鷺の停車場

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米澤穂信「クドリャフカの順番」

米澤穂信さんの小説「クドリャフカの順番」を読んでみました。 その紹介と感想です。

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)

  • 作者:米澤 穂信
  • 発売日: 2008/05/23
  • メディア: 文庫
 

テレビアニメ「氷菓」の原作となる〈古典部〉シリーズの第3作、第2作の「愚者のエンドロール」に続いて、読んでみました。

表紙には「Welcome to KANYA FESTA!」という副題?が付いており、背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

【待望の文化祭が始まった。だが折木奉太郎が所属する古典部で大問題が発生。手違いで文集「氷菓」を作りすぎたのだ。部員が頭を抱えるそのとき、学内では奇妙な連続盗難事件が起きていた。盗まれたものは碁石、タロットカード、水鉄砲―—。この事件を解決して古典部知名度を上げよう! 目指すは文集の完売だ‼ 盛り上がる仲間たちに後押しされて、奉太郎は事件の謎に挑むはめに……。大人気〈古典部〉シリーズ第3弾!】

 

作品は、次の6章で構成されています。ネタバレになりますが、おおまかなあらすじを紹介します。

本作では、全体を通じて、古典部の4人による独白という形式になっていて、時系列順に番号が振られています。誰の話なのかはトランプのマークで示されています。♤スペードが折木奉太郎、♧クローバーが福部里志、♡ハートが千反田える、♢ダイヤが伊原摩耶花を表しています。 

1 眠れない夜

001~004。古典部の4人のそれぞれによる、翌日から本番を迎える文化祭を前にした独白、という形の導入部。テレビアニメ版「氷菓」の第12話「限りなく積まれた例のあれ」のオープニングに対応する部分です。

2 限りなく積まれた例のあれ

2-1 005~012 古典部に何が起こったか

文化祭で販売する古典部の文集「氷菓」、事前の打ち合わせでは30部を印刷するはずだったが、伊原の注文の手違いで200部が積み上がってしまう。そして文化祭が始まる。千反田は総務委員長の田名部に古典部の売り場を増やしてほしいとお願いし、断られてしまうが、他の部活の売り場に置かせてもらうことなら関知しない、とアドバイスを受ける。

2-2 013~019 クイズトライアル

文化祭の1日目、古典部を宣伝するために、里志はクイズ研究会主催のクイズトライアルに出場し、千反田は壁新聞部に記事にしてもらうよう頼むが、いい返事はもらえない。その帰り、占い研究会の十文字かほに呼び止められた千反田は、タロットカードの運命の輪(ホイール・オブ・フォーチュン)がなくなって「十文字」を名乗る犯行声明のようなカードが置いてあったと聞かされる。静かに、事件が起き始めていた。

2-3 020~022 もう一つの嵐

伊原は所属している漫画研究会で漫画評論を否定する河内先輩と口論になってしまい、前年の文化祭で買って気に入った「夕べには骸に」を見せると宣言することになってしまう。

古典部に何が起こったか」はテレビアニメ版「氷菓」の第12話「限りなく積まれた例のあれ」に、「クイズトライアル」、「もう一つの嵐」は第13話「夕べには骸に」に対応する部分です。

3 「十文字」事件

3-1 023~028 朝の風景

文化祭の2日目、伊原は「夕べには骸に」が見つからず、気まずい気分で登校するが、河内先輩はそれを深く責めず、伊原は漫研のポスター描きを手伝うことになる。千反田は映画上映が人気を博している2年F組の入須冬実を訪れて「氷菓」の販売を依頼し、頼み方のコツを教えてもらう。

3-2 029~036 ワイルドファイア

千反田、里志、伊原の3人はお料理研究会のイベント「ワイルドファイア」に出場し、奉太郎のサポートもあって優勝する。しかし、その会場から、なぜか「おたま」がなくなっており、「十文字」を名乗る犯行声明カードが残されていた。

3-3 034~043 「十文字」事件

奪われたサークルが、アカペラ部、囲碁部、占い研、園芸部、お料理研と五十音順であることに気付いた奉太郎たちは、「十文字」という名から、最後は「コ」で、古典部を売り込むチャンスと考える。里志は、店番で動けない奉太郎ではなく、自分が謎を解こうと動き出す。一方、伊原は、漫研の湯浅部長から、「夕べには骸に」の原作者は河内先輩の友達だった安城春奈だが、転校してもうこの学校にはいないと聞かされる。そして、さらに、壁新聞部でカッターナイフが、奇術部でキャンドルがなくなったところで、文化祭の2日目が終わる。

「朝の風景」、「ワイルドファイア」はテレビアニメ版「氷菓」の第14話「ワイルド・ファイア」に、「「十文字」事件」は第15話「十文字事件」に対応する部分です。

4 再び、眠れない夜

044~047。文化祭の最終日を前にした夜、古典部の4人それぞれの独白。テレビアニメ版「氷菓」の第15話「十文字事件」のエンディングに対応する部分です。

5 クドリャフカの順番

5-1 048~059 四人四色文化祭

文化祭の最終日である3日目、「十文字」の犯行は壁新聞部の新聞にも取り上げられる。里志は、次のターゲットはグローバルアクトクラブとにらんでその会場に張り込むが、そこに軽音楽部で弦がやられたと知らされる。奉太郎は、古典部の店番をしながら、謎について考えをめぐらせるが、ちょっと席を外していた間に、姉の供恵がやってきて「夕べには骸に」を置いていく。その作者は安心院鐸波(あじむ たくは)というペンネームで、あとがきには次回作のタイトル予告は「クドリャフカの順番」と書かれていた。一方、千反田は、放送部の部長と会い、昼の放送にゲスト出演することになる。そして、「夕べには骸に」の作画が文化祭ポスターを描いた生徒会長の陸山(くがやま)宗芳であることに気付く。

5-2 061~062 「十文字」VS古典部

昼の校内放送にゲスト出演した千反田は、「十文字」を挑発しつつ、古典部を宣伝する。宣伝のかいもあって、午後になると古典部は活況を呈し、「氷菓」は次々と売れていくが、その目前で、古典部が「十文字」のターゲットとして用意していた校了原稿が突然燃え出し、「十文字」の犯行声明カードが出てくる。

5-3 063~065 幕を下ろせ

3日間の文化祭も幕を下ろそうとしていた。里志や千反田は過ぎ去った文化祭を振り返り、伊原は河内先輩に「夕べには骸に」を見せ、河内先輩が安城春奈に抱いている複雑な思いを聞かされる。

5-4 060 舞台の裏

時間はさかのぼって3日目の正午、奉太郎は、謎の真相にたどり着き、「十文字」の正体とある交渉をしていた。 

「四人四色文化祭」は、テレビアニメ版「氷菓」の第16話「最後の標的」に、「「十文字」VS古典部」、「幕を下ろせ」、「舞台の裏」は、第17話「クドリャフカの順番」に対応するの部分です。

6 そして打ち上げへ

066。エピローグ。「十文字」騒動のおかげもあって、何とか「氷菓」をほぼ完売することができた古典部の4人は、千反田の家で打ち上げを行うことにする。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第17話「クドリャフカの順番」のエンディングに対応する部分になっています。 

(ここまで)

 

前作までのように、奉太郎の視点だけから描かれるのではなく、里志、千反田、伊原の視点も交えて多視点で描かれるのは、文化祭という祝祭イベントを作品の主役とするに当たり、技術的側面だけでなく、物語の側からも要求されたものだと、あとがきに記されています。

これまでの作品では、基本的には、古典部の4人の部員が揃った場面で物語の本筋が進んでいく印象でしたが、文化祭という場の設定から、基本的に4人はバラバラに行動する中で、事件が起きて進行していき、古典部の部室で店番をしている奉太郎が、それらの情報を総合して、謎を解き明かしていく、ということなので、これは奉太郎の視点のみからいきいきと描くことは、確かに無理だろうと思います。奉太郎の姉の供恵が「夕べには骸に」を持っていて、奉太郎に渡すというところだけは、都合がいい展開という感じもありましたが、それを除けば、鮮やかな描写・展開で、個人的には前作よりも面白く感じました。