鷺の停車場

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美奈川護「ギンカムロ」

美奈川護さんの小説「ギンカムロ」を読みました。

ギンカムロ (集英社文庫)

ギンカムロ (集英社文庫)

  • 作者:美奈川 護
  • 発売日: 2015/06/25
  • メディア: 文庫
 

文庫本描き下ろしの作品。以前にこの作家さんの「星降プラネタリウム」を読んでいたので、違う作品も、と思って手にした本。こちらの方が先に書かれています。

 

文庫本の背表紙には次のような紹介文が掲載されています。

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花火には、二つしかない。一瞬で消えるか、永遠に残るか。幼い頃、花火工場の爆発事故で両親を亡くした昇一は、高校を卒業後、一人東京で暮らしていた。ある日、祖父から電話があり、四年ぶりに帰郷する。そこには花火職人として修業中の風間絢がいた。十二年前に不幸な出来事が重なった。それぞれが様々な思いを抱え、苦しみ、悩み、葛藤していく。花火に託された思いとは——。希望と再生の物語。

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本編は序章・終章と4章で構成されています。各章の簡単なあらすじは次のとおりです。

序章

山越神幸祭の宵宮を飾る奉納花火の終局、尸童(よりまし)の少女は鎮魂の花火である銀冠を見る。

第一章 花万雷

フリーターをしている23歳の高峰昇一は、祖父の伊織に呼ばれ、久しぶりに高峰煙火を訪れる。昇一は四代目に当たるが、12年前に起きた爆発事故で両親を亡くしたことで、花火製造から距離を置き、高校卒業後は実家を離れていた。かつて打ち上げていた奉納花火を事故後は隣県の東雲花火興行に委譲していた高峰煙火だが、伊織に弟子入りして7年目になる花火師の風間絢は、再び奉納花火を打ち上げることを目指していた。風間に呼ばれ再び高峰煙火を訪れた昇一は、プロポーズに花火を上げてほしいとの依頼に花万雷を上げるのを手伝い、事故後避けてきた花火と向き合う。

第二章 紅色千輪

フリーターを辞め、高峰煙火で働き始めた昇一。そこに、入院している夫の本物の赤い花火が見たいとの希望を叶えたいとの依頼が入る。夫に会った風間は、赤い色がよく見えない色弱であることを見抜き、様々な赤い色を使った紅色千輪を作り、打ち上げる。

第三章 五重芯変化菊

奉納花火を目指す風間は、花火師として認めてもらうため伊曽木花火競技大会に参加する。かつて昇一の父・要一郎が完成させたものと同じ五重芯変化菊を作って挑むが、選外に終わり、全く同じ玉名の見事な五重芯変化菊を打ち上げた東雲花火興行が優勝する。

第四章 銀冠

東雲花火から奉納花火への参加の話を受けた高峰煙火だが、山越神輿講の講元は、風間が花火を作る高峰煙火の参加を強く拒む。奉納花火で銀冠を見て高峰煙火に入ったという風間の話から当時の神幸祭のことを調べた昇一は、当時の経緯、そして講元が拒絶する理由を知る。伊織たちの助力もあり奉納花火への参加が許された高峰煙火の花火は、宵宮の空に打ち上げられる。そして、奉納花火の最後、祖父の上げた銀冠の銀の光が輝く。

終章

尸童の少女は、銀色の花火を見て、実際には見ていないその花火をどこかで見たような気がして、あの花火は永遠だと感じる。

(ここまで)

 

タイトルの「ギンカムロ」とは、第4章の表題にもなっている銀色の花火「銀冠」のこと。銀色を出すのには高い技術が必要で、高峰煙火の真骨頂だった花火。7年目の風間は花火師としてはまだまだこれからですが、四代目として引き継ぐ決心をした昇一は、祖父が打ち上げた銀冠を見て、自分たちもやっていけると確信します。

 

巻末の書評家・北上次郎の解説によれば、本作は、ラノベでデビューした著者が初めて書いた大人向け小説なのだそうです。どこまで正確なのかは判断つきませんが、花火の種類や玉名、材料や作り方、打ち上げに必要な手続きや規制など、かなり詳しく取材して書かれた印象を受けます。

 

20代前半の若い男性が新しい仕事に就き、どこか謎のある年上の女性と一緒に仕事していく中で、それまで抱いていた個人的なトラウマを克服して、前向きに進んでいく、という展開は、先に読んだ「星降プラネタリウム」と共通しています。プラネタリウムと花火工場、舞台は異なりますが、夜空に輝くという点で共通するのも、著者の好み・趣向が自ずと反映されたものなのだろうと受け取りました。

昇一の内心の葛藤や、風間の心情がもっと掘り下げられると、深みが増すように思いましたが、心地よい読後感が残る作品でした。