鷺の停車場

映画、本、グルメ、クラシック音楽、日常のできごとなどを気ままに書いています

夏川草介「神様のカルテ0」

夏川草介さんの小説「神様のカルテ0」を読みました。

2015年3月に単行本として刊行された作品、2017年11月に加筆改稿して文庫本化されています。 第一部の完結編の「神様のカルテ3」に続いて読んでみました。

主人公である内科医が、不眠不休の病院で診療に追われる中、患者と向き合っていく物語。

背表紙には、次のような紹介文が掲載されています。 

------------

 人は、神様が書いたカルテをそれぞれ持っている。それを書き換えることは、人間にはできない―—。信州松本平にある本庄病院は、なぜ「二十四時間、三百六十五日対応」の看板を掲げるようになったのか?(「彼岸過ぎまで」)。夏目漱石を敬愛し、悲しむことの苦手な内科医・栗坂一止の学生時代(「有明」)と研修医時代(「神様のカルテ」)、その妻となる榛名の常念岳行(「冬山記」)を描いた、「神様のカルテ」シリーズ初の短編集。二度の映画化と二度の本屋大賞ノミネートを経て、物語は原点へ。日本中を温かい心にする大ベストセラー最新作! 解説は小川一水さん。

------------

主な登場人物は、

  • 栗原一止:信濃大学医学部を卒業し、松本にある本庄病院の消化器内科に勤務する消化器内科医。夏目漱石を敬愛し、その影響から古風な話し方をする少し変わった人間。

  • 片島榛名:世界を飛び回る山岳写真家。後に一止と結婚し、「ハル」、「イチさん」と呼び合う仲になる。

  • 進藤辰也:一止の大学の同期の血液内科医。松本城近くの老舗そば屋「蕎麦屋しんどう」の一人息子。医学部卒業後、帝都大学の附属病院の研修医となる。

  • 砂山次郎:一止の大学の同期の外科医。医学部卒業後、信濃大学医学部の医局に進む。

  • 如月千夏:大学で一止の一年下の後輩で、辰也の彼女。一止、辰也とともに将棋部に入っていた。後に辰也と結婚する。

  • 草木まどか:大学での一止や辰也の同級。テニス部で部長を務め、運動神経は抜群だが、学業では追試の常連。

  • 楠田重正:大学での一止や辰也の同級。社会人として管理職まで出世してから医学部に入学しており、医学部学生の最高齢。

  • 板垣源蔵:本庄病院の内科部長。一止はひそかに大狸先生と呼んでいる。

  • 内藤鴨一:本庄病院の内科の副部長。一止はひそかに古狐先生と呼んで敬愛していたが、後に悪性リンパ腫で亡くなる。

  • 乾先生:本庄病院の外科部長。後に本庄病院を辞め、郊外で「乾診療所」を営む。

  • 金山弁次:本庄病院の事務長。妻を胃癌で58歳で亡くした経験を持つ。

  • 外村:本庄病院の 救急部副師長の看護婦。後に看護師長に就く。

  • 東西直美:病棟看護師。
  • 男爵:下宿「御嶽荘」で一止たちが住む「桜の間」の真下、1階奥の「桔梗の間」の住人で、40歳前後と思われる正体不明の絵描き。

  • 学士殿:「桔梗の間」の向かい側の「野菊の間」の住人の男性。信濃大学文学部の博士課程に身を置いていると自称していたが、実際には大学にも行っておらず、後に、姉に連れられ出雲の実家に帰っていく。本名は橘仙介。

  • 専務:御嶽荘の玄関を入ってすぐにある「椿の間」の住人の女性。市街地の金融機関に勤める一年目OL。

  • 國枝正彦:本庄病院に入院する72歳の男性。一止が初めての胃カメラを行い、胃癌が発見される。

  • 健三:50代の男性。
  • 布山浩二郎:榛名が蝶ヶ岳ヒュッテで出会う30代の登山者。
  • 那智子:浩二郎の妻。浩二郎とともに蝶ヶ岳ヒュッテで榛名と出会う。

というあたり。

本作は、紹介文にあるとおり、4つの短編が収録されています。各編の概要・主なあらすじは次のようなもの。

 

有明

医学部6年生の夏、国家試験勉強に励む辰也は、一止に誘われて信濃大学医学部の学生寮有明寮」での勉強会に参加していた。勉強会メンバーが抱えるいろいろな問題に巻き込まれながら、辰也や一止は、卒業後の進路を決めていく。

彼岸過ぎまで

一年前に本庄病院にやってきた事務長の金山は、病院経営の黒字化を目指して、24時間365日診療を掲げるなど、乾先生らと対立しながら、病院を変えていく。内科部長の板垣は、偶然金山と酒席をともにし、その思いの一端に触れる。そんな頃、研修医の募集に一止が応募してくる。

神様のカルテ

研修医一年目の一止。指導医でもある内科部長の板垣の指導の下、初めての行った胃カメラで國枝の胃癌が判明する。初めてのインフォームド・コンセントを行い、外来で國枝を診ることになるが、國枝は1月後の娘の結婚式に出席したい、治療開始を遅らせたいと訴える。それを受け入れた一止は、結婚式まで國枝が持つことを祈りながら経験を重ねる。東京で行われた結婚式の翌日、國枝は帰りの特急の車内で意識を失い、本庄病院に搬送される。必死に対応する一止を、板垣は飲みに誘う。

冬山記

健三は、30年ぶりの冬山登山で、蝶ヶ岳からの下り、悪化する天候下で滑落し、負傷してしまう。その頃、蝶ヶ岳ヒュッテの冬季小屋に着いた榛名は、その日の朝、常念小屋を出た人がもう1人いたはずだと浩二郎と那智子に話し、健三を探しに行き、健三を助けて冬季小屋に戻ってくる。浩二郎と那智子、また健三も榛名の姿に驚かされる。健三の救出後、松本に戻った榛名は、一止が待つ御嶽荘に帰っていく。

 

(ここまで)

 

タイトルや紹介文から分かるように、第1巻の「神様のカルテ」で描かれた一止たちのその前を描いた作品になっています。第1巻の「神様のカルテ」では、一止は医師になって5年目、榛名と知り合って3年、結婚して1年という設定だったので、おおよそ、「有明」や「彼岸過ぎまで」はその5年前、本巻の短編「神様のカルテ」は4年前、「冬山記」は2年前ということになります。

大狸先生や事務長のフルネーム、榛名の旧姓など、シリーズ3冊では書かれておらず、本巻で初めて明かされる設定もあったのは面白いところ。後に一止の行きつけの居酒屋となる「九兵衛」が、「神様のカルテ」で板垣が一止を連れていく居酒屋として出てきますが、大阪府能勢町の地酒「秋鹿」が出てくるのは、第1巻で出てきた「呉春」と同様に、大阪出身の著者のお気に入りのお酒なのだろうと思って読みました。両者とも大阪北部の酒蔵なので、著者のご出身はその近くなのかもしれません。