今回は、1935年生まれのエストニア出身の作曲家、アルヴォ・ペルトの作品集です。
・フラトレス(ヴァイオリンとピアノのための)[1977/1980]
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)、キース・ジャレット(ピアノ)
(録音:1983年10月・バーゼル)
・ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌(弦楽オーケストラと鐘のための)[1980]
デニス・ラッセル・デイヴィス指揮シュトゥットガルト国立管弦楽団
(録音:1984年1月・シュトゥットガルト)
・フラトレス(4,8,12…のチェロのための)[1977/1982]
ベルリン・フィルの12人のチェリストたち
(録音:1984年2月・ベルリン)
・タブラ・ラサ(2本のヴァイオリン、弦楽オーケストラとプリペアード・ピアノのための)[1977]
ギドン・クレーメル、タチアナ・グリンデンコ(ヴァイオリン)、アルフレート・シュニトケ(ピアノ)、サウリュス・ソンデツキス指揮リトアニア室内管弦楽団
(録音:1977年1月・ボン)
確か、ペルトの作品集として、最初に発売されたもの。
国内盤でも「アルヴォ・ペルトの世界~タブラ・ラサ」といったタイトルで以前出ていたと思います。(上の画像は私が最初に買った輸入盤のもの)
その後、2010年に、ペルトの生誕75年を記念して「TABULA RASA Special Edition」として、本CDと、本CD収録曲4曲のミニスコア、さらにタブラ・ラサと追悼歌の自筆譜のコピーが付いた盤が出ています。
現代音楽のミニスコアは入手しにくい場合が多く、しかも値段もかなり高いのが通常ですが、これは4曲分で5000円代で、各曲のスコアを個別に買うよりかなり安いはず、
と、数年前に思わず衝動買いしてしまいました。
なお、Amazonではまだ入手が可能なようです。
で、音楽自体は、誤解を恐れず一言でいえば、癒し系です。
ミニマル・ミュージック的というんでしょうか、小さな断片の繰り返しで積み上げていくような感じですが、聞こえてくる音楽は、機械的なイメージとは対極にあります。
例えば、 「ベンジャミン・ブリテンへの追悼歌」。
スコアを見ると、4分の6拍子(四分音符=112-120)で、ラ(A)の音で鐘が3回pppで鳴った後、1番ヴァイオリンが2部(2音)に分かれ、ラ(A)の音から2拍+1拍(二分音符+四分音符)で「タータタータ…」と下降音型を始めます。
次いで、2番ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバスの順で、それぞれ、同様に2部に分かれ、1オクターブずつ低いラ(A)の音から下降音型を始めていきますが、
2番ヴァイオリンは4拍+2拍、ヴィオラは8拍+4拍、チェロは16拍+8拍、コントラバスは32拍+16拍と、下降音型の音価が2倍ずつ引き伸ばされていきます。
さらにこの下降音型、各パートとも、繰り返すたびに、下降する音の数が1音ずつ増えていきます。(すなわち、下降する行先の音が1音ずつ下がる)
1番ヴァイオリンは、弾き始めのラから19音(3オクターブ弱)下がったドに至ると、下降を終わり、ドの持続音になります。
2番ヴァイオリンは、弾き始めから2オクターブ下がったラで、ヴィオラは、弾き始めから1オクターブ半下がったミで、チェロとコントラバスは、弾き始めから1オクターブ下がったラで、同様に持続音になり、fffのラ・ド・ミ(イ短調)の和音で終わります。
というように、解説するといかにも機械的に音を並べただけのように見えてしまいますが、ある種規則的な繰り返しであるのにかかわらずどうしてここまで人の心を打つのだろう、と思わずにはいられません。
2種類の「フラトレス」も然り。
「タブラ・ラサ」は、プリペアード・ピアノを使っていることもあり、他の3曲と比べると、特に前半部分など、一般的な「現代音楽」に近い感じですが、後半部分は、一転してとても静謐な音楽になります。