鷺の停車場

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初野晴「ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外編」

初野晴さんの小説「ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外編」を読みました。 その紹介と感想です。

ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇 (角川文庫)

ひとり吹奏楽部 ハルチカ番外篇 (角川文庫)

  • 作者:初野 晴
  • 発売日: 2017/02/25
  • メディア: 文庫
 

副題にあるとおり、テレビアニメ「ハルチカハルタとチカは青春する~」の原作となる〈ハルチカ〉シリーズの番外編となる短編集。

文庫本の背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。

【マレンと成島の夢は、穂村と上条の夢を叶えることだ――。部を引退した片桐元部長から告げられ、来年のコンクールへの決意を新たにする芹澤直子。ギクシャクした関係を続けるカイユと後藤朱里。部の垣根を越えてある事件を解決するマレンと名越。そして部のまとめ役の成島美代子……。清水南高校吹奏楽部に運命的に集まった個性的なメンバー。その知られざる青春と日常の謎を描く、大人気シリーズ書き下ろし番外編!】

 

作品は、次の5編から構成されています。各編のおおまかなあらすじを紹介します。

ポチ犯科帳 ー檜山界雄×後藤朱里ー

カイユこと檜山界雄は下校途中に家のお寺の檀家で犬を何匹も連れたおばさんに出会う。そのうちの1匹、平蔵は、普段はおとなしいのに、吠えたり唸ったりするようになったという。

1.翌日の放課後、カイユがティンパニのチューニングをしていると、バストロンボーンの後藤朱里が相談がある、犬を飼ってほしいと言い出す。

2.その犬はコーギーの捨て犬で、弟が拾ってきたが家では飼えないという。カイユは心当たりを思いつく。

3.日曜日、カイユの家に後藤がコーギーを連れてやってくる。いつもは人懐っこいはずのコーギーはカイユの指を噛む。

4.カイユは檀家回りとしておばさんの家を訪れ、犬が家の物を隠しているという床下の掃除を始める。その間にコーギーを連れた後藤はおばさんと親しく話を始めていた。掃除を続けるカイユはあるものを見つける。

5.それはスズメバチの巣だった。平蔵が唸ったりする原因かと思ったカイユだが、後藤がスマホで調べると、既にハチはおらず危険ではないことがわかり、平蔵の変化の原因をさらに考える。

6.平蔵の変化の原因はおばさんの体調の変化だった。カイユの勧めで健康診断を受け初期のがんが見つかったおばさんは、コーギーを引き取ってくれることになる。

風変わりな再会の集い ー芹澤直子×片桐圭介ー

クラリネットの芹澤直子は、中学3年生のときに1年生のトランペットの吹奏楽部員に声を荒らげて厳しい言葉をぶつけたことを思い出す。

1.土曜日の練習帰り、芹澤は通りかかった駄菓子屋でおでんを買い、細かいお金がなく1万円札を出すと、お婆さんはそれを持ってお店から出て行ったきり戻ってこない。

2.そこに受験勉強で図書館帰りの片桐元部長が通りかかる。お婆さんが戻るまでの間、芹澤は身近に音大を考えているやつがいるという片桐の相談に乗ることにする。

3.音大を考えているのは片桐の妹のさくら、芹澤が声を荒らげた相手だった。芹澤の話を聞く片桐は、おまえ、変わったな、声をかけ、今度南高に入学するであろう妹の面倒を見てやってほしいと頼む。

4.お婆さんが戻らないまま、時間は午後8時になろうとしていた。話題は今後の部活についてになり、片桐はさくらが作った入学希望者のリストを芹澤に託す。

5.午後9時になっても戻ってこない状況に、芹澤は記憶をたどって考える。芹澤がお金を渡したお婆さんが別人だと気づいた2人が居室を確認すると、もう1人のお婆さんが箪笥の下敷きになって倒れていた。

6.芹澤がお金を渡したお婆さんは、駄菓子屋のおかみの娘で、久しぶりに現れて揉み合いになり、芹澤の1万円を持ってパチンコに行ったのだという。その日の片桐との話を思い返し、芹澤は部活への思いを新たにする。

掌編 穂村千夏は戯曲の没ネタを回収する

フルートの穂村千夏が、二学期のある日、部室でファイリングノートが落ちているのを見つける。それは、演劇部部長の名越俊也、ホルンの上条春太、吹奏楽部顧問の草壁先生が作った即興劇「退出ゲーム」〔注:第1巻「退出ゲーム」の第3編に収載〕の没になったシナリオだった。

巡るピクトグラム ーマレン・セイ×名越俊也ー

マレン・セイは幼いころのハンドベルの鮮烈な記憶を思い出す。

1.サックスのマレン・セイは、誘われ一緒に昼を食べた名越から、土曜日にバイトを手伝ってほしいと頼まれる。

2.そのバイトは、子供たちに逆上がりを教えるスポーツ家庭教師だった。

3.バイトを終えたマレンは、名越から、子供たちからベルマークを集めたいと聞かされる。

4.名越は、仕分けや集計の面倒さなどから、塩漬け状態になっているベルマークを何とかできないかを話す。

5.あるやり手の女子中学生があるアイデアで30万点のベルマークを集めたが、現金化できないことを知って呆然としたのだと語る名越。

なお、この女子中学生とは、明記はされていないものの、片桐元部長の妹・さくらです。

ひとり吹奏楽部 ー成島美代子×???ー

成島美代子は、吹奏楽部に入ってオーボエを始めたころの中学時代を回想する。

1.3年生が引退し、副部長となった成島は、土曜日の練習が終わり、部員を全員帰した後、ひとり部室に残っていた。中学時代を思い出す成島。

2.成島は、指導者の力量以外のヒントがあれば、と過去の部活の活動日誌を読み返す。過去最高実績を上げた16年前の日誌はなかったが、部員が1人だけになり事実上活動休止に追い込まれた2006年度の日誌の記述に、成島は引き込まれる。

3.月曜日、成島はその日誌を書いた部員が誰かを当時の卒業アルバムなどで突き止めようとする。

4.その放課後、成島は、コンクールのときにOB・OGに招待状を送っていた片桐元部長から、その卒業生が兵頭樹だと教えられる。

5.練習後、成島は副顧問である教頭先生を訪れて兵頭の連絡先を尋ねると、教頭先生は宛先不明で戻ってくると言うが、当時の思い出を成島に話す。勇気づけられた成島は、部活へ向かう思いを新たにする。

 

(ここまで)

文庫版の表紙のイラストは、ティンパニのマレットを持った男子とバストロンボーンを手にする女子なので、カイユと後藤朱里のようです。

本編シリーズは、ハルタやチカが高校の吹奏楽部で活動する中で遭遇する日常の謎を解いていくエピソードがメインになっていますが、番外編の本作では、本編では一人称では描かれないサブキャラをメインに、日常のエピソードを描きながら、それぞれの人物像を掘り下げる短編集となっていて、興味深く読むことができました。

ハルチカ〉シリーズがさらに続くのかはわからないですが、もし続編が出ることがあれば、また読んでみたいと思います。