河野裕さんの小説「きみの世界に、青が鳴る」を読みました。
「夜空の呪いに色はない」に続く階段島シリーズの第6弾で完結編、2018年3月に刊行された作品。
文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。
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真辺由宇。その、まっすぐな瞳。まるで群青色の空に輝くピストルスターのような圧倒的な光。僕の信仰。この物語は、彼女に出会ったときから始まった。階段島での日々も。堀との思い出も。相原大地という少年を巡る出来事も。それが行き着く先は、僕と彼女の物語だ。だから今、選ばなければならない。成長するとは、大人になるとは、何なのかを。心を穿つ青春ミステリ、堂々完結。
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作品は、3章とプロローグ・エピローグから構成されています。各章のおおまかなあらすじを紹介します。
プロローグ
真辺由宇の涙についてすべてを知りたいと考えたのは、大人になりたいと相原大地が流した涙を見たからだった。堀は、これから子供を大人にするものを探そうと優しく声をかけ、大地は頷く。
一話、彼女は絶望と手をつなぐ
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4月2日、真辺由宇は時任から魔法を貸し与えられた安達の魔法の世界で、大地を幸せにするためシミュレーションを繰り返すが、何度やってもうまくいかず、そのたびに真辺は涙する。七草は、安達のことを尋ねていた堀から、安達は友達だと思い出を書き記した手紙が届く。一方の安達は、真辺に絶望を教えるために手を組もうと七草に提案する。
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4月3日、学校の屋上で、七草は100万回生きた猫に堀を優しく守り、手を貸してほしいと頼む。その後、階段を下りながら、七草は真辺と堀のことを考える。
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七草は待ち合わせた堀と会う。堀は、私はもっと魔法を好きになりたい、わがままに、貴方を好きな魔女になる、と告白する。その後にやってきた真辺と3人で、時任が作った魔法の世界にいる大地の両親に会いに行く。
4
まず母親の相原美絵に会った3人は、現実の世界の美絵と会えるよう時任と話をしてもらうことにし、階段島の大地と会ってくれるよう頼む。その後喫茶店に大地の父親に当たる三島という男に安達と会った七草は、大地に会って、父親を演じてほしいと頼む。
5
階段島の寮に戻った七草は、大地にお母さんに会いたいかと尋ねる。大地はわからないと答えるが、七草は大地に一緒に出掛けようと誘う。
二話、優しい魔女の魔法のすべて
1
4月4日の日曜日、大地を連れて寮を出た七草は、港から小さい船に乗って、大地の母親と父親が暮らす場所に向かう。
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船が着くと、真辺が待っていた。3人は美絵の家で美絵と三島に会う。三島は大地に、君は幸せだ、不幸だと錯覚してしまうだけ、お母さんのことを忘れるだけで君の人生は豊かになると語る。大地が美絵と話す間外に出た七草は、真辺に大地を現実に返すと話す。
3
その夜も悲劇が繰り返される真辺のシミュレーションを見届けた七草は、灯台で目を覚まし、堀と七草が堀に宛てて書いた手紙について話す。
4
新学期に入り、七草は新聞部の活動をし、夕方に両親に会いに行った大地を迎えに港に行く日々を過ごしていたが、4月14日になって、両親と会う幸せに罪悪感を感じる大地は、現実の母親に会いたいと話す。
5
七草は、大地を現実に戻して、魔法の世界の両親に定期船を出してもらうよう、時任を説得する。
6
4月16日の夜中、七草は大地を連れて寮を出る。大地が寮の管理人・ハルに別れの挨拶をするために一度戻ると、堀が姿を見せる。七草は純粋だと言う堀に、君は僕の理想の魔女だと話す。堀は、子供の僕を捨てたいと言う大地の願いを聞いて、大地から半分を引き抜いていた。七草が大地を連れて階段を上がると、半分ずつの大地は出会い、現実の世界に帰っていく。
7
七草が階段を下りると、階段の下に真辺が待っていた。今の大地が堀の魔法の全てだ、という七草の言葉を否定する真辺。じゃあいつまでだって話をしようと七草が言うと真辺は、大好き、と唐突に言う。僕もだ、と返す七草に、真辺との最初の思い出が蘇る。
三話、失くしものはみつかりましたか?
1 真辺
七草は安達を呼び、真辺のために魔法を使うと、真辺は幼いころ七草と何度も通った公園に立っていた。
2 七草
真辺は、安達が作った魔法の世界で大地を幸せにするためのシミュレーションを繰り返す。一緒に長い時間を過ごす中で、七草は堀のことを、また自分は何を捨てたのか考える。奇跡のようにちょっとした幸せが起きるが、真辺は満足せず先に進んでいく。七草は、真辺の絶望を作ろうとして、安達と手を組んだのだった。
3 真辺
世界がブラックアウトして、真辺は再び公園に戻る。七草は、現実に影響を与えるには魔法の世界から外に出なければいけない、理想を追い続ける限りけっして現実と繋がれないが、理想を諦めれば自分で魔法を否定することになると言うが、真辺は、君が隣にいれば間違いを説明してくれる、私の絶望は君がいなくなることだけ、と語る。
4 七草
真辺の言葉に、七草は中学生の真辺と別れたときのことを思い出す。じゃあ真辺、と話し出すと、僕が消えよう、君の絶望のために、と言葉が出る。どちらかの魔女に言わされたと直感する七草。目を開くと、堀と安達がいる灯台の中だった。連れ戻したのは私だと言う堀は、失くしものはみつかりましたか?と話す。その言葉で不意に打たれた七草は、みつかったよ、と答え、一緒に真辺を助けに行こうと言う。
5 ふたり
階段を上る七草に、階段島での記憶が去来する。さらに上ると時任がいた。何度も真辺の魔法を止めようと思ったと言う時任に七草は、貴女より僕たちの方が幸せ、と言う。一方、真辺がいる公園に現れた堀は、そろそろ終わりにしませんか、と声をかけ、貴女は大地と同じように救われるべきものにみえると話す。真辺は、堀の魔法の価値が初めてわかったと言うが、諦めず前に進もうとする。階段に戻った堀は七草に、魔女になったら手伝ってほしいと話し、下りていく。七草は、階段に座りこんでシミュレーションの世界を見ている真辺に声をかけ、その魔法を終わらせる。
6 七草
目覚めた真辺に七草は、僕が魔法を終わらせた、僕たちができることを探せばいいと話す。真辺は、君との思い出だけできっとどこまでだっていける、でも、できるならいつまでも隣にいてほしいと語る。
エピローグ
それから2年ほど経って、真辺は階段島から突然姿を消した。さらに5年ほど経って、七草は現実の世界の自分に会う。大地の16歳の誕生日だと言う彼は、市役所に勤め、指には銀色の指輪をはめていた。真辺に会いたくないか尋ねる彼に七草は、会いたくなったら、どこにいたとしても、こっちから会いに行くよ、と答え、別れる。
(ここまで)
理想を諦めず追い続ける真辺を信仰し、魔女としての堀を好きな七草が、大地の幸せを追い求める真辺に向き合う中で、「失くしもの」を見つけ、前に進んでいくというストーリーなのですが、最後まで謎の多い物語でした。「失くしもの」が具体的に何なのかといった、物語の中で鍵となることは、明確には描かれず、周辺の心情描写で間接的に描かれる形。全編を通じて、ミステリアスな雰囲気は魅力的だったのですが、私の感受性が乏しいのかもしれませんが、最後まで読んでも、やはり消化不良感が残りました。