鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

中村航「100回泣くこと」

中村航さんの小説「100回泣くこと」を読みました。

100回泣くこと (小学館文庫)

100回泣くこと (小学館文庫)

  • 作者:中村 航
  • 発売日: 2007/11/06
  • メディア: 文庫
 

これもたまたま手にしてみた本。2005年10月に単行本として刊行された作品に改稿を加えて、2007年11月に文庫本化された作品とのこと。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

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 実家で飼っていた愛犬・ブックが死にそうだ、という連絡を受けた僕は、彼女から「バイクで帰ってあげなよ」といわれる。ブックは、僕の2ストのバイクが吐き出すエンジン音が何より大好きだった。
 四年近く乗っていなかったバイク。彼女と一緒にキャブレーターを分解し、そこで、僕は彼女に「結婚しよう」と告げる。彼女は、一年間(結婚の)練習をしよう、といってくれた。ブックの回復→バイク修理→プロポーズ。幸せの連続線はどこまでも続くんだ、と思っていた。ずっとずっと続くんだと思っていた—―。(解説・島本理生
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作品は、4章で構成され、さらに数字で35節に区切られています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

第一章 犬とバイク

1 就職して4年になる「僕」に、実家の母親から、犬が死にそうだと連絡が入り、4日後の日曜に実家に帰ることにする。

2 その犬は、8年前、浪人生活を始めたばかりの春に図書館の駐車場で見つけた生まれたばかりの捨て犬を「僕」がブックと名付けて飼い始めた犬で、2ストロークのバイクで一緒に出かけたりしたが、大学に入って別れていた。

3 彼女にバイクで帰ってあげなよ、と言われ、2ストのバイクの音を聞くと喜んだブックを思い、「僕」は4年間乗っていなかったバイクをメンテすることにする。

4 「僕」は久しぶりにバイクを駐輪場から出して洗車し、新品のバッテリーやエンジンオイルなどを買って交換し、ガソリンを入れ換えるためにバイクを押してガスステーションに行く。スタッフの協力でタンクをきれいにしてガソリンを入れ換えるがエンジンはかからず、キャブレターが原因だろうと言われる。

5 翌日の6月11日、「僕」はキャブレターをバイクから外し、仕事から帰った後に分解する。そこに彼女もやって来て、一緒に牛丼を食べ、コーヒーを飲む。

6 午後9時、食事を終えた2人は、ベランダに出て分解した部品を有機溶剤を使って洗浄する。作業の途中、「僕」は「結婚しよう」と言うと、彼女も「……うん、結婚しよう」と答える。洗浄を終えた2人はベッドに入り手をつないで眠る。

7 翌朝、ベーコンエッグとトーストの朝食を食べた2人は、洗浄したキャブレターの部品を組み立てながらキスをする。彼女は付き合って3年が過ぎた同い年だった。

8 組み立てたキャブレターを駐輪場のバイクにセットしてエンジンをかけると、初めはうまくいかないが、押しがけでエンジンがかかる。「僕」は慣らしでバイクを走らせ、かつてブックを喜ばせたエンジン音を4年ぶりに感じる。

第二章 スケッチブック

9 「僕」は高速を4時間走って岐阜県の実家に行く。ブックは眠ったままだったが、目覚めて少しするとハッと気づいたように立ち上がって「僕」の手を舐める。母親から話を聞き、夜までずっと一緒にいた「僕」が帰りにバイクのエンジンを吹かすと、ブックは少しずつ嬉しそうな表情になってしっぽを振る。

10 東京に帰った「僕」は彼女に電話で報告する。2人は、彼女の提案で、1年くらい、結婚したつもりになって一緒に暮らしてみる、結婚の練習をすることにしていた。7月7日から一緒に暮らすことにした2人は新生活に向けた相談をする。

11 新生活の準備を進める中、「僕」は古い友人と飲みに行って共通の知り合いの消息を交換し、かつて2人を引き合わせたムースとバッハが別れたことを知る。4人で飲みに行って初めて彼女に会った日、ムースに好きな男性のタイプを聞かれた彼女は「僕」みたいな人と答えて仰天させ、その日から電撃的に付き合いが始まったのだった。

12 7月7日、彼女が引っ越してくる。練習初日、2人はショートケーキに入刀して食べ、彼女はスケッチブックを開いて教会の結婚式での誓いの言葉を書き記す。「僕」はそれを読み上げ、2人は誓い合う。

13 新生活が始まり、2人は様々なアイデアを出し合い、計画を立て、実行していく。

14 ある朝、「僕」は自分がみる夢の人称がWeになっていることに気づく。練習開始から3か月が経ち、2人はレストランで初めての反省会を開く。

15 12月に入った頃、彼女が風邪をひいて熱を出す。彼女の希望で「僕」は解熱の舞を踊るが熱はなかなか下がらない。5日目の夜、柔道をする夢をみた、柔道をやってみたい、藤井君を投げまくってもいい?と話す彼女に、「僕」は、もちろん、いい受け身をとるよ、と返す。翌日になって、彼女はようやく回復する。

16 年が明けて、東京に雪が降った日、夜遅くに帰宅した「僕」は、彼女とモグラの馬力や奇妙な単位の話をして笑う。こんな生活がずっと続くのだと思っていた。

第三章 開かない箱

17 冬が弱まってきた頃、彼女が微熱を出すことが増える。下腹部の痛みも出て、彼女は千葉の実家近くのかかりつけの病院に行くことにする。彼女は、そろそろ本番の準備をしようと言うが、「僕」は、ゆっくり休んできなよ、と声をかける。

18 翌日、荷造りをして彼女は出発する。「僕」は駅まで荷物を持って送り、ホームで握手をして別れる。

19 「僕」は、会社にある柔道場に1人で行き、柔道をやってみたいと言った彼女を思い出し、何度も受け身をとり続ける。

20 月曜の夜、彼女から電話があり、検査を受けたが原因が分からず、木曜に再検査を受けることになったと聞かされる。

21 仕事が大詰めの時期になっていた「僕」は、木曜の夕方、職場から電話をかける。来週の月曜と木曜に精密検査を受けることになった、結果は金曜に連絡する、と聞かされる。

22 仕事がヤマを越えた3月最終日、「僕」は家で電話を待つ。ようやくかかってきた電話で、彼女は火曜から入院することになったと告げる。東京の病院で受けたCTとMRIの結果、卵巣に悪性腫瘍がある疑いが強まり、手術することになったという。「僕」は、翌日の午後に彼女のもとに行くことにする。

23 翌日、「僕」は、現状を知ってこれからのことを考えようと、朝一番に図書館に行き、卵巣がんについての資料を探し、関係する場所のコピーをとる。千葉に向かう途中でその資料を読む「僕」は、不安と恐怖の中で自分に病気のことを伝えてくれた彼女のことを思い、涙を流す。

24 最寄りのバス停留所に着くと、彼女の父親が出迎え、ファミリーレストランに連れていく。病気のこと、彼女の様子、入院費や退院後のことなどを話し合った後、2人は彼女の家に向かう。

25 家に着き、「僕」は彼女と両親と4人でお茶を飲みながら話した後、彼女の部屋に行く。初期でなければ子宮は残せないと話す彼女に、退院したら結婚しよう、子宮を取っても何も変わらない、と声をかけ、えらいね、と彼女の頭を撫でながら褒め続ける。

26 入院して1週間後、彼女は手術を受け、進行期Ⅲの悪性腫瘍と診断され、リンパ節への転移も確認される。化学治療を行うことになり、1クール3週間の抗がん剤投与を6クール行うスケジュールが組まれる。

27 抗がん剤投与が2クール目に入った6月、「僕」は11日に何かプレゼントすると言うと、彼女は絶対に開かない箱がほしいと話す。それからしばらく経つと副作用がだんだん強くなり、3クール目に入る頃には髪の毛は抜け落ちてしまう。

28 夏になり、激しくなっていく副作用と戦いながら、彼女は長かった投薬治療を終えるが、完治には至らない。新しい抗がん剤の投与が始まり、副作用に苦しむが、効果は現れない。そんな中、「僕」の会社で初ロットの出荷を控えた新製品の1号機が従業員の単純ミスで壊れる。周りの生産性のない対応ぶりに、対処のため病院に行けなくなってしまう「僕」は沸々と込み上げる怒りを抑えられず、トイレに駆け込んで吠えるように大声を上げ、涙を流す。

29 新しい抗がん剤は効果が出ずに1クールで中止となり、別の抗がん剤も試されるが効果は出ず、治療開始から既に半年以上が経過する。大がかりな検査の結果、転移も見つかり、試すに値する抗がん剤もなく、余命は長くて3ヶ月と宣告されたことを父親から電話で知らされる。

30 それから3ヶ月、「僕」は毎日定時で仕事を打ち切り、病院に通ってベッドの横に座り、もうあまり口を開かなくなった彼女に話しかける静かな日々を送る。2月11日、久しぶりに笑顔を見せ、目にも生気が戻っていた彼女とキスを交わし、これまでを取り戻すようにしゃべる。一度眠った彼女が目を覚ますと、元気になりたい、と小さな声で言って一筋の涙を流す。「僕」は大丈夫、と励ますが、翌日にはもう目を開けなくなって呼吸器が付けられる。その3日後、両親と「僕」が見守る中、彼女は静かに亡くなる。

第四章 箱の中身

31 彼女が死んでちょうど100日後、「僕」は会社の試作室で絶対に開かない箱を作る。彼女の葬儀が終わってから、毎晩酩酊するまで酒を飲み、涙を流す日々を送っていた。

32 6月、家に帰った「僕」は彼女のスケッチブックをめくり、そろそろ泣くこと、酒を飲むことはやめなきゃならないと思う。

33 しかし、次の日も、その次の日も、「僕」は酒を飲んで涙を流す。模糊とする意識の中で、君のいない生活をそろそろちゃんと始めようと思う、いいよね、と彼女に語りかける。翌日、昼過ぎに目覚めた「僕」は、部屋にそのままになっていた彼女の物を段ボールに詰め、押入にしまう。

34 季節が過ぎ、もうすぐ彼女が死んで2年になろうとしていた。「僕」は本気で引っ越しを考え始める。

35 休日の朝、母親からブックが死んだと電話が入る。バイクで実家に向かい、ブックの亡骸と対面した「僕」は、かつて一緒に遊んだ河原にブックの亡骸を埋める。バイクも潮時だと感じ、このまま廃車にして、新幹線で東京に戻ろうと思う「僕」は、河原を眺め、彼女のことに思いを馳せる。

(ここまで)


なお、「僕」も彼女もフルネームは最後まで明かされませんが、11や24、25、27で「僕」が「藤井君」と、24や25で彼女が「佳美」と呼ばれる描写が出てきます。

初めて会った日に電撃的に付き合い始め、結婚の練習、いわば結婚を前提とした共同生活を始めた「僕」と彼女。幸せだった何気ない日常の日々が、彼女にがんが見つかることで暗転し、坂道を転げ落ちるように彼女の死にまで至ってしまいます。この明暗の対照が鮮やかで、心に沁みる物語。10や16などで描かれる、第三者が聞いたら意味不明な、他愛のない2人の会話、28で描かれる「僕」に沸き上がる怒りの場面など、描写の巧みさも感じる作品でした。

香月美夜「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~第三部 領主の養女Ⅱ」

香月美夜の小説「本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~」の第三部「領主の養女Ⅱ」を読みました。

テレビアニメを見て読み始めたシリーズの第3部、第1巻「領主の養女Ⅰ」に続いて読んでみました。

単行本の表紙裏には、次のような紹介文があります。

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領主の養女となり、神殿長に就任したローゼマインは、慣れない権力者としての立場に翻弄されていた。収穫祭へ向けた準備、新しい孤児たちの面倒、近隣の町からの不満等、立場を手にしたことで課題が増えていく。おまけに、神官長フェルディナンドは常に厳しい。それでも、ローゼマインは諦めない!下町の家族や仲間との再会に励まされ、図書室での束の間の読書で元気満タン!そして、年に一度訪れる「シュツェーリアの夜」に、薬の素材採取へ向かうが…。

過去最大のアクションが待ち受けるビブリア・ファンタジー! 神殿長はつらいよ!?

書き下ろし番外編2本+椎名優描き下ろし「四コマ漫画」収録!

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本巻は、プロローグ・エピローグと見出しで区切られた17節からなり、紹介文にあるとおり、巻末に番外編2編、イラストを担当している椎名優による巻末おまけの四コマ漫画、人気キャラクター投票結果が収録されています。各節のおおまかな内容を紹介すると、次のようなあらすじです。

 

プロローグ

マインの母・エーファは、ベンノに頼み込んで、簪の職人としてルッツやトゥーリとローゼマインに会いに孤児院に連れていってもらう。家族としての会話は契約魔術で禁止されており、貴族に対する話し方で、ローゼマインに完成した簪を付けるエーファは、何気ない会話から、ローゼマインが触れ合いに飢えていることを感じ、貴族としてやっていけるのか、心配になる。

収穫祭の打ち合わせ

秋の洗礼式を終えたローゼマインは、次の日、フェルディナンドと収穫祭や固まった魔力を溶かす薬の素材となる魔木リュエルの実を採取しに行くための打ち合わせをする。

ハッセの小神殿

3人ずつの灰色神官と灰色巫女がハッセに出発した3日後、ローゼマインは魔力で作ったレッサーバスにブリギッテを同乗させてハッセの小神殿に向かい、準備が進む様子を確認する。3日後、ローゼマインは、今後はフラン、ギル、ニコラもレッサーバスに乗せて再びハッセに向かい、荷物を運びこみ、町長のもとに向かう。16人の孤児たちの意思を確認し、トール、ノーラ、リック、マルテの4人を引き取ることになる。

新しい孤児達

4人の孤児を引き取って小神殿に戻ったローゼマインたちだったが、態度の悪いトールたちにフランは怒りを露わにする。

孤児の扱いと町の調査

ローゼマインはフェルディナンドやフランたちと今後の孤児たちの扱いについて話し合い、町長がどの貴族とつながりがあるかなどを調べることにする。神殿に戻るとフェルディナンドはベンノを呼び出してハッセの町長の情報を聞き、前神殿長とのつながりが深いことなどを知る。

神殿の守り

冬にハッセの孤児たちを神殿の孤児院で生活させようと考えるローゼマインは、受け入れ余力があるかヴィルマに確認した後、フェルディナンドに聖典の絵本をお城で売りたいと相談していると、ハッセの小神殿に入ろうとする者がいることを魔力で感知する。農具を持った10人足らずの若い男が小神殿を襲うが、守りの魔力で跳ね飛ばされたことを確認したローゼマインに、前神殿長あての手紙を持ったモニカがやってくる。それはカントーナに売り渡す契約をした孤児を奪われた、などローゼマインたちの行いに異議を唱える内容だった。フェルディナンドに相談して、前神殿長は亡くなったと返事することにする。

新しい課題と冬支度の手配

フェルディナントに、孤児を守って町長を力ずくで退ければこちらが町民から憎まれることになる、町長を孤立させて排除しなさいと言われたローゼマインは寝不足になる。冬の衣装の採寸のために城に向かったローゼマインは、ジルヴェスターに面会に行くが、途中で会ったヴィルフリートにずるいと文句を言われ、苛立つローゼマインは、勉強もせずに逃げることばかり考えている卑怯者、と威圧しかけ、ダームエルに止められる。

イタリアンレストラン開店

ハッセの小神殿に様子を見に行くローゼマインは、孤児たちの笑顔を見て、領民と孤児の両方にとって良い結果になる方法を探したいと思う。料理人のフーゴがお城から戻り、イタリアンレストランの開店に向けた準備を進めるベンノたちに、ローゼマインはハッセのことを相談する。気持ちを切り替えることができて体調も回復したローゼマインは、イタリアンレストランの開店の日、大店の店主たちの前で挨拶する。レストランのスタートは大成功だったが、料理人のフーゴが、ジルヴェスターの誘いを受け、宮廷料理人になりたいと願い出る。

ハッセ改革の話し合い

イタリアンレストラン開店の課題が片付いたローゼマインは、ハッセのことをどうするかベンノたちと相談し、孤児を買おうとした文官に話を付け、町長には孤児の代金を払うことにし、商人を使って噂を流すことを考え、フェルディナンドにその案を話して了解を得る。ローゼマインは、ヴィルフリートの教育を優先した方がいいのではないかと話すが、ジルヴェスターに近付くなと言われていると断られる。

入れ替わり生活

ジルヴェスターに呼ばれてフェルディナンドとハッセのことなどを報告するためお城に行ったローゼマインは、ヴィルフリートに再びずるいと言われ、一日生活を入れ替えることを提案し、ヴィルフリートも喜んで受け入れる。昼食での打ち合わせの後、ヴィルフリートはランプレヒトの騎獣に乗って神殿に去っていく。ローゼマインはヴィルフリートの部屋に行き、そこに教師のモーリッツがやってくるが、勉強の進度の遅さを知って怒ったリヒャルダは側仕えや護衛騎士を集めて説教する。ローゼマインはヴィルフリートの教育について話し合うためジルヴェスターに面会を申し込む。フェルディナンドはヴィルフリートを跡継ぎ候補から外すよう主張するが、ローゼマインは環境を整えて更生させることを進言し、冬のお披露目までに文字を書く、簡単な計算ができる、フェシュピールで1曲弾けるようにならなければ廃嫡されることになる。

収穫祭の準備

ローゼマインは、フェルディナンドとエックハルト、リヒャルダの息子で徴税官のユクトクスと、収穫祭とリュエルの実を採取しに行く打ち合わせを行い、準備を進める。

ハッセの契約

フェルディナンドはハッセ担当の文官カントーナを呼び出し、町長との契約について話を聞き、違約金を払って契約書を買い取る。騎獣で神殿に戻ったローゼマインは、ヴィルフリートをその気にさせた頑張りに、側仕えたちを褒めちぎる。翌日、ローゼマインは、貴族間で供給される灰色巫女が減って、孤児院にもちょうど良い年頃の娘がいないか探しに行くようになっているとフェルディナンドに聞かされる。

商人の活動開始

フェルディナンドから許しを得たローゼマインは、ベンノたちと打ち合わせをして、ハッセに流す噂の内容などを決める。ハッセに向かったローゼマインは、町の事務を担っているリヒトに孤児を買い取ることを話し、契約を結ぶ。

ハッセの収穫祭

ローゼマインはフランたちを連れてハッセの収穫祭に向かう。洗礼式、成人式、結婚式を終えるが、変な目をした不審人物がいたため、すぐに小神殿に戻される。小神殿でエラ、モニカたちが準備した夕食を食べる。護衛のため来ていたギュンターたち兵士のテーブルを回ったローゼマインに家族での食事の思い出が蘇る。

収穫祭

翌日、小神殿を封鎖して神殿に戻るための準備が慌しく進み、神官と孤児は出発していく。ローゼマインは、護衛騎士のブリギッテに実家がどこか尋ね、木材が特産のイルクナーという場所だと知り、一度行ってみたいと話す。昼食後、ローゼマインたちも出発し、収穫祭の農村を回る。

シュツェーリアの夜

秋の素材リュエルが採れる場所に近いドールヴァンに着いたローゼマインは、収穫祭を終えて、2日間休息し、満月の夜、リュエルの採集に出発する。襲ってくる多くの魔獣をエックハルト、ブリギッテとダームエルが防ぎ、大きくなったリュエルの実に自分の魔力を注ぎ採集するが、その実を魔獣ザンツェが奪って逃げてしまう。

後始末

リュエルの実を食べたザンツェは、その魔力で10倍ほどの大きさのゴルツェに変身する。自分たちでは到底太刀打ちできそうもない大きさに、ユクトクスはフェルディナンドに騎士団の応援要請を出す。フェルディナンドの指示で、ローゼマインは魔力で風の楯を作り、ゴルツェを閉じ込め、やってきたフェルディナンドの一撃で、ゴルツェは倒れるが、リュエルの実は採り逃してしまう。

わたしの冬支度

ローゼマインは神殿に戻り、不在の間の状況について報告を受ける。ヴィルマからは神殿長、孤児院長、工房長と仕事が多いので側仕えを増やしてはと進言される。ローゼマインは、フェルディナンドにジルヴェスターの仕事を止めて仕事を減らし、後進を育てるよう進言する。

エピローグ

久しぶりに騎士寮に戻ってきたブリギッテを、同郷のイルクナーから連れてきた親戚の側仕え見習い・ナディーネが出迎える。イルクナーの領主の妹であるブリギッテが神殿に通うことを快く思わないナディーネだが、ローゼマインの護衛騎士となり、騎士団長のカルステッド一家と懇意となっていくことで、周囲の目が変わってきていた。シュツェーリアの夜から帰ったブリギッテは、カルステッドから恒例の質問が始まる。ブリギッテは、城でだけ護衛をするアンゲリカを見て志願する女性騎士がいることを報告し、カルステッドは、コルネリウスに志願を却下する理由も説明するよう言っておくことにする。

 

最後に番外編が3編。

ヴィルフリートの一日神殿長

ローゼマインと1日入れ替わり生活をすることになったヴィルフリートが、神殿でのローゼマインの努力ぶりとそれを支える側仕えに接し、自分の状態に危機感を覚えるエピソード。

ハッセの孤児

冬の間神殿で一緒に暮らすことになったハッセの孤児4人を描いたエピソード。

ユストクスの下町潜入大作戦

マインが神殿に入る前、マインについての情報収集を命じられたユストクスが、下町に潜入するも、情報集めに苦労するエピソード。

 

さらに、著者によるあとがきの後に、「巻末おまけ」(漫画:しいなゆう)「ゆるっとふわっと日常家族」と題して、「ほめてのばす」「成長途中」「エネルギー」の3本の四コマ漫画が収録されています。

 

領主ジルヴェスターの長男・ヴィルフリートは、自分と違って、勉強もせず、父親とも話をするローゼマインをずるいと羨みますが、入れ替わり生活をすることで、自分の甘さを痛感し、心を入れ替えて努力するようになります。ローゼマインは、獅子奮迅の活躍ぶりですが、前神殿長と懇意だったハッセの町長への対応に頭を悩ませます。次巻以降、このあたりも進展していくのだろうと思います。

本多孝好「ALONE TOGETHER」

本多孝好さんの小説「ALONE TOGETHER」を読みました。

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

  • 作者:本多 孝好
  • 発売日: 2002/10/01
  • メディア: 文庫
 

たまたま手にしてみた作品。2000年9月に単行本で刊行され、2002年10月に文庫本化された作品のようです。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

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「ある女性を守って欲しいのです」
三年前に医大を辞めた「僕」に、脳神経学の教授が切り出した、突然の頼み。
「女性といってもその子はまだ十四歳……。私が殺した女性の娘さんです」
二つの波長が共鳴するときに生まれる、その静かな物語。
『MISSING』に続く、瑞々しい感性に溢れた著者初の長編小説。

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作品は、数字で区切られた7章とエピローグで構成されています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

「僕」こと柳瀬は、3年前に退学した医大の教授で脳神経学の権威である笠井から、自分が殺した女性の14歳の娘さんを守ってほしいと頼まれる。辞める前に6回授業に出ただけ関係だったが、それを引き受ける。その帰り、笠井の家からつけてきたフリーライターを名乗る男から笠井が大脳機能を失った患者の人工呼吸器を止める殺人事件を起こしたと聞かされる。

柳瀬は、アルバイトをしている学習塾・アニフィティー学院の生徒で中学2年生の青井ミカに、笠井に託された同じ中学2年生の立花サクラを紹介してほしいと頼む。ミカは困ったときに頼れる一部の中学生には伝説と化している存在だった。その後、男が現れ、笠井を訪れた人間(=柳瀬)を取材したら妻を殺して自殺した殺人犯の息子だったと話しかけられる。男が去った後、柳瀬は、それは呪いなんだ、だから使うな、との父親の最後の言葉を思い返す。

ミカが指定したカフェに行った柳瀬。サクラの知り合いが来るはずだったが、来たのはサクラ本人で、構われたり力になってもらう理由はないと一蹴される。その気迫を感じた柳瀬は自分の波長をサクラの波長に一瞬シンクロさせるが、サクラはその異変に気づく。別れた柳瀬は、タクシー代が足りず、付き合っているバイト仲間の大学生・熊谷の家に転がりこむ。ミカは予想外の展開に謝り、サクラの母親はピアニストでサクラも英才教育を受けていたと調べた情報を柳瀬に話す。ミカが去った後、あの男がやってきて、笠井が逮捕されると話し、両親の事件について問い質すが、柳瀬は何も答えずに店を出る。

アニフィティー学院で学院長の渡と一緒に息子が通り魔事件の犯人ではないかと怯える母親の話を聞く柳瀬は、母親とシンクロして、あなたが怯えているのは息子の人生が台無しになることではなく、息子が逮捕された後自分にどんな非難が寄せられるか想像するのが怖いだけだと話す。混乱して帰っていく母親に、渡は息子の良二に自首することを説得するよう柳瀬に話す。サクラの家に向かう柳瀬は、中学3年生の時に父親から人とシンクロする特殊能力について話されたことを回想し、父親が言った呪いを解く方法を探さなければいけないと思う。サクラは柳瀬がシンクロするのを拒むが、柳瀬は住所と連絡先を書いた紙を渡して帰り、熊谷の部屋に向かうが不在で、2時間後に大学の同級生の溝口の車で帰ってくる。熊谷の部屋に泊まった柳瀬は翌日良二と話す。

翌朝目を覚ますと、部屋にあの男がいた。男は笠井が黙秘するのはサクラを庇っている可能性があると語り、柳瀬の両親の事件の原因を探ろうとするが、柳瀬は引き取ってもらう。サクラを公園に呼び出して会う。サクラは、両親が死んで、両親を許せたか問い質す。まだ許せていないが許したいと思っていると答えると、サクラは去っていく。家に帰るとミカがいた。泊まる場所がないと話すミカを、柳瀬は自宅まで送り、待っていた父親と話す。熊谷の部屋に行くと、溝口が来ていて、柳瀬は別れを告げられる。

2日が過ぎてもバイトに行く気が起きない柳瀬をサクラが訪ねてくる。学校に向かう電車で痴漢に遭って学校に行く気がしなくなったと話すサクラに柳瀬は、サボっちゃおうと声をかける。雨でやることがない柳瀬は部屋の掃除を始め、サクラもそれを手伝う。雨が止んだ午後、サクラの希望で、2人は渋谷に出かけて買い物をする。ハンバーガーショップに入ると、サクラは母親のこと、そして母親が死んだ日に病院に行ったことを話す。その日の深夜、サクラの父親とその恋人で家政婦の水谷が、サクラが猫がいなくなったと出かけたきり帰ってこないと慌てて訪ねてくる。

柳瀬は他にどうしてもやらなければならないことができたと渡に辞めることを伝え、学院を始めた訳を訊く。日が暮れた後、柳瀬の家に熊谷が訪ねてくる。2人は和解し、抱き合う。翌日、熊谷が出かけていった後、再びあの男が姿を現す。男と話す中で、柳瀬はなぜ父親が母親を殺したのか、その原因にたどり着く。柳瀬はサクラの家に行くがサクラはまだ帰っていなかった。柳瀬は父親にサクラの母親のことを訊き、音大でピアノを専攻していたこと、サクラがかつて将来を嘱望された指揮者の前川陽一郎に似ていること、前川が自殺した3日後に母親が自殺を図ったことなどを知る。柳瀬はサクラの部屋に飾られていた家族写真が撮られた教会に向かうと、猫を抱いたサクラがいた。サクラは、母親が死んだ日の夜のことを話す。サクラを家に送って電車に乗ると、窓ガラスにあの男が現れる。男はあなたを救えるのは私しかいないと柳瀬を誘うが、柳瀬はそれを断り、熊谷の部屋に向かう。

エピローグ

笠井が起訴され、保釈されたとの新聞記事を見た柳瀬は、笠井の家を訪ねる。サクラの近況を報告し、殺したのはその人のためだったのかと尋ねると、笠井は、たぶんその母親のためだったのだろう、あるいは自分のためだったかもしれないと語る。笠井の家を出た柳瀬は、会う約束をしているサクラのもとに向かう。

(ここまで)

 

柳瀬は、自分の波長を他の人の波長にシンクロさせ、その人の内面に溜まっている心の澱を引き出す特殊な能力を持っていますが、自在に制御することはできません。亡き父親が呪いと表現したように、それは必ずしもその人を救うものではなく、柳瀬がシンクロした、良二とその母親、ミカの父親、渡の4人は、柳瀬の前にしばしば現れる男の言葉によれば、いずれも、柳瀬によって解放されたものの、むしろ前よりひどい状態になってしまいます。その呪いを解く方法を見出だそうとしていく姿が、本作のメインストーリーになっています。最後は少し前向きな感じで終わりますが、多くの登場人物は、内に陰を抱え、救いがないままな感じで、もやもや感が残る作品でした。