鷺の停車場

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ウィーン・フィルのストラヴィンスキー(その3)

シリーズ?最後はマゼール/ウィーンのハルサイです。

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〇ストラヴインスキー/舞踊音楽「春の祭典
ロリン・マゼール指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(録音:1974年・ゾフィエンザール)

現役盤はこれでしょうか。

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」/R.シュトラウス:町人貴族

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」/R.シュトラウス:町人貴族

 

 ハルサイと言えば現代音楽の入門編的なイメージもありますが、作曲・初演されたのは1913年ともう100年以上前。

大正2年と聞くと一気に古典のような気がしてくるのが不思議です。

さて、演奏の方は、オケのアンサンブルは一応整っているものの、お世辞にも鮮やかとはいいにくい。録音も40年以上前、ウィーン・フィルもこの手の曲への苦手感は今と比べても相当強かったのだろうと想像します。

しかし、本盤が面白いのは、マゼールがまるでそれを逆手に取ったかのような粘っこい表現を採り、それが一般的なウィーン・フィルのイメージとは対極の一種野性的な雰囲気を醸し出していること。

例えば・・・

春のロンドの盛り上がった部分(トラック1の10:11・スコア練習番号53以降)で金管グリッサンドをテヌートで強調してみたり、

賢者(長老)の行進の少し前に始まるテノール&バステューバの旋律(トラック1の13:36付近・スコア練習番号64以降)で四分音符で動く分散和音を強調してみたり、

選ばれし生贄(乙女)への賛美の1小節前、打楽器&弦楽器の11連打(トラック2の7:34以降)で、テンポを一般的な演奏の倍くらいグッと落としてみたり、

祖先の霊への呼びかけ(トラック2の9:22以降・スコア練習番号121)、リズミカルに演奏するのが多いところをレガート気味にしてみたり、

祖先の儀式(トラック2の10:18以降・スコア練習番号129)、ホルンの頭打ちの四分音符、弦のピッチカートに合わせ短めが多いところを、わざわざ長め(といっても8分音符テヌートくらいだが、他の演奏と比べると相当長め)にテヌートしていたり、

最後の生贄の踊り(トラック2の13:50以降・スコア練習番号142)で、8分音符の部分を音価いっぱいテヌートして16分音符との差を極端に付けてみたり、
といったことが、何ともいいがたい効果を挙げています。

全くの余談になりますが、生贄の踊り、スコア練習番号177(16:42)付近からのホルン1,3,5,7番のグリッサンド対決は、1番の優勢勝ちに終わっています。

と、いろいろ書きましたが、本盤の一番の聴き所は、第2部の冒頭、序奏~選ばれし生贄への賛美の静かで落ち着いた部分です。ここではウィーン・フィルの通常言われる魅力が十二分に発揮されていて、さすがと思わせるものがあります。

因みに、マゼールは、その後、クリーヴランド管と再度録音しています。

私もかなり昔に聴いた記憶がありますが、本盤の印象が大きすぎて、オケは極めて上手だったという印象しか残っていません。

ウィーン・フィルのストラヴィンスキー(その2)

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ストラヴィンスキー:舞踊音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)
 クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (録音:1977年12月・ゾフィエンザール、ウィーン)

前回に続きドホナーニ/ウィーン・フィルストラヴィンスキーです。

現役盤はこちら。

Stravinsky: Petrushka / Bartok: Miraculous Mandarn

Stravinsky: Petrushka / Bartok: Miraculous Mandarn

 

華やかな響き、あるいは鮮やかな技巧で魅惑するタイプの演奏ではなく、落ち着いた音色で実直に組み上げています。いぶし銀的な演奏と言えばイメージが掴みやすいでしょうか。

といっても、音がくすんでいたり技巧的に見劣りしていたりということは決してなく、各楽器のソロも巧いですし、気になる程のアンサンブルの乱れもありません。むしろ精密に思えるほどです(これはオケの余裕のなさが表れた面もあるかも・・・)。

 録音も、アナログ最後期ということもあり、ほどよく響きを残しつつ、全体がクリアにバランス良くまとまっています。

オケと指揮のそれぞれの良さが活かされ、持ち味が十分発揮された快心の演奏ではないでしょうか。

なお、本盤では、作曲当初の4管編成の1911年版ではなく、後に作曲者がアレンジし直した3管編成の1947年が使われています。

手もとに1911年版のスコアしかないので細部の違いは分かりませんが、聞き比べる限り、1947年版の方が良くも悪くも整理されてスッキリ感が強い気がしますので、1911年版でやったの方がウィーン・フィルの良さがより出たのでは、と思ったりもします(ない物ねだりですが)。
(ちなみに、ウィーン・フィルは本盤の約20年後の1998年にマゼールと1911年版を録音しているようですが、残念ながら未聴です)

カップリングのバルトーク中国の不思議な役人」(全曲)もなかなかですが、こちらはまたの機会に。

ウィーン・フィルのストラヴィンスキー(その1)

今日はクラシックCDの紹介です。

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 ○ストラヴィンスキー:舞踊音楽「火の鳥」(全曲:1910年版)
 クリストフ・フォン・ドホナーニ指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 (録音:1979年10月・ゾフィエンザール、ウィーン)

私が持ってるクラシックCDでは最古参の1つ。

画像は30年近く前に買った実物のジャケット。
まだCDが普及したての当時、本盤を含め通常盤は3500円でした。(消費税はまだない時代・・・)

ウィーン・フィルは、今以上にドイツ物以外は・・・というイメージが強かった時代のはずで、録音はレコード会社(DECCA)の営業判断が大きかったものと推測しますが、これが実にいいのです。

まず、録音も上手いのでしょうが、それぞれの楽器の音がふくよかで奥行きがあり、この曲の雰囲気に良くはまってます。

指揮は、粘ったりテンポを揺らしたりというより、淡々すぎるくらいにあっさり進めていきます。これはドホナーニの特徴でもありますが、録音と相まってオケの良い響きを存分に活かすのに成功しています。

王女たちのロンドのオーボエ、終曲のホルンなど随所に出てくるソロはもちろんですが、個人的に好きなのは、カスチェイらの凶悪な踊りの末尾、子守歌への接続部分(トラック13の3:59付近、スコア練習番号182の冒頭)。バンダ(舞台上)の弱音器付きトランペット3本が吹くただの和音ですが、何ともいい味を出しています。

なお、
最近主流(?)の演奏会場でのライブ感を感じさせる作りとは違って、各楽器の音をそれぞれマイクで拾ってミックスした感じの作りです。デジタル最初期のためか、試行錯誤中と思わせる部分※もありますし、比較的中音域が厚く、低音部のズドーンと来る迫力は少ないので、迫力や精度を求める方には向かないかもしれません。

(※一例として、終曲の手前にある「深い闇」の部分(トラック14の4:34、スコア練習番号193の4小節目付近)では、いかにも編集で加工したようなシンバルの音量カットが聞こえたりします)

最近になって輸入盤であれば再び入手可能になっているようですので、ご興味のある方はぜひご一聴あれ。

現役盤はこちら。

Stravinsky: Firebird / Bartok: Two Portraits

Stravinsky: Firebird / Bartok: Two Portraits