鷺の停車場

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鴨志田一「青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない」

電撃文庫から出ているライトノベル青春ブタ野郎」シリーズの第14作の「青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない」を読みました。

第10作の「青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない」から始まった第3部ともいうべき大学生編の第5巻で、2024年8月に刊行されています。

 

表紙の帯の裏には、次のように紹介されています。

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「実は、私が霧島透子なんです」
ステージで歌を披露した麻衣が、観客を前に言い放つ。ついに夢見たその日がやってくる、シリーズ第14弾。

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主な登場人物は、次のようなもの。

  • 梓川 咲太(あずさがわ さくた):大学2年生を迎えた主人公。峰ヶ原高校を卒業し、横浜にある公立大学の統計科学学部に通っている。実家を出て、藤沢で妹の花楓と2人暮らしをしている。

  • 桜島 麻衣(さくらじま まい):咲太の1学年上の恋人。子役時代から有名で今は国民的女優。峰ヶ原高校在学時に思春期症候群となったことがきっかけで咲太と付き合うようになり、今は同じ大学に通っている。

  • 霧島 透子(きりしま とうこ):2年近く前から動画サイトでのみ活動している謎のシンガー。

  • 赤城 郁実(あかぎ いくみ):咲太の中学時代のクラスメイト。今は咲太と同じ大学の医学部看護学科に通い、学習支援のボランティア活動をしている。

  • 花輪 涼子はなわ りょうこ):麻衣のマネージャー。

  • 梓川 花楓(あずさがわ かえで):咲太の2学年下の妹。中学時代にネットのいじめに遭って不登校になり、通信制の高校に進学した。

  • かえで:中学時代に不登校となった花楓が解離性障害を発症したことで発現した別人格の咲太の妹。

  • 双葉 理央(ふたば りお):咲太の峰ヶ原高校時代の数少ない友人で、1人で科学部で活動していた。今は理系国立大学に通っており、咲太と同じ塾で講師のバイトをしている。

  • 国見 佑真(くにみ ゆうま):咲太の峰ヶ原高校時代の数少ない友人。高校時代はバスケ部に所属していた。卒業後は消防士として働いている。

  • 上里 沙希(かみさと さき):咲太の峰ヶ原高校時代のクラスメイト。咲太と同じ大学の医学部看護学科に進み、郁実の友人となっている。高校時代から国見と付き合っている恋人。

  • 豊浜 のどか(とよはま のどか):咲太と同学年の麻衣の母親違いの妹。アイドルグループ「スイートバレット」のメンバーで、咲太と同じ大学に通っている。

  • 広川 卯月(ひろかわ うづき):「スイートバレット」のセンター。通信制高校を経て、咲太と同じ学部に進学したが、退学した。

  • 古賀 朋絵(こが ともえ):咲太の1学年下の峰ヶ原高校の後輩。思春期症候群を治したことで咲太と仲良くなった。同じファミレスでバイトするバイト仲間でもある。

  • 姫路 紗良(ひめじ さら):峰原ヶ高校の2年生で、咲太がバイトしている塾の成績優秀な生徒。咲太のもう1つのバイト先であるファミレスでバイトを始める。

  • 山田 健人(やまだ けんと):峰ヶ原高校の2年生で、咲太がバイトしている塾の生徒。

  • 吉和 樹里(よしわ じゅり):峰ヶ原高校の2年生で、咲太がバイトしている塾の生徒。ビーチバレーのクラブチームに所属している。

  • 加西 虎之介(かさい とらのすけ:咲太がバイトしている塾の生徒の高校3年生。紗良の幼なじみ。

  • 福山 拓海(ふくやま たくみ):大学で咲太の友人となった統計科学学部の2年生。北海道出身。

  • 岩見沢 寧々(いわみざわ ねね):咲太の大学の2学年上の国際教養学部の女の子。前年の学祭のミスコン優勝者で、モデルとして活躍していたが、霧島透子になろうとしたことで思春期症候群を発症し、4月ごろから周囲から認識されなくなっていた。拓海の彼女。

  • 牧之原 翔子(まきのはら しょうこ):咲太の初恋の相手。実は、中学生の少女・牧之原翔子の思春期症候群によって姿を現した未来の翔子の姿だった。心臓移植手術を受けた後、沖縄に引っ越していたが、峰ヶ原高校に進学する。

  • 美東 美織(みとう みおり):大学で咲太が知り合った国際商学部2年生の女の子。

 

本シリーズは、おおむね、各巻ごとに特定の1人の主要登場人物の思春期症候群がテーマで、それを咲太が解決していくというストーリーになっています。本巻では美東美織の思春期症候群がメインになっていますが、解決には至らないまま終わり、本編の最後には「つづく」と記され、続巻の「青春ブタ野郎ディアフレンドの夢を見ない」に続く形になっています。

なお、本シリーズは、基本的に各巻ごとに一応の完結をみる形になっていますが、次の巻に続く形で終わるのは、シリーズ第7巻の「青春ブタ野郎はハツコイ少女の夢を見ない」に続く形で終わっていた第6巻の「青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない」以来ということになります。

 

以下は、ネタバレになりますが、各章ごとの少し詳しめのあらすじです。

 

第一章 イミテーションラバーの夢を見る

  1. 4月1日、梓川咲太は赤城郁実と一緒に桜島麻衣が出演する音楽フェスの会場に向かう。その途中、咲太は、ランドセル姿の子役時代の麻衣の姿を見かける。その姿を追うと、大人とさほど変わらない背丈に成長したランドセル姿の麻衣、中学生時代のワンピース姿の麻衣、咲太が初めて麻衣に出会った頃のバニーガール姿の麻衣と、次第に成長した姿に変わっていく。不安になった咲太はマネージャーの三輪涼子に頼んで出演前の麻衣の楽屋に通してもらい、麻衣にそのことを話す。

  2. 音楽フェスが始まり、シークレットゲストの麻衣がステージに姿を現すと、クリスマスイブの夜に咲太が見た夢と同じく、麻衣は霧島透子の歌を歌い、歌い終えた後、実は私が霧島透子です、と言い放ち、それを聞いた咲太はその場に立ち尽くす。

  3. 麻衣が出番を終えた後、咲太が楽屋で麻衣に会うと、麻衣は、事務所の方針で黙っていたが、自分が霧島透子だと話し、咲太は狐につままれたような気分になる。楽屋を出て、待っていた郁実と話す咲太は、本物の霧島透子に出てきてもらうしかないと考えるが、郁実が急に誰かに触られたように小さな悲鳴を上げる。すると、郁実の左の掌に、黒いペンで、現実が書き換えられる前に霧島透子を止めてくれ、と咲太の字が書かれていた。

  4. この日の出来事について考えながら咲太が家に帰ると、かつて花楓が記憶を取り戻す前の「かえで」が家で待っていた。茫然とする咲太だったが、そこに花楓から今日は実家に帰ると伝える電話が入る。2人が同時に存在するあり得ない状況に、咲太は当惑する。

第二章 霧の中を歩く

  1. 翌日の日曜日、咲太が目覚めると、「かえで」が朝ごはんを用意していた。その姿は咲太の記憶にある「かえで」よりも成長しており、峰ヶ原高校に通い、いきもの部に所属していることを話す。咲太がこの状況について相談しようと双葉理央に電話を掛けると、理央は国見佑真と付き合っており、2人で温泉宿に泊まっていた。それは、理央がクリスマスイブの夜に見たという内容と同じだった。

  2. 咲太は、「花楓」と「かえで」が本当に同時に存在しているのかをこの目で確認しようと、花楓が帰っている実家に行ってみることにする。家を出ると、豊浜のどかと広川卯月とばったり会う。2人は、メンバーがクリスマスイブの夜に見たという夢のとおり、武道館公演が決まっていた。

  3. のどかと卯月を見送った後、咲太が実家に向かうと、本当に花楓がいた。咲太は、あり得ない状況に、戸惑いを感じずにはいられない。

  4. 実家を出て、バイト先のファミレスに行くと、バイト仲間で、都内の女子大への進学を決めていたはずの古賀朋絵が、咲太と同じ大学に入学することがわかる。さらに、姫路 紗良からは、山田健人と吉和樹里がデートしているのを見たと聞かされる。そして、SNSで話題となっていた「#夢見る」の話をすると、2人とも知らず、スマホで検索してもらってもヒットせず、頭がくらくらした咲太は倒れてしまう。

  5. 体調を気遣う朋絵たちにファミレスを送り出され、バイトをせずに帰ることにした咲太だが、何度も通った道が馴染みのない景色に見え、知らない世界に迷い込んだような気分になっていた。手がかりを求めて福山拓海に電話をかけて、その彼女の岩見沢寧々と話すが、何も情報は得られず、自分が中学3年の時に思春期症候群になった時のように、世界で独りぼっちになった気分になる。さらに、郁実に電話をすると、この電話番号は使われていないとアナウンスが流れる。しかし、財布の中の紙切れに書かれていた牧之原翔子の電話番号に電話を掛けると、電話に出た翔子は、咲太の後ろに、峰ヶ原高校の制服を着て立っていた。翔子は、峰ヶ原高校に入学することを明かし、わたしが来たからもう大丈夫、一緒に霧島透子に会いにいきましょう、と言うのだった。

第三章 蝶は羽ばたく

  1. その翌日の4月3日、咲太は峰ヶ原高校の制服を着た翔子の案内で、レンタカーで高速を走る。高速を降りると、翔子は途中の花屋に立ち寄って仏花のような花束を買い、そして着いた目的地は、古いお寺の駐車場だった。

  2. 寺の境内に入った2人は、まず本堂でお参りをするが、その後に翔子が足を進めたのは奥の墓地のとある墓だった。翔子は買ってきた花束を供え、2人は墓前に手を合わせる。墓石の脇の墓誌には、4年前の12月24日に16歳で亡くなった「霧島透子」の名があった。翔子は、透子が友達に会いに行く途中に車に轢かれ、自分のドナーになってくれたと話す。咲太は、透子が自分や麻衣の代わりに翔子を救ってくれたという事実を知り、心が戸惑う。そこに、40代半ばの女性が歩いてくる。翔子に声を掛けたその女性は、透子の母だと名乗り、翔子は深々と頭を下げる。

  3. 墓参りの後、2人は透子の母に連れられて、透子の家に向かうことになる。その途中の車内で、翔子は、臓器移植の支援団体を通じてドナーの家族に毎月手紙で近況を書き送っていたが、先月高校に入ることを知らせる手紙を送ったところ、母親から返事が来て、ドナーが透子だと知ったことを話す。
    着いた透子の家で、母親は2人を透子の部屋に案内し、透子が麻衣のファンだったこと、パソコンで自分で曲を作っていたがそのパソコンは友達に預けてあることを話す。幼稚園から高校までずっと一緒だったというその友達と透子が一緒に写っている写真を見た咲太は、その友達が美織だと気づき、驚きで頭の中がいっぱいになる。

  4. 透子の家をお暇する2人に、母親は透子と美織の交換日記を手渡す。帰りの車内で、咲太と翔子は、「霧島透子」の正体は美織で間違いないと考えるが、美織が何をしたいのかを考えても、腑に落ちる答えは見つからない。

  5. 大学2年生の初日となる4月6日、咲太が学部のオリエンテーションのために大学に行くと、前年の秋に大学を辞めたはずの卯月がまだ在学しており、朋絵も入学してきていた。咲太は、自分の認識と目の前の現実が食い違っていることに戸惑うが、そこで出会った美織に、週末に車でどこかに出かけないか、と誘う。
    美織は、高校1年のクリスマスイブに人を殺したことがある、コンビニに出かける友達にカレーまんを頼んだら、その帰りに信号無視した車に轢かれた、と話す。咲太は、その友達は霧島透子で、美織が「霧島透子」の正体なんだな、と問うが、美織はそれには直接答えず、透子の母親から翔子と咲太の来訪を知らせる手紙が届いたと言って歩き出す。咲太は、土曜の12時に大船駅改札前で集合、と声を掛けるが、美織は何の反応も見せずに去っていく。

  6. 大学の正門を出たところで、咲太は上里沙希から声を掛けられる。沙希は、郁実と連絡が取れないと話す。
    沙希と別れた咲太は、郁実の電話番号に電話をかけてみるが、この電話番号は使われていないとのアナウンスが流れる。

第四章 どこまで延長しても交わらない二本の線

  1. 4月8日の土曜日、かえでは峰ヶ原高校のいきもの部の活動で動物園にパンダを見に出かけていく。12時の待ち合わせ時間に合わせて大船駅に向かった咲太だが、美織は現れない。咲太は、来ないかもしれないと思いながら待つと、1時間30分以上経って、美織が姿を現す。レンダカーを借りて車を走らせると、美織は、自分の作った曲を歌ってほしいとずっと透子に言われていたが断っていて喧嘩になったと話す。
    七里ヶ浜で車を停め、砂浜を歩きながら、咲太は、自分が4年前の12月24日に車に撥ねられて、心臓は中学生の女の子に移植されるはずだったが、思春期症候群を使ってやり直して未来を変えたこと、代わりにドナーになったのが透子だったことを明かす。
    美織は、透子が死んだ翌年の命日に初めて動画サイトに透子の歌をアップし、たくさんの人が「霧島透子、いいね」と言ってくれたが、それは自分の会いたい透子じゃなかった、どんなに歌っても透子には会えなかった、だからアップを始めて1年でやめた、歌うのをやめた頃から毎朝何かが少しずつ変わっていったが、昨年秋に咲太に会った日から現実が書き換わらなくなったと話す。

  2. レンタカーを返却して藤沢に戻ってきた咲太は、美織のことについて理央に相談しようと、バイトで来ているはずの塾に行き、理央の授業が終わった後、佑真との待ち合わせまでの時間に話を聞いてもらうことにする。

  3. 咲太は、麻衣が自分が霧島透子だと言い出してからの数日間の出来事を理央に話す。理央は、これまで咲太が認識している現実の変化の多くが、「#夢見る」に関係している、夢を通して誰かが別の可能性の世界を認識することで現実になり得る状況を作り出していると考えるべき、透子が生きている夢を見ない美織は本当は透子に会いたくないのではないか、と推測する。佑真がやってくると、理央は、私が協力できるのはここまで、私はこのままがいい、と言って去っていく。

  4. 咲太がかえでが待つ家に帰ると、翔子から今から会えないか、見てもらいたいものがあると電話が入る。咲太がバイトしているファミレスで待ち合わせると、翔子は、透子の母親から借りた交換日記を取り出し、最後に書かれた12月24日のページを見せる。そこには、「霧島透子」の曲で使われている歌詞が書かれており、「Turn The World Upside Down」とタイトルが付けられていた。「君に出会えてよかった わたしはそんな風に思わない」と始まり、「こんな想いをするのなら 君に出会わなければよかった」と終わる歌詞に、咲太は、美織が透子から逃げる理由にはなっている、一番の友達にこう言われたらショックだろう、と話すと、翔子は、たぶん違う、この歌詞のことでどうしても美織に伝えたいことがあると言い、自分を美織に会わせてほしい、と咲太に頼むのだった。

 

(ここまで)