鷺の停車場

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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ〜」を読む

三上延さんの小説「ビブリア古書堂の事件手帳」シリーズの第6巻、「ビブリア古書堂の事件手帖6〜栞子さんと巡るさだめ〜」を読みました。

本巻は、第4巻「栞子さんと二つの顔」と同様に、全体で1つの謎を解いていく展開の長編になっています。

主人公の五浦大輔やその恋人となったビブリア古書堂の店主の篠川栞子、そのほかの登場人物たちの関係も明らかになっていきます。祖父母の代にさかのぼるとどこかで接点があったり、実際にはあまりないだろうと思う狭い世界の人間関係が描かれますが、構成の巧みさは相変わらず、だんだん一つの点に収斂していくような展開に引き込まれます。

 

 

以下は、ネタバレになりますが、ごく簡単なあらすじ、各話の概略を紹介します。

プロローグ 

大船の総合病院で骨折で入院中の五浦大輔のもとに、自分が勤めるビブリア古書堂の店主の篠川栞子の母・智恵子がやって来る。大輔は、モノレールの駅で会ったとき、智恵子がどこに行っていたのかを尋ねる。大輔たちの身に何があったのか話してくれたら答えてあげると言われた大輔は、智恵子に自分たちに起きたことを話し始める。

第一話 『走れメロス

6月、栞子に大けがを与えて裁判中で保釈された田中敏雄を名乗る手紙を受けて、大輔は敏雄の祖父・田中嘉雄の命日にその墓がある寺で待ち伏せして敏雄に会う。敏雄は、自分は出していない、手紙が投げ込まれた日はまだ拘置所にいたと否定し、嘉雄が持っていた『晩年』の初版本を探している、店主に相談してほしいと大輔に頼む。古書マニアが集うSNSの参加者からのメッセージがあったという。そして、敏雄は栞子には申し訳ないことをしたと思っていると語る。
店に戻った大輔は、妹の文香に大輔と付き合い出したことをからかわれて照れる栞子から、やるべき仕事などを書いたメモを渡される。メモに書かれていた仕事を終えた大輔が敏雄の依頼を相談すると、栞子はその『晩年』を探すと即答し、敏雄が見つける前に、その持ち主に警告すると語る。大輔は敏雄に依頼を受けるとメールを送る。
3日後、栞子と大輔は、嘉雄を知る、戸塚駅の近くで古書店の虚貝堂を営む古書組合の理事の杉尾と会う。杉尾が渡した昭和39年に撮られた写真には、嘉雄や杉尾の父たち5人が写っていた。杉尾は、ほかの3人のうち1人は、虚貝堂に来たことがある小谷という人で、杉尾の父は嘉雄たちと『ロマネスクの会』という太宰の研究サークルみたいなものを作っていたこと、もともと虚貝堂で売られていた『晩年』の珍本を鎌倉のコレクターが持っているという噂を聞いたことがあると語る。そして、ビブリア古書堂が客の相談に乗って本を探すのは、もともと栞子の祖父の聖司が始めた副業みたいなもので、引退するときに、嫁の智恵子に継がせたのだと言う。
杉尾と別れた栞子は、祖父は生真面目で愛想のない人で、そんなことをしていた実感が湧かないと語る。そこに、敏雄から大輔にメールが入る。敏雄に情報をくれた人物のアカウントと、嘉雄の友人の連絡先を伝えるメールだった。
店に戻ると、その友人、小谷次郎が来ていた。大輔を見た小谷は、田中がいるのかと思ったと言葉を漏らす。そして、嘉雄たちとは、大輔の祖母・絹子が切り盛りしていた「ごうら食堂」で知り合った、絹子は常連たちと本の貸し借りもしていたようだと語る。杉尾が貸してくれた写真を見せると、残りの2人は、大学教授だった富沢博と、その後長年太宰の研究をしているその娘で、写真が撮られたのは富沢の家の庭だと語り、嘉雄の『晩年』の珍本については、嘉雄に手に入れたと聞いたことがあるが、真偽に自信がないので富沢に見てもらうと言っていたという。そして、写真を撮った何ヶ月か後、自分たちが富沢家への出入りを禁じられたこと、「ロマネスクの会」の誰かが、富沢が一番大事にしていた貴重な本を盗んだらしいこと、嘉雄が盗んだとしか思えないが、なかなか信じられず、ごうら食堂で待つと最後通牒を送ったが来なかった、詳しい事情を話さなかった杉尾にも不信感を抱き、3人は疎遠になってしまった、詳しいことが分かったら包み隠さず教えてほしい、そして、あの世でわだかまりなく2人に会いたいと語る。

第二話 『駈込み訴ヘ』

小谷と会った後、大輔と栞子は、敏雄から来たメールを確認する、それは古書マニアからのメッセージで、一部のページがアンカットではなくなっている、太宰直筆の特殊な書き込みがあるとなど、嘉雄が所蔵していた『晩年』についての詳しい情報が記されていた。その相手は、敏雄からの返事が来た後にSNSを退会して連絡がとれなくなっていた。
栞子は、小谷から教えてもらった富沢の連絡先に電話を掛ける。電話に出た娘の紀子に後日呼び出され、2人は富沢家を訪れる。紀子は、父にはロマネスクの会はタブーになっている、当時何があったのか調べてほしいと栞子に頼む。そして、盗まれた本は自費出版された『駈込み訴へ』の私家版で、父が召集を覚悟して太宰の家を訪ねた時に本人からもらったもので、当時、書庫に入れたのはロマネスクの会の3人だけ、嘉雄が紙と鉛筆を持って入っていたくらいで、書庫を出る際は何か持ち出していないか母がチェックしていたと語る。
紀子から、ビブリア古書堂の開業前に聖司が修行した久我山書房の店主・久我山尚大の娘の鶴代が当時富沢家に出入りしていたと聞いた栞子は、父の幼なじみで栞子の家にもよく来る仲である鶴代の家を訪ねる。鶴代の娘で大学生の寛子が出迎え、母の真理に挨拶した後に話を聞くと、当時嘉雄が使っていた紙を挟んだクリップボードを見せられる。
3日後、栞子と大輔は再び富沢家を訪ね、紀子と小谷に、嘉雄が久我山尚大と組んで『駈込み訴へ』を持ち出したと推理を話す。栞子が何かを話さずにいることに気付いた大輔は、それを自分で話す。大輔の祖母の絹子と嘉雄との関係がそこに大きく影響していた。
そこに隣の部屋で話を聞いていた富沢博が姿を現し、当時のことを話し始める。嘉雄が女性関係で悩んでいたこと、尚大は読書はしないが本当に貴重な古書には異常なほどの執着を示しており、一番ほしがっていたのは嘉雄の『晩年』だったことを語る。それは、太宰が自殺しようとした時に持っていた本だという。

第三話 『晩年』

富沢は、栞子たちに書庫の中を見せてくれる。そこで、尚大が嘉雄の『晩年』を鑑定したこと、数年後に嘉雄から買い取ったと言っていたと話す。栞子は、田中を孤立させて、じっくり追い詰めたのだろうと話す。富沢は、47年前の謎を解いてくれた報酬を渡したいと申し出るが、栞子はきっぱり断り、ただ、もし蔵書を売る際はぜひ当店を、と言うと、富沢は笑い、祖父の聖司も『駈込み訴へ』を取り戻してくれた時に同じことを言ったと語る。栞子の『晩年』は、その時に富沢が聖司に売った初版本だった。
富沢家を出て店に帰ると、鶴代と文香が栞子の結婚について話していた。照れる栞子だったが、鶴代の求めで、富沢家で語った推理を語る。鶴代は、父には外に女がいた、子どももいて、自分が大学生の頃、一度だけその子を連れてきたことがあると語る。栞子は嘉雄の『晩年』の行方を尋ねるが、真理に訊いても分からないという。
自宅に帰った大輔は、肌身離さず持ち歩いている栞子の『晩年』がバッグにあるのを確認する。そこに栞子から電話がかかってくる。虚貝堂に確認したが、尚大の没後に久我山書房の本を引き取った際に、嘉雄の『晩年』はなかった、祖父の聖司も、その時、尚大はほんの何冊かだけとっておきの古書を持っていたはずで、本当に心を許した人間にしか見せなかったと言っていたという。
気が付くと、大輔は侵入した田中敏雄にスタンガンを当てられていた。敏雄は栞子の『晩年』を奪おうと侵入したのだった。
その夜、かつて敏雄が栞子を突き落とした石段。そこに敏雄と女性がいた。2人とも『晩年』の初版本を持っていた。女性は隙をみて敏雄にスタンガンを当てるが、その場で隠れていた大輔と栞子が姿を現し、栞子は、その女性が鶴代の娘の寛子であることを見破る。大輔は、敏雄に自分が親戚であると伝え、敏雄と協力して嘉雄の『晩年』を取り戻そうとしたのだ。栞子は、寛子が自分の『晩年』を奪おうとした経緯を説明する。寛子は、自分が栞子への嫉妬から、祖母の手足として『晩年』を奪おうとしたことを明かす。そして、もみ合った寛子と大輔は、石段を転げ落ちてしまう。

エピローグ 

この数日の出来事を話し終わった大輔は、智恵子の話から、SNSのメッセージで敏雄に『晩年』の情報を教えたのは智恵子であることを知り、智恵子が尚大が外の女と作った子であることを悟る。栞子は、久我山尚大の孫だったのだ。大輔は、自分だけの秘密にしておこうと固く心に誓う。

 

 

物語はいよいよ大詰めという感じになってきました。著者のあとがきにも、次の7巻で完結であると明言されています。たぶん最後には大輔と栞子が結ばれるのだろうと思いますが、それと並行して、どんな謎ときが仕掛けられるのか、楽しみです。