鷺の停車場

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本多孝好「ALONE TOGETHER」

本多孝好さんの小説「ALONE TOGETHER」を読みました。

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

ALONE TOGETHER (双葉文庫)

  • 作者:本多 孝好
  • 発売日: 2002/10/01
  • メディア: 文庫
 

たまたま手にしてみた作品。2000年9月に単行本で刊行され、2002年10月に文庫本化された作品のようです。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

 

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「ある女性を守って欲しいのです」
三年前に医大を辞めた「僕」に、脳神経学の教授が切り出した、突然の頼み。
「女性といってもその子はまだ十四歳……。私が殺した女性の娘さんです」
二つの波長が共鳴するときに生まれる、その静かな物語。
『MISSING』に続く、瑞々しい感性に溢れた著者初の長編小説。

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作品は、数字で区切られた7章とエピローグで構成されています。各章のおおまかなあらすじは次のとおりです。

「僕」こと柳瀬は、3年前に退学した医大の教授で脳神経学の権威である笠井から、自分が殺した女性の14歳の娘さんを守ってほしいと頼まれる。辞める前に6回授業に出ただけ関係だったが、それを引き受ける。その帰り、笠井の家からつけてきたフリーライターを名乗る男から笠井が大脳機能を失った患者の人工呼吸器を止める殺人事件を起こしたと聞かされる。

柳瀬は、アルバイトをしている学習塾・アニフィティー学院の生徒で中学2年生の青井ミカに、笠井に託された同じ中学2年生の立花サクラを紹介してほしいと頼む。ミカは困ったときに頼れる一部の中学生には伝説と化している存在だった。その後、男が現れ、笠井を訪れた人間(=柳瀬)を取材したら妻を殺して自殺した殺人犯の息子だったと話しかけられる。男が去った後、柳瀬は、それは呪いなんだ、だから使うな、との父親の最後の言葉を思い返す。

ミカが指定したカフェに行った柳瀬。サクラの知り合いが来るはずだったが、来たのはサクラ本人で、構われたり力になってもらう理由はないと一蹴される。その気迫を感じた柳瀬は自分の波長をサクラの波長に一瞬シンクロさせるが、サクラはその異変に気づく。別れた柳瀬は、タクシー代が足りず、付き合っているバイト仲間の大学生・熊谷の家に転がりこむ。ミカは予想外の展開に謝り、サクラの母親はピアニストでサクラも英才教育を受けていたと調べた情報を柳瀬に話す。ミカが去った後、あの男がやってきて、笠井が逮捕されると話し、両親の事件について問い質すが、柳瀬は何も答えずに店を出る。

アニフィティー学院で学院長の渡と一緒に息子が通り魔事件の犯人ではないかと怯える母親の話を聞く柳瀬は、母親とシンクロして、あなたが怯えているのは息子の人生が台無しになることではなく、息子が逮捕された後自分にどんな非難が寄せられるか想像するのが怖いだけだと話す。混乱して帰っていく母親に、渡は息子の良二に自首することを説得するよう柳瀬に話す。サクラの家に向かう柳瀬は、中学3年生の時に父親から人とシンクロする特殊能力について話されたことを回想し、父親が言った呪いを解く方法を探さなければいけないと思う。サクラは柳瀬がシンクロするのを拒むが、柳瀬は住所と連絡先を書いた紙を渡して帰り、熊谷の部屋に向かうが不在で、2時間後に大学の同級生の溝口の車で帰ってくる。熊谷の部屋に泊まった柳瀬は翌日良二と話す。

翌朝目を覚ますと、部屋にあの男がいた。男は笠井が黙秘するのはサクラを庇っている可能性があると語り、柳瀬の両親の事件の原因を探ろうとするが、柳瀬は引き取ってもらう。サクラを公園に呼び出して会う。サクラは、両親が死んで、両親を許せたか問い質す。まだ許せていないが許したいと思っていると答えると、サクラは去っていく。家に帰るとミカがいた。泊まる場所がないと話すミカを、柳瀬は自宅まで送り、待っていた父親と話す。熊谷の部屋に行くと、溝口が来ていて、柳瀬は別れを告げられる。

2日が過ぎてもバイトに行く気が起きない柳瀬をサクラが訪ねてくる。学校に向かう電車で痴漢に遭って学校に行く気がしなくなったと話すサクラに柳瀬は、サボっちゃおうと声をかける。雨でやることがない柳瀬は部屋の掃除を始め、サクラもそれを手伝う。雨が止んだ午後、サクラの希望で、2人は渋谷に出かけて買い物をする。ハンバーガーショップに入ると、サクラは母親のこと、そして母親が死んだ日に病院に行ったことを話す。その日の深夜、サクラの父親とその恋人で家政婦の水谷が、サクラが猫がいなくなったと出かけたきり帰ってこないと慌てて訪ねてくる。

柳瀬は他にどうしてもやらなければならないことができたと渡に辞めることを伝え、学院を始めた訳を訊く。日が暮れた後、柳瀬の家に熊谷が訪ねてくる。2人は和解し、抱き合う。翌日、熊谷が出かけていった後、再びあの男が姿を現す。男と話す中で、柳瀬はなぜ父親が母親を殺したのか、その原因にたどり着く。柳瀬はサクラの家に行くがサクラはまだ帰っていなかった。柳瀬は父親にサクラの母親のことを訊き、音大でピアノを専攻していたこと、サクラがかつて将来を嘱望された指揮者の前川陽一郎に似ていること、前川が自殺した3日後に母親が自殺を図ったことなどを知る。柳瀬はサクラの部屋に飾られていた家族写真が撮られた教会に向かうと、猫を抱いたサクラがいた。サクラは、母親が死んだ日の夜のことを話す。サクラを家に送って電車に乗ると、窓ガラスにあの男が現れる。男はあなたを救えるのは私しかいないと柳瀬を誘うが、柳瀬はそれを断り、熊谷の部屋に向かう。

エピローグ

笠井が起訴され、保釈されたとの新聞記事を見た柳瀬は、笠井の家を訪ねる。サクラの近況を報告し、殺したのはその人のためだったのかと尋ねると、笠井は、たぶんその母親のためだったのだろう、あるいは自分のためだったかもしれないと語る。笠井の家を出た柳瀬は、会う約束をしているサクラのもとに向かう。

(ここまで)

 

柳瀬は、自分の波長を他の人の波長にシンクロさせ、その人の内面に溜まっている心の澱を引き出す特殊な能力を持っていますが、自在に制御することはできません。亡き父親が呪いと表現したように、それは必ずしもその人を救うものではなく、柳瀬がシンクロした、良二とその母親、ミカの父親、渡の4人は、柳瀬の前にしばしば現れる男の言葉によれば、いずれも、柳瀬によって解放されたものの、むしろ前よりひどい状態になってしまいます。その呪いを解く方法を見出だそうとしていく姿が、本作のメインストーリーになっています。最後は少し前向きな感じで終わりますが、多くの登場人物は、内に陰を抱え、救いがないままな感じで、もやもや感が残る作品でした。