鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

映画「すばらしき世界」

再び週末にMOVIX柏の葉に行きました。

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週末の午後ですが、緊急事態宣言下というのが大きいのでしょう、まだ人はまばらです。

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この日の上映スケジュール。引き続き20時までに上映が終了するスケジュールになっていました。

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この日観に来たたのは、「すばらしき世界」(2月11日(木)公開)。

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上映は470+3人、この映画館では最大のシアター10。「花束みたいな恋をした」、「ファーストラブ」など、全国での興行成績がより上位の作品も上映しているのに、この作品を最大スクリーンということは、この館では公開初週だった前週末の入りが良かったということなのでしょう。この日のお客さんは4~50人ほどでした。

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刑期を終えた元殺人犯の出所後の日々を描いた佐木隆三の小説「身分帳」を基に、舞台を約35年後の現代に、西川美和の脚本・監督で映画化した作品。


公式サイトのストーリーによれば、

 

 冬の旭川刑務所でひとりの受刑者が刑期を終えた。
 刑務官に見送られてバスに乗ったその男、三上正夫(役所広司)は上京し、身元引受人の弁護士、庄司(橋爪功)とその妻、敦子(梶芽衣子)に迎えられる。
 その頃、テレビの制作会社を辞めたばかりで小説家を志す青年、津乃田(仲野太賀)のもとに、やり手のTVプロデューサー、吉澤(長澤まさみ)から仕事の依頼が届いていた。取材対象は三上。吉澤は前科者の三上が心を入れ替えて社会に復帰し、生き別れた母親と涙ながらに再会するというストーリーを思い描き、感動のドキュメンタリー番組に仕立てたいと考えていた。生活が苦しい津乃田はその依頼を請け負う。しかし、この取材には大きな問題があった。
 三上はまぎれもない“元殺人犯”なのだ。津乃田は表紙に“身分帳”と書かれたノートに目を通した。身分帳とは、刑務所の受刑者の経歴を事細かに記した個人台帳のようなもの。三上が自分の身分帳を書き写したそのノートには、彼の生い立ちや犯罪歴などが几帳面な文字でびっしりと綴られていた。人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上の壮絶な過去に、津乃田は嫌な寒気を覚えた。
 後日、津乃田は三上のもとへと訪れる。戦々恐々としていた津乃田だったのだが、元殺人犯らしからぬ人懐こい笑みを浮かべる三上に温かく迎え入れられたことに戸惑いながらも、取材依頼を打診する。三上は取材を受ける代わりに、人捜しの番組で消息不明の母親を見つけてもらうことを望んでいた。
 下町のおんぼろアパートの2階角部屋で、今度こそカタギになると胸に誓った三上の新生活がスタートした。ところが職探しはままならず、ケースワーカーの井口(北村有起哉)や津乃田の助言を受けた三上は、運転手になろうと思い立つ。しかし、服役中に失効した免許証をゼロから取り直さなくてはならないと女性警察官からすげなく告げられ、激高して声を荒げてしまう。
 さらにスーパーマーケットへ買い出しに出かけた三上は、店長の松本(六角精児)から万引きの疑いをかけられ、またも怒りの感情を制御できない悪癖が頭をもたげる。ただ、三上の人間味にもほのかに気付いた松本は一転して、車の免許を取れば仕事を紹介すると三上の背中を押す。やる気満々で教習所に通い始める三上だったが、その運転ぶりは指導教官が呆れるほど荒っぽいものだった。
 その夜、津乃田と吉澤が三上を焼き肉屋へ連れ出す。教習所に通い続ける金もないと嘆く三上に、吉澤が番組の意義を説く。「三上さんが壁にぶつかったり、トラップにかかりながらも更生していく姿を全国放送で流したら、視聴者には新鮮な発見や感動があると思うんです。社会のレールから外れた人が、今ほど生きづらい世の中はないから」。その帰り道、衝撃的な事件が起こる・・・。

 

というあらすじ。

上記のストーリーの中で紹介されている以外のキャストとしては、

  • 三上が殺人を犯した後に離婚し、今は再婚している元妻・久美子:安田成美
  • 三上と兄弟分の下稲葉組の組長:白竜
  • 組長の妻・マス子:キムラ緑子

など 。

 

弱者への優しい目を持つが、根は直情的な三上が、かたぎとして生きていこうとする姿を描いています。元受刑者が社会復帰に苦労する姿が丁寧に描かれ、いろいろと考えさせられるいい映画でした。

厄介者を排除しようとするこの社会で生きていくためには、三上は沸き起こる怒りを抑えなければならない。我慢しきれず激高するシーンもあり、それが、帰宅時の会社員にからむチンピラを叩きのめす、上記のストーリーにある「衝撃的な事件」を起こすことになります。
その直後、一度はかたぎで生きることに嫌気が差し、兄弟分の組長に電話を掛けた三上は、その誘いで九州に向かい、ひと時穏やかな日々を過ごしますが、その組にも警察の捜査が入ってしまいます。組長の妻はかたぎの世界を諦めないよう諭して餞別を渡し、三上を逃がします。
そんな時、津乃田から、三上が育った児童養護施設で母親のことを調べてくれることになったと連絡が入り、三上は津乃田とその施設を訪れます。当時の書類は既に焼却されていたことが分かり、母親の情報は得られませんが、三上は施設で暮らす子供たちとサッカーで遊び、涙します。
東京に戻った三上は、井口の勧めで、老人養護施設で働くことになります。働きながら自動車教習所に通う日々が始まり、庄司夫妻や松本、津乃田たちにも就職を祝福され、安定した生活が始まるかと思われたある日、施設で、一緒に働く知的障害者を陰でいじめるスタッフを見つけ、叩きのめしたい衝動を必死で抑えます。その直後、他のスタッフと仕事をする三上のところにそのスタッフもやってきて、その知的障害者スマホゲームに夢中なあまり、お風呂に入れていた老人が溺れそうになったこと、受け入れると補助金がもらえるのでこの施設には前科者や知的障害者が多いが、働きぶりが悪いと見下した言い方で愚痴ります。三上は、一瞬攻撃的な衝動を覚えますが、それを抑えて愛想笑いを浮かべ、やり過ごします。
その帰り、その知的障害者から、摘んだ花をもらってアパートに向かう三上に、元妻の久美子から電話が入ります。当時のアルバムも残っている、今度(子どもも一緒だが)デートしようと誘う久美子の声に、暖かい気持ちになって帰宅した三上ですが、洗濯物を取り込んだところで倒れ、そのまま命を失ってしまいます。

 

善良な市民がリンチに遭っていても見過ごすのがご立派な人生ですか?、との三上の投げかけは、見ている我々に向けられたものでもあります。三上の社会復帰を後押しする庄司たちは、本当に必要なもの以外は切り捨てないと自分の身は守れない、逃げるのは敗北じゃない、と社会で生きていくために諭し、その思いを受け止めた三上は、沸き上がる怒りを必死に抑えます。これは、一度は組長のもとに身を寄せるも、ヤクザの世界も昔と違って生きにくくなっていることを実感したこともあるのだと思います。社会で生きていくためには必要な現実的な知恵・スキルですが、それが三上の寿命を縮めたことも確かでしょう。

役所広司の演技はさすがで、次第に三上と親しくなっていく津乃田を演じた仲野太賀もいい演技でした。

ところで、自分の母親が本当に自分を思ってくれていたのか、おそらくずっと心の片隅で疑問に思っていたであろう三上には、兄弟分の組長のところに身を寄せたときの、宮城県出身で震災後にこの仕事を始めたというソープ嬢が、自分が産んだ子どもを迎えに行って一緒に暮らしたいと語る言葉は、おそらく大きく響いたのではないかと思います。このシーン、時間的にはほんのちょっとですが、個人的にはとても印象的でした。ソープ嬢のキャストは公式サイトには情報がないので、ネットで調べてみると、桜木梨奈さんという女優でした。