鷺の停車場

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鴨志田一「青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない」

電撃文庫から出ているライトノベル青春ブタ野郎」シリーズの第15作、最終巻となる「青春ブタ野郎ディアフレンドの夢を見ない」を読みました。

第10作の「青春ブタ野郎は迷えるシンガーの夢を見ない」から始まった第3部ともいうべき大学生編の第6巻で、2024年10月に刊行されています。

 

表紙の帯の裏には、次のように紹介されています。

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「君に出会えてよかった」
美織が《霧島透子》の真実に触れた時、咲太もある決断を迫られて……。咲太と最後の思春期症候群、シリーズ第15弾。

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主な登場人物は、次のようなもの。

  • 梓川 咲太(あずさがわ さくた):大学2年生の主人公。峰ヶ原高校を卒業し、横浜にある公立大学の統計科学学部に通っている。実家を出て、藤沢で妹の花楓と2人暮らしをしている。

  • 桜島 麻衣(さくらじま まい):咲太の1学年上の恋人。子役時代から有名で今は国民的女優。峰ヶ原高校在学時に思春期症候群となったことがきっかけで咲太と付き合うようになり、今は同じ大学に通っている。

  • 美東 美織(みとう みおり):大学の一般教養科目の懇親会で咲太が知り合った国際商学部2年生の女子学生。咲太と同じく、スマホを持っていない。

  • 霧島 透子(きりしま とうこ):2年近く前から動画サイトでのみ活動している謎のシンガー。実際の透子は、美織の親友で、4年前に交通事故で亡くなり、翔子の心臓のドナーとなっていた。

  • 牧之原 翔子(まきのはら しょうこ):咲太の初恋の相手。実は、中学生の少女・牧之原翔子の思春期症候群によって姿を現した未来の翔子の姿だった。心臓移植手術を受けた後、沖縄に引っ越していたが、峰ヶ原高校に進学する。

  • 花輪 涼子はなわ りょうこ):麻衣のマネージャー。

  • 古賀 朋絵(こが ともえ):咲太の1学年下の峰ヶ原高校の後輩。思春期症候群を治したことで咲太と仲良くなった。同じファミレスでバイトするバイト仲間でもある。女子大に進学する。

  • 梓川 花楓(あずさがわ かえで):咲太の2学年下の妹。中学時代にネットのいじめに遭って不登校になり、通信制の高校に進学した。

  • かえで:中学時代に不登校となった花楓が解離性障害を発症したことで発現した別人格の咲太の妹。

  • 双葉 理央(ふたば りお):咲太の峰ヶ原高校時代の数少ない友人で、1人で科学部で活動していた。今は理系国立大学に通っており、咲太と同じ塾で講師のバイトをしている。佑真に片思いしている。

  • 国見 佑真(くにみ ゆうま):咲太の峰ヶ原高校時代の数少ない友人。高校時代はバスケ部に所属していた。卒業後は消防士として働いている。

  • 赤城 郁実(あかぎ いくみ):咲太の中学時代のクラスメイト。今は咲太と同じ大学の医学部看護学科に通い、学習支援のボランティア活動をしている。

  • 上里 沙希(かみさと さき):咲太の峰ヶ原高校時代のクラスメイト。咲太と同じ大学の医学部看護学科に進み、郁実の友人となっている。高校時代から佑真と付き合っている恋人。

  • 豊浜 のどか(とよはま のどか):咲太と同学年の麻衣の母親違いの妹。アイドルグループ「スイートバレット」のメンバーで、咲太と同じ大学に通っている。

  • 広川 卯月(ひろかわ うづき):「スイートバレット」のセンター。通信制高校を経て、咲太と同じ学部に進学したが、退学した。

  • 福山 拓海(ふくやま たくみ):大学で咲太の友人となった統計科学学部の1年生。北海道出身。寧々と同じ大学に進むため、2浪している。

  • 岩見沢 寧々(いわみざわ ねね):咲太の大学の2学年上の国際教養学部の女の子で、拓海の彼女。前年の学祭のミスコン優勝者で、モデルとして活躍していたが、4月ごろから霧島透子になりたいという思いから思春期症候群を発症し、周囲から認識されなくなっていた。

  • 姫路 紗良(ひめじ さら):峰原ヶ高校の2年生で、咲太がバイトしている塾の成績優秀な生徒。咲太のもう1つのバイト先であるファミレスでバイトを始めた。

  • 加西 虎之介(かさい とらのすけ:咲太がバイトしている塾の生徒の高校3年生。紗良の幼なじみ。理央に片思いしている。

  • 鹿野 琴美(かの ことみ):花楓の親友。咲太と花楓が家族で横浜に住んでいた頃、同じマンションに住んでいた仲良くなった。琴美は今でもそのマンションに住んでいる。

 

本巻は、前巻「青春ブタ野郎はガールフレンドの夢を見ない」に続き、美東美織の思春期症候群が描かれますが、それが解決してもなお事態は好転せず、思春期症候群を観測することができる梓川咲太自身の問題であることに気づかされ、観測者であることを止めることを決断する、という意外な展開をたどり、いわば、咲太が思春期を卒業して大人になる、という結末で幕を閉じます。

ここまでシリーズが続いていくと、うまく終わらせるのは難しいのだろうと思われるところ、結末に着地するまでの展開にはやや強引な感じがありましたが、なんとかうまく着地した、という印象を持ちました。

 

以下は、ネタバレになりますが、各章ごとの少し詳しめのあらすじです。

 

第一章 Turn The World Upside Down

  1. 4月9日・日曜日、咲太は美織のバイト先に行き、バイトが終わるのを待って、美織を七里ヶ浜に連れていく。待っていた翔子は、砂浜に透子が生前最後に作った「Turn The World Upside Down」の歌詞を書いていた。「君に出会えてよかった」で始まり、「君に出会わなければよかった」で終わるその歌詞を、翔子は美織に、反対から読ませる。それで透子の真の思いに気づいた美織は、初めて涙を流して透子の死を悼む。

  2. 咲太はレンタカーに美織と翔子を乗せて、横浜アリーナに向かう。その途中、美織は透子との思い出を咲太に話す。

  3. 咲太は自分が霧島透子だと思っている麻衣の楽屋を訪れ、美織が霧島透子の正体だったこと、現実が美織の思春期症候群で書き換えられていることなどを麻衣にに話し、現実を取り戻すため協力を求める。

  4. 横浜アリーナで行われる霧島透子のスペシャルライブ、麻衣ではなく美織がステージに上がり、「Turn The World Upside Down」を歌い上げ、その様子はテレビで生中継される。咲太たちとステージ脇でそれを見ていた麻衣は、一瞬意識を失うが、意識を取り戻すと、認識が元に戻っていた。

第二章 アンサーソングが鳴り止まない

  1. スタッフなどの混乱を収めるため、麻衣はサプライズ演出について説明し、咲太は美織を乗せて翔子を車で送る。翔子は、透子の母親から借りた生前の透子と美織の交換日記を美織に手渡す。

  2. 翔子を下ろした後、美織と咲太は江ノ島に向かう。美織は、麻衣のファンだった透子の希望で麻衣の主演映画の舞台だった江ノ島に2人で行った思い出や透子への思いを咲太に話す。

  3. 美織と別れた咲太は、朋絵の進学先が自分と同じ大学であること、かえでが家にいること、佑真見が理央と付き合っていることなど、現実が書き換えられたままであることに気づく。咲太の頭の中が疑問で埋め尽くされる中、郁実から電話がかかってくる。それは別の可能性の世界の郁実で、会わせたい人がいる、と咲太を呼び出す。

  4. 待ち合わせ場所の公園に行くと、郁実がウサギの着ぐるみを被った別の可能性の世界の咲太を連れてきていた。別の世界の咲太は、現実を書き換えているのは咲太自身であること、あらゆる世界を同時に観測している美織を通じて咲太が他の可能性の世界を無自覚に観測し、観測したとおりに世界が書き換わっていることを指摘し、咲太が思春期症候群を観測できなくなれば、観測者がいなくなって問題は解決すると話す。
    日付が変わり、咲太の20歳の誕生日の4月10日を迎えたところで、公園の脇を通りかかった車が停まる。車から降りてきたのは咲太を心配する麻衣だった。すると郁実とウサギの着ぐるみは姿を消しており、咲太は麻衣が幻でないことを確かめるように抱きしめる。

第三章 藤沢発二十二時五十分鎌倉行き

  1. 翌朝、麻衣が運転する車で一緒に大学に出発した咲太は、前夜のことを麻衣に話す。麻衣は、ちょっとわかる気はする、と言い、感覚がずれている自覚のない咲太も、そうかもしれないと思う。
    大学に行くと、美織に出会うが、麻衣も含め、咲太以外の人間には美織は認識されていなかった。麻衣は、私は咲太と同じ景色を見ていたい、と言って先に教室に向かう。麻衣が去った後、美織は、今日の22時15分に藤沢から出る鎌倉行きの江ノ電の終電に乗って別の可能性の世界に行く、見送りに来て、と話す。

  2. 美織と別れ、1限に教員免許取得のガイダンスを受ける咲太は、教室でのどかと会う。

  3. 2限の統計学の授業に向かった咲太は、拓海や卯月と会う。卯月の話を聞いてある衝動が生まれた咲太は、授業には出ず、自分探しをしてくる、と言って教室を出る。

  4. 金沢八景駅泉岳寺行きの快特に乗った咲太は、就職活動中の寧々と出会う。そして、最初にバニーガール姿の麻衣に出会った湘南台の図書館に向かう。
    咲太が図書館のフロアを歩き回っていると、ランドセル姿の子役時代の麻衣によく似た少女が姿を見せる。他の人には認識されていないその少女に、咲太は手伝ってほしいと話す。

  5. 少女と湘南台駅からガラガラの各駅停車に乗った咲太は、これまで出会った思春期症候群のことを少女に語り出す。終点の藤沢に着くと、少女は、思い出があるところに行くと咲太の手を引っ張り、咲太は、新江ノ島水族館、砂浜、弁天橋の手前の龍の灯篭など、思い出の場所をめぐる。

  6. 日が沈んでも、龍の灯篭の前で何を選ぶべきなのか考えていた咲太。気がつくと、ランドセル姿の少女は見えなくなっていた。藤沢に戻った咲太は、バイト先のファミレスで遅い昼食を食べた後、駅前のバイト先の塾で理央と会う。理央は、自分が思春期症候群を否定すればいいんだろ?と言う咲太に、問題の解き方はそれだけじゃないと思う、と話す。

  7. 塾を出た咲太がエレベーターで1階に下りると、塾にやってきた翔子とその両親に出会う。将来医学部を受験するために塾に入ることにしたと話す翔子。かつて翔子から教えられた大事なことを思い出す咲太は、それをこの先の未来まで持っていかなければならないと思う。そして、駅前の家電量販店に行くと、かえでに会う。部屋にあった花楓の日記を見せ、自分も解離性障害を治してお兄ちゃんを安心させたい、だから本当のお兄ちゃんのところに帰りたいと話すかえでに、咲太は背中を押される。

  8. かえでと別れた咲太は、家電量販店でスマホを買う。スマホで最初に麻衣に電話を掛けた咲太が、美織と会った後に会いたいと留守電のメッセージを入れると、麻衣から七里ヶ浜で待ってるとメッセージが入る。
    江ノ電藤沢駅で1時間半ほど待つと、郁実とウサギの着ぐるみを被った別の咲太が現れる。ウサギの着ぐるみに、咲太は、思春期症候群を否定する気はない、思い出に変えるだけだ、と話す。
    やってきた美織とともに江ノ電の鎌倉行きの終電に乗り込んだ咲太は、美織に買ったばかりのスマホの番号を美織に教えると、美織も買ったスマホの番号を咲太に教える。
    七里ヶ浜駅で美織と別れ、江ノ電を下りた咲太が、走り去る電車を見送っていると、ランドセル姿の少女が現れる。咲太の話を聞いた少女は、じゃあ、もう迷子にならないね、と言い、やってきた藤沢行きの江ノ電に乗って去っていく。
    駅を出て砂浜に向かうと、麻衣が待っていた。咲太と麻衣は手を繋ぎ、歩みを進めるのだった。

最終章 Hello, Goodbye

  1. 2年後の5月13日・月曜日。咲太は教育実習生として母校の峰ヶ原高校にやってくる。かつての担任教師に、できれば部活の顧問も体験したいと申し出た咲太は、別の可能性の世界のかえでが峰ヶ原高校で入っていたいきもの部を希望する。元担任教師が受け持つ3年1組のHRに参加すると、一番前の席には翔子が座っていた。そして、翔子はいきもの部の部長だった。

  2. 教育実習初日の日程を終えて江ノ電で藤沢に戻ってきた咲太は、同じ女子大に進んだ紗良と朋絵に会う。紗良から虎之介が理央に告白したと聞いて、バイト先の塾に行った咲太が理央にその話を向けると、照れた表情を見せる。

  3. 教育実習が始まって1週間が過ぎた5月20日・月曜日、教育実習が休みの咲太は、のどかが運転する麻衣の車で花楓と一緒に大学まで送ってもらう。スイートバレットは武道館ライブが決まったが、それは解散ライブでもあり、のどかは複雑な表情を見せる。咲太がスマホから卯月にお祝いのメッセージを送ると、すぐにビデオ電話がかかってくる。
    大学で担当教授に卒業研究のテーマについて相談した咲太が学食に向かうと、拓海とばったり会う。拓海は、寧々がアナウンサーとして入社している北海道のテレビ局への就職が決まったことを話す。

  4. 卒業研究に使えそうな論文を図書館で調べた後、大学を出て駅に行くと、2年次から別のキャンパスになって会う機会が減った郁実と久しぶりに会う。藤沢に戻り、歩いて家に向かう途中で、大河ドラマの撮影から麻衣が帰ってきて、車を降りた麻衣と一緒に歩く。撮影のために1年大学を休学することになった麻衣は、咲太にはちゃんと卒業するよう釘を刺す。

  5. 翌日の5月21日・火曜日、咲太は教育実習先での帰りのHRの後、職員室に向かう途中で、教室にひとり残って何やら話している女子生徒を見かける。教室の中に、彼女だけに見えているもう1人がいるのだと察した咲太は、自分には見えないが、君を信じる、困っているなら話を聞く、と声を掛けると、海老名倫と名乗ったその女子生徒の表情は和らぐ。
    高校を出た咲太が七里ヶ浜駅から江ノ電に乗ろうとすると、その電車から、かつての美織とそっくりな女性が降りてくる。咲太はその女性に目を奪われるが、目が合うと、その雰囲気は美織とまるで違っていた。自分の見間違いに苦笑いした咲太は、スマホの音楽アプリを起動し、美織が旅立つ前に残した「Turn The World Upside Down」のフルバージョンを聞き始めるのだった。

 

(ここまで) 

 

最後に振り返ってみると、本シリーズは、基本的に、各巻ごとに特定の1人の主要登場人物の思春期症候群がテーマで、それを咲太が解決していくというストーリーになっており、これまでの各巻では、次のような感じになっています。

ただし、第5巻は、思春期症候群を解決するというストーリーではなく、梓川花楓が発症した解離性障害で別人格となっている梓川かえでをメインに、元の人格である花楓としての意識が戻るまでの物語、第8巻は、解離性障害が治って元の人格に戻った花楓が、かえでが日記に残した思いを実現しようとする気持ちから解き放たれ、自分の進路を選び取るまでを描いた物語、そして第15巻は、先に書いたように、美織の思春期症候群が治ってなお問題は解決せず、咲太自身が思春期症候群の観察者であることから卒業するまでを描く物語になっています。

 

青春ブタ野郎」シリーズの本編はこれで終結ですが、短編集などは引き続き刊行されています。機会があれば、そちらの方も読んでみようと思います。