鷺の停車場

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映画「1秒先の彼」

週末の午前、キネマ旬報シアターに行きました。


この週の上映作品。


この日の上映スケジュール。


この日観たのは、「1秒先の彼」(7月7日(金)公開)。前から少し気になっていましたが、映画情報サイトの口コミ評価を見ても微妙な感じがして、観に行こうか迷っているうちに大手シネコンなどでの上映は終わってしまっていました。この映画館で2週間上映されるというので、スクリーンで観られるのはこれが最後の機会だろうと思って、行ってみることにしました。


上映は160席のスクリーン1。この映画館は年に5回以上は来ていると思いますが、最近はスクリーン2やスクリーン3で上映される作品ばかりだったので、このスクリーンで観るのはおよそ2年ぶりです。


(チラシの表裏)


(その前に配布されていた別バージョンのチラシ)

 

2020年製作の台湾映画「1秒先の彼女」(チェン・ユーシュン監督)を基に、舞台を京都に移してリメイクしたラブストーリーで、監督:山下敦弘、脚本:宮藤官九郎

 

公式サイトのストーリーによれば、

 

ハジメは京都の生まれ。いつも人よりワンテンポ早く、50m走ではフライング。記念写真を撮るといつもシャッターチャンスを逃してしまい、小学校、中学校、高校の卒業アルバムの写真はことごとく目を閉じている。現在、ハジメは長屋で妹の舞とその彼氏のミツルと3人で暮らしている。
ハジメの職場は京都市内にある中賀茂郵便局。彼は高校を卒業して12年間、郵便の配達員だった。ついたあだ名が、『ワイルド・スピード』。度重なる信号無視とスピード違反で免許停止を食らい、それからは窓口業務だ。ハジメと同じ窓口に座るのは新人局員のエミリと小沢。いつもふたりに「見た目は100点なのに中身が残念」と言われ、ふてくされる日々。

イカも京都の生まれ。日本海に面した漁師町の伊根町で育った。いつも人よりワンテンポ遅く、50m走では笛が鳴ってもなかなか走りださない。現在、彼女は大学7回生の25歳。アルバイトをいくつも掛け持ちし、学費を払いながらの貧乏生活だ。写真部の部室に住み込み、ひとりぼっちで夜食をとりながら、ラジオを聴いている。
ある日、急停車したバスに追突した高校生を看護するハジメの姿をみて、既視感をおぼえたレイカ。郵便局でハジメの窓口にいき、胸の名札『皇』の文字を見つめる。

街中で路上ミュージシャン・桜子の歌声に惹かれて恋に落ちるハジメ。早速、花火大会デートの約束をするも、目覚めるとなぜか翌日に。“大切な1日”が消えてしまった…!? 秘密を握るのは、毎日郵便局にやってくるレイカらしい。ハジメは街中の写真店で、目を見開いている見覚えのない自分の写真を偶然見つけるが…。

 

・・・というあらすじ。

 

公式サイトで紹介されている主な登場人物・キャストは、

  • ハジメ(皇(すめらぎ) 一)【岡田 将生/柊木陽太(幼少期)】:主人公。中賀茂郵便局で窓口業務を担当している30歳の郵便局員京都市内の長屋で妹とその彼氏と一緒に住んでいる。

  • イカ(長宗我部(ちょうそかべ) 麗華)【清原 果耶/加藤柚凪(幼少期)】:写真部の大学7回生。

  • ミクルベ(釈迦牟尼仏(みくるべ) 憲)【荒川 良々】:レイカがお世話になるバスの運転手。

  • ハジメの母(皇 清美)【羽野 晶紀】:宇治の実家で今はひとり暮らしをしている。

  • ハジメの父(皇 平兵衛)【加藤 雅也】:ハジメの学生時代に失踪している。婿入りしており、旧姓は勘解由小路(かでのこうじ)

  • 桜子【福室 莉音】:ハジメが恋に落ちた路上ミュージシャン

  • ハジメの妹(皇 舞)【片山 友希】:ハジメと一緒に暮らしている。

  • ミツル【しみけん】:ハジメの妹・舞の彼氏。

  • ラジオDJ写真屋の店主【笑福亭笑瓶】:ハジメが愛聴しているラジオ番組のDJ/ハジメが自分の写真が飾られているのを見つけた写真屋の店主。

  • エミリ【松本 妃代】:ハジメが働く中賀茂郵便局の新人局員。

  • 小沢【伊勢 志摩】:ハジメが働く中賀茂郵便局の同僚局員。

というもの。

 

前半はハジメの視点から物語が描かれ、ハジメがレイカとの関係に気づいたところで、後半はレイカの視点に変わって、答え合わせのように同じ時間軸の物語が描かれますが、その中心となるのは、ハジメが失くした1日の間のレイカたちの行動で、それによって前半に仕掛けられた伏線が見事に回収されていく展開。

個人的には、前半のドタバタ劇風のユーモラスな部分は、正視することに耐えられず、辛かったですが、ハジメ視点の前半でユーモラスな小ネタを含めて伏線を仕掛けていき、レイカ視点となった後半で、それらが見事に回収されていく展開は見事で、最後の爽やかでホッとする終わり方も良かったです。クドカンの巧者ぶりはさすがです。

俳優陣では、清原果耶の雰囲気や演技が良く、ハジメのお母さん役の羽野晶紀もいい味を出していました。オリジナルの方の台湾映画は見ておらず、比較はできませんが、これはこれでなかなかいい作品ではないかと思いました。

 

 

ここから先はネタバレになりますが、備忘を兼ねて、より詳しくあらすじを記しておきます。(細部には多少の記憶違いがあるだろうと思います)

 

 ハジメは京都・宇治で育ち、いつも人よりワンテンポ早く、徒競走ではフライング、記念写真はいつもタイミングを逃し、卒業アルバムの写真はことごとく目を閉じてしまっている。現在は、ハジメ京都市内の長屋で妹の舞とその彼氏のミツルと3人で暮らし、市内の中賀茂郵便局で働いている。最初は郵便の配達員だったが、度重なる信号無視とスピード違反で免許停止となり、今は窓口業務を担当している。顔はいいが性格は悪く、新人局員のエミリに告白されて付き合ったもののすぐに振られ、同じ窓口業務担当のエミリと小沢からは、見た目は100点なのに中身が残念と言われている。

 そんなハジメは、鴨川の河川敷の橋の下でギターを弾いて歌っていた桜子に惹かれ、話しかける。桜子はハジメに歌の入ったCDを渡す約束をする。そして、郵便局に桜子がやってきてCDを渡してくれたことに、ハジメは有頂天になる。

 そんな中、首からカメラを提げ84円切手をたびたび買って封書を発送しに来る若い女性がいた。ある日、彼女の順番となりハジメが呼び出すと、ある大学教員の男性が、落ちていた番号札を拾って自分の方が先だと難癖をつける。そこにやってきた桜子の助けもあり、その男性を撃退すると、桜子はハジメにお弁当を渡して去っていく。その後窓口で切手を買った女性はハジメに何か言おうとするが、言い出せずに去っていく。さらに有頂天になったハジメは、過剰なくらいに感激しながらそのお弁当を食べる。

 桜子とデートしたハジメはお笑いを観た帰り、桜子から弟の治療のために40万円が必要だと明かされる。スマホで賞金が出るイベントを検索したハジメは、宇治の花火大会で行われるベストカップルコンテストに桜子を誘い、賞金が獲れなくても40万円は自分が何とかする、と桜子に話す。

 翌日、宇治の花火大会当日の7月終わりの日曜日。気合を入れて着替えたハジメに、妹の彼氏は、今日は妹も自分も不在だと告げ、何かあった時のために、とコンドームを渡す。ハジメは封筒に入れた40万円をズボンのポケットに入れてバスに乗る。すると、すぐ後ろの座席に座っていた怪しい男性が、そのポケットに入った封筒を盗もうと手を伸ばす・・・

 しかし、ハジメが気づくと、自宅の布団で横になっていた。慌てて家を飛び出し、会場に向かおうとするが、途中で通った勤務先の郵便局で、日曜にもかかわらず開いているのを訝しんで顔を出すと、同僚たちは今日は月曜日だと言ってハジメの勘違いを笑い、エミリからは昨日のベストカップルコンテンスとで優勝したと自慢される。信じられないハジメは、休みます、と言って郵便局を飛び出し、花火大会の会場にも行ってみるが、花火職人たちが後片付けをしており、今日は月曜日だと言われる。

 戻ったハジメは、交番に飛び込み、遺失物届を書き出すが、信じてもらえないだろうと出すのを止める。失くしたものが昨日だと聞いた警察官は、酔っ払っているの?と聞き返す。

 納得のいかないまま郵便局の窓口で働くハジメ。そこに切手を買いにやってきた女性は、何か意味ありげな表情をハジメに向けるが、せっかちなハジメは気づかない。

 外に出て街を歩くハジメは、ある写真店のショーケースに、花火大会の日の服装をした自分が写った写真が飾られていることに気づく。写真店の主人は、それはバイトの女の子が撮った写真で、場所は天橋立だという。その女の子の特徴とレイカという名前を聞いて、郵便局で引き受けた郵便物の中からいつも切手を買いに来る女の子の封書を探す。見つかった封書の差出人が「長宗我部 麗華」であるのを見たハジメは、何かを思い出し、配達に行く、と郵便局を飛び出し、配達用のバイクに乗って天橋立郵便局に向かう。そこにあった私書箱の1つを開けようとするが、鍵がかかっていて開けることができない。郵便局員に、鍵がないと開けられませんよ、と言われたハジメは、再びバイクを走らせて戻る。

 ハジメは、宇治の実家に行って母親から家にあったある鍵を出してもらい、それを手に再び天橋立郵便局に行って、私書箱を開ける。そこには、麗華が送った封書が何通も入っていた。その1つを開けると、古いモノクロの写真が入っていた。その写真は、小学生だった頃の入院中のハジメの写真だった。

 

 レイカ日本海に面した漁師町の伊根町で育った。いつも人よりワンテンポ遅く、徒競走では笛が鳴ってもなかなか走りださず、蚊を手で叩こうとしても一度も成功したことがなかった。今は大学7回生の25歳。アルバイトをいくつも掛け持ちして学費を払う貧乏生活で、部員が自分1人となった写真部の部室で寝泊まりしていた。

 ある日、急停車したバスに追突した高校生を看護するハジメの姿をみて、既視感を覚えたレイカは、ハジメが勤める郵便局に行き、ハジメに呼び出されるようにタイミングを計って番号札を取る。呼び出されてハジメが座る2番窓口に行き、ハジメの胸の名札が「皇 一」であるのを見て、何かを確信するレイカ

 ハジメが桜子に夢中になっているのを見ていたレイカは、街中を歩いていて偶然に桜子と鉢合わせする。それは、桜子にお手製のお弁当を作ってきた若い男性サラリーマンに、桜子の親衛隊の男たちが詰め寄っている現場だった。その後、郵便局に行ったレイカは、大学教員とのトラブルに出くわした後、桜子がそのお弁当をハジメに渡すのを目撃する。その直後、ハジメに呼び出されて窓口に行ったレイカは、そのことをハジメに伝えようとするが、言い出すことができない。

 レイカは桜子とハジメのデートを密かに尾行していた。桜子がハジメと別れてバスを降りると、レイカもその後を付けてバスを降りるが、尾行に気づいた桜子に呼び止められる。レイカは話がしたいと言って桜子とお店に入る。桜子は、郵便局でいつも2番窓口に座っているハジメを「2番」と蔑称していること、CDデビューが決まっているが事務所から言われて路上ライブからデビューというストーリー作りのために路上ライブをしていること、ハジメと花火大会に行く気はないことなどを明かす。レイカは、自分が大切に思っているハジメを弄ぶ桜子に腹を立てて啖呵を切り、ドリンクを浴びせて店を飛び出すが、追いついた桜子に突き飛ばされて小川に落ち、持っていたハジメの写真は川の流れに流されていってしまう。

 翌日、部室の屋上で目を覚ましたレイカ。飛んできた蚊を手で叩くと、生まれて初めて掌に蚊が潰されていた。それを自慢しようと屋上を下りていくと、周りの人々はみな動きを止めて固まっていた。そのうちの1人から自転車を借り、街中に漕ぎ出すと、停まっているバスのそばに、1人だけ動いている男性がいた。それはバスの運転手のミクルベで、そのバスの車内には花火大会に向かうハジメが乗っていた。レイカは、怪しい男が盗もうと手を伸ばしていたハジメのズボンのポケットの封筒を抜き取り、ミクルベにお願いしてバスで天橋立に向かってもらう。

 その車中、レイカハジメとの思い出をミクルベに話し出す。
 天橋立で育ったレイカは、家族旅行で京都に向かう途中に交通事故に遭い、両親を亡くし、自分も怪我で入院した。ひとりきりとなって泣いてばかりのレイカを、隣のベッドに入院していたハジメはちょくちょく顔を出しては笑わせ、元気づけてくれていた。レイカハジメは一緒に天橋立に行く約束をし、ハジメの退院が決まって悲しむレイカに、親戚の1人が天橋立郵便局の私書箱の鍵を2人に渡し、2人は文通する約束をする。
 退院したレイカ天橋立の向こう側に住む祖父に育てられることになる。定期的に自転車で天橋立郵便局の私書箱を見に行くレイカだったが、ハジメが遠くにある私書箱に来れるはずもなく、文通はすることができないままだった。ミクルベが運転していたバスに乗ったことで、レイカは偶然にハジメを見つけることができたのだった。

 天橋立に着いたレイカは、ミクルベの助けも借りて、人力車にハジメを乗せて天橋立を走り、海の見える場所で記念写真を撮る。

 夜になって京都に戻ってきたバス、その一番後ろに乗っていた客が、突然くしゃみをしたことで、動くことができる人間がもう1人いることが分かる。それは、失踪していたハジメの父親の平兵衛だった。平兵衛は、みんな止まっているから動いてはいけないと思ってじっとしていた、前にも一度時間が止まったことがある、漢字が複雑で画数が多くそのため自分の名前を書くのに他の人より時間がかかるため、そのために使った時間が1日分になったら、神様がその分を返してくれるため自分たち以外の人の時間を止める、一方、ハジメは画数が少ないため、使った時間が少なかった分を1日止められてしまうのだと話し、自分は婿入りしたが旧姓は「勘解由小路」で自分も画数が多いのだと説明する。そして自分が失踪したとき、本当は死のうと思っていたが、電車に飛び込もうとしたら電車も止まってしまい、死ぬことも許されないのかと思った、と当時のことを話す。

 バスはハジメの実家の宇治に向かう。そこで、レイカは平兵衛、ハジメと母親の清美の3人の家族写真を撮る。平兵衛は、ここで、と言ってバスを降りるが、別れ際、ハジメパピコを渡してやってくれと言って、レイカに100円を渡す。失踪したとき、買い物に行くと言って出た平兵衛がした何か買ってほしいものはないかという質問に、ハジメパピコ、と答えていたのだった。

 平兵衛と別れ、京都に戻ったバス、レイカハジメを彼の家の布団に寝かせ、自分もその脇に横になってハジメの顔をじっと見つめる。朝を迎え、レイカは40万円の入った封筒をハジメの家の電子レンジの中に隠し、家を出る。バスは元々停まっていた場所に戻り、レイカはそこから自転車に乗って大学に戻り、自転車をもともと乗っていた人に返して部室に向かって歩き出す。すると、突然周りの人たちが動き始める。

 撮った写真を現像して、封書を発送するために郵便局に行ったレイカ。約束を果たしてくれたことに感謝の思いを持ってハジメを見るレイカだったが、ハジメはその思いには気づかない。

 郵便局を出て横断歩道を渡ってところで、レイカハジメパピコを渡すことを思い出して、横断歩道を引き返すが、信号は既に赤となっており、走ってきたトラックがすぐ傍まで迫っていた・・・

 

 363日後、天橋立郵便局。レイカとのことを思い出したハジメは、異動願を出して、天橋立郵便局で勤務していた。しかし、私書箱を開けても、レイカからの郵便物は届いていなかった。
 そんなある日、天橋立郵便局に、松葉杖をついて歩いてきたレイカがやってくる。応対するハジメは、以前のように切手を買って封書を差し出すレイカを見て、感慨にとらわれる。そんなハジメに、レイカは、ある人から頼まれた、とレジ袋に入ったパピコを渡し、ハジメはさらに驚くのだった。

 

(ここまで)

 

なお、ちょっと引っかかる部分もありました。
ぴったり1日後に再びみんなが動き出したときに、動き出した人々は、翌日の月曜日ではなく、止まる前の日曜日の続きを過ごしていくことになります(花火大会のベストカップルコンテストで優勝したことをエリカが自慢しているので、そうでないと矛盾します)。時間が止まっている中でレイカたちだけが動けたわけではなく、みんなが動きを止めている間も時間は進んでいたので(だから夜になり、そして朝が来た)、電子機器などは1日分の時間が進んでいて、みんなの時間感覚と齟齬が生じてないとおかしいのですが、そうしたことにはなっていません。一方で、ハジメはみんなよりもさらに1日余計に止まっていたことになりますが、その部分はみんなの時間が進んでいるので、日付も進んでいっています。多数派の時間感覚に沿った形になっているわけですが、時間が進んでいるのは両者とも同様なのに、何でこう都合よくいくのは大きな謎です。
細部ですが、みんなが止まっている間の夜に、花火を打ち上げる花火職人はみんな動きを止めていたはずなのに、なぜか花火が打ち上がる音が聞こえてきたのも謎でした。