫猫は、皇太后の若さに驚き、愛藍から皇太后には帝とその弟の2人の子がいるが、弟はとても病弱でほとんど外出しないと聞かされる。一方、桜花は梨花妃の侍女たちと火花を散らす。梨花妃の侍女は、あの醜女を雇ってるくらいだし、と嫌味を言う、目の前にそばかすを落とした猫猫がいることに気づかない。猫猫が鼻を手で隠しながら不敵な笑みを向けると、それが猫猫だと気づいた梨花妃の侍女は途端に怯えてその場を立ち去っていく。桜花たちは不幸な身の上で水晶宮でのいじめにもめげない健気な少女と誤解して猫猫を気遣う。
そして、里樹妃の侍女と阿多妃の侍女の間でも代理戦争が起きていた。猫猫は、14歳の里樹妃と35歳の阿多妃と年が離れているのに加えて、嫁姑の関係で仲が悪いと聞かされる。もともと、先帝の妃と現帝の妃という関係だったが、先帝が崩御した後、先帝の妃は一度出家して、現帝の妃として戻ってきたと説明されるが、先帝の妃が年下の里樹妃の方だったことに驚く。その里樹妃が、玉葉妃を象徴する赤と被る濃い桃色の衣装を身にまとっていたのを見た猫猫は、空気が読めない子なのかなと思う。
桜花たちと火鉢の前で暖をとっていると、官が簪を渡しているのを目にする。桜花は、ああやって花の園に隠れた優秀な人材を勧誘する、違う意味もあるんだけど、と説明する。猫猫がその場を離れて歩いていると、李白という若い武官が声をかけて簪を渡す。李白が数多くの簪を用意しているのを見た猫猫は、恥をかく侍女がいないようみんなに配っているのかと思う。さらに、梨花妃が玉葉妃の侍女たちのところにわざわざやってきて猫猫に簪を差し、用事はこれだけ、ごきげんよう、と言って去っていく。
そして、食事の時間となり、猫猫は毒見役として玉葉妃の後ろに控える。猫猫が居並ぶ参加者を見ると、李白は前座の末席に座っており、年齢を考えれば出世頭だろうと思う。猫猫は運ばれた料理を毒見していく。右隣で阿多妃の毒見役がびくびく怯えながら毒見をしているのを見て、好んで毒を食らうのは私くらいだと思う。そして、左隣の里樹妃が、自分が毒見した玉葉妃のなますにはなかった青魚が入ったなますを青ざめた顔で食べ、後ろの毒見役がそれを見てニヤッとしているのに気が付く。
一方の李白は、隣の官から、やたら威勢のいい毒見役がいると言われて見ると、それはさっき簪を渡した侍女だった。その猫猫は、運ばれたスープを毒見し、恍惚の表情を浮かべ、参加者の目を引くが、表情を戻した猫猫は、これ毒です、と言ってうがいのためにその場を離れるが、猫猫の表情を見て本当に毒なのかと飲んでみた大臣は倒れてしまう。
うがいをした猫猫に追ってきた壬氏が声を掛ける。吐き出したので大丈夫だと言う猫猫を壬氏は捕まえて連れていく。あのまま飲み込みたかったが飲んでいたら今頃全身に毒が回っていたと思う猫猫は、大臣が倒れて会場はさらに大騒ぎになったと話す。猫猫は壬氏がいつもと違う簪を差しているのを見て、男から贈られたのではと妄想を膨らませる。
猫猫を吐かせてスッキリさせ、誰が玉葉妃に毒を持ったのか話を聞こうとする壬氏に、猫猫は里樹妃を連れてきてもらう。
毒見役の侍女を連れてやってきた里樹妃の腕を取って袖をたくし上げると、腕には赤い発疹が出ていた。猫猫は2人に、アレルギーについて説明し、里樹妃は、何でわかったの、と驚く。猫猫は、いつもとなますの具材が違っていたので、何かの手違いで玉葉妃と里樹妃の料理が入れ替わったのだろうと説明し、これは好き嫌い以前の問題、時に呼吸困難を引き起こす、知っていて与えたのなら毒を盛るのと同じことだと警告する。それを聞いて怯える毒見役に、猫猫は注意事項をまとめた資料を渡して、一つ間違えれば医官でも対処できない命に関わる問題であることをゆめゆめ忘れないようにと脅し、その言葉に怯えた毒見役の侍女はうなずき、里樹妃と一緒に帰っていく。
2人が帰った後、壬氏はなぜ毒見役の侍女をわざわざ同席させたのかと問うと、猫猫は注意事項を伝えるためだと答え、配膳の者が間違えたのかとの問いに、少し考えて、一介の侍女には分かりません、と答える。さらに、狙われたのは里樹妃ということだな、との問いに、他の皿に毒が入っていなければ、と答えてその場を辞する。
猫猫が去った後、高順は壬氏に、先日の木簡の件と関わりがあるのか尋ねると、壬氏は、一体誰が、とつぶやくのだった。
原作小説では、シリーズ第1巻「薬屋のひとりごと」所収の「十七話 園遊会 其の弐」「十八話 園遊会 其の参」「十九話 祭の後」に対応する部分になっています。
#7『里帰り』
<園遊会から一夜明け、猫猫は高順に頼まれて毒が入れられた器を調べるうちに、里樹妃が侍女たちにいじめられていることに気づく。また、小蘭に「園遊会で貰った簪を使えば後宮の外に出られる」と聞かされ、里帰りすることを思いつく。しかし次々に起きる事件に頭を悩ませる壬氏は、猫猫が里帰りすることなど知るべくもなく……。>
園遊会の翌朝、羅門の夢を見た猫猫は、おやじは元気かな、と思う。翡翠宮に戻った後、桜花たちに病人はゆっくり寝てて、と寝台に運ばれ、昼まで寝ていた。そばかすの化粧をして玉葉妃のもとに参上した猫猫は、落ち着かないのでそばかすのままでよろしいでしょうかと願い出る。玉葉妃は、あの侍女は何物だとみんなから詰め寄られて大変だったと話してそれを許し、高順が来ていて、暇そうだったから草むしりしてもらっていると話す。猫猫は、園遊会では結構な高官の席にいたのにまめ、侍女たちの心を掴んでいるに違いないと思う。
応接間で高順に会うと、壬氏から預かったと、前日に玉葉妃が食べるはずだったスープが入った器を出す。猫猫は、綿と粉と筆を持ってくる。猫猫は高順に、自分がいた薬屋でやっていた方法の応用だと話し、その器の周りに粉をまぶして余分な粉を落とすと、器に触った人間の指先の跡が浮かび上がる。器を持ったのは、スープをよそった者、配膳した者、里樹妃の毒味役と、もう1人器の縁を触った第三者で、その者が毒を入れたので間違いないと話す。里樹妃の毒味役の指紋が付着しているのか訝る高順に、猫猫は、里樹妃の毒見役が嫌がらせに毒とは知らずに料理を入れ替えたのだと言い、あくまで自分の推測だと留保した上で、園遊会で里樹妃が玉葉妃と被る桃色の衣装だったのは、幼い里樹妃が侍女たちが勧めるがままに着てわざと恥をかかされたのだ、周りから見れば亡き夫の息子に嫁ぐのは不徳も甚だしいということだろうと話す。それを聞いた高順が、なぜ前日に毒見役を庇おうとしたのかと尋ねると、下女の命など妃に比べれば軽くたやすいもの、ましてや毒見役の命ともなれば、と猫猫は言い、高順は壬氏にはうまく説明すると話す。
その夜、高順からの報告を聞いた壬氏は、どう考えても内部犯だ、この騒ぎで昨日から寝る暇もない、と愚痴をこぼし、高順に指摘されて前日から差していた簪を抜く。それは特別な者しか身に付けることができないものだった。
翌日、小蘭に園遊会で簪をもらったことを話した猫猫は、じゃあ後宮から出られるんだね、と言われる。その話に食いついた猫猫は、簪を使えば男性が女官を連れ出すことができると知る。
それを聞いて里帰りしたくなった猫猫は、誰にそれをお願いするか考え、李白のもとを訪れ、実家に一時帰宅するため身元を保証してほしいと頼む。李白は下女が武官である自分に身元保証だけを求めることに機嫌を損ねるが、猫猫は高級妓楼・緑青館の、高級官僚でもなかなか手を出せない三姫の紹介状を出し、さらに、壬氏と梨花妃からもらった簪をちらりと見せて、他にもあてがあると匂わせて李白を誘惑し、その誘惑に負けた李白は、俺の負けだ、と猫猫の頼みを受け入れる。
簪の本当の意味を理解していない猫猫は、李白に身元保証人になってもらい、3日間の里帰りに出かける。玉葉妃は、壬氏がどんな顔をするのかしら、とそれを面白がる。猫猫が出発した翌日に翡翠宮にやってきた壬氏にそれを告げると、ショックを受けた壬氏は呆然となる。
一方、李白と馬車に乗って緑青館に向かった猫猫は、出てきたやり手婆に、久しぶり、と声を掛けるが、強烈な一撃をみぞおちに食らい、その場で吐く羽目になる。猫猫は給金の半分を特別に前払いしてもらい用意していたが、いい体格の李白を見て白鈴に会わせることにしたやり手婆は、これはお茶だけでは済まない、その額では足りない、上客を連れてこい、とがめつい物言いをするが、じじいは家にいるから行ってやりなと温かい声を掛け、猫猫は実家に向かう。
あばら屋が立ち並び、物乞いと梅毒の夜鷹がいる花街の裏通りを通って、実家に戻った猫猫。猫猫が「おやじ」と慕う羅門はいつものように「おかえり」と出迎える。ともに食事をしながら後宮での出来事を話し、眠った猫猫を見ながら、羅門は、後宮とは因果だねぇ、とつぶやくのだった。
原作小説では、シリーズ第1巻「薬屋のひとりごと」所収の「二十話 指」「二十一話 李白」「二十二話 里帰り」に対応する部分になっています。
#8『麦稈』
<久しぶりに実家に泊まった翌日、猫猫は慌てた様子で薬師を呼びに来た禿に連れられて、ある娼館へ向かう。そこには毒を飲んだ妓女と男が倒れていた。行く先々で事件に遭遇する猫猫だが、手早い処置で二人を助け、羅門と共に治療にあたる。二人が息を吹き返したので娼館を後にした猫猫だったが、妓女たちから聞いた話や心中の方法に違和感を覚え、真相を推理する。>
簪をもらった李白に、一見さんお断りの高級妓楼・緑青館での一夜を自分の給金でプレゼントする代わりに、身元保証人になってもらい、3日間の里帰りを手に入れた猫猫。久しぶりに羅門と暮らしていた家でぐっすりと眠った翌朝、羅門が外出している間に、少女・禿(かむろ)がやってきて、切羽詰まった様子で戸を叩き、猫猫を見つけるとつかまえて連れていく。
猫猫は、連れて行かれた娼館で、妓女と男が意識を失って倒れているのを見る。男はもう息をしておらず、女の呼吸も浅かった。猫猫は男の喉に嘔吐物が残っていないか確かめ、女の方の手当ては周りの妓女に頼む。既に脈もない男に、猫猫は心臓マッサージと人口呼吸を行い、水を飲ませようとする妓女を止めて炭を用意するよう指示する。猫猫たちの処置のおかげで、2人とも一命を取りとめて落ち着く。
猫猫は、部屋をそのままにするよう指示して、原因を考え始める。部屋には酒と煙草の匂いが充満し、倒れた2本の酒瓶、割れたガラスの器、ストロー状の麦稈、キセルとそこから散らばった煙草の葉があった。炭を持ってきた禿に猫猫は木簡と書くものを用意させ、羅門を連れてくるよう頼む。
かなり経ってやってきた羅門は、すりつぶした炭を薬草に飲ませることにし、これは何の毒だと思った?と猫猫に問う。煙草の葉だと答えた猫猫に、その場合は水を飲ませるのは逆効果だが、もしこれが最初から水に溶かしたものであったなら、と気づきを与える。その言葉にハッとした猫猫は、嘔吐物に煙草の葉が混じっていないことに気づく。
娼館の女主人は、羅門と猫猫に客用の茶菓子をふるまう。気前がいいと思う猫猫は、女主人が飲み物を飲む様子を見て、麦稈は器に紅が移らないようにするためストローとして使うのだと知る。女主人は、本当に助かった、心ばかりのお礼だと金子を差し出す。それを辞退しようとする羅門に、猫猫は、今月の家賃が払えるのか?とささやいて金子を受け取らせる。猫猫は、今回の一件は、花街では珍しくない心中だろう、身請けする金のない男と年季の明けない女がいればそんなことばかり思いつく、と思うが、男の身なりから、金にも女にも困りそうにない、将来を憂いて毒を飲むようには見えなかった、と引っかかり、男の様子を見に行く。すると、自分を娼館に連れてきた禿が、こんな奴死んだほうがいいんだ、と刃物で男を刺し殺そうとしていた。間一髪で禿から刃物を取り上げると、禿は泣き出す。
そこに駆けつけた妓女は、猫猫に事情を説明する。男は妓女たちに身請けを仄めかしては飽きたら捨てるを繰り返す問題の多い客で、恨みばかり買って、逆上した妓女に刺されそうになったり、毒を盛られたこともあったが、豪商の息子であるためお金で解決していた、禿の姉も男に身請けの当日に白紙にされた妓女で、今回の妓女にも懐いていたので、許せなかったのだろうと言い、入れ込んだのは妓女の方だったと話す。猫猫は、女主人の手厚いもてなしは豪商の息子を自分の店で死なせずに済んだからだろう、普通なら医者を呼ぶ状況でわざわざ不在の薬屋を呼びにきたのだとすれば、禿は恐ろしいと思う。
羅門と家に帰った猫猫だが、かなりしたたかな男が心中するのだろうか、となおも引っかかっていた。憶測でものを言っちゃいけないよ、と言う羅門に、猫猫は、おやじはもう真相に気づいているんだろう、と言うが、羅門はそれには答えない。猫猫は冷静に思考を巡らせ、ある結論に達するが、羅門は、もう終わったことだよ、と言う。
猫猫は、心中じゃなく殺人だ、男を騙して煙草を浸けた酒を飲ませようとした妓女が、煙草が浸かっていない酒の上に煙草の浸かった酒を注いで、麦稈でグラスの煙草が浸かっていない下の層だけを毒見して見せ、それを見て警戒心が緩んだ男はグラスごと飲んで倒れた、そして、妓女は死なない程度の毒を飲んで心中に見せかけた、と推理する。そして、禿や娼館の妓女、女主人もみんなが協力していた可能性も頭に浮かぶ。猫猫は、花街を歩きながら、花街も後宮も本質は同じだ、どちらも花園であり、鳥かご、みんな閉じこもった空気に毒されていく、と思う。
そして、猫猫は、もらい湯に行った緑青館で湯に浸かりながら、この件がこの後どうなるかはどうでもいい、そんなことをいちいち考えていてはこの街で生きていけないと思う。そこに、三姫の1人の梅梅が風呂に入ってくる。梅梅は、猫猫が急に行方不明になってみんな心配してたのよ、白鈴も女華もおばばも、と言い、離れには行ったの?と聞く。猫猫は、後で行く、と言い、風呂の後、離れを訪ねる。
翌日、羅門に別れを告げ、緑青館で白鈴にすっかり打ち抜かれてデレデレになった李白とともに、猫猫は翡翠宮に戻る。すると、そこには不機嫌な様子の壬氏が待ち構えており、応接室で待っている、と告げられる。
応接室に行くと、壬氏は、態度悪そうに、義理でもらった者に俺は負けたんだな、俺もあげたはずなんだが全く話は来なかった、と不満を口にする。自分に話が来なかったのが気に食わないのか、と思った猫猫は、壬氏に満足してもらえる対価が思いつかなかったと弁解し、李白は一夜の夢に喜んでいた、大変満足いただけたようで頑張った甲斐がありました、と言うと、勘違いの妄想を膨らませてショックを受けた壬氏は茶碗を落とし、呆然となってしまう。呆然としたままの壬氏をおいて猫猫が応接室を出ると、2人の様子を窺っていた玉葉妃は面白そうにコロコロと笑い、紅娘は簪の本当の意味を知らない猫猫の頭をピシッと叩く。
原作小説では、シリーズ第1巻「薬屋のひとりごと」所収の「二十三話 麦稈」「二十四話 誤解」に対応する部分になっています。
(ここまで)
第9話以降の続きは改めて。