鷺の停車場

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顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 六」

顎木あくみ「わたしの幸せな結婚 六」を読みました。

2022年7月に文庫本で刊行された第6巻。現時点ではこれが最新巻ということになります。第5巻に続いて読んでみました。 

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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 身に覚えのない罪で投獄された清霞。彼と離ればなれになった美世は、清霞を助けるために一人で軍本部へと向かう。
 しかし目的地に着いたその時、彼女の袖を引く者がいた。振り返った美世が見たのは、清霞そっくりの美少年。彼は清霞の式だという。式に強引に連れ帰られた美世は、薄刃の家で態勢を整えて出直すことを決める。
 すべては清霞と再会するため、美世は自力で道を切り開いていく。そして迎えた甘水との決戦は―—。
 これは、少女があいされて幸せになるまでの物語。

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主な登場人物は、

  • 斎森 美世(さいもり みよ):異能を受け継ぐ名家だった斎森家の長女。清霞の婚約者となり恋を知る。稀有な異能「夢見の力」を持つ。

  • 久堂 清霞(くどう きよか):名家・久堂家当主。帝国陸軍対異特務小隊隊長。当代随一の異能の使い手。

  • 五道 佳斗(ごどう よしと):対異特務小隊所属。清霞の忠実な部下。

  • 辰石 一志(たついし かずし):辰石家の当主。解術の天才。

  • 薄刃 新(うすば あらた):美世の従兄で、薄刃家当主の息子。

  • 堯人(たかいひと):皇太子。異能である天啓の能力を持つ。

  • 斎森 澄美(さいもり すみ):美世の実母。故人。薄刃家から斎森家に嫁いだが、美世が2歳のときに病気で亡くなった。

  • 甘水 直(うすい なおし):異能心教の祖師。澄美の元婚約者候補。薄刃家を飛び出した分家で、人の五感を操作する強力な異能を持つ。

  • 久堂 正清(くどう ただきよ):久堂家前当主。清霞の父。病弱。

  • 久堂 芙由(くどう ふゆ):清霞と葉月の母。気位が高い。

  • 久堂 葉月(くどう はづき):清霞の姉。一児の母。

  • ゆり江:久堂家の使用人。清霞も頭が上がらない。

  • 薄刃 義浪(うすば よしろう):代々「夢見の力」を引き継いできた薄刃家の当主。美世の祖父。

  • 大海渡 征(おおかいと まさし):帝国陸軍参謀本部の少将で清霞の上官。葉月の元夫。

というあたり。

本編は、序章・終章と4章から構成されています。各章の概要・主なあらすじは次のようなもの。

序章

軍本部の獄舎の地下牢獄に異能を封じられて投獄された清霞は、美世を想う。そして、あらかじめ備えていた術を起動させる。

一章 雪の路

甘水の企みが自分を求めるものであるなら、直接その懐に飛び込み、清霞を救い出す機会をうかがうのが最も確実な方法に思えた美世は、単身で軍本部に入り込もうと向かうが、そこに、清霞にそっくりな10歳に満たないくらいの少年が現れる。清霞を主とする式だという少年は、美世を引き止め、味方を探すか敵情を知るべきと、薄刃家に行くことを勧める。
薄刃家を訪れた美世は、義浪にこれまでの出来事を語ると、義浪は温かく受け入れ、昔薄刃家に何があったかを話す。帝の介入により収入源だった貿易会社が傾いたことにより、澄美は周囲の反対を押し切って斎森家への嫁入りを決意し、それに納得できない直は、離反して薄刃家を飛び出していた。美世は義浪の勧めで、歴代の夢見の巫女の記録などを調べると、甘水が持つ五感を操作する力には、異能を行使できる時間がひどく短いなどの弱点が分かる。
一方の清霞は、美世を彼女に執着する甘水に会わせるには夢見の異能を開花させる必要がある、そのためには難局が必要になると話した堯人とのやりとりを思い出す。
その夜、美世の夢の世界に、澄美が姿を現す。美世の中の燃える異能の熱さは強くなっていくが、突然、視界が一気に開け、過去、未来、現在のすべてが脳裏に雪崩れ込んでくるように、堰を切って異能が溢れ出す。

二章 心を知り

薄刃家に3日滞在し、手がかりを手に入れた美世は、薄刃家に残されていた澄美の着物に身を包んで、老舗の旅館の離れに滞在する正清を訪れる。異能心教を止めるために力を貸してほしいとの美世の願いを正清は聞き入れ、異能者に声をかけることにする。
正清に会った後、美世は対異特務小隊の屯所を訪ねる。清霞がいなくなり隊の指揮を執ることになった五道と、たまたま訪れていた一志に、美世は協力を依頼し、美世と一志は翌朝に軍本部に乗り込み、五道たちは軍本部を手薄にするため襲撃を行うことになる。

三章 閉じた夢の先

翌日、まだ日が昇る前の時間、美世と、美世が清と名付けた清霞の式、そして一志の3人は軍本部に向かう。美世は、「視て」把握していたとおり、一瞬誰もいなくなった門を通って軍本部に入り、中を進んでいく。その美世の姿を見て、一志は、かつて斎森家にいたときの美世を思い出し、本当に変わったのだと思う。
牢に近づいて、一志が異能の行使を阻害する術を解術して、さらに進んで、美世は清霞との再会を果たす。一志が式を飛ばして五道たちも動き始め、清霞と美世、一志は甘水のところに向かうが、もう少しで管理棟の正面玄関、というところで新が姿を現す。薄刃家が不当に扱われることのない未来を望んでいた、と語る新に美世は、もうやめてください、その方法ではいけません、と訴えるが、新はそれを退ける。
そこに甘水が姿を現し、帝の無事を尋ねる清霞に、捕らえて苦しめている帝を見せる。清霞は必ず罪に問う、と迫るが、甘水は相手にしない。そして、君と自分たちはどう違うのかと美世を問い詰める。それを否定する美世は、夢見の力を発動させて在りし日の薄刃家に甘水たちを引きずりこみ、甘水を説得しようと試みる。甘水は、ぼくを理解しない娘なんていらない、と捨て台詞を吐き、それに賛同の声を上げた新と2人は、夢の世界から力づくで覚めようとする。新の目に危険を察した美世は、清霞と一志に2人を止めて、と叫ぶ。夢の世界が砕け散り、現実に戻ると、新は拳銃で甘水の額を打ち抜き、甘水は新の腹部に短刀を放っていた。
軍本部の敷地内で激戦を繰り広げていた五道たちの前に、一志、清霞、さらに甘水によって拘束されていた司令部の重鎮たちが姿を現す。次いで、大海渡少将が率いる一個中隊が現れる。甘水側についていた勢力に勝利したのだ。

四章 初めての

争乱が終わりを告げてひと月ほどが経ち、案外あっさりと日常が戻ってきた中、一命をとりとめた新は、まだ軍病院に入院していた。見舞いに訪れた美世は、最初から甘水を撃つつもりで異能心教に加担していたのか尋ねると、新は味方になったと見せかけて寝首を掻こうとしていたことを打ち明ける。新は美世に夢見の力を使って夢に閉じ込めたのは、甘水と自分を守るためだったのかと尋ね、美世はそれを認め、できればもうこの異能を使いたくないと語る。
清霞とともに軍病院を出た美世が呉服店に向かうと、先に来ていた葉月と芙由が美世の婚礼衣装のことで揉めていた。美世は、葉月に手招きされ、白無垢、色打掛と自分の婚礼衣装を初めて目にする。
呉服店を出た2人は、初めて2人で外出した際に行った甘味処に立ち寄り、そして美世の要望で2人で初詣に行った神社を訪れる。清霞は、旧都には久堂の本家筋のような家があり、いずれは挨拶をして、茶会のひとつでも開く必要があると話す。
神社を離れた2人は、下町近くに足を向け、帝都を一望できるという、いわゆる「十二階」に上る。そこで清霞は、いずれ軍のどさくさが収まったら、軍人を辞めると明かす。
自動車で帰り、玄関の前まで来たところで、清霞は、お前が私の命だ、結婚してほしい、と改めてプロポーズし、美世も、はい、喜んで、愛しています、と答える。

終章

すっかり春めいて、婚礼が迫ってきた頃、洗濯物を庭の物干しに干す美世に、清霞が声をかけ、結婚の記念に、この庭に桜を植えようと提案し、この庭に咲く桜を見てみたいと思い賛同した美世は、胸の内で期待が膨らむ。

 

(ここまで)

予想されたとおりの展開ではありますが、第1巻から底流に漂っていた薄刃家をめぐる過去の因縁は、本件で解決をみることになります。
著者のあとがきによると、本巻で「甘水編(仮)もようやく一件落着」で、次巻はハッピーな巻になるということですので、本巻までがいわば第1編ということになります。タイトル的にも、おそらく2人の婚礼が描かれるであろう次巻で終わるのかと思っていましたが、本巻の終盤に出てくる軍人を辞めるという清霞のセリフや、あとがきでの著者の言葉からすると、次巻から新たに結婚後の2人を描く第2編が始まるのかもしれません。

なお、あとがきによると、アニメ化、そして実写映画化が決定したそうです。本作の舞台設定を考えると、実写映画の方は、よほど良い出来でないと、がっかりしてしまうだろうと思うので、あまり期待しないでおきますが、アニメの方は、どのような形になるのか、ちょっと興味深いところです。