鷺の停車場

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米澤穂信「氷菓」

米澤穂信さんの小説「氷菓」を読んでみました。 その紹介と感想です。

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

 

以前に、ネット配信で、京都アニメーション制作のテレビアニメ「氷菓」を見ていました。その原作となる〈古典部〉シリーズの第1作ということで、手に取ってみた作品。著者の米澤穂信さんのデビュー作でもあるようです。

表紙には「The niece of time」との副題?がついていて、背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

【いつのまにか密室になった教室。毎週必ず借り出される本。あるはずの文集をないと言い張る少年。そして『氷菓』という題名の文集に秘められた33年前の真実―—。何事にも積極的には関わろうとしない“省エネ”少年・折木奉太郎は、なりゆきで入部した古典部の仲間に依頼され、日常に潜む不思議な謎を次々と解き明かしていくことに。爽やかで、ちょっぴりほろ苦い青春ミステリ、〈古典部〉シリーズ開幕! 記念碑的デビュー作!!】

 

主要な登場人物である古典部のメンバーは、いずれも神山高校の1年生である次の4人。

  • 折木 奉太郎:本作の主人公。神山高校に入学した1年生。姉・供恵の命で古典部に入ることになる。省エネ主義者。
  • 千反田 える:同じく神山高校の1年生で、豪農の千反田家の一人娘で成績優秀。「一身上の都合」で古典部に入り、部長になる。
  • 福部 里志:奉太郎の親友で、手芸部に入っていたが、彼につられて古典部にも入部する。
  • 伊原 摩耶花 :奉太郎とは小・中学校の9年間同じクラスだった腐れ縁の仲。里志に想いを寄せており、漫研に入っているが、里志を追って古典部にも入部する。

作品は、次の9章で構成されています。ネタバレになりますが、おおまかなあらすじを紹介します。

一 ベナレスからの手紙

プロローグ。自分が青春を過ごした古典部の廃部を避けるため、神山高校に入学する奉太郎に古典部に入るよう命ずる、海外旅行先からの姉・供恵からの手紙。

二 伝統ある古典部の再生

神山高校に入学した奉太郎は、放課後、古典部の部室となっている地学講義室の鍵を開けて入ると、女子生徒が既にいた。彼女は一身上の都合で入部したという千反田えるだった。そこに里志もやってくる。3人は、鍵を持っていない千反田が部屋に入れて、奉太郎が来た時には鍵がかかっていたことに気付く。千反田の強い求めを拒めない奉太郎は、その謎を解く。千反田の誘いに、里志も古典部に入部する。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第1話「伝統ある古典部の再生」の前半部分の原作となっています。

三 名誉ある古典部の活動

千反田の提案で、古典部は10月の文化祭で伝統の文集を作ることにする。過去の文集を探しに図書室を訪れた奉太郎と千反田は、図書委員の伊原から文化祭が生徒たちから俗に「カンヤ祭」と呼ばれていると知り、そして、毎週金曜日に同じ大判の本が昼休みに貸し出され、放課後に返却されている謎を聞かされる。奉太郎は、千反田の求めでその謎を解く。司書の糸魚川養子が戻ってくるが、古典部の文集は書庫にはないと知らされる。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第2話「名誉ある古典部の活動」の原作となっています。

四 事情ある古典部の末裔

ある日曜日に千反田に呼び出された奉太郎は、7年前に行方不明になった伯父の関谷純が30年前の神山高校で古典部にいたこと、幼稚園児の頃、千反田が古典部について何か尋ねたとき、伯父が答えを渋り、駄々をこねて答えを聞いて千反田が大泣きしてしまったことを聞き、その時に聞いたことを思い出したい、手助けしてほしいと頼まれる。気が進まない奉太郎だったが、千反田を手伝うことにする。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第3話「事情ある古典部の末裔」(前半部分)の原作になっています。

五 由緒ある古典部の封印

一学期の期末試験が終わる頃、旅行先のイスタンブールから姉・供恵の手紙が届く。そこには、古典部は文化祭で毎年文集を作っていたこと、バックナンバーは図書室にはなく、部室の使われていない薬品金庫の中にあると書かれていた。しかし部室には薬品金庫はない。姉が在籍していたときに部室だった生物講義室に行くと、ドアが開かない。しばらくして内部からドアが開けられ、壁新聞部の遠垣内が姿を現す。薬品金庫は見つからないが、捜索を嫌がる遠垣内に何か気付いた奉太郎は、文集が見つかったら地学講義室に置いておいてほしいと告げて立ち去る。古典部のメンバーが部室に戻ると、文集のバックナンバーが置いてあった。奉太郎はその真相をメンバーに話す。文集は『氷菓』というタイトルで、32年前の第二号の序文には、郡山養子の名で、関谷先輩が去って1年になる、この1年で先輩が英雄から伝説になったと記されていた。里志を追って古典部に入部した伊原は、創刊号だけ欠けていることに気付く。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第3話「事情ある古典部の末裔」(後半部分)の原作になっています。

六 栄光ある古典部の昔日

古典部は、33年前の神山高校で古典部に、千反田の伯父の関谷に何が起こったのかを調べ、それをネタに文集を作ることにする。千反田の家に集まって互いの推理を出し合う検討会を開く部員たち。それぞれが集めた資料を総合すると、事件が起きたのは6月で、関谷が去ったのが10月であること、文化祭について教師側と生徒側で話し合いが持たれたことなどがわかり、奉太郎は5日間の文化祭の期間を短縮しようとする学校側に生徒側が抵抗し、文化祭縮小を断念させるが、その代償として関谷が退学になったのではないかと推測する。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第4話「栄光ある古典部の昔日」の原作になっています。

七 歴史ある古典部の真実

検討会から帰ってきた奉太郎に、ユーゴスラビアに入った姉・供恵から電話がかかってくる。文集を作っていること、関谷純のことを調べていると奉太郎が話すと、供恵は、懐かしい名前ね、じゃあ、まだカンヤ祭は禁句なの?あれも悲劇よね、と気になることを口にし、一方的に電話を切る。供恵の言葉に、集めた資料を再検討する奉太郎は、翌日、部員たちを集め、図書室の糸魚川先生に話を聞きに行く。糸魚川先生は、2年生のときに古典部の部長を務めた郡山養子だった。奉太郎の推理を聞いた糸魚川先生は、ほとんど事実通りだと言い、奉太郎の求めで、33年前に起こったことを話す。そして、千反田は、かつて伯父から聞いた答えを思い出す。

本章は、テレビアニメ版「氷菓」の第5話「歴史ある古典部の真実」の原作になっています。

八 未来ある古典部の日々

後日談的なエピソード。文化祭が目前に迫り、部室で里志は伊原に急かされながら原稿用紙に向かっていた。千反田は、自分が協力し奉太郎が書いた33年前の事件を追った原稿を持って、行方不明で死亡宣告された関谷純の墓参りに行っていた。奉太郎が帰ろうとすると、上気した千反田が飛び込んでくる。それは、いつもの千反田の好奇心の爆発の兆候だった・・・

九 サラエヴォへの手紙

エピローグ。奉太郎が姉・供恵に書いた、古典部のことをどこまで知っていたのか、どういうつもりで自分を古典部に入らせたのかを尋ねる手紙。

(ここまで)

 

神山高校のちょっと謎な部活である古典部を舞台に、日常生活でばったり出会う、事件とも言えないくらい(千反田えるの伯父・関谷純の退学をめぐる謎はある種の事件ですが…)の小さな謎を、好奇心旺盛な千反田えるの求めを拒めない折木奉太郎が解いていく、という青春・日常系ミステリー。学校を舞台にした学園ミステリーや青春ミステリー、日常の謎をテーマにした日常系ミステリーは、それぞれ従来からあるジャンルなのでしょうけど、その両者を掛け合わせて、影もありつつ、爽やかな青春小説にしたところに、本作の新しさ・魅力があるのでしょう。

以前に見たアニメの印象が強く残っているので、そのイメージを無意識に投影しながら読んでいたように思うのですが、アニメとの相違で違和感を感じることはありませんでした。アニメがこの原作にかなり忠実に沿って作られていたということだろうと思います。

著者のあとがきによれば、4割くらいは実際にあった出来事を基にしていて、それは作中で都合よく進んでいるように映る部分なのだそう。文化祭に文集を作る以外には目立った活動をしていない「古典部」という部活自体がそもそも謎な設定ですが、どこかの高校には、実際にそういう部活がある(あった)のでしょうか。