鷺の停車場

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森絵都「カラフル」

森絵都さんの小説「カラフル」を読みました。

4年ほど前になりますが、本作を原作にした劇場版アニメをDVDで観ていました。

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最近になって、たまたま見かけたので、手にしてみました。

 

本作は、1998年7月に理論社から単行本として刊行された作品。2007年9月に文春文庫から文庫本化されています。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

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生前の罪により輪廻のサイクルから外されたぼくの魂が天使業界の抽選にあたり、再挑戦のチャンスを得た。自殺を図った少年、真(まこと)の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならないのだ。真として過ごすうち、ぼくは人の欠点や美点が見えてくるようになる……。老若男女に読み継がれる不朽の名作。 解説・阿川佐和子
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主な登場人物は、

  • ぼく:大きな過ちを犯して死んだ罪な魂。抽選に当たり、小林真の体を借りる「ホームステイ」をすることになる。

  • 小林真:服毒自殺をした中学3年生の少年。絵が達者で熱心な美術部員。背が低いことを気にしている。

  • 母親:フラメンコの先生と浮気していたことがあり、それを知った「ぼく」は生理的に嫌悪感を抱いている。

  • 父親:利己的な人間だと思っていたが、それなりに家族思いの父親。

  • 小林満:高校3年生の真の兄。

  • プラプラ:ガイド役を務める天使。時々現れては、事情などを説明してガイドする。

  • 桑原ひろか:生前の真が恋していた中学校の後輩の女の子。中年の男とラブホテルに入ったのを目撃したことが、真の服毒自殺のきっかけのひとつとなっていた。

  • 佐野唱子:真と同じクラスの髪の短いチビな女の子。同じ美術部員で、「ぼく」がホームステイした真を「以前の真じゃない」と、執念深くまとわりつく。

  • 早乙女:後に真と仲良くなるクラスメイト。
  • 沢田:真の担任教師。

というあたり。

本編は、プロローグと、数字が付された16節から構成されています。おおまかなあらすじを記すと、次のような感じです。

 

プロローグ

大きなあやまちを犯して死んだ「ぼく」の魂は、輪廻のサイクルから外され二度と生まれ変わることができないはずだったが、抽選に当たって、3日前に服毒自殺を図った少年・小林真の体を借りる「ホームステイ」をして、前世の記憶を取り戻してあやまちの大きさを自覚するまで過ごす再挑戦をすることになる。

気がつくと、「ぼく」は小林真だった。10分前にご臨終と宣告された真の蘇生に、家族たちは大喜びする。1週間の入院生活を経て退院して帰宅すると、プラプラが現れ、父親は利己的な人間、母親はつい最近まで不倫をしていた、といった真の家族の正体、そして、小林真の自殺に至った過程を教える。いい家族だとおもっていた「ぼく」は、全身の力が抜ける。

家族の正体を知った「ぼく」は、家族と距離を置き、自然と真の部屋にこもりがちにななったが、家族たちはそんな態度を不審がりもしない。そんな生活に飽きた「ぼく」は、5日目の金曜日、真の中学校に行ってみることにする。クラスのみんなは、以前とは変わった真の様子を不気味がる。放課後、真が楽しみに通っていたという美術部に顔を出し、真が描いていた青い絵に向かうと、桑原ひろかがやってきて声をかける。話しているうちに次第に興奮してくるが、佐野唱子が現れてすうっと興奮が冷める。

真にまとわりつき、催眠術、悪魔祓いと、次から次へと新説を投げかけてくる唱子を面倒くさくなった真は、避難するため美術室に通いつめるようになる。絵を描く楽しみを知り、絵の世界にひたっているときだけは、真の不運な境遇や孤独などを忘れる「ぼく」は、油絵に日増しに惹きつけられていく。その結果、試験の成績の悪さに、沢田から呼び出しを食らう。このままじゃ私立の単願くらいしかないと言われるが、高校はどこでもいいと思う「ぼく」は、私立の単願にする、と決めるが、沢田は両親とよく相談するよう諭す。

「ぼく」が「ホームステイ」に慣れたころ、11月下旬になって、父親から、満が医学部に入りたいと言い出して私立は厳しい、公立高校に行ってくれと突然言われて驚き、無気力になる。部屋に戻った後改めて説明に来た母親にカッときた「ぼく」は、浮気を知っていることをほのめかし、雨の中、外に出かける。プラプラが現れて抑えようとするが、「ぼく」は傷つくことも含めて桑原ひろかをもっと知りたいと思う。

プラプラにガイドされて桑原ひろかが中年男と会う現場にやってきた「ぼく」は、ひろかの手を取って男から逃げる。お金のためにセックスをするひろかの話を聞くうちに、正視するのが辛くなってくる。ひろかはお金もらったから契約は守らなきゃと男のもとに戻っていき、「ぼく」はひろかを見失う。

雨が降る中、傘も失い頭痛がひどくなってきた「ぼく」は、プラプラの警告も聞かずに公園のベンチに横たわり、意識を失うように寝てしまう。すると、真夜中、数人の男たちに傘で殴られ、2万8千円も出して買った新品のスニーカーや財布を盗まれてしまう。

救急病院に運ばれた「ぼく」は帰宅後も眠り続け、意識が戻っても頭痛と悪寒に悩まされ、5日間も寝たきりの生活を送るはめになる。5日目、唱子が見舞いにやってくる。部屋に迎い入れると、唱子は、あの日、真とひろかが一緒にいるのを目撃した人がいる、ひろかへの恋が真を変えたのではないか、きっぱりあきらめようと思ってきたと話す。かつての真を美化している唱子に怒りを感じた「ぼく」は、真だってふつうの人間で、性欲もあると唱子に迫ると、唱子は逃げ帰る。その様子を聞いていた母親は、真に手紙を書いて渡す。

その手紙は、母親の本心を告白するものだったが、肝心のところはぼかされていた。それを読んだ「ぼく」は自分にいらだちを感じ、それを母親にぶつけてしまう。

久しぶりに学校に行き始めた「ぼく」は、クラスメイトの反応が変わってきたことを感じる。成績もどっこいどっこいだった早乙女と仲良くなり、一緒に受験勉強をするようになる。絵の世界から遠ざかり勉強を続ける「ぼく」は、だんだんとモノクロでうつろな気分になっていく。そんなとき、父親に誘われて、渓流に出かけることになる。

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12月上旬の日曜日、「ぼく」は父親の運転する車で渓流に行き、久しぶりにスケッチを始めると、すっかり夢中になる。父親と話をするうちに、仮面夫婦だと思っていた2人がそうではないこと、利己的だと聞かされていた父親もそうではないことがわかり、とりかえしのつかない誤解をしたまま死んだ真を思い、「ぼく」は孤独を感じる。

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渓流からの帰り、高速道路で大渋滞にはまった車内で、「ぼく」は、満が医学部に行きたいと言い出したのは、真が一命を取りとめた直後のことだと聞かされる。帰宅した後、満にそのことを聞くと、あのとき人の命を預かる医者の仕事を間近に見てちょっと感動したと語る。その夜、とりかえしのつかないものの数、ホストファミリーをだましている罪悪感などで、「ぼく」はなかなか眠れず、涙を流す。

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「ぼく」の中にあった小林家のイメージは少しずつ色合いを変えていく。「ぼく」は少しずつホストファミリーとなじんでいくが、母親の不倫に対する生理的な嫌悪感だけは障害として残っていた。三者面談の時期を迎えた頃、「ぼく」が美術室に行くと、青い絵が乗るイーゼルの前で、油絵の具を持ったひろかが憎しみを宿す瞳で立っていた。「ぼく」がその絵はひろかの好きにしていい、と声をかけると、ひろえは泣き出し、思いのたけを打ち明けるが、泣き止むといつもの調子になって帰っていく。沢田に言われて美術部の顧問の天野先生を職員室に訪ねると、天野先生は思いがけないものを渡す。

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それは美術の専科を備えた私立高校の資料だった。家に帰ると、両親はその高校を勧め、満もそれを後押しする。「ぼく」の心は揺れるが、はじめての友達となった早乙女くんといっしょの高校に行こうと約束した、絵は好きで描いているだけで、まだそっちの方向に進もうと考えているわけじゃない、と思いを打ち明け、公立高校ねらいですべりどめの私立も受けるということで話が落ち着く。ホストファミリーとの関係が好転するにつれ、うしろめたい気持ちにかられる「ぼく」は、現れたプラプラに、真にあの人たちを返してやりたいとお願いすると、プラプラは、そのためには前世のあやまちを思い出さなければならない、24時間以内に思い出せばボスにとりついでやると話す。

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思い出すヒントを探す「ぼく」は、部屋、そして家の中をくまなく観察するが、きっかけは見つからない。学校に行き、早乙女には真が戻ったときに備えてひそかに根回しをし、ヒントを探し回る。最後に美術室に行くと、雷鳴が轟く中、唱子が暗い部屋で木炭デッサンをしていた。あの日以来、まともに顔を合わせていなかった唱子は「ぼく」に、絵に打ち込む真は自分だけの世界を持っているとうらやましく思って同じ美術部に入ったことなど、真への思いを打ち明け、今の小林くんも悪くないと思うよ、と話す。そのとき、「ぼく」はすっかり思い出し、瞳に映るものはあざやかな光彩を放ちはじめる。

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現れたプラプラに、「ぼく」は、自分が自殺した真の魂だとプラプラに答えると、プラプラは「ピンポーン!」と叫ぶ。

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その瞬間、天と地の闇が一瞬のうちに光に変わり、「ぼく」はまぶしさで目をまわし、記憶の波が押し寄せる。プラプラは「ホームステイ」の真相を「ぼく」に話すが、「ぼく」は、他人事ではなく、小林真として生きていくことに不安を覚えるが、プラプラはそれを励まし、「ぼく」を下界に送り出す。

 

(ここまで)

 

真の身体に「ホームステイ」で他人事として生きる「ぼく」は、醒めた目で周囲と接しますが、醒めた目だからこそ、周囲の人々の欠点や美点が次第に見えてきて、それによって「ぼく」はうしろめたい気持ちになり、周囲の人々の思いを真に知らせてあげたかったと思うようになっていきます。そうして、真が生前には気にも留めていなかった唱子の言葉によって、「ぼく」は自分の罪を思い出すことになります。

全体に軽妙な語り口で描かれていきますが(アニメ映画版は、もっとシリアスな雰囲気だったような記憶があります)、心に刺さるシーンもあり、最後は爽やかな余韻が残る作品でした。