村山早紀さんの小説「星をつなぐ手 桜花堂ものがたり」を読みました。
先日読んだ「桜風堂ものがたり」に続くシリーズ2作目。もとは2018年7月に単行本として刊行された作品、2020年11月に文庫本化されています。
主人公である書店員の青年が、同僚や出版社の営業担当など周囲の力添えも受けて、優しい奇跡を起こしていく物語。
主な登場人物は、
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月原一整:桜風堂書店書店員。元銀河堂書店文庫担当。山間の小さな店の再生に取り組む。他者と関わることを避ける傾向にあったが、多少変わってきたらしい。書評ブログ「胡蝶亭」の書き手。
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卯佐美苑絵:銀河堂書店児童書担当。内気で美しい娘。絵を描くのが得意。一整を心ひそかに慕っている。
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三神渚砂:銀河堂書店文芸担当。若きカリスマ書店員。苑絵とは幼馴染。書評ブログ「星のカケス」の書き手。
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柳田六朗太:銀河堂書店店長。業界の風雲児と呼ばれた豪快な男。万引き事件で店を辞めた一整を、なにかと気遣う。
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金田丈:銀河堂書店のオーナー。裕福な実業家。戦後、灰燼に帰した風早の駅前商店街を復活させた地域の偉人。
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桜風堂店主:明治時代から続く店を一整に託す。良き書店員。
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透:桜風堂店主の孫。本好きで利発で優しい少年。
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藤森章太郎:音楽喫茶「風猫」店主。一流出版社を早期退職した元人文分野の名編集者。全国の書店員たちと付き合いがある。妻は東京在住の児童書編集者。娘は海外留学中。
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沢本来未:漫画家の道を断念し、小野田文房具店の二階でひきこもっている美大生。繊細な心の持ち主。毬乃の妹。
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沢本毬乃:小野田文房具店の女主人。本職は染織家。大柄な美人。
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蓬野純也:見た目と知性と才能に恵まれた売れっ子作家。人付き合いもうまく、性格もいい。一整の従兄弟。
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高岡源:『紺碧の疾風』の著者。五十を過ぎて売れっ子に。デザイン会社勤務。営業職。穏やかで腰が低い。
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団重彦:デビュー作『四月の魚』は一整が見出したことがきっかけでベストセラーに。かつて活躍した著名な脚本家。
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柏葉鳴海:本好きの大女優にして元スーパーアイドル。通称「なるる」。苑絵の母の古い友人。
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福本薫:桜野町町長。定年まで出版業界で活躍した後、Uターン。白髪の美女。
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大野悟:福和出版社営業担当。明るく素直、商売もうまい。
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夏野耕陽:渚砂の離別した父。大手出版社に勤める著名な編集者。
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アリス:桜風堂書店の賢い三毛の子猫。
- 船長:年齢不詳の白い鸚鵡。態度が大きい。
というあたり。
背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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桜野町にある桜風堂書店を託され、仲間たちとともに『四月の魚』をヒットに導いた月原一整。しかし地方の小さな書店だけに、人気作の配本がない、出版の営業も相手にしてくれない、などの困難を抱えることに。そんな折、かつて在籍していた銀河堂書店のオーナーから受けた意外な提案とは。そして桜風堂書店を愛する人たちが集い、冬の「風祭り」の日に、ふたたび優しい奇跡が巻き起こる。『桜風堂ものがたり』感動の続編。
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序章 白百合の花
定宿にしている箱根の温泉宿でエッセイを執筆する柏葉鳴海。今はない若い頃に通っていた書店との思い出を回想し、桜風堂書店が続いていってほしいと思う。
第一話 夏の終わりの朝に
桜風堂書店の月原一整は、時代物の大人気シリーズ『紺碧の疾風』の最新刊の配本がないことを知り、発売日までに何とかしなければと考える。そこに銀河堂書店の店長・柳田から、銀河堂書店のオーナーが会いたいといっていると電話が入る。
幕間1 カーテンの向こう
透の枕元で目を覚ましたアリスは、自分の縄張りにパトロールに出かけ、自分をかわいがってくれる文房具屋の猫・ハナに呼ばれて、その裏庭を訪れる。アリスは普段はひとけのない二階の部屋に、誰かがいる気配を感じる。
第二話 遠いお伽噺
オーナーと会う日、久しぶりに銀河堂書店を訪れ、店長の柳田とともに料亭に向かうと、オーナーは一整に、桜風堂書店は銀河堂書店の系列に入らないか、と意外な提案をする。翌日店に戻った一整が店主に相談すると、ありがたい話だと喜ぶ。版元から『紺碧の疾風』の新刊が届いたことを知ったその時、お店に新刊の著者の高岡が訪れる。高岡はかつて一整に力をもらった思い出を話し、新刊にサインしてくれる。一整は売り切ってみせると思う。
幕間2 ケンタウロスとお茶を
念願の漫画家になるチャンスを逸し、文房具店を営む姉・毬乃の家にやってきた沢本来未。家の二階でひきこもっていたが、桜風堂書店に作家の高岡源が来ていると色紙を探す毬乃に、本屋にちょっと興味を抱き、自分も見に行こうと思う。
第三話 人魚姫
母・茉莉也から桜野町で旧暦のクリスマスに行われる「星祭り」の由来を聞かされた卯佐美苑絵は、自分もそのお祭りに行ってみたいと思う。一方、三神渚砂は、浮気して自分と母を捨てた父・夏野耕陽とのことを思い出し、自分は誰かの大切なものを奪ったりしないと心に誓う。作家・蓬野純也とのラジオ番組の収録に臨んた渚砂は、収録後、蓬野にカフェバーに誘われるが、気分から、つい飲み過ぎてしまう。
幕間3 Let it be
編集者時代のことを回想し、書店が日々消えていく現状に心を痛める音楽喫茶「風猫」店主の藤森は、桜風堂書店のお手伝いをしたいと考える。
幕間4 神様の手
文房具店を閉めた後、妹・来未や桜風堂書店に思いを巡らす沢本毬乃。そのとき、来未が近所の本屋さんに行くと言って出かけていく。胡桃が桜風堂書店に入ると、店に来ていた藤森が一整にお店を手伝わせてほしいと頼んでいた。一整は人文の棚を充実させたいと話し、それを藤森にお願いする。一整が2階にコミックやライトノベル、児童書を集めたフロアを作ろうと思っていると話すのを聞いた来未は、思わず、働かせてください、と直訴する。
終章 星をつなぐ手
『紺碧の疾風』最新刊が売れる中、桜風堂書店の店主が、生涯に一度くらい、この店でサイン会を開きたい、それも高岡先生の本で、と話す。そこに、時折桜野町を訪ねるようになっていた高岡が顔を出し、二つ返事で引き受け、星祭りの時期に行うことにする。その情報を知った団重彦の担当編集者からの提案で、合同サイン会にすることになり、さらに、サイン会を手伝うと電話してきた蓬野も加わり、作家3人のサイン会となる。イベントの当日、銀河堂書店の書店員も手伝いにやってきて、サイン会は盛会に終わる。苑絵がそばにいることにほっとするものを感じる一整は、苑絵と町に灯る光の群れ、そして空に広がる一面の星を見る。2人を林の中から見ていた渚砂は、彼女を見守っていた蓬野とばったり出会い、ホテルのバーに向かう。
番外編 雪猫
文庫本化に当たって追加収録された番外編の掌編。
満開の桜の中、雪が降り積もるある日、一整は風邪をひいて寝込み、子猫のアリスが一整の布団の中に入ると、一整は子どもの頃一日だけ子猫と一緒に寝た思い出をつぶやき、再び眠ってしまう。いつもよりおしゃべりな感じに心配になったアリスが布団を出ると、枕元に知らない小さな子猫が現われ、うっすらと消えていく。
(ここまで)
著者によるあとがきでは、このおそらく本巻が完結編となるであろうことが記されており、2年後の文庫本化に際して寄せられたあとがきでは、一整と苑絵、渚砂と蓬野など、主要登場人物のその後も紹介されていますので、続編が出ることはもうないのでしょう。
悪人が誰も登場せず、前巻以上にファンタジー感のある作品でしたが、心温まる物語は、良い読後感が残りました。